ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第34話 宿命に巻き込まれた出会い Cパート
そしてツヴァークNT-1アレックスを伴ってパルダコロニーに戻って来たミヤビたちだったが、
「すまんな、君。なにぶんにも運転手が未熟なものでね」
「い、いえ」
スタックした車を見つけたアムロが停車し、声をかけた相手は少女を伴った赤い軍服の男。
シャアであった。
やってみたいと言うララァに運転を任せたのだが、結果としてぬかるみにはまって立ち往生してしまったらしい。
ツヴァークNT-1アレックスに乗って、車両を助け出すアムロ。
何の因果かミヤビはそれをシャアと仲良く並んで見守るハメに。
(「ニュータイプはニュータイプにひかれ合う」って言うけど! やっぱりそうなの!?)
いつもの変わらぬ表情の下、内心では絶叫していたりするミヤビ。
「私はシャア・アズナブル。ご覧の通り軍人だ」
と名乗るシャアにミヤビは、
(存じておりますとも!)
と思いつつも言葉を返す。
「私はミヤビ・ヤシマ。技術者です。そしてあのプチモビルスーツを動かしている少年はアムロ・レイ」
などと、自分だけでは厳しすぎるとアムロの名前まで出して名乗る。
いわば道連れの精神である。
年下の少年に対し実に大人げないミヤビだった。
「アムロ? 不思議と知っているような名前だな」
そしてやはりニュータイプの素養か戦士としてのカンか、アムロの名の方に反応するシャア。
よしいける、と思ったミヤビだったが、
「ミヤビ・ヤシマ、とはあのコロニー・リフレッシュ・プロジェクトの?」
ジオンでは有名な『ヤシマの人形姫』の名を、シャアが知らぬはずも無かったりする。
「お恥ずかしい話です。その件では父にこっぴどく叱られまして、失敗に終わってから一言「製品至上主義って知ってるか?」と」
「製品至上主義?」
「いいものを作りさえすればお客さんは買ってくれるはず、というものです。私の企画したコロニー・リフレッシュ・プロジェクトもそういうものでした。住人のためになるのはもちろん、連邦、ジオン双方の政府や企業にもメリット、利益がある。ひいてはその利益が市民に還元される、喜ばれるプロダクトなのだから受け入れられるはず。単純にそう信じてしまった」
ミヤビの前世、旧21世紀には「それだけではダメ」ということが分かっていたものを転生した宇宙世紀で自分が気付かずやってしまったことに、それはもうショックを受け、
「人類はなんて愚かなんだ…… 同じ過ちを何度も繰り返す!!!」
などと独り叫んだものである。
(よし、これで分かっていたはずの間違いを犯してしまっても私個人のミスではなく、人類全体の問題に昇華することができたぞ)
なんてネタ思考をしているからダメなんじゃないですかね、という話だったが、それはともかく。
「日本語で感謝の言葉は『ありがとう』と言います。これは『有り難い』、つまり自分には有ることが難しい価値を提供してくれたことに対する言葉です」
商取引、商売、いや社会を構築して暮らす人間の基本的な概念だ。
「ふむ、自分が十分に持っていたり、どこにでもあるようなものを押し付けられても感謝の心は生まれないということか」
「そして同時に、優れているものでも欲しいと思わない人には不要なものなのです。私はそれを押し付けようとしてしまった」
ミヤビはシャアの仮面を見据えて語る。
「革新的な商品、革新的な思想、それらが人々に受け入れられ社会を動かすのは、ただ優れているからではありません」
その言葉に何を悟ったか、シャアの口元が引き締まる。
「皆が言葉にはできないが心の中で求めていたもの、つまり潜在的な需要、ニーズを形に、そして言語化できたものだからこそ、人は熱狂的に受け入れるのです」
ミヤビは言う。
「同じ意味でジオン・ズム・ダイクン氏の言葉がサイド3の市民を変えた、そう考えられているのは正確ではないと私は思います」
『ヤシマの人形姫』が語る言葉。
「宇宙市民が鬱屈する生活の中で心の中に貯め込んでいた思い。それを昇華し、言語化することに成功したのがダイクン氏なのだと。つまり市民が変わりたいと願っていたところに欲しかった言葉を与えられたから変わったというわけです」
「逆に言えば……」
シャアの明晰な頭脳は、簡単に答えに至る。
「どんなに優れている理想、思想であろうとも、変わりたいと思っていない人間、素地の無い人間に押し付けることなどできない。いや、できると思ってしまったのがジオン・ズム・ダイクンの失敗か……」
シャアは考える。
この女性、ミヤビ・ヤシマはコロニー・リフレッシュ・プロジェクトが頓挫した際、民衆の前でただ静かに涙したという。
それほどの痛み、哀しさを伴う体験を、自分の傷口を抉り出すようにして伝えてくれた考え方。
それにシャアは圧倒される。
……実際にはミヤビは父に言われて目薬を差して涙をこぼすふりをしていただけなのだが。
「理想というものは立てた時点ではまず実現しないものです。実現できるものならそれは普通に予定と呼べば良いのですから」
その瞳がふっとシャアの顔から外され、遠く風景……
いやここには無い何かに向けられる。
「もちろん理想は大切です。理想が、つまり今日より明日はきっと良い日になるのだという希望が無くては健全な社会が構築できないのも人間ですから。ダイクン氏の語った理想はサイド3の人々に希望を与えるという点では必要なものだったのでしょう」
己の薄い胸に手を当て、ミヤビは言う。
「理想とは、それを求める人々の胸に熱く夢として燃えているからこそ尊いのだと、それこそが人々を導く『良き力』になるのだと思います」
だから理想もまた必要不可欠のもの。
