ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第6話 ガルマ出撃す Aパート


 ヤシマの人形姫への恐怖からの錯乱。
 それから何とか回復し、ホワイトベースブリッジにたどり着いたリード中尉が見たものは、

 メガネ

 そう、ブライトもミライもフラウもマーカーとオスカも(彼は元からだが)。
 みんなメガネをかけているのだ。

「なっ……」

 自分だけ仲間外れみたいで疎外感を感じるリード中尉。
 しかし、

「地球にいるジオンの空軍か」
「ガウ攻撃空母の一個中隊が展開してます」
「かなりの数だな」

 迫りくるジオンの迎撃部隊、それについてオペレーターと話すブライトの会話に、それどころではない状況を遅ればせながら知る。
 そう、

「これではなんにもならんじゃないか、ブライト君!」
「そう思います。ここはジオンの勢力圏内です」

 激高するリード中尉に、くいっと指でメガネを押し上げながらブライトが冷静に答える。
 対照的な両者。
 そもそもホワイトベースが進路を逸れてこんなところに降下してしまった原因はリード中尉にあるのだが。
 周囲の視線の温度が下がるが、リード中尉はそれに気づかずさらに荒ぶる。

「冗談じゃないっ!」
「シャアは戦術に優れた男です。我々はシャアにはめられたんです」
「突破するんだ、なにがなんでも」



 シャア・アズナブル少佐の乗った大気圏突入カプセル、コムサイは地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐の率いるガウ攻撃空母に回収されていた。

「シャア、君らしくもないな連邦軍の船一隻にてこずって」
「言うなよガルマ。いや、地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐とお呼びすべきかな?」
「士官学校時代と同じガルマでいい」

 握手を交わす二人。

「あれが木馬だな?」

 前方彼方の光点を捉え、シャアは確認する。
 ガルマが自ら戦おうとするのかどうかを。
 しかし、

「うん。赤い彗星と言われるほどの君が仕留められなかった船とはね」

 ガルマの声には戦闘を前にした高揚は感じられない。

「わざわざ君が出てくることもなかったと言いたいのか?」

 という問いにも、

「いや、友人として君を迎えに来ただけでもいい、シャア」

 と、親密さをにじませる落ち着いた声で返すだけだ。
 シャアは一応、忠告しておく。

「大気圏を突破してきた船であるということをお忘れなく」
「ああ。その点から推測できる戦闘力を今、計算させている。君はゲリラ掃討作戦から引き続きだったんだろ? 休みたまえ」
「お言葉に甘えよう。しかしジオン十字勲章ものであることは保証するよ」
「ありがとう。これで私を一人前にさせてくれて」

 ガルマは照れ隠しする際のいつもの癖、前髪を指でいじりながらこう言う。

「姉に対しても私の男を上げさせようという心遣いだろ?」
「フフッ、はははは、ははは」

 相変わらずのお坊ちゃんぶりにこらえきれず笑うシャア。
 ガルマは微笑を浮かべながら告げた。

「笑うなよ、イセリナが見ている」
「う、うむ……」

 冷や汗を流すシャア。
 そこには笑顔の……
 しかしどこか狂気をはらんだ瞳を向ける美女、イセリナ・エッシェンバッハの姿があった。
 さながら愛ゆえに狂ったストーカー、安珍・清姫伝説における清姫のようでミヤビが見たら、
「何でイセリナがきよひーに化けてるの!?」
 と叫んでいただろう、そこまでの変わりようである。

 どうしてニューヤーク前市長の娘でありアースノイドであるイセリナがジオンの軍服を着てガルマの秘書役におさまっているのか。
 もちろんミヤビのせいである。
 上流階級のパーティーに毎度死んだ目で着飾らさせられ、日本の名家、ヤシマ家の令嬢として出席していたミヤビ。
 そこで目にしたイセリナに、どこかで見たなぁと既視感を覚えたのがきっかけ。
 名前を知って、
「ああ、ガルマ・ザビの嫁……」
 と何気につぶやいてしまったのが運の尽き。
 そのつぶやきを無駄に性能のいいイセリナ・イヤーが拾ってしまったのだ。
『THE ORIGIN』では、父親や反ジオン抵抗運動の動向をガルマに伝える情報提供者、スパイの役目も果たしていた彼女だから、そういう素養もあったのだろう。

