ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第19話 ランバ・ラル特攻! Cパート


 一方、力勝負に勝利したガンキャノンだったが、

「今の損傷のデータをくれ! 相当やられたはずだ!」
『肘関節ダンパー破損! オイルが漏れてる。制御系統、正副、共に断線、予備に切替中。センサー類もあちこちが焼き切れてる。異常値を示すものは全カットで推測値に置換……」

 音声と共にモニター片隅を要約された真っ赤な警報ログが流れていく。
 連邦軍モビルスーツの関節には駆動用にフィールドモーターが、衝撃吸収用に油圧ダンパーが配置されている。
 駆動用のアクチュエーターがダンパーを兼ねるジオンの流体パルス方式より複雑だが、マグネットコーティングが普及すると衝撃吸収用ダンパーが不要となるという話で、将来的には有望な技術である。
 また現時点でも、ダンパーが破損してもフィールドモーターが生きている限りは何とか動くため、ダメージコントロールには有利だった。

「サラツー、右手のダンパーオイルを全部抜くんだ!」
『えっ?』
「次で終わりにする。右手はもう捨てるしかない。軽くするんだ! こっちはトルク重視のセッティングのおかげでグフよりも動きが重い!」
『っ、分かったわ!』
「そうだ、勝てばあとは何とかなる!」



 ゴボッ、と。
 まるで血を流すかのようにガンキャノンの右腕からオイルが排出される。

「ほぉーっ、彼はやる気だよ、ハモン。若いというのはうらやましいものだ。いいパイロットだよ」

 ラルは一人、そうつぶやく。
 別の場所で戦っているハモンに語りかけるかのように。
 そうしたのはやはり彼にも予感があったためかもしれない。
 彼の戦闘者としてのカンは、無意識に相手パイロットの正体を察していたのだ。

 ラルは全力で受けて立つべくシールドの裏に装備されていた切り札、ヒート・サーベルを抜く。
 柄から形成された刀身が圧倒的な熱量を放つそれを、シールドを捨て両手に構える。

 なお、この柄から形成された刀身はミヤビの前世の記憶の中の資料では『形状記憶型の高分子化合物の発熱体』とされていた。
 このグフのサーベルを忘れてギャンを公国軍初のビーム・サーベル搭載モビルスーツとした結果、後から無理やりつじつま合わせで作った設定、という噂もあったが。
 実際、この剣をビームサーベルと記した資料も存在したし。

 しかし、そもそもザクのヒートホークでも、設定画では腰にマウントした待機状態では刃が無いように描かれていたのだ。
 それを受けてか後年作成されたオリジン版のプラモデルではヒートホークも待機状態では刃が無く、起動して初めて刃が展開される、という具合になっていた。

 それゆえ、柄から伸びるヒートサーベル、というのもありなのだろう。



「行けっ!」

 ガンキャノンは足裏のロケットエンジンを吹かして機体を浮かせ、背面ロケットエンジンを使って加速することで疑似的にホバー走行を再現。
 左腕に構えたヒートナイフを手にグフに向かって突進する。
 トルク重視のセッティングで速さに欠けるガンキャノンだが、これならばグフを上回る速度で攻撃が可能だった。



「ダッシュグランドスマッシュ!?」

 ミヤビは目を見開く。
 彼女の前世にあった格闘ゲーム『ストリートファイターIV』でボクサーのバイソンが使っていた突進技だ。
 スマッシュと呼ばれるパンチは、フックとアッパーの中間のパンチ。
 あのマイク・タイソンのピーカブースタイルの防御を掻い潜るために、ドノバン”レイザー”ラドックが生み出したとも言われるもの。
 そのためかゲームでもアーマーブレイク属性を持っていた。

「でもそれは!」



「おおっ!」

 雄たけびと共にグフに突っ込むアムロ!



 左斜め下からのスマッシュがラルのグフの胴体を狙う。
 しかし、

「あまいっ!」

 ラルはそれを見越していたからこそシールドを、防御を捨てて両手でヒート・サーベルを持ち初太刀に全力をかける構えを取ったのだ。

(その技は既に見た)

 ラルとの初戦に、アムロはこの技を見せていた。
 そしてグフの戦術コンピュータのプログラムは当然それを記憶しているし、何より歴戦の勇士たるランバ・ラルに一度見せた技は二度目は通じない。

(ナイフで前回よりリーチを伸ばしたつもりだろうが! そんなものは小手先の小細工に過ぎん!!)

 グフのヒート・サーベルが振り下ろされ、

「終わりだ! ガンキャノン!」

 その瞬間!

「何!?」

 機体に走る衝撃と共に、頭部のメインカメラが潰される。
 そしてラルの鋭敏な感覚は、ショックの後わずかに、わずかに遅れて届いた音を、衝撃波を聞く。

(音が後から? ばかな、超音速攻撃。ソニックウェーブだと!?)



(ふ、フリッカー…… フリッカージャブですって?)

