「待ちに待った時が来たのだ。多くの英霊が無駄死にでなかった事の証の為に……」

 ソロモンの海に、核バズーカを構えるガンダム2号機。

「再びジオンの理想を掲げる為に! 星の屑成就の為に! ソロモンよ! 私は還ってきた!」



機動戦士ドラッツェ0083 STARDUST MEMORY
第10話「激突戦域」




「うわあぁぁ……」
「こ、これが…… 星の屑か……!」

 観艦式を行っていたワイアット大将の乗る旗艦戦艦バーミンガムも、膨れ上がる核の炎に巻き込まれた。


「むぅ…… く……」

 核の衝撃に、冷却装置付きの巨大なシールドを構えて耐えるガンダム2号機。
 ケンはというと、その影に隠れて爆発をやり過ごしていた。



 宇宙世紀0083。
 ソロモンは核の炎に包まれた。

「戦術核ってレベルじゃないぞ。こんなものを実戦配備しようとしていたのか、連邦は」

 思わず唸るケン。
 そこにガースキーから通信が入る。

『隊長、無事なら無事って、言ってくれ!』
「ん、ああ、ありがとうガースキー」



「な…… なんだよ、あの光! 嘘だろ?! 嘘だろっ!」

 ついに間に合わなかったドラッツェ1号機のアニッシュが叫ぶ。



「ガトーもやってくれるよ、ガトーも……」

 核の光は、シーマ中佐率いる艦隊でも確認できた。

「シーマ様、時間であります」
「やるさ…… ここまで来たなら!」
「右5度転進! 第ニ戦速! 戦闘配置だ! やるぞぉっ!」



『モビルスーツを出せんかぁ!』
『応答せよ!』
『Eフィールド、42パーセント!』

 モビルスーツ搭載型サラミス級巡洋艦ボスニアにも、混乱する連邦軍の様子は入ってきていた。

「なんて事だ…… 連邦の象徴であるガンダムがこんな事をしでかすなんて」
「まだ決着はついていないわ。これからよ!」

 レーチェルはブリッジスタッフの動揺を抑え、命じる。

「艦の進路をコンペイ島へ! 救援に向かういます!」

 その様子を見ていたメイは呟く。

「決着は、まだ……」



「チッ、作動せんな…… 左腕が動かんのか」

 核の衝撃に耐えたガンダム試作2号機だったが、さすがに不具合が出ていた。

『ガトー少佐、お見事です! 予想以上の戦果です。これで、我々の3年間も報われました!』

 カリウス軍曹から、興奮の通信が届く。

「うむ! 惰民を貪る連中には、これこそ悪夢というものだな」
『はっはっはっは。では後ほど、少佐! 予定地点でお待ちしております』
「ん!」

 通信を終え、帰途につくガトー、そしてケン。

「しかし、何と他愛のない…… 鎧袖一触とはこの事か」
『少佐、まだそう断じるには早そうですよ。センサーに感ありです』

 センサー有効範囲の広いケンのドラッツェは、接近する二つの機影を捕らえていた。

「ん? 真下か!」
『ガトー! 聞こえているか! 返事をしろ!』

 ガンダム試作1号機からの通信。
 そして、もう一つ、近づいて来るのは、シールドを白と赤の連邦カラーに塗ったドラッツェ。

「一号機とドラッツェ?」
『あー、あのドラッツェは連邦のです。まぁ、少し因縁がありまして』

 ケンの言葉に、ガトーは笑った。

「ならば、お互い因縁の相手と決着をつけるとしようか」
『了解です、それでは私はドラッツェと当たります』
「武運を祈る」
『はい、お互いに』

 そして通信を切り上げる直前、

『ご無事を祈ります少佐。左腕、動いていないようですから』

 そう、囁かれる言葉にガトーは目を見張る。

「……見破られていたか。隠していたつもりだったのだがな。ケン・ビーダーシュタット大尉、覚えておくだけの価値はある名だな」

 独りごちるガトー。

「さて、私の相手も、それだけの強者だと良いがな」



『2号機! 聞こえているか! 返事をしろ!』

 無線越しにアニッシュの叫びを聞くケン。

『聞こえているだろう! お前が忘れても、俺は忘れはしない!』
「アニッシュか……」
『俺は決着をつけるまで、お前を追い続ける!』
「燃えてるな」

 呟くケン。
 ドラッツェ2号機のスラスターを噴かす。

「だが、邪魔はさせん」

 コンソールを走る指先。
 急接近、盾の先端に装備されたビームサーベルをドライブして、斬りかかる。
 交錯する両者。

『くっ!』

 一転して、スペースデブリの間を駆け抜ける2号機。
 それを追って、右腕のマニピュレーターを排除して装備した40ミリガトリング砲を撃ち放つアニッシュの1号機。
 その銃撃が2号機に追いついたと思った瞬間、

