ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
最終話 あ、あなたはギレンさん!! Dパート
「つまりザビ家の独裁という分かりやすい悪役を用意することで、地球連邦の戦争目的をサイド3の独立阻止からザビ家独裁の打倒へとすり替えた、ということですか?」
ミヤビの知る史実でも、そして彼女が転生したこの世界でもジオンは地球連邦から独立している。
彼女は考えをまとめるかのようにつぶやく。
「終戦後、財政的に緊迫していた地球連邦は、莫大な戦時債務を抱えたジオン公国を再吸収することができなかった。戦前のように併合すればジオンは連邦の一部になりジオンの負債は連邦が抱えることになる。そうなれば連邦政府は財政上破綻してしまいます」
そんなことを受け入れられるはずもない。
「そのためジオン併合は見送られた。彼らを追い詰めてさらなる戦争を招くのは愚策だと戦時賠償請求も最低限に抑えられた。何より莫大な債務を抱えたジオンがそう簡単に復興しないという読みもあったでしょう」
だが、
「しかし公国制から共和制へと移行したジオンは国家が保有するジオニックなど技術系企業の株式一斉売却に踏み切った」
もちろん売却先はアナハイム・エレクトロニクス。
そして1企業にジオンのモビルスーツ技術のすべてを握られたら安全保障も何もあったものでは無いと慌てて連邦政府も買い付けに走り、お互い譲らぬまま、価格はうなぎのぼり。
結局双方、出せるだけの資金を出しても半分ずつしか買えなかったというオチがある。
「そうなる前に必要なパテントを買い付けに走っていた目ざとい企業もあったようだが?」
とギレン。
(バレテーラ……)
いや、今ミヤビが語ったことはマンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』でゴップ議長が語っていた内容であり、それを知るミヤビは、
(技術欲には勝てなかったよ……)
とばかりにツィマットやジオニックに資金援助、という体で多少高くなってもいいからと恩を売りつつ技術を買いつけていたのだ。
「いえ、当社が買ったのは民需に転用できる技術だけですからね?」
例えばギャンに使われていた、史実より優れている流体パルスアクセラレーター技術とか。
おかげでドラケンE改およびツヴァークの戦後モデルは運動性が格段に向上している。
ミドルモビルスーツ、および新規市場のプチモビルスーツはしばらくヤシマ重工の一人勝ちが続きそうであった……
「と、ともかく、それで得た莫大な資産を使い共和国は債務を清算。さらに戦時中国土が戦場にならなかった、被害を受けなかったサイドであることから人が集まり、温存されていた工業力で地球圏の生産の多くを担い始め、おそらくは最も早く復興を遂げるだろうと言われている状況です」
これが成立しているのも、第二次世界大戦でドイツが敗戦後、戦争責任をナチやヒットラー個人にすべて被せて済ませたのと同様に、悪いのはザビ家独裁であってサイド3の市民はそれに扇動され、支配されていただけとすることができたからだ。
小説『幼女戦記』でもWeb版では、主人公が所属する『帝国』…… ドイツをモデルとした国は軍高官が一人、軍を掌握し悪役となり敗北することで戦争を終結させていた。
それと同じことをギレンはやったということだろう。
実際、ミヤビの知る史実でも同様に、ザビ家の権力者たちは死亡。
そのシンパは戦争で死ぬか、戦争犯罪に手を染めていたために逃亡するしか無く、ズム・シティは空白状態。
残されたダルシア・バハロ首相が和平を結ぶ環境はできあがっていた。
連邦側も戦争で大きく疲弊させられ、また主戦派、対ジオン強硬派の首魁レビルも、その派閥の将兵ごとソーラ・レイに消されている。
すべてをザビ家独裁のせいにして終戦協定を結ぶお膳立ては完璧と言っていいほど整えられていた。
できすぎではないか、という説ももちろんあった。
ダルシア・バハロ首相は一年戦争終盤にデギンの意を受けて連邦との和平工作を行っていたと言われるし、キシリアは戦後を見据えて政治家たちと結び工作を進めていたとも言う。
彼らがそのように謀った、とも考えられるが。
一方、このミヤビが転生した世界。
ミヤビからしてみれば自分が凡人であるがゆえに、史実から運命を大きく変えることができないのだと。
また、敵味方双方に戦果や戦力の増減があったとしても、地球連邦軍の持つ圧倒的な物量の前には戦局を変えるほどの力にはならないのだと。