 ミヤビは見た。
 ガンキャノンが放つかに見えた左のダッシュグランドスマッシュはフェイントに過ぎなかったのだ。
 次の瞬間、前に出そうとしていた左半身を引き、半身になってグフのヒート・サーベルをかわし。
 逆に前に突き出される右半身、その動きを利用し完全に死んでいたように見えた右腕がムチのようにしなって斜め下から放たれ、その拳がグフの頭部を粉砕したのだ。

 フリッカージャブはアメリカのプロボクサーで世界王座5階級制覇を達成したトーマス・ハーンズが多用したことで有名なパンチ。
 いやミヤビの前世、旧21世紀日本の人物ならマンガ『はじめの一歩』に登場のボクサー、間柴了の代名詞的な技として知る者の方が多いのか。

 完全に脱力した状態から、腕全体を鞭のようにしならせてスナップを効かせて斜め下から打ち込むもので、ジャブと呼ぶにはためらわれるスピードと威力、そしてかわしにくさを誇る『死神の鎌』の名にふさわしいパンチである。

 フリッカージャブは、この脱力というのが技を放つ上でのポイントになるが、グフのヒートロッドに痛めつけられたガンキャノンの右腕は、まさに打って付けの状態。
 ミヤビの前世でもとあるボクシングマンガで、フリッカージャブを得意とするライバルに一方的に打たれ、両腕をズタズタにされたキャラクターが「今の自分の両腕の状態は、まさにフリッカージャブに最適なのでは」と気づき、相手のお株を奪うフリッカーで反撃するという話があったが、それと同様だ。

 さらにはアムロはダンパーオイルまで捨て去って、関節を完全なるフリー状態にしたのだ。
「軽くするんだ」とアムロは言ったが、それは重量の話ではない。
 右腕関節の抵抗、フリクションを極限まで軽くするという意味で言っていたのだ。

 まぁ、何より恐ろしいのはヒートロッドの動きからそれを自力で思い付き、土壇場のぶっつけ本番で実行できてしまうアムロの戦闘センスなのだが。
 ニュータイプ以前に、何この戦いに関する応用と適応性の高さは、という話である。

 その上、

(今の音、ソニックウェーブよね。ガンキャノンのパンチが音速を超えた? 音速拳って、マンガじゃないのよ)

 モビルスーツは人体の10倍の身長を持つ。
 つまり人間の放つパンチを完全に再現できれば10倍のスピードでパンチが放てる計算だが、それでも音速には遠く及ばないわけで……
 ガンキャノンの腕を完全にムチとして使って見せた、だからこそ先端の拳が音速を突破したのだろう。



 一方、ガンキャノンの方もグフのヒートサーベルを完全にかわしきれたわけではなかった。
 その切っ先がコクピットハッチを抉り、モニターを破損させている。
 しかしアムロは、その破壊されたコクピットハッチの隙間からグフを視認し、今度こそスマッシュ、その変形技のナイフの一撃でグフのコクピットを狙う。
 だが、

「浅い!?」

 こちらも同様、コクピットハッチを切り裂くに留まる。



「やるなガンキャノン! しかし、こちらとてまだまだ操縦系統がやられた訳ではない!!」

 ラルはバックジャンプで距離を取ると、コクピットハッチの亀裂にまとわりついていた樹脂材を手で押しやり、視界を確保する。

 ザクII最終生産型、つまりFZ型ザク等、統合整備計画の適用により生産された機体で装甲材質がチタン・セラミック複合材とされていたことから、超硬スチール合金製とされるそれ以前のジオンモビルスーツの装甲は逆説的に一枚板の装甲板が使われているイメージがある。
 しかし実際には発泡金属、カーボン・セラミック、ボロン複合材、チタン・セラミック複合材など機能の異なる複数の装甲材を多層的に一体形成する技術が用いられている。
 要するに2種以上の材質を積層させた複合装甲(コンポジット・アーマー、Composite Armour)、積層装甲とも呼ばれるものと同じ機能を有した装甲を、張り合わせでなく一体化して形作る傾斜機能複合材というものである。
 さらにザクIIF型の時点で胴体部のみとはいえ、それをさらに重ね合わせ複合装甲としていた。
 そしてグフのコクピット装甲破断面に構造体が見えるように、以降のモビルスーツにも受け継がれている。

 ラルが、奇しくもミヤビの知る史実と同様にノーマルスーツのグローブ越しに押しのけたのは、多層構造となっている装甲材のうち、ガンキャノンのヒートナイフの熱で溶け出た樹脂材である。
 当時の視聴者からは、

 熱で溶けたスチールの装甲板を手で押しのけるランバ・ラルすげぇ!
 ジオン驚異のノーマルスーツ!