『やった!? ……ぁ、違う! 2号機は?』
「遅いっ!」

 スペースデブリを盾にして、流れるように反転。
 1号機を狙うケン。

『ぅ! だあああぁぁぁっ!』

 雄叫びを上げながら、アニッシュはケンの攻撃を受け止める。

『2号機! 聞こえないのかぁ!』



「各艦、第1ブロックに向かわれたし!」
「12番ゲートは閉鎖中!」
「残存部隊はL23に集結せよ」
「第7フィールド、損害率87パーセント」
「各艦隊に、甚大な損害が出ています! 約2/3は行動不能の模様です!」

 次々に被害状況が入るコンペイ島、連邦軍司令室。

「……終わりだな」
「は?」

 司令であるヘボンの呟きに、控えていた将官が怪訝な顔をする。

「我々は残り1/3の勢力をもってしても、遥かに優勢なんだよ。それに引き換え、ヤツらは切り札を使ってしまった」
「旗艦をツーロンへ遷しましょう。そして、周辺の哨戒と艦隊の再編成を」
「ん! そうしてくれたまえ」
「閣下、アルビオンよりこちらに救援に向かう、との入電です」
「何を今更! 無用だと言ってやれ。港は混乱してむしろ迷惑だ、と!」
「あ、あぁ…… しかし、その……」

 戸惑う通信士に、オブラートにくるんだ言い方に言い直す。

「独立した索敵攻撃部隊ならではの自由な行動をとれ、と伝えろ」
「かしこまりました!」



『満足だろうな! でも、そいつは2号機を奪われた俺たちにとって、屈辱なんだ!』
「フッ、わからんでもない。随分胆を舐めたようだな」
『聞いているのか! 5・8・2だ!』
「聞いてやる!」
『何だと?!』
「戦いの始まりはすべて怨恨に根ざしている…… 当然の事!」
『く…… いつまでへらず口を!』
「しかし、怨恨のみで戦いを支える者には私を倒せん! 私は大局を見て戦っているからな!」
『くっそぅ…… あ!?』
「歯車となって戦う男にはわかるまい!」

 そして、通信を受信のみに切り替えるケン。

『く…… く…… うおおおぉぉぉっ!』

 アニッシュは怒りと共にドラッツェを操った。



「どうして…… なぜこの二人が戦わなければならないの?」

 ボスニアのブリッジで、独り呟くメイ。
 声を作っていたものの、今の通信で彼女には2号機のパイロットが誰か分かってしまった。

「ケン……」



『こうなったら、アレしかない!』

 アニッシュは40ミリガトリング砲を乱射しながら、ケンの2号機に迫る。

『シールドパージ!』

 左腕のラッチにマウントされたシールドを切り離すアニッシュ。
 質量バランスが崩れ、機体が横にぶれる。

「戦士なら、一度見た技は二度とは通用しないものだ。ましてやこの俺にはな……」

 しかし、

『マガジン、リリース!』

 アニッシュは右腕の固定武装、40ミリガトリング砲のマガジンまで捨て去って、微妙に軌道をずらし、2号機に迫ったのだ。
 そして、至近から薬室内に残った弾丸で2号機を狙う!

