ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
最終話 あ、あなたはギレンさん!! Cパート
(アイエエエエ! ギレン・ザビ!? ギレン・ザビ、ナンデ!?)
戦後、ようやく帰ることができたヤシマ重工のオフィスに出社したミヤビは、あまりのことにピクリとも動かない無表情の下、錯乱する。
ヘッドハンティングで迎え入れられたという新上司、その執務室にあいさつに上がり、相手の目を見たとたん、である。
「……ふむ? 顔はだいぶ変えたつもりだったが」
彼はそう言って輪郭の変化した顎周りをそっと撫で、ミヤビを見る。
最新の整形技術を使って巧みに顔を変えたのだろう。
確かに少しずつではあるが各部が変化し、全体ではかなり印象は変化している。
額の剃り込みは消え、オールバックから長髪になってるし、眉毛もくっきり生えているし!
しかし、
「眼、です」
緊張のあまり、逆に感情が抜け落ちた平坦な声でミヤビは答える。
「眼?」
「その、すべてを見通すような底光りする瞳には、たとえ全人類を敵にまわしても従わなければならないような、何かがあります……」
それゆえ戦前に席を同じくした際も、誘導されるままに己の考えを吐き出すことを強いられたのだし。
そして今まさに、彼女は致命的な言葉を漏らしている。
つまり、彼に命じられたら何でも従ってしまうだろうと白状させられているのだが、ミヤビはそれに気づいていない。
凡人を自認するミヤビにとって、この状況はヘビににらまれたカエルのようなもの。
それこそ人形のように従うしかないのだ……
「フフッ、このような密室で男に対して言う言葉ではないな」
一方、グレン・フォードという偽名を名乗る彼は、あの日とは変わった顔で、しかし同じように面白そうに笑う。
そう言えば西暦の時代にそういう俳優が居たな、それを基にした偽名かな、などと現実逃避しながらミヤビはおずおずと名を呼ぶ。
「その、フォード専務」
父からはネメシスの最重要利害関係者(ステークホルダー)、事実上の黒幕…… その縁でスカウトさせていただいたとだけ聞いていた。
自分の子供を騙し討ちで大魔王の元に差し出すような鬼畜の所業である。
(何してくれるのお父様!)
ミヤビは内心、絶叫していたりする。
一方ギレンは落ち着いた様子で、
「グレンと」
「グレン専務?」
「グレン=サンでいい。君ら日系…… いやニホン人はそう呼ぶのが習わしだろう?」
「はぁ、どうも……」
過去の対談でもそう言われてギレンさんと呼ばされた訳であったが、その再現である。
ともあれ、
「生きていらっしゃったんですね」
ということである。
ギレンは口元を歪め……
「私が倒れれば必然的にキシリアと連邦軍、ジオン国内の反ザビ家勢力、さらにはシャア・アズナブル…… ダイクンの遺児といった面々との対決になる。だから殺されてやったまでのこと。ギレン・ザビ死亡なぞ真っ赤な嘘……」
「よくも皆の目を騙しきったものです」
「命を賭けたダブル・トリックと言って欲しいな」
ギレンが仕掛けたのは、古典的な手法。
レーザー発振器等が仕掛けられた人工皮膚とカツラを装着。
そしてキシリアのレーザー銃をすり替え、自分に対しては定められた位置に向けない限り撃てなくする。
「よくもそんなことが……」
「キシリアは部下たちに恨まれていたからな。協力者には事欠かなかったよ」
それはミヤビの前世の記憶の中にある『機動戦士ガンダム』本編のように軍の高官にまでなった、いい年をした男を公の場で面罵した上、平手打ちをかまして大恥をかかせるなんて酷すぎるパワハラを行っていたら、恨まれるに決まっている。
当たり前の話である。
「政略で力を伸ばすにはどれだけの政敵を倒せるかより、どれだけの敵を味方に引き入れられるか。アレには父も私もさんざん言ってきたのだがな」
「正論って人の急所をえぐりますからね」
「かといって、私がアレに「うん」「分かるよ」「本当に?」「辛かったんだな」「そうか」「がんばったな」「偉いな」と同意や共感の言葉を送ったところで……」