 などという意見も出たが実際にはそういうことだった。



「き、来た」

 走り来るラルのグフ。
 半身になってガンキャノンにかわされた直前の打ち込み。
 それを意識してか横薙ぎに放たれるヒート・サーベルを、しかしガンキャノンは身を沈めてかわす。
 これはアムロの戦闘センスもあるが、やはりガンキャノンの基礎性能の高さ、そしてアムロが何をしようとしているかを察し、先回りするように機体制御を助けてくれるサポートAI、サラツーの存在がものを言っていた。
 そして……

 先日、ミヤビはバトリングを通じてアムロに教えてくれた。

「ドラケンE改の制御OSのライブラリには主要な格闘技、スポーツのデータが入れられていて、ある程度の再現や応用ができるのだけれど」

「ただし、基本動作以外は当人がアクティブに設定しないと使えないけど」

 サラツーも、

『ガンキャノンでもそれは同じだよ』

 と言う。
 アムロはそれを受けて、ガンキャノンのライブラリから主要な技を、ヒートナイフを生かすためのナイフ格闘術を選び、アクティブに設定していた。

 それを用い、グフの攻撃をかわすと同時にヒートナイフでグフの両手首を切り飛ばす!
 人間が使うナイフ格闘術でも、実戦では自分に一番近い部分に攻撃を行う。
 手首は狙い目で、動脈を斬れば二分で相手は死に至るのだ。
 モビルスーツでも武器を掴む手、マニピュレーターを潰すことができれば、その脅威は激減する。
 そして、

「……やっぱり」
「お、お前は? さっきの坊やか。ア、アムロとかいったな」

 間近でコクピットの亀裂越しに相対するアムロとラル。

「そうか、僕らを助けたのはホワイトベースを見つける為だったのか」

 今になって悟るアムロ。
 そしてラルは驚きながらも現実を受け入れる。

「まさかな。時代が変わったようだな、坊やみたいなのがパイロットとはな!」

 そしてラルは姿勢を低くしてガンキャノンに体当たり。
 グフの反り返った肩のスパイクは、重力下での格闘で下から敵モビルスーツをかち上げるためのもの。
 ミヤビの前世の記憶でもマンガ『機動戦士ガンダム ギレン暗殺計画』にてランス・ガーフィールド中佐は通常のグフ以上に湾曲したグフカスタムのスパイクでF2ザクをすくい投げている。
 しかし、

「うわああああっ!」

 アムロは叫びながらもガンキャノンのパワーを生かし、それをねじ伏せ抑え込む。
 人間同士の格闘でも一緒だがパワーの違い、筋力差というのは戦闘巧者であっても乗り越えるのはなかなかに難しい。
 柔道も、アマチュアレスリングも、多くの格闘技で体重=筋肉量で階級が決められているのはそのためだ。
 そして勝負に勝つのは、自分の長所を生かす者。
 そうやって受け止めたグフの背中に逆手に持ち替えた、ナイフ格闘術で言うアイス・ピック・グリップによりヒートナイフを突き立てる!

「どうだ!」

 止めを刺したグフから離れようとバックジャンプしたガンキャノン。
 だが、ラルはその機体にワイヤーをかけ、

「あ、あれは!」

 宙に身を躍らせ脱出を図る。

「見事だな。しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ。そのモビルスーツの性能のおかげだという事を忘れるな」
「ま、負け惜しみを!」

 ガンキャノンの着地に合わせ、ワイヤーを空中ブランコのように使い、後方へ着地するラル。
 
「待て!」

 ガンキャノンを振り向かせ、後を追おうとしたアムロだったが、

「うわあっ!」

 その背後でグフが爆発。

「うおっ!」

 ラルも吹き飛ばされ、姿が見えなくなってしまう。



 砂丘の陰に身をひそめるラル。
 そこにジオンのノーマルスーツ姿の兵が近づく。

「大尉」
「おお、ステッチ。無事だったか」

 ザクIIはF型以降、胴体部のみとはいえ、傾斜機能複合材をさらに重ね合わせ複合装甲としていた。
 そのため四肢を吹き飛ばされるほどのダメージを受けてもコクピットは無事だったのだ。
 そしてラルは、

「やむを得ん。夜になってハモンと合流するか」

 彼はまだまだ戦う気だった。



■ライナーノーツ

 グフとの対決に決着。
 ノリは本当に格闘マンガで、私も楽しく書けました。
 でもこのお話は4部構成だけどDパートはどうなるの、ということですが、次回は新メカ登場の予定です。
 ご期待ください。


> しかし実際には発泡金属、カーボン・セラミック、ボロン複合材、チタン・セラミック複合材など機能の異なる複数の装甲材を多層的に一体形成する技術が用いられている。
> 要するに2種以上の材質を積層させた複合装甲(コンポジット・アーマー、Composite Armour)、積層装甲とも呼ばれるものと同じ機能を有した装甲を、張り合わせでなく一体化して形作る傾斜機能複合材というものである。
> さらにザクIIF型の時点で胴体部のみとはいえ、それをさらに重ね合わせ複合装甲としていた。

 この辺は『機動戦士ガンダムMS-06アーカイブス』や『機動戦士ガンダム一年戦争全史 U.C.0079-0080 (上)』なんかが詳しいですね。

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