そう考えていたが。
もちろんそれもあるだろうが、まるで計画倒産のようにジオンのトップであるギレンが『ザビ家敗北ジオン独立END』を狙って、第3の組織ネメシスまで操って状況をコントロールしていた、ともなれば多少戦況が変わろうとも大筋では話が変わらないというのも納得できることであった。
おそらく史実でもギレンは『予備計画』として戦争に破れ、自分が死んだとしても最低線、ジオンの独立は達成できるように手配りを行っていたのだろう。
この世界のギレンはミヤビとの出会いから、最初からこの結末を狙うようになった。
戦争は始めるより終わらせる方が難しいし、独裁者というものは権力を手放すタイミングを図るのが難しいものだから、自らの死を自作自演することでそれらを解決できるこのプランは権力への執着さえ無ければ良いものと映ったか。
その辺に違いはあるが、同じ人物が謀る計画であるが故、同じ結末を表面上はたどることになったのだ。
そして、
「それだけかね?」
ギレンに暗に「もっと知っていることがあるのだろう? 吐け」と命じられ、ミヤビは即座に済みませんでしたと言わんばかりに白状する。
「一年戦争末期には『ギレン暗殺計画』というものがあったという噂も聞きましたね」
マンガ『機動戦士ガンダム ギレン暗殺計画』で主題となった要人暗殺、連続爆破テロ事件であるが、調べてみるとやはりこの世界でも起こっていたらしい。
マンガの作中ではギレンの秘書セシリア・アイリーンは真の首謀者としてキシリア・ザビの名を挙げ、逆にこの『ギレン暗殺計画』であぶりだされた反ギレン派を一掃する計画を立てていたが、彼女のようなギレンの腹心が関わっていて、なおかつ実際に被害が出ているとなると、別の見方もできるようになる。
「西暦の時代のフィクションに、こんな話があります」
主人公は私生児であり経済界をも牛耳るマフィアのボスの死んだ姉の息子、つまり甥であり、義理の息子でもある。
養父に嫌われた彼は誘拐事件をきっかけに殺されそうになるが逃亡。
そして時が経ち、養父が病気で倒れ、それを好機と見たのか何者かに組織(シンジケート)の幹部たちが次々に殺されているという話が聞こえてくる。
CIA、そして養父の組織と敵対するマフィアのボスたちからは主人公が反撃をしているのでは、さらには養父の後釜に付く気ではと疑われ、巻き込まれていくが……
「実際には死を前にした主人公の養父が敵対するマフィアのボスの一人と手を組み、内部からの手引きで自分の組織の幹部を始末させていた。そうして頭を失いバラバラになった非合法な下部組織はその協力をしたマフィアが吸収し、主人公にはクリーンになった合法的な財産、これまでに買収してきた企業等が遺産として渡される」
主人公の実の父は養父であり、死を前に思うところがあってすべての財産を息子に譲ろうとした、という結末だったが。
『ギレン暗殺計画』も、ギレンはそれを利用し、戦後の和平交渉の妨げとなる自陣営の要人の排除を謀ったのでは、と見ることもできる。
「私は陰謀論を『面白い仮説』として楽しむことはあっても、頭から信じたりはしない性質なんですけどね」
そうミヤビは締めくくる。
ギレンはそれを面白そうに聞いていたが、一転して表情を改め重々しく口を開く。
「父の死だが」
ギレンに話を戻され、
「……私が聞いてよい話なのですか?」
内心、
(もうやめて! とっくに私のSAN値(正気度)はゼロよ!)
と絶叫するミヤビだったが、ギレンは彼女を逃したりはしない。
「父は私と共に歴史の表舞台から姿を消すことに同意してくれた。まぁ、連邦市民と結婚し、戦後、ジオンと連邦との懸け橋となるだろう、ガルマを残せることで納得できたのだな」
デギンにとってはそれが救いだったのだろう。
「だが、この話に絶対に同意しないであろうキシリアを諦めることには難色を示した。自分が説得をしようと」
「それは……」
戦後、あるコメンテーターは数々の戦争犯罪を行った末に味方の将兵を見捨て逃亡しようとして死んだキシリアに対し、
どうして父デギンや兄ギレンは愛する娘をこんな風に育ててしまったのか。
またガルマも、愛する姉を正してあげることができなかったのか。
キシリアはザビ家全体から見放されている。
そう思うとキシリアが可哀想になってきました……
と言っていたが、逆にどうしてデギンたちが何もしなかったと思うのか?
言っても本人が聞かなかった可能性をどうして無視できるのか?
