ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第6話 ガルマ出撃す Bパート
「状況を整理します。ガウ攻撃空母にはドップ8機とザク3機が搭載されています」
ミヤビからもたらされた情報、ARメガネに表示されたガウのスペックを見てブライトは説明する。
「ザクが3機もだと……」
怯むリード中尉にうなずいて、
「そうです。こちらが先にガンキャノンを出して消耗させてしまうと、相手の予備兵力であるザク3機を出された時点で詰んでしまいます」
「なっ、ならどうする……」
「ドップの相手はガンタンクとコア・ファイターでしましょう。ザクが出てくる前なら接近戦にならず、十分に防げるかと」
同時に、戦闘とそれに続く大気圏突入で疲労しているアムロを予備兵力とすることで少しでも休ませることができる案だ。
戦力の逐次投入は下策であるとはいうが、予備兵力無しでは戦況の変化に柔軟に対応することはできないというのもやはり軍事的常識。
またジャンケンや五行相剋『水は火に勝(剋)ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ』、水は火を消し、火は金を溶かし、金でできた刃物は木を切り倒し、木は土を押しのけて生長し、土は水の流れをせき止める……
などといった具合に、兵器には相性があるし、ジャンケンと違って後出し上等な世界でもある。
『あの、僕もコア・ファイターで出撃するっての、どうでしょう? カイさんたちの負担も少なくなるし』
「ハヤト」
ハヤトからの通信による進言。
「大丈夫なの?」
「無理をすれば敵に隙を突かれるだけよ」
ミライやフラウからも心配の声が上がる。
「どうなんだ、リュウ」
ブライトは一緒に飛ぶことになるリュウに確認する。
『ああ、コア・ファイターは扱いやすい戦闘機だし、シミュレーターの結果からみると俺の後について飛ばすことぐらいならできるはずだ』
戦闘機の編隊飛行において二機一組を最小単位とするロッテ戦術、アメリカ軍で言うエレメントが組めればその生存率は格段に上昇する。
また、今回の戦闘に役立たなくとも経験は無駄になならないはず。
だからブライトは決断する。
「了解だ。コア・ファイター二機は発進準備。ただし決して無理をするな。ガンタンクはその後だ」
そしてリード中尉に確認する。
「よろしいですね?」
「突破できるんだな?」
ブライトは「わかるものか」とつぶやきかけたが、アムロたちが聞いていることを考え、それを飲み込んだ。
ただうなずいて見せる。
そのタイミングで、ミライがARメガネを利用した秘匿通話でささやきかける。
「ブライト、敵が攻撃を控えているのはなぜかしら?」
「このホワイトベースを無傷で手に入れるつもりなのだろうな。高度を下げろ、ミライ」
「了解」
降下を開始するホワイトベース。
「ジオンにこの船は渡せん」
と気勢を上げるリード中尉だったが、相手にする者はいない。
実質ブライトの指揮でホワイトベースは動いていく。
「各対空砲火、コア・ファイターの発進を援護しろ! 他が一時的に薄くなってもいい! 少しの間ぐらいホワイトベースの装甲で耐えられる!」
はずだ、という言葉を飲み込み断定口調で指示を出す。
軍では言葉は正確に用いなければならないが、命令は別だ。
受け取った者が『本当に?』と考え、その間手を止め味方を危険にさらしてしまうようなものではだめなのだ。
そして冷静であり、心配などしていない口調でなければならない。
士官学校で、そして何よりパオロ艦長の指揮の下で学んだことだった。
しかし、
「ブライト君!」
と声を上げるリード中尉にはその辺が分かっていないらしい。
ブライトはやれやれと思う感情をミヤビのくれたARメガネの下に隠し、対応する。
リュウとハヤトのコア・ファイターが相次いで飛び立つ。
『ハヤト、いいな? わかるか?』
「わかります。任せてください」
教育型コンピュータと補助AI『サラシリーズ』のおかげで初めてのハヤトもそれなりに乗りこなすことができていた。
リュウの機体にはサラシックス、ハヤトの機体にはサラナインが稼働している。
アムロはガンキャノンのコクピットでノーマルスーツのグローブに包まれた手を神経質に握ったり伸ばしたりしながらリュウとハヤトの通信を聞く。
『リュウさん、ホワイトベースから出たらなるべく離れましょう。敵の隊列を混乱させるんです』
ハヤトの提案に、アムロは眉をひそめる。
(賛成できないな。敵の狙いはホワイトベースだ、離れたら援護ができなくなる)
そう思うが、
『そ、そうか?』
と、流されるリュウに舌打ちする。
(リュウのやつ、軍人のくせに!)
