ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第15話 宿命の闘い! ククルス・ドアンの島 Cパート


 まぁ、変わらぬ表情の下、内心どや顔でアホなことを語るミヤビは置いておくとして。
 アムロは何とか精神の再起動を果たすと、現状の把握に戻る。

「こ、ここはいったいどこです?」
「ドアンと子供たちの家よ」

 アムロの問いに答えたのは、ミヤビの陰に隠れるように立っていた麦わら帽子をかぶった少女だった。

「……き、君は?」
「ロラン」

 短く名乗る少女。
 歳はアムロと変わらないくらいか。
 しかし整った顔立ちと落ち着いた物腰が、大人びた印象を彼女に与えていた。
 ロランは湖面のように澄んだ瞳にアムロを捉え、静かな声で語り掛ける。

「ククルス・ドアン、あなたを助けた人だけど」
「なんだって……」
「ドアンはあなたを帰すつもりです。痛みが治るまでここでしばらく寝てらっしゃい」

 アムロは激高する。

「じ、冗談を言うな。それより僕のガンキャノンはどこにあるんだ?」

 ロランはじっとアムロを見据えて、

「ドアンの見立てどおりね。ドアンなら裏の畑に子供たちと居るわ」

 そう答える。

「くっ」

 アムロは畑へと駆けて行く。
 それをもの言いたげに見送るミヤビだった。



 アムロが畑に向かうと、そこには子供たち、そして大地に黙々とクワを下ろす大柄な男が居た。
 アムロに気付いた子供が男にささやく。

「ドアン、あいつよ」
「……フッ」

 自分に対し警戒するような目を向けるアムロに、しかしドアンと呼ばれた男は微笑んで見せた。

「少年、もう歩いても大丈夫なのかな?」

 気遣われる言葉にアムロは答えず、

「どこにあるんですか?」

 と問う。

「君のモビルスーツか。私はこの子たちを守らなければならないのだ。いずれジオンの連中がここを見つけ、私を攻撃してくるだろうからな」
「……僕だって身を守る為には武器がいるんです。ガンキャノンを返してください」

 しかしドアンは首を振り、

「返したら君だって私を倒しに来るんじゃないのか?」

 そう告げる。
 アムロはむきになって、

「あ、あなたみたいに子供を騙して手先に使うのとは違います。僕はジオンの侵略者と戦ってるんです」

 そう主張するが、それは子供たちの機嫌を損ねることになる。

「ドアンの悪口を言うな!」
「あたしたち騙されてなんかいないわよ!」
「そうだ、僕達の島を守って何が悪い!」
「ドアンの悪口を言うなら帰れ!」
「そうよ、とっとと出ていって」

 アムロは戸惑い、それゆえドアンに敵意を向ける。

「よ、よくも味方につけたものですね」
「なんだと、お前……」

 いきり立つ子供を抑えたのはドアンだった。

「やめろ。無駄な争いはいかんといつも言ってるだろ」
「だけどこいつ」

 アムロはドアンに向かって宣言する。

「ガンキャノンは探し出しますから」

 そう言って背を向けるアムロをドアンは、しかし好ましそうな視線で見送るのだった。



 アムロは島内をめぐり、滝つぼを覗き込み、そして小高い山の上から周囲を見渡す。

「そう遠くへ運んだとは思えないけど」

 素足にランニングシャツとトランクスというだけの姿で、しかしアグレッシブに行動するアムロ。
 目を覚ましてから水しか口にしていないが、それでも意地を見せる。

 機械いじりが好きな内向的な少年、というのは『機動戦士ガンダム』放送当時は今までにない新しい主人公像として評価されたが。
 しかし、こういう反骨精神と男らしい気概を持つところはやはり昭和のアニメの主人公。
 ロボットアニメの主人公はこうでないといけないのだろう。



 一方、ミヤビは何をしているかというと、

「はい、どうぞ」
「うわぁ、サンダルだ」
「わら草履(ぞうり)というのよ」

 稲わらから縄を綯(な)う……、つまりロープを作ったり、わら草履を作ったりして子供たちに与えていた。
 アジアは米の文化圏。
 稲わらならいくらでも手に入るのだ。

「すまんな」

 礼を言うドアンに首を振って、

「いいんですよ、これくらい。お世話になるんですから」

 戦災孤児である子供たちに戦闘服であるノーマルスーツは刺激が強い。
 そういうことでミヤビはノーマルスーツを脱いだわけだが、ノーマルスーツはブーツが一体になっているのでそれでは履くものが無くなる。
 幸い、稲わらがあったのでわら草履を作ろうとしたのだが、それを見た子供たちが集まってきて、彼らが裸足なのに気づいて。
 そこで彼らに作り方を教えながら、皆の分のわら草履を編んでいたのだ。
 投石でミヤビを傷付けたこと、下手すると大怪我、最悪死亡していたことをドアンから諭され、叱られたせいで委縮していた子供たちだったが、このことをきっかけに仲良くすることができていた。