という見方もある。
多分、この人物は正しいことを言ったら必ず相手は受け入れるものだと、正しいことは正しいから受け入れられるのだと純粋に思える人間なのだろう。
そういう環境に育った、幸せな人なのだろう。
ただしそれが致命的な事態を招くこともまたあるのが現実だ。
「危険だと止めたのだがな。キシリアは私がソーラ・レイで連邦の主力ごと父を殺したと思い込み、それを大義名分に私を排しようとしていた。そこに「実は父が生きていた」では都合が悪かったのだろう。秘密裏に接触を図った父は、殺されていたよ」
このように。
「立ち止まるチャンスは何度もありました。すべてはキシリア様ご自身の選択です」
ミヤビに言えるのはそれぐらいだ。
キシリアがこの運命を回避する分岐点は、それこそ無数にあったのだ。
だがキシリア自身がそれを選ばなかったのだから、その結果もまたキシリアが受け入れるべきものだ。
デギンのように父だから、家族だからと動いても、どうにもならないものはあるのだ。
「人の中には我々を薄情者と罵る者が居るかもしれんな」
「どのように感じようと人の心は自由ですが、罵ることは名誉棄損になる場合もあるし、お勧めはできませんね」
考えることを放棄して、状況に反応して感情を垂れ流しているだけで自分の発言も顧みない。
自分がこう感じた、というのは正直な気持ちだから正しいことを言っている、言われた対象はそれを受け入れ、共感してくれるのは当然だと思っている。
言われる相手の身になって考えないことを『客観的』と思っている。
そういう者も多いという話。
まぁ、だったらあなたはその愛したはずの家族からどんな扱いをされても、どんな立場に追い込まれても、その相手を愛し続ければいいんじゃない?
ともミヤビは思うが。
ただ、はっちゃけてどうしようもない親兄弟に入れ込んだ結果、自分が一番に守らなくてはいけないはずの妻や夫、子供を蔑ろに、不幸にしてしまったり。
または子供を搾取対象やマイナス感情のはけ口にしかしていない毒親に苦しんでいる人に対し「血がつながっているんだから真心を込めて接すれば必ず分かってくれるよ」と言って追い込んでしまい、取り返しのつかないことになってしまったり。
そういった事態を招くこともある。
そして世の中にはそんな事例はありふれているほどある、というのは覚えておいた方が良いだろう。
「まぁ、でもようやくドズル氏を日の当たる場所に帰すことができましたし……」
明るい話題だってある。
そう、戦傷により治療、療養中だったドズル・ザビ氏は、ネメシスの内、地球連邦軍内親スペースノイド派、つまりミヤビの知る後のエゥーゴのブレックス・フォーラ氏たちの協力により政治取引を済ませ、帰還を果たしていた。
終戦時に彼が生きていることが明らかになるとまずいということでずっと、それこそガルマにも伏せられていたのだが。
戦後の混乱も終わり、ようやく復興の時を迎えたものの、ジオンには未帰還兵、つまりジオン公国軍残党と呼ばれる将兵の問題があり。
地球上の将兵の説得に関してはガルマが頑張っていたが、宇宙上の兵には彼は影響力が低く困っていた。
連邦自身もザビ家でもドズル・ザビのような純粋な軍人が生きていてくれたら抗戦し続ける兵を投降させることができただろうに、と嘆いていたところを見計らっての帰還である。
当人も、
「俺は政治のことはわからん! ガルマ、任せたぞ!」
とぶん投げたので政治的問題にはならず。
彼は妻のゼナ、娘ミネバ共々平和裏に戻ることができたのであった。
アクシズに行きかけていたゼナとミネバの身柄を確保したりなど、裏ではネメシスの傭兵部隊として未だ活躍中のランバ・ラル隊が相当な苦労をしていたのだが。
戦後も便利屋的に使われているホワイトベースがそれに巻き込まれ、ヤシマ姉妹のように軍から抜けることがなかった、ブライト以下、軍に残留した面々がヒドイ目に遭ったりしていたのだが。
「それでも戻らぬ者も居るがな」
とギレン。
その言葉に迂闊にも想像力を働かせたミヤビは、
(何を考えたか、言え)
とばかりに圧をかけて来るギレンに容易く屈し、
「戦争は終わりましたが、先日のガルマ・ザビ氏襲撃事件のように揺り返しのような紛争は今後も起きます」
もしかしたら『機動戦士Zガンダム』におけるティターンズのようなものが生まれるかも知れない。
「地球連邦軍内、親スペースノイド派がそれに対抗するでしょうが、組織内に在る彼らには制約が多く、即応し調達できる戦力は甚だ心許ないとしか言えません」
一方、
「また、連邦に敗北したジオンは大きな軍備は持てません」
史実どおりジオン共和国には国防隊が組織されたが、これは宇宙海賊に対する備えや治安維持が主目的であり規模は小さい。
その上、地球連邦軍内、親スペースノイド派以上に動きは制限されるだろう。