 有名な『ヤシマの人形姫』が自分に向けて放った意味ありげな言葉。
 帰宅したイセリナはガルマ・ザビについて調べ…… ディスプレイに映し出されたその姿に一目ぼれした。
 ミヤビの知る史実でも戦場のロマンス、激しい恋に落ちた二人だからそれは自然なことかも知れないが。
 しかしその当時、ガルマはもちろんジオンに居たし、イセリナはそこまで行くことなど許されない身。
 好きなのに会えない日々が、彼女を変えた。

 ヤンデレストーカーに。

 酷い話である。
 まぁ、史実でも思い込みが激しく、最後には「ガルマ様のかたきー」ということでガウに乗ってガンダムに特攻していた彼女である。
 素質は十分にあったということか。

「一目ぼれ癖…… はまあ良いとして、一言も話していないのに脳内では相思相愛。脳内シミュレートの果てに、結婚を前提とした仲にまで進展」

 というのは某ネトゲに登場した清姫を他キャラが評して言った言葉だが、まさにそんな状態。
 そういうわけで彼女は現在、地球に降り立ったガルマの押しかけ女房兼秘書の位置に、どうやったのかは謎だが納まっているのである。
 お坊ちゃん育ちで一番身近な女性というとあのキシリアなガルマには、
「ちょっと押しの強い女性かな? でも彼女のような女性に好かれて悪い気になる男は居ないだろう?」
 と能天気にも好意的に受け止められてはいるが……



「20ブロックの修理部品が足りないぞ」
「電気系統だけは手を抜くなよ」
「関節の油圧は異常なし。バランサーの計測に入る」
「不発弾が一発でもあったらただじゃおかないぞ」
「大丈夫ですよ」

 ホワイトベースでは急ピッチで戦いへの準備が進められていた。
 そんな中、ハヤト少年はリュウが使っていたシミュレーターで、コア・ファイターの操縦について訓練をしていた。
 それを後ろからのぞき込み、カイは揶揄するように笑う。

「おやおやハヤト君、ご精が出ますねぇ。しかしね、目の前に敵さんがいるのよ。間に合うの?」
「茶化さないでください」

 と言いつつも、ハヤトにも今回の戦闘には間に合いそうにないとあきらめているところがあった。
 そんな自分が歯がゆくて、さらにシミュレーターに没頭する。
 やれやれ、と肩をすくめるカイだったが、実際には彼は「そんなに焦っても仕方ないだろぉ、無理して死んじまったらどうすんだ」と、ハヤトを心配して声をかけているわけで。
 まぁ、ストレートにそう言わないところが彼らしく、しかしそれが誤解を招くのだが。
 ゆえに、

「カイ、あなたはタンクの整備の担当でしょ?」

 とセイラにたしなめられる。

「済んだよ」
「なら、第一戦闘配備のまま待機してください」
「ほいじゃあんたは?」
「あなたが居ないから探しに来たんでしょう? ガンタンクは私ひとりじゃあ動かせないのよ」
「へいへい、お供しますよ、お姫様」

 その言葉にセイラの瞳がわずかにゆらぐ。
 カイはそれを敏感に感じ取りながらも、丁寧に気づかないふりをして軽薄な笑いを張り付けた仮面をかぶった。

 その場に取り残されたハヤトはモビルスーツパイロットとして必要とされるカイ、そしてアムロに劣等感を感じ焦っている自分にやりきれない思いを抱く。
 セイラにパートナー扱いされているカイ、ミヤビに期待されているアムロに、思春期の少年らしく男として嫉妬しているという面もあったのだが。

 そんな劣等感を打ち消すよう、シミュレーターに没頭するハヤト。
 厳密に言うと彼がやっているシミュレーターはコア・ファイターの原型となったTINコッド用に開発されたものを流用、改造したもの。
 教育型コンピュータとサポートAI、サラシリーズの支援が再現されていないため、実際の操縦より難しくなっていることに彼は気づいていない。



「ガンキャノンを出動させればことは済むんだよ。このジオン軍の壁を突破するにはそれしかない」
「アムロには休息が必要です」
「しかし、今までの敵と違って戦力をそろえてきているんだぞ」
「敵の出方を待つしかありません」
「私が指揮するんだ。コア・ファイターが一機、ガンキャノンが一機、これで中央突破する」

 言い合うリードとブライト。
 ブライトは、自分がかけているメガネをそっとなぞり、これをミヤビから受け取った時のことを思い出す。



「時間が無いからARメガネのフィッティングをしながら聞いて」

 ミヤビはそう言ってブリッジの面々にメガネを配りながら説明する。
 これはミヤビがサイド7防衛戦時にホワイトベースクルーに配ろうとしたもの。
 しかし彼らは使おうとせず、結果として未使用のまま置かれていたものだ。