「でも…… 理想に燃えた誰かが世の中を変えてくれる、というのは幻想でしかありません。人が変えられるのは自分だけ。『学問に王道なし』という言葉があります。結局は人々が地道に学んで自らが変わって行くほか無いのです」
そこでミヤビは彼女が知る実例を語る。
「宇宙世紀以前の西暦の時代、スウェーデンは環境先進国として知られていましたが、別にこの国では革新的なリーダーが一気呵成に改革を進めてそうなったわけではありません。
環境対策はなるべく早く進めたいもの。
しかし、だからこそ大切なのは国民全体で押し進めること。
急進的な人間が矢継ぎ早に対策を打とうとしても国民はついていけずに反発が強まり、環境対策がむしろ滞る、いいえ頓挫する可能性すらあります。
それゆえ国民全体が自然に進めていけるスピード、『ナチュラル・ステップ』と呼ばれる方針をもって環境対策を進めようと決めたのです。
じれったいと感じるかもしれませんが、国民の納得を得ながら進めるため全国的に対策が浸透して効果が大きかった。
スウェーデンが環境先進国になれたのは、「今、自分たちがどのステージにいるのか」を冷静に見極めたうえで、「そこからまた一歩進めばよい」という現実的かつ斬新な考え方をとれたからだということです」
そしてミヤビは笑う。
「童話のウサギとカメですね」
と。
社会的な問題、特に人間の徳を培うことについては、有能なウサギより勤勉なカメが勝つというのが真理ということなのだろう。
「それを無視して理想をすぐさま現実にできる、いや現実にしなければならないと思い込んでしまうから悲劇が起こる」
この戦争のように。
あるいは志半ばで倒れたジオン・ズム・ダイクンのように。
父のことを思い浮かべたシャアに、
「そもそも世界中の悩みを一人で背負って人身御供になる必要なんて無いんです」
と言う彼女は、どこまで自分のことを知っているのか。
そうして最後に、ミヤビはこう語って去って行った。
「イノベーター理論とキャズム理論、調べてみると面白いですよ」
後日、その言葉について調べたシャアは涙が出るほど笑い転げ、
ンッン〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ!
歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ〜〜フフフフハハハハ。
20年間生きてきたが…… これほどまでにッ!
絶好調のハレバレとした気分は無かったなァ…… フッフッフッフッフッ。
最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ。
とばかりにうかれて、ララァやアルレットに心配されたという。
「状況はここに来た時に比べてまったく変わっていないんだから、いくら考えても仕方ねえでしょ、中尉」
「そう、ガンキャノンを前面に押し出してでも」
出港が迫り、スレッガーたちと協議するブライト。
そこにカムランがやってきて、
「失礼しま……」
声をかけようとしたところに、
『大丈夫だ!!』
と通信が割り込む。
『こんなこともあろうかと! ガンキャノンにはワイヤードハンマーを装備させてある!!』
「テム・レイ博士!?」
そう、我らがテム・レイ博士の「こんなこともあろうかと!」だ。
『うむ、サイド6の規定では火器の使用が禁じられているが、ハンマーは火器ではない』
と胸を張る。
『理論的に言ってガンキャノンの速度がスピード違反に引っかかるくらいだ。問題ない』
あまりの暴論に、口をはくはくさせるしかないカムラン。
ホワイトベースの面々、全員がこういう考え方なのかと周囲を見回し、そしてミライを縋るように見るが、
「いや、そのりくつはおかしい。おかしいですよテム・レイ博士!」
と突っ込む良識人のリュウの言葉にほっとし、
「それはひょっとしたらいいアイディアなのかも」
と考え込むブライトにぎょっとする。
そして、その瞳がふとカムランに向けられ、
「カムランさん」
と名を呼ばれることにぞっとする。
(ぼ、僕に何をしゃべらせる気なんだ!?)
全てだッ!
全てを話せ!
過去に何があったのか!?
参考にできるような前例のこと!
法の解釈で許される範囲のこと!
とばかりに情報を搾りとられるカムラン。
本来、役人とはこういう言質を取られることを極端に嫌う。
ミヤビも前世でお付き合いのあった企業から話を聞いたことがあったが、担当者が議事録を作るためボイスレコーダーを、先方のお役人に断りを入れることを怠って使ったところ、
「騙し討ちだ! そのような手段を取るなど言語道断!!」
という具合に頭から湯気が出るほど真っ赤になって怒られ、慌てて謝罪して録音データを消去したという。
下手な前例を作るとそれを盾にされ規則(ルール)が骨抜きに、有名無実化してしまうため、お役所側の立場も理解はできるのだが……
しかし今回はブライト、ホワイトベース側も生き残るのに必死なのだ。
まぁ、カムランも個人的にはそれで幸いだったかもしれない。
グダグダに誤解されたままミヤビの知る史実どおりミライとの愁嘆場を演じ、ミライがスレッガーにぶたれる、なんてことになったら、さすがに温厚なミライといえどもキレるだろうから……
■ライナーノーツ
ミヤビとシャアとの出会いでした。
理系で男性脳なミヤビは聞かれたことには知識を総動員して答えてしまうわけですが。
人が変えられるのは自分だけ。
自分ごとき凡人がちょっと上手いことを言ったところで人はそんなに簡単に変わったりしない、と思っている彼女なので、自分が全力でシャアのスイッチを押しに行っていることに気づいていないのでした。
これがシャアにどのような変化を与えるのか、私にも量り切れなかったり……
>『うむ、サイド6の規定では火器の使用が禁じられているが、ハンマーは火器ではない』
ゲーム『SDガンダム スカッドハンマーズ』のテム・レイ博士ですね、これ。