「今、すっごい寒気がしました。あ、いえ、言われた側の反応を思い浮かべるとですね」
キシリアがギレンにそのような言葉を掛けられたら多分、地獄の悪鬼も裸足で逃げ出すような凄い形相を浮かべると思う。
「だろう?」
やれやれとため息をつくギレン。
本当、ここまでくると相性が悪すぎて距離を置くことでしか、相手を慮ることができない。
しかしキシリアは一方的にギレンをライバル視していて突っかかって来る。
因果な兄妹であった……
「まぁ、それももう言っても仕方が無いことだがな」
少しの哀愁を漂わせながらも、ギレンは話を続ける。
「司令席の椅子は一目見て防弾と分かる頑強なもの。キシリアが不意打ちをするには背後から頭部を狙うしかない。そして女の細腕であの特異な形状をしたレーザー銃を確実に扱うなら腰だめで接射に近い射撃姿勢を取る必要がある。つまり射撃の位置、角度が限定されるということ。そうやって状況を制限したうえで、レーザー銃の銃口に仕掛けられたマグネットがカツラに仕込まれた磁石に自然と導かれる」
『機動戦士ガンダム』劇中において、無重力でも靴底のマグネットにより自然に歩けていたように、この時代、磁力による吸着力の調整技術は格段に進歩している。
それを応用すれば、違和感を覚えさせずに誘導することが可能であった。
「キシリアの銃からは出力が抑えられたレーザーが発振され、カツラの下の耐レーザープレートがそれを受け止める。同時に額の人工皮膚に埋め込まれたレーザー発振器が動作、レーザー光が頭部を貫通したように見せかけるというものだ」
「レーザーは傷口を焼くので、派手な出血が無いという点でも偽装はしやすいですね」
納得するミヤビ。
そして、
「父については聞かないのか?」
とギレン。
「生きて、いらっしゃるのですか?」
驚くミヤビにギレンは首を振る。
「いいや、殺されていたよ」
その言い回しにミヤビは、
「……グレート・デギンはソーラ・レイによって沈んだと聞きましたが?」
と慎重に問うが、
「グワジン級がどうしてあのような流線形の船体を持っているのか、知っているかね?」
「大気圏突入機能を持たせようとした、と噂されていたのは聞いていますが」
これはミヤビの前世において書籍に掲載されていた説でもある。
「うむ、結局それは断念されたが、このために用意された、ある機能がグワジン級には残されている」
「……もしかして」
「そう、無人航行、遠隔操作機能だ。いきなり人を乗せて大気圏突入テストを実行して空中分解、ではシャレにならぬからな」
つまり、
「遠隔操作で送った無人のグレート・デギンをエサにレビル将軍と主力艦隊の位置を割り出した?」
ソーラ・レイの照準のために?
「そう、随伴艦のムサイからのレーザー通信で後方から操りながらな」
「連邦側に残された通信ログでは、グレート・デギンの艦橋にはデギン公の姿があったと」
「ああ、グレート・デギンから送られていた映像にもレビルの姿が映っていたが、彼もまたニュータイプだったのかな? その画像から解析された彼の最後の言葉は……」
「こ、これは人形!」
「だったらしい」
「では?」
「精巧に造られた蝋人形だよ」
「そうだったのですか……」
それでは、デギンを殺したのは……
「キシリアだよ。説得に当たった父を殺したのは」
ミヤビの考えを読んだかのようにギレンは言う。
これだから彼のことは苦手なのだ。
仕事をしない表情筋の下に隠されているはずのミヤビの本心を、そのIQ240の頭脳でロジカルに、的確に見通してくる。
彼の前では、ミヤビは丸裸で立たされているようなもの。
前世知識に基づく致命的な言葉を口にしないよう抵抗するのでいっぱいいっぱいだった。
「説得?」
そこでギレンは語る。
あの日、父デギンと話し合った内容を。
「何を考えている?」
何を考えて、ヒトラーについて良く知らぬような口ぶりをしたのか、問うデギン。
「わしを試したのか?」
