ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第31話 ザンジバル,追撃! Dパート
戦場に走る光条。
「コア・ブースター、リュウとハヤトね」
二機のコア・ブースターからのメガ粒子砲による援護射撃だ。
ミヤビの記憶の中にある『機動戦士ガンダム』劇場版ではオデッサ作戦時には登場していた機体だったが。
この世界ではテム・レイ博士がドラケンE改可翔式を持ってきた影響かホワイトベースには運び込まれず。
宇宙に出る段階になってようやく配備されたものだった。
ミヤビにしてみれば、可翔式なんていいからこっちを早く配備して、という話だったが。
『ミヤビさん、今のうち』
「ええ、高度を上げてドムに食らいつきましょう」
どうせドラケンE改可翔式とミヤビの腕ではビグロには有効打を与えるのは難しい。
ここはリック・ドムを狙う手だ。
ものすごい勢いで迫るドラケンE改可翔式に対し、ビームバズーカで狙い撃ちするリック・ドムK型。
しかし、
「ばかな、バルカンごときで!?」
そこにバルカンの射撃を受けモニターが損傷による警告、レッドアラートに染まって行く。
「情報が遅いようね」
ミヤビはバルカンをあっさりと食らったリック・ドムK型にそうつぶやく。
従来の地球連邦軍モビルスーツ装備の60ミリバルカン、TOTO(トト)カニンガム社製のASG86-B3Sならモノアイなど弱点部位に受けない限り有効打とするのは難しい。
それゆえ装甲を頼みに押し切ろうと考えたのだろうが。
しかしミヤビのドラケンE改可翔式が装備しているのはその後継、新型バルカンを搭載した60ミリバルカンポッド弐式だ。
陸戦型のドムに有効打を与えることができたように、リック・ドムにも通じる。
しかし、
「速い!」
逃げ出したと思ったら、これが信じられないように素早い。
「足は付いていない!?」
ジオングかよ、という話。
いや、リック・ドムなのだからドム・バインニヒツか。
『宇宙空間ではデッドウェイトになりがちな脚を排して、代わりにスカートに直接メインロケットエンジンを付けているみたいですね』
「AMBAC性能を犠牲に推力比を上げているってこと?」
サラの分析に考え込むミヤビ。
まぁ、同じ形態をとるジオングでも姿勢制御にスラスターを使う頻度が上がり燃料消費が多くなる、という話はあっても運動性については問題なかったようにAMBAC作動肢が腕のみでも何とかなるようだが、しかし、
「何ていう運動性!」
スカートががばっと割れて、大型のメインロケットエンジン2基がまるで足のように前後左右、広範囲に可動。
それにより高い運動性を発揮する。
それでミヤビは思い出す。
(この動き、格闘ゲーム『ガンダム・ザ・バトルマスター』登場のジオングだ!)
と。
このゲームのモビルスーツのグラフィックは体の各部分(頭、胸、肩、腕、腰、脚など)をパーツ別にそれぞれ組み合わせた『モーションパーツシステム』を取り入れたことで、機体がやたらヌルヌル動く迫力のあるアクションが可能となっていたわけだが。
ジオングもスカートが前後左右にがっつり割れて大型のバーニア2基がまるで脚のように可動していた。
これが非常にカッコ良く、ミヤビの脳裏にも焼き付いていたわけであるが。
(この世界のジオングもこんななのかなぁ……)
敵に回ると非常に厄介なのだった。
「モビルスーツの戦いは高度が下がっています。砲撃戦に入れます」
「総員、艦隊砲撃戦用意」
砲撃戦の体勢に入るホワイトベース。
「Jタイプのミサイルが使えんのはやむを得んな。砲撃戦用意。回避運動を行いつつである。よーく狙え」
「30秒で有効射程距離に入ります」
「木馬の射程距離とどちらが長いか。神のみぞ知るというところか」
ザンジバル側でも撃ち合う準備が成される。
(アルテイシア、乗っていないだろうな?)