「ならば後日スペースノイドにとって一定の軍事力が必要になる日が来ることを想定して即応戦力をプールしておく。『動くシャーウッドの森』として存在価値を認めるというのもやぶさかではない、ということでしょうか?」
ミヤビが小説、そしてマンガやアニメにもなった『銀河英雄伝説』から引用した言葉で語ると、ギレンはニヤリと笑って見せた。
史実でもエゥーゴがティターンズに対抗できたのは、スポンサーであるアナハイムの経済力もあるが、根本的にはジオン軍残党という外部の戦力と手を結ぶことができたから。
そういう意味では確かに有用なのだろう。
「西暦の時代の第二次世界大戦後と同じく国家総力戦に国民、首脳陣が懲りたら、次は非対称戦争の時代となる」
とギレン。
「少数の強力なモビルスーツ部隊による電撃作戦で敵重要拠点を攻略し、戦略目標を達成するという風に、戦いは様変わりするだろう」
そのために公国軍の精鋭をあえて残す、か。
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場していたエギーユ・デラーズあたりが喜々としてその役目を果たしそうである。
まぁ逆にギレンが居てくれるなら、彼らがコロニー落としを計画したりなどといったテロに走る心配はないだろう、とも言えるのだが。
「やれやれ、ですね」
世に争いの種は尽きまじですか、と肩をすくめるミヤビ。
でも、とミヤビはこれだけはと言っておく。
「戦後は復興の、民需の時代です! ヤシマもコロニー復興にドラケンやツヴァークなどといった民需で食べて行く方針です! 再生産に繋がらない軍需なんかには関わらず……」
「うん、戦後、軍縮の時代にはドラケンやツヴァークなどといった軽機体は重宝されるからな」
「っ!!」
まさしく。
戦争期には重装甲、高火力の機体開発がエスカレートしていくが、戦いが遠のけば、安く数が揃えられる機体が歓迎される。
過去の事例が物語っている事実だし、現実にヤシマ重工にも軍から大規模な発注がかかっている。
軍縮の時代になったら軍から放出された大量のドラケンが市場にだぶつくだろうという想定があっさりと覆され、ヤシマの工場は戦争が終わっても三交代24時間体制での生産を余儀なくされていた。
戦中、ドラケンE改はそれこそ『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグのように使い捨てられたこともあり、余剰の機体どころか不足が生じているのが現状なのだ。
「その上、ハービック社が推すドラケンE改可翔式を中核とした兵器体系。これによりハイ・ロー・ミックスのハイの側も満たせる可能性がある。君が大戦中に見せたビームバリア、ビームシールドという新たな概念も目を惹いているし……」
(アーアーきこえなーい)
目を閉じ耳を塞ぎたくてたまらないミヤビ。
そう、結局軍とのおつきあい、そしてテム・レイ博士ら狂的技術者(マッド・エンジニア)たちとの腐れ縁は戦後も続いているのだった。
まぁ、テム・レイ博士にニュータイプとしての力の解明、という名目でこれまた強制的に協力させられているアムロからすれば、戦後も憧れのお姉さんとのつながりが保てるということで良いことなのだろうが、ミヤビ自身はそんな青少年の想いには気付いていない。
そしてサラシリーズたち姉妹も相変わらず健在で、機密指定レベルが下がり、同時にセキュリティ対策も十分に講じられた結果、それぞれのマスターたちと職場で一緒していたり、ネット越しに遠距離交際していたり、モビルドールサラの義体を送りつけて同棲したりと好き勝手にしているのだが。
(さて、ここで問題です、ミヤビさん)
ミヤビは己に問う。
ギレン・ザビが上司として居るヤシマのオフィスと、テム・レイ博士以下、狂的技術者(マッド・エンジニア)たちが手ぐすね引いて待ち構えている取引先の地球連邦軍。
職場の環境として、どちらがマシなのだろうかと。
ミヤビの苦悩は戦後も続く……
ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 完
■ライナーノーツ
このお話もこれで完結。
ここまで続けられたのも、応援して下さる方々があってのこと。
2年間で100万文字超過(ライトノベル小説なら文庫本約10冊分……)ですから、こんなのモチベーションが保てなければ続けられませんしね。
どうもありがとうございました。
それではまた、次の機会がございましたら。
ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
今後の参考にさせていただきますので。
またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。