ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第5話 大気圏突入 Dパート
『アムロ、戻って。オーバータイムだよ』
「分かってるよサラツー。でも、敵が退いてくれないと」
ザクを連れたままホワイトベースに着艦するわけにもいかず、アムロは焦る。
タイムリミットの宣告は、ジオン側にも成されていた。
「シャア少佐、カプセルに入ってください」
『よし、ハッチ開け』
コムサイに収納されるシャアのザク。
『クラウン、構わん。敵のモビルスーツとて持ちはせんのだ。まっすぐカプセルに向かえ』
「アムロに伝えてください、これではガンキャノンも大気の摩擦熱で燃えてしまいます」
「アムロ、戻れ、ザクはいい」
送受話器を手に取りアムロに呼びかけるブライト。
そこに帰還したミヤビがブリッジに現れる。
「ガンキャノンは戻っていないんですか? あっ!?」
モニターに映る、赤熱し始めたガンキャノンの機体にミヤビは目を見張る。
焦るアムロはこう閃く。
「そうだ、この鉄球(タマ)を!」
『何をする気、アムロ!?』
アムロはガンキャノンにハンマーを投げさせる。
ザクは鉄球を回避するが、アムロの狙いはそこではない。
「かかった!」
ザクのボディに鉄球をつなぐ鎖が絡みつき、自由を奪う!
ハンマーのグリップから手を放し、アムロは叫ぶ。
「これで鉄球(タマ)の重さの分、ザクが早く落ちるはずだーっ!!」
その姿を見ていたミヤビは思う。
アムロ君、ものは重いほうが早く落下するなんていう『ゆで理論』が通じるのはマンガ『キン肉マン』の中だけだよ、と。
あのマンガではロビンマスクの必殺技ロビン・スペシャルを、
「きさまが相手よりはやく落下できるのはその鋼鉄のヨロイが…… あるからだ!!」
とネプチューンマンがロビンの鎧を奪い、自分に重みを移すことで落下速度を加速、掟やぶりのロビン・スペシャル返しで破っていた。
勢いに飲まれ何となく正しい気にさせられてしまうが……
もちろん実際にはガリレオ・ガリレイがピサの斜塔で実験をして証明したと言われるとおり、物体の自由落下の速度は落下する物体の重さには依存しないのだ。
(空気抵抗の影響はあるが)
だからザクもガンキャノンも等しく重力に捕らわれ地表へと落下していく。
「うわああああ! ら、落下速度がこんなに速いなんて……」
コムサイ内。
ガンキャノンと同じく重力に捕らわれてしまったザクからは、クラウンの悲鳴が届いていた。
『しょ、少佐、少佐ァーッ。助けてください、げ、減速できません。シャア少佐、助けてください』
大気との摩擦熱で、真っ赤に赤熱しているザク。
「ク、クラウン。ザクには大気圏を突破する性能はない、気の毒だが。しかしクラウン、無駄死にではないぞ。お前が連邦軍のモビルスーツを引き付けてくれたおかげで撃破することができるのだ」
そう告げるシャア。
ドラケンE改ほどではないにしろ、あの頑丈で厄介なガンキャノンを葬れるのは僥倖、ということに彼の中ではなっていた。
そしてクラウンの乗ったザクのボディは、足が溶け落ち、腕が崩れ、ついに爆散した。
「このままじゃあ、アムロが、アムロがーっ!」
叫ぶフラウ・ボゥ。
しかしそこに、
「大丈夫だ、問題ない!」
と言うのはもちろん、我らがテム・レイ博士。
「こんなこともあろうかと! ガンキャノンには大気圏突入用装備が搭載されているのだ!」
ミヤビの前世の記憶でも、ガンキャノンの内部構造図には『耐熱フィルターカプセル』が確認されていた。
一部資料ではV作戦で試作された3種のRXシリーズのうち、ガンダムとガンタンクのみBパーツ腰部中央部分に『耐熱フィルムカプセル』があり大気圏突入能力があるとされているものもあったが、ガンキャノンにも大気圏突入機能が装備されているとする文献もある。
やはりガンキャノンには大気圏突入用装備が搭載されているというのが正しいのだろう。
アニメ『機動戦士ガンダム』でRX−78ガンダムが見せた大気圏突入方法は二通り。
一つはTV版で見せた耐熱フィルムを被っての大気圏突入。