「しかし、どこでこんな技術を?」

 そう尋ねるドアンに、

「昔、体験学習で習ったことがあって」

 と答える。
 正確には前世で小学生のころ学んだのだが。
 つまり小学生でもできるほど簡単なのだ。

「それじゃあ、夕食の材料を取りに行きましょうか」
「えっ?」

 怪訝な顔をする子供たちに、

「この辺なら海の幸が豊富よ。小さな貝、シッタカとかなら潜らなくても岩場で取れるし」
「へぇー」

 潜れるならサザエなども取れるかも知れない。
 貝は環境や季節によって毒性を持つこともあるので気を付けなければならないが、シッタカもサザエもその心配がない種類で初心者には良い。
 漁業権というものがあって、前世の日本ではシッタカはともかくサザエは密漁になるのでダメだったが(注:場所によってはシッタカも駄目)、この島にはそういうものも無いから取るのも自由だ。

「わら草履を履いていれば、岩場でも滑らないし痛くならないでしょ」

 沢登りでは足袋に草鞋(わらじ)が濡れて苔むした岩場でも滑らないとされる。
 わら草履でも同様なグリップが期待できた。

「うんっ!」

 そうしてミヤビは子供たちを引き連れ、夕食の足しになる食材を求め海岸へと向かうのだった。



 ガンキャノンLの姿を求め、素潜りで海中を探るアムロ。
 幸い、この島の海はきれいで海水の透明度も高い。
 レジャー目的なら感嘆するだろうという素晴らしい自然環境だった。

 そうしてひたすら何度も潜り、休憩のために白い砂浜にごろりとあおむけに寝転ぶ。
 そんな彼を覗き込む人影。

「思ったより意地っぱりなのね」

 麦わら帽子の少女、ロランだった。

「偵察に来たのか?」

 疑うアムロにロランは海へと目を移し、

「あなたにはこの自然の美しさもわからないみたいね」

 と嘆息する。

「戦いに美しさなど必要ないよ、気を許せば負けるんだ」

 意固地に拒絶するアムロ。
 ロランは彼に視線を戻し、

「ドアンはね、あなたが思っているような悪い人じゃないのよ」

 そう言うが、アムロはシニカルに笑って、

「子供達を騙すのが上手なようだね、ドアンって」

 その頬をロランが平手で打つ!

「何も知らないくせに勝手に決め付けないで!」
「そんな立派な男がなぜガンキャノンを隠すんだ?」
「あなたにはあの子供たちの気持ちがわからないの?」

 近くの岩場では、ミヤビと一緒に貝を獲り、歓声を上げる子供たちの姿があった。

「いくら子供だからって、そんなに簡単に騙されてこの島までついて来ると思うの?」
「じゃあなぜドアンは子供たちの面倒を見るんだい?」

 そしてなぜミヤビはあんな風に自然に子供たちと触れ合っているのか。

「知りたければ自分で聞くのね」

 ロランはそう言って歩み去る。
 しかし、立ち止まって振り返り、

「ドアンはあなたを見こんでいるわ。青臭いところが取れたらいい兵士になれるって」

 そう言い残し、今度こそ立ち去るのだった。



 夕闇が迫る中、リュウはコア・ファイターでガンキャノンの姿を探る。

「うーん、この島にはいないようだな」
『リュウ、捜索は明日まで打ち切りだ。いったん引き上げろ』

 ブライトからの通信。
 高低差、コア・ファイターが居る上空はまだ太陽が見えているが、眼下の島々ではもう日は落ちているのだ。

「しかし、もう少し……」

 それでも捜索を続けたいリュウ。



「人が心配してるっていうのに。連絡ぐらいすべきよね」

 そう愚痴るフラウをミライが、

「アムロのことですもの、何か事情があるのよ、きっと」

 と慰める。
 しかしフラウは、

「だといいんだけど、もしかして……」

 アムロの安否を心配しているように見える彼女だったが、本当に心配しているのは、

(戦いが嫌になってミヤビさんと駆け落ちしちゃったんじゃ)

 ということだったりする。

「あたしって、ほんとバカ」

 昏い瞳でそうつぶやくフラウ。



 一方、フラウからアムロとの駆け落ち疑惑を持たれているミヤビはというと、

「さぁアムロ、しっかり食べてね」

 と、アムロと共に海の幸と取れたての新鮮な野菜による夕食を楽しもうとしていた。
 ちょっとしたバカンスのような感じだ。
 フラウが知ったら闇堕ちして刃物を振り回し、アムロともども刺されかねないシチュエーションである。