そして、
「ザンジバル、よけません。突っ込んできます」
「なんだと? ミライ、右へ逃げろ」
即座に指示を出すブライトだったが、しかし迫るザンジバルに額に汗をにじませる。
「シャアだ。……こんな戦い方をするやつはシャア以外にいないはずだ。セイラの言ったとおりだ、シャアが来たんだ」
(に、兄さん……)
モビルスーツデッキ上で砲座として運用されるガンキャノンLの頭部コクピット。
迫りくるザンジバルの姿に目を見張るセイラ。
「撃て!!」
ガンキャノンLをモニターし続けるテム・レイ博士。
「撃て!! 撃て!! 撃て!! 撃つんだセイラ君」
『セイラさん!? 撃って、撃つんです』
サラスリーが、
「撃て!! 撃つんだ!!」
カイが。
みなが撃つように言う。
「っ!」
トリガーを、押す。
押してしまうセイラ。
無論、こんな心理状態では当たりはしないが、それでも兄が乗った船を、兄を狙って撃ってしまった罪悪感に眩暈がする。
当たらない射撃にシャアはほくそ笑む。
「木馬は怖気づいている。砲撃手はよく狙ってな」
しかし、すれ違おうとする瞬間、船体に走る衝撃。
「うっ、直撃か?」
「どうだい。俺の乗っている艦に特攻なんか掛けるからよ」
やはり史実どおり、スレッガーの操作する主砲が命中したのだ。
一方、
「どんなに速くたって、しょせんはスペースポッドを大きくしたようなものだろう、運動性は……」
ビグロを追いかけていたコア・ブースターのハヤト。
人型でない相手を作業用のスペースポッドSP-W03のようにAMBAC(active mass balance auto control。能動的質量移動による自動姿勢制御)などできないものと見くびっていたのだが、
「何!?」
くるりと向きを変え、進路変更するビグロ。
慌ててコア・ブースターの方向制御用スラスターを全開にして追従しようとするも追いきれない。
スペースポッドSP-W03が、そしてミヤビの前世の記憶の中にあるボールがAMBACできなかったのは人型でないせいではない。
マニピュレーターの出力不足のためである。
当然、ビグロには当てはまらず、姿勢制御スラスターとマニピュレーターを使ったAMBACを併用したその姿勢制御には、スラスターのみのコア・ブースターは追従しきれないのだ。
ビーム砲二門で武装し、一見強力そうなコア・ブースターだが、従来の戦闘機の延長線上にあるこの機体でモビルスーツ、モビルアーマーに一方的に勝てるようなら誰も苦労はしない。
そしてビグロが向かったのは、
「ミ、ミヤビさんーッ!!」
リック・ドムK型と戦っていたミヤビのドラケンE改可翔式。
「あぶなァーい! 上から襲って来るッ!」
「どうだ、捕まえたぞ」
部下のリック・ドムK型に損害を与えていたミヤビのドラケンE改可翔式を急襲。
その圧倒的な速度で不意を突きクローアームでつかみ取るビグロ。
しかしピクリとも動かない相手に、
「ふっ、相対速度差からくる加速度のショックでパイロットが気絶したか」
と納得する。
そうでなくともビグロのクローはドラケンE改可翔式の胴体を右腕に装備されたバルカンポッドごと掴み込んでいるのでドラケンに反撃の術はない。
そのように思われたのだが、
「なに!?」
不意にその背に備えられたブースターが跳ね上がると、そこからミサイルが連続発射される!!
「なぜだ!? パイロットは平気なのか?」
ビグロの機体に走る衝撃。
ミサイルの安全装置、命中しても信管が作動しない最短有効距離を明らかに割り込んでいるはずなのに爆発するミサイル。
「あ、安全装置を外したのか!? うおおっ!!」
機体側面にある射出口に飛び込み、内部のミサイルを誘爆させる!!
「こ…… これが狙いで、ワザと捕まって気絶したフリをしていたな。そ…… そう考えていたな」
もちろん、
あ…… あなたのおっしゃるとおりですトクワンさん。
ビグロの素早い動きを見て、捉えるのがめんどくさいから、こうやってわざと捕まったんですよ、私は!