しかしこれは「サランラップで大気圏突入かよ!」「これさえあればザクだって大気圏突入できるだろ」という声があったためか、スタッフたち自身、さすがに無理があると考えたためか劇場版では股間部から噴出する冷却ガスを前方に構えたシールドに吹きつけ、ガンダム本体を覆うフィールドを形成し過熱を防ぐ耐熱フィールドに変更された。
そして、それらを統合したものが『機動戦士Zガンダム』で登場したバリュートによる大気圏突入システムである。
バリュートとはバルーン(風船)とパラシュートを組み合わせた造語で、高速時にはパラシュートより頑丈なため実際に航空機搭載無誘導爆弾の減速装置として使われていたもの。
『機動戦士Zガンダム』ではこれを大気圏突入スピードを和らげる装置として利用していたし、現実でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が同じ原理による大気圏突入テストに成功している。
ただし、このJAXAのEGGプロジェクトの実証試験は数日かけてゆっくりと降下する、というものだった。
そのため、そこまで落下速度を落とせない『機動戦士Zガンダム』で登場したバリュートには、底部のノズルから冷却ガスを噴出して空力加熱からクッション全体を隔離するという方法がとられていた。
物体の表層に冷却気体を流し熱から守る方法は、ミヤビの前世、旧21世紀でもジェットエンジンやガスタービンのタービン・ブレードに採用されていた技術だ。
燃焼器から高温高圧の噴射を受けるタービン・ブレードにはニッケル合金やコバルト合金といった耐熱合金が用いられているが、素材の耐熱性だけでは耐えられないため内部に冷却用のエアーを流してやる必要がある。
そして冷却用エアーの一部はブレードの表面に開けられた小穴から外に出るが、その空気がブレードの表面を流れることで、外から冷やすと同時に燃焼ガスの熱からブレードを保護する効果を持つのだ。
「ミヤビさんに言われて調べた大気圏突破方法、間に合うのか?」
『姿勢制御、開始』
サラツーの補助を受け、アムロは大気圏突入体勢を取る。
スカイダイビングのように両手両足を広げ、それをエアブレーキに。
自然と、腰を突き出す姿勢になる。
そして、
『バリュート、展開するよっ』
サラツーがガンキャノンの腰部正面に備えられた『耐熱フィルターカプセル』から、バリュートを展開。
マッシュルーム状のクッションのような形状をしたバリュートが機体全体を覆い隠すほどの大きさに広がった。
『冷却シフト、全回路接続』
その中央部からは冷却気体が噴出され、バリュートを守る。
「す、凄い、装甲板の温度が下がった!」
感嘆の声を上げるアムロ。
『ふわふわのベッドに包まれてるみたい』
とはガンキャノンの全身をバリュートに預け、顔を埋めているサラツーの感想。
そして、ようやく余裕ができたアムロはふとつぶやく。
「で、でもこのシステムの正式名称、どういう意味なんだろう……」
バリュートを展開するガンキャノンの姿を映し出すモニターの前で、テム・レイ博士が叫ぶ。
「ミヤビ君のアイディアを元に作ったガンキャノン大気圏突入システム! 名付けて……」
十分に溜めを作ったのちに放たれる衝撃のパワーワード!
「八畳敷(はちじょうじき)・バリュート!!」
ミヤビは めのまえが まっしろに なった!
説明しよう!
日本には「狸の睾丸(きん〇ま)八畳敷」という言葉があり、タヌキの置物に見られるようにその陰嚢は非常に大きく、またよく伸びるとされていた。
妖怪『豆狸』はそれを被って化けることにより人間をだましたという……
(しょ、正気かテム・レイ博士ーッ!!)
テム・レイ博士が開発したガンキャノン大気圏突入システム、その狂気の名称を知ったミヤビの心の叫びが木霊する。
確かに、Zガンダムの時代でも巨大なバックパックを追加する形で実現していたバリュートをガンキャノンの股間にある耐熱フィルターカプセルに収めた技術は凄いけれど。
その股間からガンキャノンの全体を覆い隠せるほどのバリュートを展開する姿は言われてみるとそのもので、名は体を表すと言うにはぴったりだけど。
でも、さすがにこれは無い。
(変態だー!!!!!)
である。
(変態!! 変態!! 変態!! 変態!!)