「今日は核バズーカが無いから左腕が空いてるんだ。ということで」

 ドラッツェ2号機の左腕に抱え込まれていたシュツルムファウスト。
 使い捨ての安価なロケット弾ランチャーを放ち、そのわずかな反動で、アニッシュの捨て身の銃撃をかわすケン。
 もちろん、回避だけが目的ではなく、シュツルムファウストの弾頭は狙い外さずアニッシュのドラッツェ1号機に命中していた。
 威力は確実で、その下半身、ガトル戦闘爆撃機のプロペラントタンク兼スラスターを足の代わりに装着したそれを、完全に吹き飛ばした。

『うあああああああ!』
「ははは、切り札は最後まで取っておくものだ!」



「丸っきり悪役だな、あれは」

 通信機越しに聞こえてくるケンの声に、頭痛を覚えるガースキー。



『少尉、脱出を! 急いで!』

 ようやく追いついてきたロイのジム改が、残骸と化したドラッツェ1号機に手をさしのべる。

「んん…… くそぅ、ダメか、機体を捨てるしかないか」



「あぁ……」

 安堵とも、悲痛とも取れるつぶやきを漏らすメイ。

「もう、通信は切れているわ。ロフマン少尉も、無事に脱出したんだから……」

 慰めの言葉をかけるノエルに、俯きながらメイは呟く。

「どうして…… どうしてこんな事に……」



 サイド3へと運ばれるスペースコロニー近辺を飛行していた哨戒機があった。

「こちらストロベリー・ナイン、ストロベリー・ナイン。ポイント1・2・5を哨戒中。肉眼で、移動中のコロニーを確認。異常なし!」
『了解。ストロベリー・ナイン、そのまま哨戒を続行せよ』
「了解! 終わり!」

 機長からの定時報告が終わり、副長が笑みを見せる。

「コンペイ島の事が嘘のようだな。まったく、のん気なもんだ」

 それに対し、機長は苦笑で答え、コロニーに目を移す。

「ありゃあ、クジラだな」
「クジラ? ……あっはっはははは」
「うぉ?! なんだぁ?!」

 ストロベリー・ナインは、ポイント1・2・5で定時報告の後、連絡を絶った。



「な、なんだよノエル! やぶからぼうに……」
「いいから来なさい!」
「っぁ…… いったい、どうしたって?」
「メイちゃんが、変なのよ」
「え?」
「彼女らしくない…… うなだれて、部屋に引き篭もっちゃって」
「どうして……? 俺が1号機を失ったからか? ……いや、彼女にとって1号機と2号機を同時に失ったも同然だからか?」
「……それだけとは思えないけどね。とにかく、馬鹿で使えないヤツでも励ましてやれるのはあんたしかいないんだから、早く行ってやんなさい」



「こちらクォーツ! 誰か返事をしてくれ! 傍受している者はいないか! こちらクォーツ! 誰か、返事をしてくれっ!」

 コロニーを運搬しているコロニー公社の通信士が叫ぶが、通信機にはノイズが返って来るだけだった。

「……ダメです、妨害されています!」

 その報告に、機長は訴える先を変えた。

「聞こえるか、デラーズ・フリート! このコロニーは、我がコロニー公社の管理下にある! わかるか、君たちもスペースノイドだろう? コロニーこそ、我々の生活の礎だという事を! だからこそ、我々は…… ぁ! うわぁっ!」



「あ…… メイ」
「ロフマン少尉……」
「こんな所にいたのか」
「終わったんですね。ドラッツェによって起こされた事件は、なにもかも」
「すまない。ドラッツェを失ってしまって……」
「うぅん、いいの。よく還って来てくれたと思うから」
「でも、これからどうするんだ? メイは」
「………」
「メイ?」
「月へ……」
「ぇ?」
「月へ来ない? ケンも、あたしも、ロフマン少尉のテスト・パイロットとしての適性を高く評価しているわ」
「………」
「どうかした?」
「いや、すまない…… 俺にはまだ、すべてが終わったようには思えないんだ。2号機の…… あのパイロットの態度は、星の屑がまだ……」
「2号機の事を言うのはよして。聞きたくない。この後も戦いが続くとしても、あなたはもう十分戦った。これ以上深入りして、それが体に染みついてしまって…… 忘れたくても、忘れられない。そんな風になるのが怖い」
「メイ……」
「忘れたいの…… この悪寒を」



