ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第四章 リリザの街


 地下通路を抜けると、そこにはローラの門を守るローレシアの兵士達の詰め所があり、兵達は驚きながらもマリアとリューを迎えてくれた。
 そして、マリア達より前にムーンブルクから来た、兵士の事を話してくれた。

「それでは、ムーンブルクの生き残りの兵士がここを抜けて行ったと言うんですか?」
「はい。しかし、酷い怪我でしたから、無事、ローレシアの城にたどり着けたかどうかは……」
「そうですか……」

 日も暮れてきたことだし、今夜はここに一泊することにする。

「どう思います、リューさん」

 兵士達が好意で貸してくれた寝台で、リューの毛皮に頬を摺り寄せながらマリアは問いかける。

「ともかく、ローレシアの城に行ってみるしかないだろ。さしあたっては、途中にある街、リリザを目指すんだな」
「そうですね」

 こくん、と幼子のように頷くマリア。

「それよりも……」

 リューはしかめつらしく言った。

「何で当然のように、俺はベッドに引きずり込まれてるんだ?」

 また夫婦がどうのと言った台詞が出てくるものだとばかり思っていたリューだったが、何故かマリアはもぞもぞと毛布の中に潜ってしまった。
 鼻の辺りまで毛布を引き上げ、上目使いにリューを見つめてくる。

「……から」

 リューの敏感な犬の耳でも聞き取れないような、小さな声。

「何だって?」

 リューが聞き返すと、しばらくして、ようやく返事があった。

「幽霊が怖かったから……」

 そう言うと、マリアは毛布の中で、くるりと背を向けてしまった。
 それでも離れるのは嫌なのか、背中はリューの体に押し付けられてはいたが。
 そして、呟き。

「ダメ、ですか?」

 縋るように、震える声で言われては、突き放す事などできなかった。

「分かったよ」

 リューは、マリアを受け入れるように、身体から力を抜いた。
 顔を合わせるのが恥ずかしいのか、マリアは毛布に潜ったままリューに抱きついて来て、その毛皮に頬を埋めた。

「大好きです、リューさん」
「ああ、お休み、マリア」
「はい、お休みなさい、リューさん」

 こうして、今日もまたベッドを共にしてしまうリューだった。



 翌朝、リリザの街を目指して出発しようとするマリア達。
 すると、ローラの門に暮らす老人が、マリアに話しかけてきた。

「ローレシア城の南にあるという祠には行かれましたか?」
「いいえ」
「そこには、わしの弟が貴女様の来るのを待っているはず。会ってやってくだされ」
「はぁ」

 まずは東へ。
 途中、山ネズミ二匹と、蝙蝠の化け物ドラキーに襲われる。
 今まで通り、リューが壁役を務め、マリアが後方から魔導師の杖を振るって迸る炎で相手を焼きこがす。
 大した相手ではないので、リューはほとんど傷を受けることなく倒す事ができた。

「こんがり焼けてるな。食べるか?」
「ええっ、ネズミをですか?」
「野生のネズミは、街のネズミと違って病気を持ってないし、肉も少し脂っこいが美味いんだぞ。まぁ、リリザの街まで持って行けば料理してくれるだろうし、食べなければ肉を売ればいい」

 マリアに倒した山ネズミを背にくくりつけてもらい、更に進む。
 東の山地に達したら、今度は南に。
 そうすると、街にたどり着く。
 街の入口を守る兵士に話しかけると、

「ここは、リリザの街。旅の疲れをのんびり癒して行くがよろしかろう」

 と答えてくれたので、ここがリリザの街で間違い無かった。
 さっそく宿屋を訪ね、女将と交渉して山ネズミの肉を売る。
 マリアとリューの宿代と相殺ということで、話はまとまった。

「夕食に出すから、期待しておくれよ」
「はい」

 山ネズミの肉は、この辺りでは一般的な食材として扱われているらしい。
 ともあれ、

「まだ日が高いし、少し街を見てみるか」
「えっ?」

 リューの言葉に、動揺したように声を上げるマリア。

「ん? 疲れたのか? だったら宿に」
「いえ、大丈夫ですっ!」
「そ、それならいいが……」

 大変な勢いで答えるマリアに、いぶかしむリューだったが、まぁいいかと、街を散策する。

「そ、その、初めてですよねっ」
「んん? 何がだ?」
「そ、その、リューさんから誘っていただいたのって」
「そうか? って、前を見ろ」

 マリアは遊んでいた子供にぶつかられてしまう。

「あたしたちデート中なの。ジャマしないでねっ」

 背延びをしたい年頃なのか、ませたことを言う女の子。
 遊び相手の男の子と一緒に走り去ってしまう。
 微笑ましげに、それを見送るリューだったが、

「私達だって、そうですよね」

 とマリアに言われ、戸惑う。

「ん?」
「そ、その、デートですよ」
「デー……」

 素っ頓狂な声を上げそうになるリューだったが、嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑むマリアを見て、言葉を飲み込まざるを得なかった。

