ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第三章 旅立ち


「さて、ローレシアに向けて出発か」
「はい、元々、このムーンブルクとローレシア、それにサマルトリアは、100年前に伝説の勇者ロトが造り、その子供達が治めることになった国々で、互いに深い関係にあります」

 非常用の毒消しや薬草を詰めた犬用のバックをマリアに付けてもらい、先に立って草原を歩くリュー。
 そして、ポーチを肩から斜めにかけたマリアが、魔導師の杖を持って続く。

「それで、君の父上の代わりに、ローレシアへ大神官ハーゴンの軍勢が攻めて来た事を知らせるのか。それにしても、このムーンペタの街にローレシア城に仕えていた人が居て、助かったな。北進して、ローラの門とか言う地下通路を辿る、か」
「むー」
「どうした?」

 リューが振り返ると、マリアがいじけたように、責めるような視線を送ってきた。

「君、じゃありません、マリアです」
「あ、ああ失礼したマリア王女。これでいいか?」
「王女も要りません」
「へ? それじゃあ…… マリア?」
「はい!」

 一転して、マリアは笑顔で答える。

「やはり、夫からは肩書抜きで、名前で呼んでもらわないと」
「いや、夫違うから」
「私もリューさんの事、あなた、って呼ばなくてはいけないんでしょうか?」
「それも違う」

 リューの突っ込みも届いていないらしく、頬を押えて、いやいやっと頭を振ったかと思うと、顔を真っ赤に染め、のぼせ上がるマリア。
 その、箱入り娘の思い込みの激しさに、リューはかくはずもない汗がにじみ出るような気がした。
 ちなみに、犬には汗腺が無いのだが。
 ため息一つついて、気分を切り替える。

「この辺は、でっかいムカデが出るから気を付けるんだぞ。まぁ、俺の後を付いて行けば、間違いは無いと思うが」
「ええっ?」
「苦手か?」
「毒、持ってるんですよ。薬の材料にはなりますけど」
「っと、噂をすれば影か」

 大きな……
 現代日本人だったリューにしてみれば、それこそ化け物じみた大きさのムカデが、三匹も現れた。
 見るからに固そうな外皮を持っており、大顎からは毒液がしたたる。

「それじゃあ、作戦通りやるぞ! 俺が壁になるから、離れた所から杖の力で倒すんだ!」
「分かりました!」

 マリアは、魔導師の杖を掲げる。
 その先にはめ込まれた宝珠から火炎弾が撃ち込まれ、ムカデの一匹を吹き飛ばした。

「凄い威力だな」

 関心しつつも、リューは前に出て残った二匹のムカデ達を牽制する。

「守りに徹すれば、そうそうやられるもんじゃない!」

 ムカデの攻撃を自分で引き受け、マリアに行かないようにする。
 革製の鞄が鎧代わりに役立った。

「炎よ!」

 マリアの放った二発目の火の玉がムカデを直撃するが、今度は倒し切れなかった。
 虫の類は、致死の傷を負ってもしばらくの間は暴れるから始末が悪かった。

「リューさん!」
「大丈夫だ! お前の楯になるのが俺の役目だ! お前は自信を持って戦えばいい!」

 傷付きながらも、マリアに向かって言い放つリュー。

「はい!」

 第三、第四の火炎弾が撃ち込まれ、ムカデ達は倒された。



「大いなる癒しよ」

 マリアが手をかざすと、リューの体に受けた傷が見る見るうちに消えて行く。

「凄いな、これが魔法というものか」

 感心するリューに、マリアは、恐縮したように言う。

「いえ、まだこれしか使えないんです。恥ずかしながら」
「いや、十分だ。ありがとう。だが……」
「え?」
「使うの禁止な。何で薬草を大量に持って来たと思う? 君の…… そんな悲しそうな顔をするな。もとい、マリアの魔力を温存するためだぞ。普段の手当は、薬草でいい」
「そ、そんな! 今の私の唯一の存在意義が!」
「魔導師の杖を振るって、敵を倒すって役割があるだろ」
「でも、その杖だってリューさんが取ってくれた物ですし」
「犬の俺には使えないんだから仕方がない。役割分担だよ、俺達は一つのチームなんだ。お互いの役割を果たす事で、この旅が上手くできる」
「はい……」
「それにしても、これだけ焼け焦げては、薬には使えないか」

