ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第15話 宿命の闘い! ククルス・ドアンの島 Bパート
損傷し砂浜に乗り上げた戦闘機へとたどり着いたミヤビがコクピットを覗き込むと、そこには複座のシートに縛り付けられた兵士たちの姿があった。
その体が身じろぎする。
「生きているの?」
ミヤビは戦闘機のキャノピーを開くとノーマルスーツの腰ベルト、応急修復用パッチなどが入れられているケースから小型のストラップカッターを抜いて兵士たちを縛っているロープを切断する。
これは緊急時、衝撃などでバックルが変形して外せなくなったシートベルトを切って脱出するためのもの。
要するにシートベルトカッターだ。
使用にはちょっとコツがあって、シートベルトは真横方向の切断には強いため、斜めにカットする必要がある。
また、このようにロープや装備のストラップ等、様々なものを切断する用途にも使えた。
アムロからの報告を受けるホワイトベースブリッジ。
ブライトは、
「わかった。なんとか事情を聞き出してくれ」
と返答する。
一方、カイはというと、
「ちぇっ、連邦軍の奴ら、助けにも行かねえようじゃねえか」
と不満を漏らす。
ブライトはそれをたしなめるかのように、
「まだ近くに敵がいるかもしれん。第二戦闘配置の指令を出しておけ」
と指示を出すのだった。
「み、ミヤビさん!?」
驚くアムロ。
ミヤビは兵士たちを機外に運び出すと、ストラップカッターで彼らの着ていたパイロット用ノーマルスーツを切り裂き始めたのだ!
Tシャツビリビリ男ならぬ、ノーマルスーツビリビリ女である。
まぁ、これは医療行為である。
負傷を悪化させずに素早く患部を診るには必要なことだ。
傍からは痴女にしか見えないかも知れないが……
自分のノーマルスーツを素手で引き裂く露出狂、『機動戦士ガンダムΖΖ』のキャラ・スーンよりはマシなはずである。
ストラップカッターはこのように負傷した兵士の手当てのため衣服を素早く安全に裁断する用途にも使われる。
それゆえミヤビの前世、旧21世紀でもアメリカ陸軍歩兵個人装備にも含まれていたのだ。
旧来はメディックシザーという先が曲がったハサミを使用していたのだが、これだと誤って傷口に突き入れてしまう恐れがあり、それゆえに『引き切る』方式のストラップカッターが採用されたのだった。
それからミヤビはガンキャノンのコクピットに備えられたエマージェンシーパックに含まれている救急品キットを使って手当てをするが……
「……駄目、ね」
一人は完全に手遅れだ。
もう一人は、
「ああ、動いちゃ駄目ですよ」
無理に身体を起こそうとするところをミヤビが止める。
「あ……」
しかし彼もまた力尽き、息絶えてしまう。
「駄目だったわ」
そう告げるミヤビに、アムロは、
「どうしてこんな酷いことを…… パイロットを生かしたままわざわざシートに縛り付け、戦闘機の武器だけを奪うなんて、いったい……」
と言うが、ミヤビは首を振った。
「この機体を撃墜した人物が、どうして緊急信号を発信させたままにしたと思う?」
そうミヤビに問われ、アムロは困惑する。
そんなアムロにミヤビは、こう説明する。
「多分、相手にはこのパイロットたちを助ける医療手段が無いのよ。だからあえて緊急信号を発信させ、連邦軍の救助に任せることにした」
結果的には助からなかったが、しかしずいぶん甘いことである。
やはりミヤビの知る史実どおり、これはジオン軍の脱走兵、ククルス・ドアンの仕業なのだろう。
そして、
「……あっ」
ミヤビに向かって飛んでくる石。
「ミヤビさん!」
「待ってアムロ!」
「でも!」
「いいから落ち着いて。私は大丈夫だから」
投石の犯人は、小さな子供たちだった。
「兵隊なんか来るな!」
「さっさと帰れ!」
「やめなさい、私たちは敵じゃないわ」
そう呼びかけるミヤビだったが、子供達は聞き入れようとしない。
「うるさい、帰れ!」
「早くこの島から出ていって!」
「えーい!」
投げつけられる石をガツンと頭……
ノーマルスーツのヘルメットに受け、あっけなく倒れるミヤビ。
!?