「侍女に幸せなものと聞いていましたが、納得ですね」

 箱入り娘として外界から隔離され、大事に育てられたのであろうことを、悟らせる言葉だった。
 それならば、その幸せな気分を壊すのは無粋と言う物だろう。
 こうしてリューは今日も流されて行くのだった。



「噂では、ローレシアの王子様が、ハーゴン征伐の旅に出たらしいわよ」

 街を散策していると、そんな話を聞く事が出来た。

「リューさん」
「ああ、おそらくムーンブルクの生き残りの兵士が、ローレシア城に伝えたんだろうな」

 頷いて、

「確かな事は、実際にローレシア城に行ってみないと分からないけどな」
「そうですね。でも、ローレシアがハーゴン征伐に乗り出してくれたなら、安心です」

 そして二人は武器屋を覗いて見た。
 マリアには、もう少し防備を固めて欲しかったのだ。
 しかし、

「重いです……」

 革張りの楯すら、マリアには重荷だった。
 仕方なく、更に武具を探して二階に上がるリュー達だったが、そこは店舗ではなく、店主のプライベートルームらしかった。
 部屋で家事をしていた奥さんに、非礼を謝ろうとした所、彼女はこんな話をマリアにしてきた。

「私の弟はムーンブルク城の兵士でね。この間、突然やって来て、息子を預ってくれって言うんだよ。所がそれっきり連絡が来なくて…… まさかムーンブルク城に、危険事でも起きたんじゃないだろうねえ」

 それに答えようとするマリアを、リューが止めた。
 頭を下げ、階段を降りるリューとマリア。

「どうしたんです、リューさん」
「いや、下手に本当のことを話して、大騒ぎになるとまずいだろ。それに、気がかりな事がある」
「何ですか?」
「ローラの門の兵士達は、子供の事なんて話してなかっただろう。だから、傷付きながらもローレシアに向かった兵士と、ここに子供を預けた兵士は別人になる」
「あっ」
「そして、子供を預けた兵士は、なぜ急にそんな事をしたのか。時期的にはハーゴンの軍勢が攻めて来る前だろう。そうでなければ、ローラの門の兵士がその事を話してくれたはずだ。タイミングがあまりに良過ぎないか?」
「まさか……」
「内通者、いや少なくとも事前にハーゴンの軍勢が攻めて来る事に気付けた立場の兵士が居たって事だな。まぁ、これ以上推測に推測を重ねてもしょうがない。明日にでもローレシア城に行ってみるしかないな」
「はい」

 そうして、一通り街を巡り終わると、時刻は夕食時。
 宿屋に戻ると、野ネズミの肉を使ったシチューが出された。
 恐る恐る、口に入れるマリアだったが、

「おいしい!」
「そうだろ、山ネズミの肉は味が濃くってね」

 宿屋の女将が自慢げに微笑む。
 床の上では、シチューが冷めるのを待つリューの姿があった。

「食べないんですか?」
「知らないのか? 犬も含め、たいがいの動物は猫舌なんだ」

 リューは、宿屋の女将に宿泊を拒否されないよう、行儀良く待ての姿勢を取り続ける。
 その姿を見て、恥じらいながら、初々しい様子で提案するマリア。

「そ、それじゃあ、私がふーふーして冷まして食べさせて……」
「却下。人の目を考えろ」
「そ、即答しなくてもいいじゃないですか」

 傷心の様子で訴えるマリアだったが、ここは譲れない。

「せっかく心証良くして、一緒に宿に泊めてもらう事を納得してもらったんだ。それがふいになってもいいなら止めないが」
「う…… 我慢します」

 しぶしぶと提案を撤回するマリア。



 そして、その日の晩、やはりマリアのベッドに連れ込まれるリュー。

「何でこうなるんだ」
「だって、好きな人とデートしたら、その日は宿で一緒の褥で眠る物だと。違いましたか?」
「どこからそんな話を…… って、そうか」

 リューは、昼間、デートについて侍女から聞いたというマリアの言葉を思い出した。
 これも侍女から聞いた外界の話。
 マリアにとっては夢見る事しかできなかった事なのだろう。

「あの、リューさん?」

 リューは力を抜いて、ベッドに身体をもたせかけた。

「大丈夫、マリアが知っているのは普通の事だから」

 だから、今だけは……
 こうして二人の夜は更けて行く。



■ライナーノーツ

 ドラクエシリーズではムーンブルクの王女のように露出度の低いヒロインは非常に少ない(他は7のマリベルくらい?)
 しかし、そこがいいのか、コスプレやイラストなどでも高い人気を誇っている。


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