ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第31話 ザンジバル,追撃! Cパート


「モビルスーツは三機です、コア・ブースターも出してください」

 マーカーからの要請に、ブライトは同意。

「よし、リュウとハヤトにコア・ブースターを発進させろ。スレッガー中尉はどこだ?」
『おう、なんだ? ブリッジのすぐ下に居るぜ』

 通信モニターにスレッガーが現れる。

「ご専門はなんでしょう?」
「大砲でも戦闘機でもいいぜ」
「主砲の方にまわっていただけませんか? 中尉」
「条件がある」
「条件?」

 戸惑うブライトにスレッガーは、

「ホワイトベースを敵に向けてくれ。慣性飛行をしているからできるはずだと思うがな」

 そう提案。
 確かにそれは可能だが、

「しかし、それでは追い付かれる」
「じゃあやらねえ。当てる自信がねえからよ」

 それだけ言って切れる通信。
 確かに無駄な行動なら切り捨て、別にリソースを回すというのは正論ではあるが。



「いいか、あと15秒だけ攻撃しろ。これ以上の攻撃は味方のモビルスーツを撃ち落すことになるかもしれん」

 シャアからの指示。
 ザンジバル側でも、味方機がホワイトベースへ迫っていることが確認されていた。

「木馬のやつ、なかなか手馴れてきたな。艦長が変わったのか? しかし、まさかとは思うが。民間人があのまま軍に入って木馬に乗り込むなぞ」

 つぶやきながら考え込むシャア。

(アルテイシア…… しかしあの時のアルテイシアは軍服を着ていた。聡明で、戦争を人一倍嫌っていたはずのアルテイシアが)

「フフフ、再び宇宙戦艦に乗り込むなどありえんな」

 そういう結論に達する。

「よし、あと3秒で砲撃中止。当てろよ」



「ああっ。おおっとっと……」

 ザンジバルの攻撃に揺れるブリッジ。
 入室してきたスレッガーは衝撃によろけ、舵を握るミライの背にぶつかりそうになったところで、彼女の両肩に手を当て自分の身体を止める。

「あっ……」

 箱入りで男性に身体を触れられることなど慣れていないミライ。
 自分の肩をすっぽりと覆うような大きな男の手に硬直する。

「ご、ごめんよ、悪気じゃないんだ……」

 スレッガーも相手の初心な反応に、可能な限り気を使った言葉をかける。
 そして、

「ブライト中尉さんよ」
「中尉、一言言っておくがあなたは私より年上だが指揮権は私にある。それを」
「それは当然だ」
「そりゃどうも」

 スレッガーのような骨のある男にこれだけ言えるようになったブライトもまた成長しているということか。
 まぁ、スレッガー側も気を使って当たりを柔らかくしているということもあるが。

「だから頼んでるんだ。ホワイトベースの主砲を使えるように早いところ回れ右をしてくれ、と」
「今は無理だ。もう少し待ってくれ」

 一方、

「敵三機のうち一機はモビルアーマークラスのようです。コア・ブースター発進、急がせてください」

 マーカーからの報告と再要請。
 ブライトはデッキに通信を結ぶ。

「リュウ、ハヤト、何してるんだ?」
『すまんブライト。初めての機体にメカニックが少しな。だがもう大丈夫だ』
「アムロとミヤビさんを援護してくれ」
『了解だ。行くぞ、ハヤト』
『はい、リュウさん』

 右舷デッキからコア・ブースターが相次いで発艦する。

「ガンキャノンLは発進口に待機。砲台として使う予定だ。いいな?」

 ブライトは左舷デッキのメカニック、オムルに指示。

『了解しました。カイには伝えます』

 そうしてブライトは覚悟を決める。

「ホワイトベース、180度回頭」

 ホワイトベースは回れ右をしてザンジバルに艦首を向けることに。
 すれ違いざまに戦う反航戦、のように見えるが、実際には慣性によりホワイトベースは後ろ向きに前進し続けるわけで、その意味では敵艦隊と同じ方向に進みながら砲雷撃戦を展開する同航戦とも言えるが、しかしお互い艦首を向け合っているし、速度差からすれ違うので相対的に互いから見たらやっぱり実質反航戦と変わらないか、という状況になる。
 地球上の海戦とはまた違った理(ことわり)があるのが宇宙での戦闘というものだった。

「ははははっ、いいねえブライト中尉。あんたはいい」

 満足げにうなずくスレッガー。

「主砲の射撃をやってもらいたいものだな」

 そう依頼するブライトにスレッガーは、

「ミライさん、船は任したからね。頼んだよ」

 と陽気に答えてブリッジを出る。



「そおーだ、ブライト君。それでいいのだ」

 ホワイトベース第2工作室、別名『テム・レイ博士の秘密の研究室出張所』。
 そのモニターに映し出される戦況にうなずくテム・レイ博士。
 彼が注目しているのはガンタンクに代わりセイラとカイの新たな乗機となっているガンキャノンL、ロングレンジタイプだ。
 ジャブローでガンキャノンの下半身、Bパーツを追加して、アムロの黒いガンキャノンと同時使用ができるようにしたものだ。
 ミヤビの記憶の中にある『機動戦士ガンダム』、その劇場版ではノーマルなガンキャノンがもう一機追加され、カイの乗るC-108号機、ハヤトの乗るC-109号機が活躍していたのであるが、どうして追加機体がこうなったのかというと……