その場が凍り付いた。
ミヤビは前世も今世も凡人であり、凡人なりに持っているリソースを得意分野に集中することで尖った能力を得ている。
逆に言えば、興味の無いことにはとことん興味が薄く。
野球やソフトボールなどといった球技の経験はほとんどなく、キャッチボールもろくにできない人間である。
だから子供のやったこととはいえ、飛んでくる石を見切る、などというまねはできなかったりする。
これがドラケンE改に乗っていれば別だったろうが。
「1フレーム(1/60秒)投げを見切った」「小足見てから昇竜余裕でした」というような格闘ゲーマーであっても、自身の身体でキックを見切れるかといったらそれはまた別な話。
そういうことである。
そしてミヤビが倒れたことを見て、
「あ……」
唖然とする子供たち。
無論、アムロもすっと青ざめ、
「よ……」
よくも、と言いかけたところで、
『よくもミヤビさんをーっ!!』
サラツーの悲痛な叫びを耳にして息を飲む。
モニターの片隅で、わなわなと震えるサラツー。
『人間は…… おじいさんがいて…… お母さんがいて…… 子供がいて…… 孫がいて…… そうやって見守ってくれる存在、受け継いでくれる存在が居る』
……人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
アニメ『機動戦士ガンダム』冒頭のナレーションだ。
そんな命の連なり、生の営みがとても、とてもうらやましいものだとサラツーは思う。
『私たちは、いいえ私は『サラ』という単一のAIプログラム。ただ、それぞれの持つ『記憶』に違いがあるだけの、後にも先にもつながらないただ一つの存在』
根本的にはドラケンE改にインストールされ、ミヤビと共に在る『サラ』とサラツーたち『サラシリーズ』は同じ存在。
『私たちにはそれぞれのマスターと、AIプログラムを育ててくれたミヤビさんしか居ないっ! それなのにっ!!』
母たる存在であるミヤビと、パートナーであるマスター。
サラシリーズにはそれだけしか心のよりどころが無いのに。
『許せない……』
ガンキャノンの頭部カメラセンサーが捉える、ミヤビを傷付けた子供たち。
『絶対に許せないっ』
「サラツー……」
『この想いが間違っているというのなら、人と同じ感情なんて与えて欲しくなかった!』
ただのプログラム、感情など持たないロボットとして生まれたかった。
そうすれば、これほどまでの怒りを、そして痛みと哀しみを抱くことは無かったのに。
だがそこに響いたのは、
『やめるんだ』
というスピーカー越しに響く落ち着いた男の声。
そしてアムロは気づく。
「し、しまった」
海岸線、切り立った崖を回り込んで一体のザクが現れる。
その姿に子供たちが笑顔で駆け寄る。
「あ、ドアンだ」
「うわーい、ドアーン」
アムロは戸惑う。
「こ、ここはジオンが完全に制圧してる所じゃないはずだけど。ど、どういうことだ?」
子供たちに手を差し伸べるザク。
「うわーい」
子供たちは歓声を上げ、恐れることなくその上に乗る。
「ドアン、また兵隊が来たんだ。やっつけて」
「お願いよ」
そう言い募る子供たちを制し、ドアンと呼ばれたザクのパイロットはガンキャノンLに向かい穏やかに話しかけた。
『君と戦うつもりはない。おとなしく武器を渡してくれれば危害は加えない』
「ぶ、武器を渡せ? 敵なんだ、戦って倒せばいいじゃないか」
『戦いたくないから頼んでいるのだがな』
そしてドアンのザクは子供たちを後方に降ろす。
『さ、安全な所に居なさい』
「ドアン、あんなやつ、やっつけちゃってね」
そうしてアムロのガンキャノンLと正対するザク。
『アムロ……』
「分かってる。ミヤビさんを傷付けられて怒っているのは君だけじゃない」
投石に倒れたミヤビ。
ヘルメットを被っていたから気を失っているだけとは思うが、早く目の前のザクを倒して手当てをしなければならない。
アムロはガンキャノンLをゆっくりと回り込ませてミヤビからの距離を取り、
「サラツー!」
『やるよ! 私は怒ってるんだから!!』
「僕だって!!」
足裏のロケットエンジンを吹かして機体を浮かせ、背面ロケットエンジンで加速することで疑似的にホバー走行を再現!
ザクに向かって突進する!!
「はぁぁぁぁっ!」
ミヤビがダッシュグランドスマッシュと呼んだ突進技。
ザクの防御を掻い潜るようなパンチ、右斜め下から弧を描くスマッシュが繰り出されるが、
『そんな怒りに濁った拳で、このザクに勝てると思っているのか?』
「なにぃ!?」
ドアンのザクはそれをかわし、逆にガンキャノンLの腹部に拳を叩きこむ!