 ミヤビの前世の記憶では意地を張り、海岸の洞窟で一夜を過ごしたアムロだったが。
 しかしミヤビのとりなしで、ドアンたちと一緒に食事を取ることとなっていたのだった。

「でも僕は……」
「このサザエ、取ってきてくれたのはアムロでしょ」

 差し出される網焼きされたサザエ。
 素潜りでガンキャノンを探すアムロに、ミヤビがついでにあったら取ってきてくれと頼んだものだ。

「美味しいわよ?」

 そう勧められ、断り切れずに口にすることになる。

「美味い……」

 何も食べずにいたこともあって、貝の持つ旨味、そして適度に効いた塩味が身体に染み渡るようだった。

「こっちの小さいのは私が子供たちと一緒に獲ったシッタカ」

 正円錐形の貝殻が特徴の小型の巻貝。
 日本でも各地で獲れていたバテイラとその近縁種で、地域によってさまざまな呼び方がある。
 ミヤビも前世で獲って食べた記憶があった。

「ご飯も私が作ったのよ」

 日本米ではなく長細い形をしたインディカ米だったのでエスニック風に料理してある。
 缶詰肉に含まれる油で畑から取れたタマネギ、ニンジン、ニンニク、ナス、ししとう、プチトマトなど野菜を適度に炒め、米を入れる。
 米が良くなじみ、炒め上がったら缶詰の肉を投入し、トウガラシなど香辛料をぶち込み味付け。
 普通なら荒塩か岩塩を加えるところだが、缶詰肉に含まれる塩分だけで充分。

「缶詰は保存のために塩を効かせていることが多いから」
「ふぅん」

 そんな会話をかわし、作り方を教えながら調理したものだ。

「同じ理由でレーションを使うのもいいわね」
「レーションを?」
「ええ、汗をかいて失われる塩分を補給することを考えて作られているから、レーションは大抵塩分が高いのよ」

 だから被災地のお年寄りに救援物資としてそのまま出すと、高カロリーであることもあって少しまずい。
 ホワイトベースでキッチンを守るタムラコック長が、レーションの備蓄が十分にあるにも関わらず避難民のお年寄りに出す食事に苦心していたのはそんな理由もあったのだ。

 そしてあとは適度に水を足し炊き上げるだけで、油とスパイスが効いたエスニック風のご飯ができあがる。
 東南アジアから中近東、そして地中海沿岸、その流れを汲んでアメリカや南米でも見られる料理だった。
 ジャポニカ米の白いご飯を愛する日本人にはなじみが薄いものかもしれないが……

「こんな風に食事を囲めるっていいわよね」

 ミヤビはつぶやく。

「ここには連邦の人間も、ジオンの人間も居る。スペースノイドも、アースノイドも居る」

 軍人も、アムロはまだ知らないだろうが戦災孤児も。
 戦争被害者も、加害者となってしまった人間も居る。

「それでもこうして共に食事を取り、大地の、自然の恵みを分け合うことができる」

 人は分かりあうことができる。
 ミヤビは小難しい理屈ではなく心でそれを納得する。

「私には争うことは逆に奇妙なこととしか思えないわ。アムロはどう?」

 アムロには答えられなかった。
 彼も、ミヤビの言うようなことは実感しているのだ。
 しかし認められない自分が居るのも事実。

「このまま…… ホワイトベースが行ってしまったらどうしよう」

 つぶやくアムロにミヤビは、

「ここで私と暮らしましょうよ」

 と冗談交じりに聞く。

「いや?」

 冗談交じりということは、少しは本気でもあるということ。

 何しろ自然に囲まれた島での半自給自足のスローライフ。
 ミヤビの前世の記憶にあるバラエティ番組『ザ!鉄腕!DASH!!』のDASH村みたいなものであり。
 同時にサラリーマンのあこがれ、早期退職、アーリーリタイヤによる田舎暮らしでもある。

 正直、戦争のことも、何もかも忘れてこの島で暮らすというのは魅力的だった。

 下着姿で取り残された主人公と年上の女性、というのは『銀河鉄道999』のシチュエーションが思い浮かぶ。

(ならアムロは星野鉄郎で自分はメーテル?)

 いや、ないなー、とミヤビは変わらぬ表情の下で自嘲するのだった。

 こんなミヤビの内心を、そして先ほどのミヤビによるアムロへの誘惑をフラウが知ったなら……
 もの凄く大変なことになったのだろうが、それをミヤビもアムロも意識することは無かった。



■ライナーノーツ
 自分で獲った貝で海鮮バーベキュー…… なんてうらやましいことを。
『幼馴染は負けフラグ』の元祖的存在、フラウ・ボゥを放っておいての自然に囲まれた島でのバカンス編でした。
 そのうち刺されるんじゃないかと思うんですが……

 そして次回はいよいよ機動武闘伝Gガンキャノン、クライマックスの戦闘です!
 ご期待ください。


>「この辺なら海の幸が豊富よ。小さな貝、シッタカとかなら潜らなくても岩場で取れるし」

 こういうのですね。

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 なお、日本各地で様々な呼ばれ方をしているので、「それ、○○って貝じゃ?」という方も多いと思います。


 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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