「実弾式だった両肩のキャノン砲を右肩のビームキャノンのみに換装し、かわって左肩には多目的精密照準システムを装備させたガンキャノンII……」

 テム・レイ博士はジャブロー戦に投入されたガンキャノンの強化発展型を思い浮かべながら、一人つぶやく。
 この機体、ミヤビの知る史実でもジャブロー戦に出撃したが、反応炉の出力ダウンから敵との交戦を前に後退を余儀なくされていたものだ。
 一方、この世界ではRX-78ガンダムがペーパープランで終わっているせいか、テム・レイ博士が無事でこの機体の開発にも関わっているせいか、戦闘には参加できていたのだが、しかし……



 話はジオンのジャブロー降下作戦終了時にさかのぼる。

「ビームキャノンと多目的精密照準システムを装備させたガンキャノンIIの狙撃結果が思わしくない?」

 テム・レイ博士に相談を受けたミヤビは、いつものようにその怜悧な表情の下で思考する。

「そうだ。ホワイトベース隊の旧式なガンタンク、しかも素人の少年兵による記録より数段劣るものとなったのだ」

 テム・レイ博士が比較しているのはセイラの戦果によるものだろう。

「理由ならいくつか考えられますが」

 即座に仮説を提起してくれるミヤビに、テム・レイ博士は頼もしいものを感じた様子で聞き入る。

「まずガンタンクは複座、そしてそのガンキャノンIIは単座、そのあたりが影響しているのかと」
「うん? しかし下半身がキャタピラなガンタンクとは違い、ガンキャノンはれっきとした人型。一人のパイロットによる単独制御の方が、よほど動かしやすいのでは?」
「ああ、いえ、そういうのとは別に」

 ミヤビは語る。

「歩兵のスナイパーは単独で動くことはめったに無く、スナイパーとスポッターの二人で最小ユニットを構成しスナイパー・チームとして活動します」

 これはミヤビの前世、西暦の時代から変わってはいない。

「チームリーダーはスナイパーで、スポッターはオブザーバーとも呼ばれ通信やナビゲーションを担当。
 狙撃ポイントまではスナイパーが統率し、オブザーバーが安全を確保。
 このためにオブザーバーはセミオートマチックライフルなどで武装しているわけです。
 そして配置に着いた後、今度はスナイパーの支援によりオブザーバーはチームの行動を記録します」
「行動を記録?」
「オブザーバーはレーザー・レンジファインダー等の機器を使って風速、距離などを計算。弾の行き先を監視しスナイパーに伝えるわけですが」

 それだけではなく。

「使用されるスポッティング・スコープにはデジタルカメラが内蔵され、狙撃の効果や偵察データを取ることができるのです。監視、偵察はスナイパー・チームの重要な役割ですしね」

 まぁ、それはともかく。

「つまり頭部コクピットに車長兼射手が、腹部コクピットに操縦手がつくガンタンクと役割分担が非常に似ているでしょう? それ故にガンタンクの射手は狙撃の瞬間は、そのことだけに集中することができる」

 そういうことである。

「あとは実弾兵器ゆえの安定性でしょうかね」
「うむ」

 ビーム兵器は遠距離では威力が落ち、最終的には拡散して消える。
 大気圏内では特にその減衰は大きい。
 では宇宙空間ではどうかというと、今度は重力に捕らわれたり何かに命中したりしない限り飛び続ける実弾の方が有効射程は伸びたりする。
 まぁミノフスキー環境下の有視界戦闘だと、目標に命中させられる距離が実用的な有効射程となってしまうわけだが。

 それゆえ実際、ミヤビの前世の記憶の中にある機体、ジム・スナイパーIIが使っていたスナイパー・ライフル、Franz EF-KAR98Kも人間用のモーゼル・ボルトアクションライフル"Kar98k"を元に開発された実弾ライフルであった。
 また、

「安定性で言えばビームキャノンはジェネレーターに負担をかけることもあるからね」

 とテム・レイ博士が言うのも、やはり史実で反応炉の出力ダウンを起こしたようにそのあたりの調整が難しかったからだ。

 ガンキャノン、そして史実でのRX-78ガンダムにはヘリウム・コア、およびヘリウムコントロール・コアが腰回りに配置されていた。
 まぎらわしいのだがガンキャノン、ガンダムの腰部側面二か所に張り出した部分に内蔵されているのがヘリウム・コア、ガンダムの腰前後4か所の黄色く四角いものがヘリウムコントロール・コア。
 ガンキャノンのヘリウムコントロール・コアは、ヘリウム・コアの奥、腰部側面に内蔵されているとされた。