というか、そんなものに絡めて自分の名前を出すなと絶叫したいミヤビ。
立派なセクハラである。
オッサンはこれだから……
「レイ博士……」
「みっ、ミヤビ君?」
知っている者からは恐れられる『人形姫の氷の微笑み』……
それを浮かべながらミヤビはゆっくりとテム・レイ博士に歩み寄る。
「ちょっとお話しましょうか?」
某魔法少女アニメに登場の『管理局の白い悪魔』と呼ばれるヒロインと同じ意味での『お話』だ。
「なっ、何を怒っているんだね、ミヤビ君」
それが分からないからあなたはアホなんですよ。
「ミヤビ君? ミヤビくーんっ!」
こうしてテム・レイ博士はミヤビに連れられてブリッジを後にしたのだった。
『ハチジョウジキの意味?』
アムロにガンキャノン大気圏突入システムの正式名称について聞かれ、サラツーが自分の辞書データベースからその意味を検索するまであと三秒。
そして彼女はガンキャノンが、自分が全身を預け顔を埋めているバリュートがどういう意味で名付けられているのかを知り、錯乱することになる……
『いっやあああああああああっ!!』
「モビルスーツの位置は変わらんな。燃え尽きもしない」
ホワイトベース側のドタバタ劇など知らぬシャアはシリアスにつぶやく。
「どういうことでしょう?あのまま大気圏に突入できる性能を持ってるんでしょうか?」
「まさかとは思うが、あの木馬も船ごと大気圏突入をしているとなれば、ありうるな。残念ながら」
一方アムロは、
「しかし、どうやって着陸するんだ?」
と悩んでいた。
フォローしてくれるはずのサポートAI『サラツー』は『ハチジョウジキ』の意味を知った結果錯乱し、今は自閉モードに陥っている。
復帰には時間が必要だった。
そして、その間は最低限の対応を行う人工無脳、俗にbotと言われる簡易プログラムが対応してくれる。
『地表近くまで降りたら、ナイフでバリュートを切り離してください』
3Dモデリングではなくあらかじめ用意されている2D画像、しかも頭身が低くSD化されたサラツーの姿を画面隅に投影しながらbotプログラムが回答する。
口調は機械的な丁寧語なので、ちぐはぐな印象。
「何だって?」
『このバリュートは極度の小型化の代償としてパージ機能が搭載されていません。自力での排除が必要です』
まぁ、確かにガンキャノンの腰部背面ラッチには『フォールディングレイザー』ヒート・ナイフが装着されてはいた。
パラシュート降下する兵士は緊急時にパラシュートロープやパラシュートを切り裂いて脱出するためのナイフを携帯している。
また似たような話で冬山に登る登山家は雪崩などで閉じ込められた場合にテントを切り裂いて脱出するためのナイフを寝るときにも手放せないということがある。
しかし、である。
『八畳敷(はちじょうじき)』、つまりはきん〇まに例えられたものを自分でナイフで切り落とせ、と言われて躊躇しない男が居るだろうか?
これは致命的欠陥では、とアムロはこんなシステムを開発した父を恨んだ。
『高度32、30、29、26、25、24、20、17、16、14、12、11』
サラツーbotの無機質な合成音声が非情にも高度をカウントし始め、アムロの精神を追い詰める。
そして、
『さぁ、股間にぶら下がっている邪魔なモノをさっさと切り落としてください』
親指を立て、何かを掻っ切るしぐさをする画像。
SD化されているのにえぐすぎる。
思わず自分の股間を押さえてしまうアムロだった。
「無線が回復したら大陸のガルマ大佐を呼び出せ」
「ようやくわかりましたよ、シャア少佐。よしんば大気圏突入前に敵を撃ち漏らしても、敵の進入角度を変えさせて我が軍の制圧下の大陸に木馬を引き寄せる、二段構えの作戦ですな」
「戦いは非情さ。そのくらいのことは考えてある」
と、あくまでもシリアスを貫くシャア。
同時進行しているアムロの悲喜劇を彼が知ったら、真面目にやっている自分たちがアホみたいだと思っただろうが……
次回予告
ガルマ・ザビの機動力はホワイトベースを地上に追い詰める。
正規軍との戦いは一瞬の息抜きも許されなかった。
そしてテム・レイ博士はこうつぶやくのだ。
「ドラケンE改の真の力、見せてもらおうかミヤビ君」
と。
次回『ガルマ出撃す』
君は生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
おかしい。
バリュートというすごくまっとうな技術を出したのに、ネーミング一つでここまでひどい話になるとは……
ともあれ、これでようやく地上に。
ドラケンE改のホームグラウンドですね。
その活躍にご期待ください。
> 確かに、Zガンダムの時代でも巨大なバックパックを追加する形で実現していたバリュートをガンキャノンの股間にある耐熱フィルターカプセルに収めた技術は凄いけれど。
最近ではバリュートも立体化されていますね。