などとミヤビが言うわけも無く。
『もうダメかと思いましたー』
緩んだクローアームの拘束から逃れ、ビグロの爆発に巻き込まれることを回避するドラケンE改可翔式。
その機体を動かしているのはサポートAIサラであって、ミヤビは当然気絶している。
そして、
ビグロがミサイルの射界に入るまで、死んだふりをする。
ミサイルの最短有効距離を割り込んでいて、本来なら弾頭の信管が作動しないところを危険を承知で安全装置を解除する。
通常のAIではありえない柔軟な対応ができるから。
そしてそんなリスクのある行動も、マスターたるミヤビが許可しているから。
AI単独ではAIの補助を受けた人間には絶対に勝てない機動戦ではなく、確実に当てられる状況を作っての対応だったから。
これらの条件が揃っていたからこその勝利だった。
……非常に危うい、綱渡り的な行為ではあったが。
『他のモビルスーツは後退して行きますね』
そうして、この戦闘は終了した。
「トクワンが沈められたか……」
今後の対応を考えるシャアに兵が、デミトリーが進言する。
「シャア大佐、私に出撃させてください」
しかし当然、シャアは許可しない。
「あせるな。奴らは我々の庭に飛び込んだヒヨコだ。まだチャンスはある」
「はい」
一応はうなずくものの不満げなデミトリー。
シャアはこれ以上は取り合わず、
「破損個所の修理を急がせ」
そう指示する。
『大丈夫ですか、セイラさん』
「えっ?」
気づかわしげなサラスリーの声に我に返るセイラ。
『撃つのをためらっていらっしゃったようですし、何か……』
「大丈夫、真っすぐに突っ込んでくる敵艦に圧倒されただけだから」
『そうですか』
「なぜだ、彼女はニュータイプではなかったのか?」
セイラが射撃を外した、その原因を知らないテム・レイ博士は考え込む。
取り急ぎガンキャノンLの操縦テレメトリーを解析。
「原因はパイロットのコンディションによるもの?」
そういう結論に達する。
「ではアムロから話を聞いて用意したあの装備を使うべきか……」
ミヤビがこの様子を見ていたら、またろくでもないものをと頭を抱えたのだろうが。
しかしここにはミヤビも、ストッパー役になる他の人物もおらず。
テム・レイ博士の暴走を妨げるものは存在しなかったのである。
「まず第一段階は成功だな」
「そうね、ザンジバルの目は眩ませたはずよ」
ほっと息をつくブライトとミライ。
そこにクルーたちがブリッジへと上がって来る。
「スレッガー中尉、さすがですね。直撃はあなただけでした」
「いやあ、まぐれまぐれ。それよりさすがだねえ、皆さん」
そう言うスレッガーに、
「そちらこそご謙遜を」
とフレンドリーに対応するのはやはりリュウである。
ミヤビが目にしていたら、史実ではありえなかった両者の間の会話に、我知らず口の端を笑みの形に吊り上げていただろう、そんな光景である。
「ああ。みんなご苦労」
そしてブライトも出撃したパイロットたちに声をかける。
「どうでした?」
一方、ホワイトベース側の様子をカイに聞くアムロ。
「ビビったぜぇ、ザンジバルとすれ違ったときはよ。ありゃシャアの戦法だな」
「シャアですか……」
「ほかのやつにできる戦法じゃねぇだろ」
そしてスレッガーは、
「よう、シャワーでも浴びさせてもらうぜ」
とブライトに断る。
「5分間だけならな、ジオンはまたすぐに来る」
「了解」
そしてお調子者らしく、
「ミライさんも行かない?」
と声掛け。
「お一人でどうぞ」
そっけなく返す彼女に、
「はいはい」
と苦笑。
「よう、行こうぜ」
パイロットたちの肩を叩き誘う。
「行こ行こ」
「はい」
「はい」
カイ、アムロ、ハヤトも同意。
特に最近、ニュータイプ能力に無自覚に目覚めてきたアムロにとって皮膚感覚を遮るノーマルスーツは操縦の邪魔に思える、煩わしいものに感じられるようになっていた。
だからこそ脱いで楽になり、汗を流したいという欲求には逆らえない。
「行こ行こ、一緒に行こう」
とキッカ、子供たちまでついていく。
『ミヤビさん、おねむですねぇ』
自力で冷却ベッドに接続。
さらに燃料、推進剤を補給するサラ。
さすがにコア・フライトユニットの空対空ミサイルAIM−79の再装填は自力では……
と思いきや、人体の比率とは比較にならないほど長い左腕のマニピュレータは、これまた人体の可動域を無視して動かせるので大丈夫だったり。
まぁ自機でできなくともドラケンE改やツヴァークなど他の機体をAI単独制御で使えば問題なくとり行えるのだったが。
そのドラケンE改可翔式のコクピットでは、いまだに目覚めぬミヤビが眠りについていた。
非常時を除いて電気ショックによる目覚ましが禁止されてしまったから仕方がない処置だったが。
次に目覚めた時、ミヤビはそれを心底後悔することになる……
次回予告
シャアの追撃を振り切ったホワイトベースの前に、奇妙なモビルアーマーが立ち塞がる。
苦戦するハヤトを救うべく、テム・レイ博士のドラケン・クロス・オペレーションにより送り込まれるミヤビ。
そして、さらに現れるドレン大尉率いるムサイ艦隊……
次回『強行突破作戦』
君は生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
セイラがシャアの乗るザンジバルに当てられるか、という話があるので今回のガンキャノンL、ロングレンジタイプは戦果を出せず。
おかげでテム・レイ博士がさらにおかしなものを引っ張り出してくるんですけどね。
そしてビグロとの決着はこんな風に。
次回はザクレロの登場ですが、前座に過ぎないこの機体との戦いがかなり膨らんでいたり。
ご期待ください。
>(この動き、格闘ゲーム『ガンダム・ザ・バトルマスター』登場のジオングだ!)
ガンダム・ザ・バトルマスターで動画検索して実際の動きを見てもらうと分かるのですが、これがなかなかに格好いいんですよね。