「こちら、ラインバック・ワン。哨戒機の連絡が切れた地点に到達した」

 消えた哨戒機の反応を追って、確認に出る連邦軍。

「フ…… 世はすべて事もなし、か。……ん? あれは? ううっ!」



「連邦に察知されたぞ! 『送り狼』を出せ!」

 発見されたのは、シーマの部隊だった。

「チッ、バレたか…。フフ、だが遅すぎたようだね」
「シーマ様! モビルスーツ全機、退避を完了です!」
「全艦、主砲一斉射撃! 撃てっ!」



 シーマの動きは、コンペイ島司令室にももたらされていた。

「何? コロニー・ジャックだと?」
「はい。二つのコロニーのミラーを同時に爆破した、との事です」
「無人のコロニーで何をしている? どういう事だ?」



「二人を呼んだのは、他でもないわ。今後の私の意向を聞いてほしい為よ。実は、私は星の屑の本質はまだ見えてないと思うのよ。つまり、コンペイ島襲撃は何かの前触れではないか、と……」

 アニッシュとメイを前に話すレーチェル。

「でなければ、デラーズがあれだけの演説をぶったのは何故?」
「それは、脅し……」
「とは思えないわね」

 メイの仮定を、遮る。

「そこで、私達はジャブローのコーウェン将軍の指示を仰ぎ、デラーズ・フリートに対する戦闘行動の続行を決定したわ」

 そして、レーチェルはメイに言う。

「カーウィンさん。ドラッツェの1号機と2号機をルナツーへ運んだのは、軍のテストが必要なのは、あの2機だけだったからね?」
「えっ……!」

 思わず声を出し、メイの表情を伺うアニッシュ。

「カーウィンさん……」
「やめてください! あれは…… 私の管轄ではありません!」

 その言葉で、アニッシュは確信する。

「あ、あるんだ3号機が……」
「ロフマン少尉のキャリアとカーウィンさんの技術的サポートがあれば……」
「大尉! ぜひ自分にやらせてください!」
「ダメ! あれはまったく別のタイプの……」

 言い争う二人をよそに、レーチェルは決定事項として二人に伝える。

「すでに本艦は進路を変更したわ。3・5・B地点をテストの為航行しているラビアンローズに向けて」
「あぁ……」

 落胆するメイ。
 そこに連絡が入った。

「艦長! ……ああ、失礼。緊急情報であります!」
「……コロニー・ジャック? でも、このミラーを爆破って何?」
「ミラー?」



「ウッフフフフ…… あと1分」

 楽しくてしょうがないという笑みを浮かべるシーマ。



「もし…… 私の想像が正しければ、それぞれミラーを一つずつ失ったコロニーは、重心がズレて回転に歪みが発生します。やがて、この二つは……」

 メイの言葉に、顔色を変えるレーチェルたち。

「激突するわけか!」
「当然、激突したコロニーは弾けあって…… 月の重力にどちらかが捉まる」
「それじゃあ、月へのコロニー落としを!?」
「この事をコンペイ島へ!」
「大尉! この艦も変針して……」
「この位置からでは間に合わないわ」



「コロニー激突時の、放電を警戒せよ!」

 こらえ切れぬ衝動に、哄笑するシーマ。

「フッフッフ…… アッハッハッハッハッハッハッハ! アーッハッハッハッハ!」



「閣下! コロニー同士が激突した、との報告です!」
「第一戦速だ! 急げ!」

 コンペイ島からも、連邦軍主力艦隊が出撃しようとしていた。



「計算が出ました。コロニーの1基は、間違いなく月への落下軌道をとっています!」
「く、くぅ…… くそうぅ!」

 歯ぎしりするアニッシュに、レーチェルは冷静に言う。

「まだ状況はどう変化するかわからないわ! とにかく、今はドラッツェを!」



次回予告
 プラズマの中に、星の屑は目覚める。
 月は、孤独なるコロニーを引き寄せた。
 今、必要なのは時。
 ボスニアは、ドラッツェ3号機を求めてラビアンローズを訪ねる。
 止めようのない時計の針…… 苛立つアニッシュの心。
 そそり立つドラッツェ3号機の眼前で、時はメイに決断を迫っていた。



■ライナーノーツ

> 「戦士なら、一度見た技は二度とは通用しないものだ。ましてやこの俺にはな……」

 あなたは黄金聖闘士ですか。


> 「ははは、切り札は最後まで取っておくものだ!」
>「丸っきり悪役だな、あれは」

 その上、カリオストロ伯爵。

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