「現在、ホワイトベースは北米大陸のジオン軍勢力圏に降下中。これを抜けないとジャブローには向かえない」

 最初からメガネをかけているオスカにはメガネのツルに追加して装着するAR端末を渡して、ミヤビは説明を続ける。

「問題となるのはこの艦の最上位者であるリード中尉にモビルスーツ、そしてホワイトベースを使った戦闘の経験が無く、彼がミノフスキー粒子環境下における有視界戦闘に切り替わる前の軍事教育しか受けていないということ」

 そこはブライトも危惧していたところだ。
 そして大気圏突入時の言動を考えるに、頼りにできないどころか味方の足を引っ張ることになりかねない人物だと思う。

「問題を分かりやすくするために、陸軍の歩兵小隊を例に取りましょう。このブリッジは小隊本部。ブライトさんは小隊長を補佐する小隊軍曹、それに指揮命令のための通信兵などがつく」

 私? とでもいうようにフラウ・ボゥが自分を指さすにのにうなずいて見せ、

「小隊軍曹には経験豊かな曹長や古参軍曹が任命されて小隊長の補佐を行う。そして小隊長を務める士官学校を出て間もない新任少尉が実戦に慣れるまでのフォローも小隊軍曹の重要な役目よ」
「つまりリード中尉をそのように補助しろと?」

 そういうことだ。

「まだ歩兵部隊の指揮経験のない、海のものとも山のものともつかない新任少尉が任官した時に頼るべきなのが、小隊を把握している小隊軍曹よ。彼に助言を仰ぎ、しかる後に最適と思われる方法を選択する」

 それが新任少尉と歩兵小隊全体を救うことになる。

「しっ、しかしリード中尉がそのように私を扱うとは……」
「ええ、だからこのARメガネなの。骨伝導スピーカーと内蔵マイクが仕込まれたこれを、プライベート回線で接続すると……」

 ブライトは息をのむと、それがもたらすものを口に出す。

「秘匿通話、リード中尉に対し皆と内緒話ができる?」
「即興で組んだ回線だから残念ながらログが残らないけど、これは仕方が無いことよねぇ」

 と、ミヤビは白々しくも言ってのける。
 それを妹のミライが呆れた様子で見ていたが。

「リード中尉に実現不可能な指示を出されたら、あなたが実現可能な方策に修正して指示を出すことになると思うわ。それは命令違反でもなんでもないんだけど、それが分からない人に口を挟まれ、議論している暇は無いでしょう?」

 そしてミヤビはこうも言った。

「ダメだと思ったら、リード中尉との会話をブレインストーミングとして利用するのがいいと思うわ」

 ブレインストーミングとは、集団でアイディア出しをする方法。

「一見ダメなアイディアでも、それを叩き台に新たなアイディアを産んだりするし、従来の発想に固まった軍人がどう思考するかとか、判断の材料になる場合もある」

 だから自由なアイデア抽出を制限するような、批判を含む判断・結論は慎む討議法だ。



 ジオン軍の戦闘機、ドップが接近してくる。

「見ろ、ブライト。迎撃ミサイルを」

 と、リード中尉は命令する。
 これは以前なら正しい指示だった。
 対空砲火は射程の異なる火器で重層的に構成され、最初は足の長いミサイルで、それを掻い潜ってきた敵は対空砲の近接防御で対応する。
 リード中尉の乗っていた宇宙巡洋艦、サラミスの火器構成もそのようになっていた。
 ミヤビの前世の記憶にある自衛隊だってそうだった。
 ジェット機のスピードに対応できない高射砲は消え、射程の異なるミサイルによる迎撃に変わり、87式自走高射機関砲、通称ガンタンクによる迎撃は最後の手段になっている。

 だが、それらが有効だったのは過去の話だ。
 ミノフスキー環境下ではミサイルの誘導性は落ちる上、ドップは機動性に富む。
 ミサイルによる迎撃は効果的とは言えなかった。
 だからブライトはこう命令する。

「了解です。各員、個々に迎撃しろ。ドップの編隊をホワイトベースに近づけるな」

 彼の指示でホワイトベースの各銃座から対空砲火の銃撃が上がる。

 目的と手段、この場合は『迎撃ミサイルを』というのは手段で『ドップからホワイトベースを守ること』が目的だ。
 手段は目的より優先されない。
 だから命令者の言葉にされていない指示の意図を汲んで、より確実な方法で実行する。
 それが自分の役目だとブライトは認識する。