そして指示を出すべきブリッジは、ブライトがリード中尉への対応に追われている状況。
「ハヤトは敵を一機でも多く撃ち落すことだけ考えればいいんだ」
苛立ちまぎれにアムロはそう小さくつぶやいた。
アムロのつぶやきを通信機越しに聞いたミヤビは、上手くいかないものだとため息をつきそうになるのをこらえた。
アムロは優秀だ。
そして頭の回転が速い。
天才だと言っていいだろう。
またメカオタク、という内向的に見える面を持ちながらも実際には男らしく根性もある。
ブライトに厳しく叱咤されても反発するだけの気概があるのだ。
最終的には反抗してガンダムごと家出してしまったくらいに。
この辺はやはり昭和のアニメの主人公、とも思うしロボットアニメの主人公はやはりこうでないといけないのだろう。
そんなアムロだからこそ、リスクのある状況に置かれると彼は積極的に対抗策を思索し、打開しようとする。
これ自体はいいことだ。
ミヤビの前世の記憶の中でもアムロは自ら考え、数々の戦法を産み出し、そして勝利していた。
問題はサラたちAIと違って人間の思考力は有限、使えば使うほど疲労していくものだということだ。
そもそもすべてのリスクに配慮し、対策を考えるなど無理なのだし。
ただでさえ前回の戦いの疲労が残っているのに、休まず思考し脳内でシミュレートを続けては疲れ切ってしまうだろう。
ミヤビの前世で知る彼は、この戦いではっきりとしない上に苛立ち、二転三転する指示に振り回され、最終的にはバーサークして敵陣に突っ込み何とかしてしまった。
そして燃え尽きて、という具合になってしまう。
それを防止するために手元にあったARメガネをブリッジ要員に配って活用してみたわけだが、今度はブリッジや全体の動きがわかる分、アムロは一つ一つの状況に反応して思考し、苛立つということになっていた。
こういう場合、どうすればいいかというと、
「アムロ、敵のガウ攻撃空母がザク3機を降下させたらあなたの出番なんだけど、作戦は考えてる? 装備はビームライフルとヒート・ナイフね? 姿勢を低くして地形を利用しながら240ミリキャノンで距離を置いた砲撃戦? それともビームライフルを撃ちながら装甲を頼みに突撃かしら?」
『それは……』
自分がコントロールできない事象に対してあれこれ思い悩んでも仕方が無い。
また思考が発散し空回りすることにもなる。
だから自分自身で判断し、行動できることへ思考を誘導してやるといい。
具体的な想定条件を与えてやれば、彼の考えもまた具体化し「ああなったらどうしよう」「こういう可能性もあるんじゃ」と思い悩むことも減る。
そして、
「どちらでもあなたとガンキャノンなら大丈夫だけど」
と、安心感を与えてやることも欠かせない。
しかし、である。
『ミヤビさん……』
健全な男子が本当に苦しい時、励まし、信頼を寄せてくれる美しい年上の女性にどのような想いを抱くのか、という視点がミヤビには欠けていた。
自分だって前世は男だったくせに、こういうところでは抜けているミヤビだった。
「大気高度105メートル、ホワイトベース固定します。ガンタンク、発進OKです」
地形を利用し、山を盾にするホワイトベース。
ミノフスキークラフトで浮遊しているからこそできる戦法だ。
「カイさん、発進OKです。バランス確認の上、降下してください」
通信士を務めるフラウがそう告げる。
「了解、発進するぜぇ。いいかい、セイラさん?」
カイはガンタンクをモビルスーツデッキ先端まで微速前進。
「了解よ」
というセイラの答えを受けて、
「行くぞ」
と機体底面、四基のロケットに点火して浮上、地上への降下を開始する。
地上へのランディングに集中するカイ。
一方セイラは周囲を警戒、ドップの動きを注視する。
この辺は前回出撃時の反省点を生かし分業している。
『対ショック体勢、入ります』
と、サラスリー。
ガンタンクにはミヤビの前世にあった自衛隊の戦車74式、10式の油気圧サスペンション、ハイドロニューマチックによる姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾けるという機能をさらに発展させたものが実装されている。
キャタピラの基部自体を足のように引き出し動かすこと、胴部を前後にかがめたりそらしたりすることで大きく姿勢を制御することが可能なのだ。
それを利用すれば、着地時のショックを吸収するサスペンションの実ストロークを増やすことができる。