ギレンは笑うと、
「父上は仰いましたな、「ジオンの国民を急ぎまとめる方便として公王制を敷いた」と」
「うむ」
「ではなぜ、私が持ち込んだ独裁制もまたジオン独立のための方便であると考えぬのですかな?」
「なに?」
「ミヤビ嬢とはナチスドイツとヒトラーの台頭、その背景と必然性について語り合いましたが、当然、さらにその先を考えてみたのですよ、私は」
ギレンはあっけにとられた様子の父、デギンに、
「「過去の人物(ヒットラー)には無理だったが、自分ならばもっと上手にやる」? 私がそう考えているとでもお思いでしたかな?」
と問う。
「私が演じているような『独裁者』がいかにも口にしそうな、考えそうなことですが、そんな考えで実際に成果を上げた者はまずおりません。要するに「失敗する者は皆愚かで自分は頭がいいから、自分だけは大丈夫」とうぬぼれ法を破る犯罪者と何ら変わらぬ思考なのですから、成功する方がおかしい」
「ぎ、ギレン、お前は……」
息を飲むデギンに、ギレンは語る。
「権力は肥大化し権勢をふるい、方向を誤ったとき自然崩壊する。恐竜滅亡の昔から繰り返されてきたいざこざであり、そんなものに用はない……」
その言葉に、デギンは思い出す。
「かの令嬢はそのように言っておったな」
ギレンに散々つつき回された挙句、権力に興味は無いのかと問われたミヤビが、ありていにぶっちゃけた言葉だ。
連邦の腐敗政治をあげつらっている面もあるが、同時にジオンの権力争いにも興味はない、野心など持っていないと牽制している言葉でもある。
そしてそれが自分の本心だと示すためにも、前世で愛読していた漫画のセリフを参考に、明け透けに語ったものだったが。
デギンには、それを聞いてなるほどと得心したような顔をするギレンの方が印象に残っていた。
「つまり、お前は…… だからか? パートナーも迎えず、後継者も作らずにおるのは」
ギレンの妻は富野監督のインタビュー上か、監督の書いた小説版でしか語られていない。
ギレンが公の場に出すことを嫌っており記録もまったく残っていない、それは妻と呼べるのか? という存在で、ファーストレディどころかパートナーとしても認められていない扱いである。
ギレンは苦笑してそれには答えず、こう語る。
「お教えしましょう、父上。私が考えた、この戦争を終わらせ、ジオンを独立させるためのプランを」
「プランだと?」
「左様。私ははなから連邦に勝って人類を支配しようなどとは思っておりませぬ」
思案するように手のひらを組んで見せ、
「ミノフスキー粒子、モビルスーツという戦場の概念を一変させる兵器があれば倒せるだろうか? コロニー落としという大規模破壊兵器を用いれば倒せるだろうか?」
しかし首を振るギレン。
「私は『否』だと考えます。敵は30倍の国力を持つ化け物。そして一度相手が消耗戦を覚悟してしまえば、それでもうすべてが台無しだ」
どんなに有利に戦況を進めようとも、連邦がその道を選んだ時点でジオンには失血死する未来しか無くなる。
何という『ずる』だ。
それまでに上げた戦果も、支払った犠牲もすべてがペテンにかかったかのように、その意味を失ってしまうのだ。
「ならば、何を考えてこの戦争を始めたのだ?」
そう問うデギンに、ギレンは笑う。
「この戦争に反対する、ある官僚が言っていましたな。「総帥は何かお考えがあるようですが、世の中物事が計画通りに行くことなど9割9分9厘無いのですよ」と……」
面白いことを言う男だとギレンは彼を評価し、重用していたが、それはそれとして、
「計画が上手く行かないなら、上手く行かないことを前提として進めれば良いのですよ」
戦争をしても敗北することは前提。
ならば、その前提の元で、しかしジオンの独立という戦争目標は果たすという手段が必要だ。
■ライナーノーツ
というわけで、サブタイトル回収ですが。
>「命を賭けたダブル・トリックと言って欲しいな」
セリフ、展開共にアニメ『未来警察ウラシマン』最終話のルードビッヒが元ネタですね。