 それでこのヘリウムコントロール・コア、何のためにあるのかというと、ジェネレーターに想定以上の動作を要求する際に、Iフィールドで構成されているジェネレーターの炉壁を強制的に安定動作させるためのものだ。
 まっとうなジェネレーター技師からすれば、

「そんなものに頼って機器を作動させるのはいかがなものか、それも核融合炉を」

 という代物、苦肉の策ともいう措置ではあったが、これがあるがゆえにガンダム、ガンキャノンは高い性能を発揮できるとも言える。
 ただ当然その無茶はメンテナンスに跳ね返り、機体の特性を理解した専属のスタッフのバックアップが無ければ継続的な運用は難しい。
 ビームキャノンを搭載したガンキャノンIIにしても、そうした経験豊富なスタッフがつきっきりで作戦ごとに機体を徹底的にメンテナンスすることが運用の前提になっていた。
 逆に言えば史実ではそのメンテナンス体制が不十分だったからこそ戦闘前の反応炉の出力ダウン、後退につながっているわけである。

 そんなわけで、

「そうですね、機体の安定運用、そして継戦能力から言っても、現代の技術ではガンキャノンのキャノン砲をビーム兵器に置き換えるのはまだ早いのでしょうか?」

 史実にあったフルアーマーガンダムが右肩に360mmロケット砲を載せていたのは、ビームライフルのエネルギーが切れた場合やジェネレーターの負荷が高くビーム兵器の使用に支障が出た場合の継戦能力維持のためだった。
 ゆえに、

「ビームライフルがあるのですから、ビーム兵器による攻撃はそちらに任せて、肩のキャノン砲はジェネレーターに負担をかけない実弾兵器のままとした方が、おさまりが良いのでは?」

 技術が進んでジムキャノンIIあたりまで行けば、キャノン砲にビーム兵器を、手持ちのライフルは弾幕の張れる実弾兵器をというように入れ替えることもまた可能になるのだろうが。

 そしてあとは、

「残るはパイロットの素質、か……」

 テム・レイ博士のつぶやきに、ミヤビはわずかに目を細める。
 しかし無言でいるミヤビに対し、テム・レイ博士は躊躇なくその言葉を口にする。

「ニュータイプというやつだね」

 ニュータイプというと共感力や洞察力、そしてサイコミュ兵器への適応などがイメージとして持たれるが。
 モニター上のドットに過ぎない敵機を狙い撃墜する超遠距離狙撃能力もまた、その力のうちとされている。

「自分の息子がそうであると言われてはね。アムロには私には見えないものが見えるらしい。論理的ではないがな」

 そう言うからにはアムロとも話し合って、そして納得したのだろう。



 そして今……
 テム・レイ博士はモニターに映るガンキャノンL、ロングレンジタイプを食い入るように見つめる。
 頭部に射手用コクピットを持ち、最大射程260キロメートル、東京から撃って名古屋近くまで届くという頭がおかしい(誉め言葉)超兵器、ガンタンクと同じ120ミリ低反動キャノン砲を搭載したその機体。
 射手はもちろん、ガンタンクでの狙撃の実績を持つ、そしてニュータイプの素養があると目されるセイラ・マス。
 この実証作業のために彼はガンキャノンの下半身、Bパーツを手配しホワイトベースに配備させたのだ。

「さぁ、私に見せてくれ、その真の力を……」

 テム・レイ博士は憑りつかれたかのようにそうつぶやくのだった。



■ライナーノーツ

 そういうわけで、どうしてガンキャノンL、ロングレンジタイプがセイラたちの機体になったのか、テム・レイ博士サイドのお話でした。
 アムロの機体との差別化、そしてニュータイプ能力を生かす機体を、と色々考えたのですが、結果的に遠距離狙撃能力特化に至った次第です。
 でもこのお話はここで終わりではなく、さらにテム・レイ博士の技術追求は進み、結果としてとんでもない装備が導入される予定です。


>「実弾式だった両肩のキャノン砲を右肩のビームキャノンのみに換装し、かわって左肩には多目的精密照準システムを装備させたガンキャノンII……」

 こういった機体ですね。

1/144 ガンキャノン2 (MSV)
B00186KZY6

 いや、このプラモデル自体はもの凄く古いものなので出来がアレですけど。
 こっちのガシャポン・フィギュアの方はもう少しマシになってます。

ガシャポン・カプセル HG 機動戦士ガンダム MSセレクション38 ガンキャノン2(ガンキャノンU)
B009WQFPWQ

 ガンキャノンにおけるヘビーガンダムに相当する機体なのでしょうね。


 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。


Tweet

次話へ

前話へ

「ミドルモビルスーツ ドラケンE改+可翔式 設定(随時更新)」へ

トップページへ戻る

inserted by FC2 system