そして着地。
姿勢を整えたうえでサラスリーは、
『トラベリング・ロック解除』
両肩の120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込む。
「どっちだ?」
「右後方旋回」
カイとセイラの意思の疎通もまたスムーズで、機体をドップの方に向けると両肩のキャノン砲を発射。
120ミリ砲弾は時限信管によりあらかじめ定められた距離、高度で爆発し、敵機に破片の散弾を浴びせかける。
この対空弾によりドップが撃墜された。
なお、敵機の近くになったら爆発する近接信管はミノフスキー粒子の影響で動作しなくなっているため、対空弾も時限信管頼りとなっているのが現状だ。
発射前にサラスリーが信管のタイマーを調整してくれるため、少しはましになっているが。
「んじゃあ、俺はこっちかな?」
カイはガンタンクの両手に装備された40ミリ4連装ボップミサイルランチャーでドップを迎撃する。
こちらはもっぱら対空用途の武器で腕部に給弾システムも内装されていて連射も可能。
こうして役割分担とガンタンクの強力な火力によりドップを次々に撃ち落としていくセイラとカイだったが、
『衝撃、来ます!』
サラスリーの警告、そして身構えたところに走るショック。
「なっ、なんだぁ!?」
『マゼラアタック多数。敵の地上部隊です』
「何ですって!?」
「山岳部を盾にガンタンクで切り抜けよう。編隊機もそう自由に攻撃してくることもできまい」
ドップを撃ち落としていくガンタンクに気をよくしたのかようやく落ち着きを見せるリード中尉だったが、そこに衝撃が走る。
「なっ、何事か?」
「敵の地上部隊です」
「なに?」
オペレーターからの報告に目をむく。
「マ、マゼラアタックの部隊か。退け、後退だ。いや、転進しろ」
と、命じるが、ブライトは無理だと考える。
ガンタンクの走行速度は時速70キロ程度。
このままホワイトベースが後退しては孤立するし、ガンタンクを収容する余裕もない。
しかし、
『ミヤビ、ドラケンE改、出ます!』
右舷モビルスーツデッキからミヤビのドラケンE改がカタパルトにより弾かれるように発進した。
「ミヤビさん!?」
驚くブライトに、ミヤビは、
『ガンタンクを援護し敵地上部隊に対処します』
とだけ答える。
『ダメですミヤビさん、僕がガンキャノンで出ます!』
出撃しようとするアムロだったが、
「いかん! 今ガンキャノンを出したらザクはどうなる!」
というリード中尉の叫びに、ブライトも言葉に詰まる。
「……リード中尉の言うとおりだ。敵の予備戦力であるザク3機に対処するには今、ガンキャノンを消耗させる事態は、避けねばならん」
ブライトは苦々しく思いながらもリード中尉の意見に同意せざるを得ない。
それがミヤビに犠牲を強いることになると分かっていても……
しかし、もちろんアムロは納得しない。
『だったら、やられなきゃいいんでしょう!?』
「その保証はない」
『でも、このままじゃミヤビさんが!』
二人の言い合いに終止符を打ったのは、
『サラツー、待機命令だ』
『っ! はい……』
テム・レイ博士からサラシリーズへの強制介入だった。
ガンキャノンのコクピットから一切の操作がカット、受け付けられなくなる。
『何だ……? 何をしたんだ、父さん!』
第二工作室のデスクに両肘を立てて寄りかかり、組んだ両手を口元に持ってくる姿勢を取るテム・レイ博士。
戦況を映し出すモニターの光を反射するメガネの下の表情をうかがうことはできない。
隠された口元から盛れるつぶやきは、
「ドラケンE改の真の力、見せてもらおうかミヤビ君」
というものだった。
『タッチダウンします。対ショック姿勢を取ってください!』
サラの警告に従い、ミヤビは対ショック防御姿勢を取る。
そして、
『タッチダウン!』
ドラケンE改は地表に着地。
その脚部全体をダンパーとして動作させ、着地の衝撃を吸収する。
ドラケンE改の原型機、ドラケンEでは歩行時の衝撃が酷すぎるため巨大なダンパーをかかとに装着して誤魔化していた。
人型マシンの二足歩行における上下振動は激しく、標準のモビルスーツサイズになると走行に人間が耐えられないのではと心配されていたほど。
その3分の1以下の全高であるミドルモビルスーツでもやはり振動は酷く、ドラケンEでも問題となっていたのだ。
それに対しドラケンE改ではかかとにダンパーの代わりにローラーダッシュ機構が入れられている。