 ムカデの死骸を見て、リューはため息をつく。
 しかし、

「ん? 金が落ちてる。今までの犠牲者の物だな。回収して行こう」
「はい」

 リューが見つけた金を回収し、路銀の足しにする。

「あ、でも」
「ん、何だ?」

 マリアは頬を染めて恥ずかしそうに、しかし心底嬉しそうに言った。

「戦闘中、お前、って呼んでくれて嬉しかったです」
「は?」

 言われてみれば、言い聞かせるためにそう呼んだ気もしないではないが。

「私も、あなた、って呼べるよう、努力しますね」
「それ、違うから」

 こうして着々と外堀を埋めて行かれるリューだった。



 その後は、何事もなく、ローラの門へと辿り着いた。
 そこは、その美しい名前とは正反対に、おどろおどろしい雰囲気の地下通路だった。

「苔、生えてるから足を滑らせんようにな」
「はい」

 犬の眼は、暗い所でもよく見える。
 危なげない足取りで歩むリューと、おっかなびっくり付いて来るマリア。

「何か、幽霊が出そうな雰囲気ですね」
「幽霊? あれのことか?」
「ひっ!」

 暗闇に光る3対の赤い目。
 頭からシーツでも被ったような身体。

「ゆ、ゆーれい!」

 慌てて魔導師の杖を振り払うマリア。

「焼き払え!」

 三体の内の一体が、迸る火線になぎ払われる。

「なるほど、炎が効くという事は実体持ちと見た」

 リューは落ち着いて前に出て、壁役を務める。
 数発打撃を受けたが持ちこたえ、マリアの魔導師の杖が放つ炎に、幽霊は全滅した。

「この地下通路で不運にも亡くなった人の亡霊かな」

 祓われた幽霊達の元には、いくばくかのお金が転がっていた。

「屍が消え去っても、金に執着するか。因果なことだ」

 執着の元になっていたお金を回収して幽霊達の成仏を祈ると、傷を薬草で手当し再び先を急ぐ。

「りゅ、リューさんは、幽霊、怖くないんですか?」
「まぁ、魔導師の杖の一振りで成仏するような幽霊だし? もっと恐ろしい幽霊の話、知っているからな」

 現代人は、ホラー映画のお陰で、こういった物には耐性があるのだ。

「も、もっと恐ろしい話ですか?」
「そうだな、例えば…… 後ろだーっ!!」
「ひいっ!」

 不意にリューが上げた大声に、縮み上がるマリア。

「おい、別に驚かせたかった訳じゃなくて、本当に幽霊が出たんだ、攻撃頼む!」

 幽霊達の攻撃を引き付け、盾役をしながらリューが言う。

「ふぇ……」

 涙目になりながらも、何とか魔導師の杖を振るうマリア。
 自動的に敵を追尾する機能でもあるのか、この杖から迸る炎は、外れる事はない。
 三度杖を振るうと、幽霊達は跡形もなく消え去っていた。

「ううっ」

 泣きそうになっているマリアに、リューはなだめようと歩み寄るが、

「ち、近づかないで下さいっ!」

 慌てて叫ぶマリア。
 その只ならぬ様子に、足を止めたリューは、ふと鼻を鳴らした。

「にっ、匂いを嗅がないで下さい!」
「……そう言う事か」

 風上に立ったが、マリアの不運。

「そ、その、ほんのちょっと、ちょっとだけなんですよ! 本当に!」
「分かった、分かったから泣くな。後ろ向いてるから、そこの水場ででも始末を、な」

 幸いと言うべきか、この地下通路には、湧き出た地下水のためか、綺麗な水場があった。

「ううっ、もうお嫁に行けません。リューさん、絶対に責任を取って下さいね」

 泣きながら下着を替えるマリア。

「結局そこに行き着くのか……」

 もはや、諦め気味に呟くリューだった。



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