 そしてミヤビの言うとおり、ブレインストーミングの相手として考えるとリード中尉は悪くない存在だった。
 彼の指示を叩き台としてとらえると、その欠点を客観的に見ることができ、代案、修正案の用意がスムーズに行える。
 メンタル的にも感情もあらわにわめきたてるリード中尉を見ているとかえって醒めるというか、冷静になれるという面があった。

 とはいえ、

「ドップ、後方にまわりました。我々の逃げ道をふさぐつもりです」
「ブライト、君は命令違反を犯しているんだぞ」
「命令を実行する前にドップが襲い掛かったんです」

 ガンキャノンを出す出さないではやはり衝突せざるをえない。



 モビルスーツデッキ、ガンキャノンのコクピットでブリッジの様子を神経質に見ていたアムロは、我慢できず自分が出ると言うために通信をつなごうとして、

『早まらないで、アムロ』

 と、ミヤビからの秘匿通話に止められる。

「でも、僕がガンキャノンが出ないと……」
『ガンキャノンは私たちの持つ戦力の中ではオールマイティにして最大の力を持つからあなたは自分がやらなくては、と気負うのでしょうけど』

 同時にミヤビは考える。
 アムロの気質から言って『他人に合わせるより自分が一人でやった方が確実で早い』と思っているだろうということを。
 優れた能力を持った人間は、この傾向が強い。
 実際、ミヤビの前世でも、そして今世でも企業組織を見るとこういった人物は少なからず居た。

 しかし、である。
 会社を見てみればいい。

 Aさんは能力はありますが、独断専行、スタンドプレーが多く協調性はあまりありません。
 BさんはAさんほど優れた能力はありませんが、周囲の人と協調し、組織を盛り立てていくことができます。

 こういった二人が居る場合、会社組織で結果を出せるのは(ついでに出世するのも)Bさんである。
 組織とは目的を達するための集合体。
 一人で突出するより全体の力を底上げした方が成果を上げられるからだ。

 とはいえ、ここでアムロに馬鹿正直に「だったら一人で戦って勝って見せろ。できるのならな」と言うのはアホである。
 だからミヤビは言葉を選ぶ。

『あなた一人が何もかも背負う必要は無いのよ』

 と。

『それとも私たちじゃあ、あなたを支えられない? そんなに頼りないかしら?』

 ここで『私たち』なのは、

(主に私以外のホワイトベースクルーのことなんだけど、さすがに励ますのに『ただし自分は含めない』とは言えないしなぁ)

 という考えから来たものなのだが、ミヤビの美貌とこれまでの実績がそうは思わせない。
 それどころかアムロの耳には『たち』という言葉が抜けて認識される。
 だから彼は困惑気味に、しかし顔を赤らめてこう答えるのだ。

「その言い方、ずるいですよミヤビさん」

 と。



「かぁーっ、甘酸っぱいねぇ」

 ミヤビの用意した秘匿通話回線はリード中尉を除く主なクルーに共有されていたから、ガンタンクで待機するカイたちにもアムロとミヤビの会話は聞こえていた。

「うらやましいのかしら、カイ?」

 と、珍しくセイラがからかうように言うのは、彼女もカイと同様の甘やかさをアムロとミヤビの会話に感じ取っていたからなのか。
 一方、

『うらやましい、ですか?』

 と小さく首をかしげて問うのはガンタンクのサポートAI『サラスリー』。
 精神的に幼い彼女にはまだ分からない感覚らしい。
 だからカイは照れ隠しもあってこう答える。

「お子様のサラミちゃんにはまだ早い話だよ」

 と。
 サラスリーがふくれたのは子供扱いされたせいか、それともまたサラミ呼ばわりされたせいか……
 通信機越しにおかしそうに笑うセイラの声に、カイもまた自然と笑顔となって。
 それでますます不機嫌になるサラスリーを慌ててなだめることになるのだった。



■ライナーノーツ

 フライングして登場のイセリナでしたが……
 どうしてこうなった。
 この先は実際に書いてみないと分かりませんが、なんだかんだ言って彼女がガルマをシャアの魔の手から守り切ってしまいそうな予感がします。
 キャラのイメージがFate/Grand Orderのきよひーですしね。

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 そして、いよいよ地上戦となります。
 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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