ローラーダッシュ機構にはスイングアーム式モノショック、バイクのリアサスに用いられることが多い、タイヤを保持するアームの根元に1本のダンパーを設置しているタイプのサスペンションが組み込まれ、またタイヤの弾力もあってある程度までは代わりとなるが、十分とは言えなかった。
そこで導入されたのが『MIRAI・歩行アルゴリズム』と呼ばれる歩行制御プログラムである。
これを機体制御OSに組み込むことで二足歩行、走行時の振動を劇的に減らすことが可能となった。
そして『MIRAI・歩行アルゴリズム』が画期的なのは人間と同じく身体全体、特に足腰で衝撃を吸収するということ、機械的な仕組みとしては各関節にある動作用アクチュエーターをそのまま衝撃吸収用ダンパーとしても利用するということだった。
別途ダンパーを入れる必要が無く機体の簡素化、軽量化が図れるうえ、ストロークは脚部の可動範囲いっぱいとダンパーを内蔵した場合とは比べ物にならないほど大きくなる。
将来、ガンダムMk−2で実現され、第2世代以降のモビルスーツの必須条件と呼ばれるようになったムーバブルフレームと同様の機構を備え、広い可動域を持つドラケンE改の脚部ならなおさら。
なお実装には旧世紀の日本の戦車74式、10式の油気圧サスペンション(ハイドロニューマチック)による姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾けるというサスペンションと姿勢制御アクチュエーターの一体化技術が参考にされている。
さらに通常のモビルスーツと異なるのは、そのまま脚部に仕込まれたローラーダッシュ機構での走行に移ることができるということ。
疾風のように、滑走路を走る飛行機のように、勢いを逃がす。
「サラちゃん、目標の確認はできた?」
『はい、滞空中に視認できた敵地上部隊の配置はマップ上に登録済みです』
ミヤビは視界の隅に表示されるマップを参考に、地形を利用しながら最適な攻撃位置へとドラケンE改を走らせる。
ローラーダッシュ機構に仕込まれた接地圧可変タイヤが空気圧を下げ接地面積を広げることでグリップが悪い荒地にも対応。
また足そのものを長大なストロークを持つサスペンションとして利用できることもあって高い走破性を示す。
「これで!」
迫りくるマゼラアタックにセイラは両肩の120ミリ低反動キャノン砲を撃ち込むが、
「効いていない?」
『済みません、今のは先ほどまで装填されていた対空弾です』
サラスリーが報告。
対空弾は言ってみれば榴弾だ。
貫通力は無く、戦車のような厚い装甲を持った標的には不向きだった。
『次からは徹甲弾に切り替わります』
サラスリーの操作でガンタンクの自動装填装置が弾種切り替えを行う。
そこに、衝撃が走る。
マゼラアタックからの砲撃が至近に着弾したのだ。
「こ、このままじゃ、やられちまう!」
というカイの危惧は正しい。
地上を知らないジオンが設計した戦車の出来損ないのようなデザインのマゼラアタックだったが、搭載しているのは175ミリの大口径砲。
これから放たれる装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS、作中ではペネトレーター弾と呼称)は『機動戦士ガンダム第08MS小隊』にてルナ・チタニウム製の装甲を持つ陸戦型ガンダムの脚部を破壊。
また『機動戦士ガンダム』第21話では成形炸薬弾(HEAT弾:High-Explosive Anti-Tank)と思わしき弾薬でガンダムの背に装着されたシールドを一撃で破壊し、その下のランドセルにまで損傷を負わせている。
ルナ・チタニウムの装甲を持つガンタンクでも、バイタル部に直撃を受けると危なかった。
『今行くわ!』
「ミヤビさん!?」
驚くセイラ。
しかし集中する砲撃にカイは叫ぶ。
「き、来ちゃだめだミヤビさん! 死んじまう、死んじまうぞ!!」
■ライナーノーツ
ガンタンクはカイとセイラのコンビがいい感じなので、このまま行きますね。
あぶれたリュウとハヤトはコア・ファイター担当になっちゃうわけですが。
> リュウの機体にはサラシックス、ハヤトの機体にはサラナインが稼働している。
コア・ファイターについては『U.C.HARD GRAPH 1/35 地球連邦軍 多目的軽戦闘機
FF-X7 コア・ファイター』に付属の説明が詳しいですね。