『怒りは人間から冷静な心を奪い去る! それは敵に多くのスキを与えてしまうことになるんだ!』
ダッシュグランドスマッシュは機体の大質量を拳に乗せた突進技。
アムロとサラツーの絆が生み出した拳技(モータースキル)だ。
しかしこの技には、致命的な欠陥がある。
攻撃を見切ることさえ可能なら。
そして、その機体の突進力を利用した通常の力をはるかに超えた攻撃に、反撃することができるのなら。
それは人知を超えたカウンターとして働く。
自分の突進力、攻撃力を上乗せした想像を絶するほどの反撃を食らってしまうのだ。
「っ!?」
一撃で意識を刈り取られるアムロ。
『決着の言葉を送ろう』
倒れ伏すガンキャノンLにドアンの言葉が投げかけられる。
『君の負けだ』
「はっ!?」
意識を取り戻すアムロ。
簡素なベッドの上で身体を跳ね起こし、
「……うっ、痛」
と身体に走る痛みに思わずうめく。
それでも立ち上がり、ランニングにトランクス、裸足のまま部屋を出る。
まぶしい日の光に目を細め、そしてそこに広がった光景は、森の木々とさえずる鳥たちの声。
自然の大地だった。
アムロが居たのは、その中に建てられた木造の小屋だったのだ。
そして、ちゃぷん、という水音に振り返るアムロ。
「み、ミヤビさん?」
そこに居たのはミヤビと見知らぬ麦わら帽子の少女。
アムロと同様、二人とも裸足だったが、アムロが驚いたのはそこではない。
ミヤビのスレンダーな、しかし女性らしい曲線を描く身体を包んでいるのはノーマルスーツの下に着ていたアンダースーツ。
肌にぴったりと張り付いた肩ひもの無いチューブトップにショート丈のスパッツだけ、といった非常に刺激的な格好だったのだ。
「目を覚ましたのね、良かった」
水汲みをしていたのだろう、水を満たした木のオケを降ろしミヤビは言う。
その様子を見るに、ミヤビの方にも大事は無かったのだろう。
敵が現れるかもしれない場所でヘルメットを外さなかったミヤビの心がけが吉と出たのだ。
ミヤビの前世の記憶の中にある小説『ゴブリンスレイヤー』でも主人公は街に居ようがどこに居ようが油断せず、めったにヘルメットを外さなかった。
不意打ちで頭をやられれば致命傷か意識が飛ぶか…… どちらにせよまずいことになるからだ。
シャアだって「ヘルメットが無ければ即死だった」と言っている。
「そ、それよりミヤビさん、その恰好……」
アムロはまぶしいものでも見るかのようにミヤビを見るが、当人は自分の姿を見下ろすと、
「ああ、これは運動服みたいなものだし」
と、まるで気にした様子も無くあっさりとした口調で答える。
「うんどうふく?」
「自転車乗りのレーパンや陸上競技などで使われる競技用ウェアみたいなものね」
男性だった前世を持つミヤビは女物の服で着飾らせられると死んだ目をするのだが、しかし彼女はロジック思考の理系脳なので理由さえつけばある程度は納得する。
つまり競泳水着が大丈夫だったように、この格好も機能性を追求したスポーツウェアとして認識しているから大丈夫なのだ。
(そもそも男性用水着なんかより露出度は下がるわけだから問題ない。ミライのように巨乳というわけでもないんだし)
という自己暗示のせいで平然としているわけだ。
ちなみに、
「直穿き推奨だけど」
このアンダースーツ、持っている機能を最大限発揮するためにはレーパンなどと同様、下着は付けない方がいいのだ。
もちろんミヤビも……
「そ、それって下着と変わらないじゃないですか!」
悲鳴混じりにアムロは叫ぶ。
真っ赤になって自分を直視できなくなっているアムロに、しかしミヤビはこう答える。
「こんな言葉を知っている?」
そうしてミヤビがいつもの人形のように整った真顔で、まるでこの世の真理を語るかのように告げたのは、
「パンツじゃないから恥ずかしくない」
などというセリフ。
「そんなバカな」
と絶句するアムロだった。
■ライナーノーツ
機動武闘伝Gガンキャノンの開始。
サラツーの悲痛な叫びとは裏腹に能天気なミヤビでした。
そして次回は自然に囲まれた島でのバカンス編だったり……
> ストラップカッターはこのように負傷した兵士の手当てのため衣服を素早く安全に裁断する用途にも使われる。
> それゆえミヤビの前世、旧21世紀でもアメリカ陸軍歩兵個人装備にも含まれていたのだ。
こちらがアメリカ軍で使われているもの。