【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 最終話 戦後復興


 宇宙世紀79年12月31日。
 ジャブローの地球連邦軍総司令部の陥落をもって、地球連邦は解体された。
 サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアは、それぞれ独立を宣言。
 地球上は、ジオン軍の占領地として支配されることになった。
 地球連邦最後の反攻作戦で物資を使い切り、貧窮しきった地球市民を、ジオン公国は、サイド2ハッテ、サイド5ルウム、サイド7ノアの復興要員として宇宙へと上げることとした。
 荒れ果てた地球上に住むより、コロニーの管理された新天地に臨む方が、はるかに暮らし向きが良くなるのだ。
 これにより、アースノイドとのエリート意識、価値観が逆転。
 エリートは宇宙で快適な暮らしを得る事が至上とされ、資源採掘等の為残された地球上の鉱山設備などの勤務は閑職とされるようになるのだが。
 そして、

「ボールによるスペースデブリ回収だと?」

 ジオンコロニー公社スペースポッド部門の責任者。
 サカキ財閥令嬢、アヤ・サカキは、ギレン・ザビ総帥に提案書を持って回っていた。

「戦後は軍縮となると思います。すると現在、軍で荷役等に利用されているボールは、旧式化して一線を退いたザク等のモビルスーツに取って代わられるでしょう。ですから余剰の出るボールを、戦後復興の重機として役立てたいのです」

 なるほど、提案書には、天頂部に備えられていたアタッチメントへ武器の代わりに、クレーンを兼ねる伸縮式の第三マニピュレータを設置する案が載せられていた。
 このパーツを付けることにより、ボール本体より大きいコンテナやスペースデブリを三点で保持して移動させる事が出来るのだ。
 ご丁寧に、アーム先端部分に補助カメラが搭載されていて、大型の荷物を運ぶ際にも前方が見えなくならず事故の発生を防止する設計だった。

「戦場となったサイド2ハッテ、サイド5ルウムの宙域は、スペースデブリも多く、危険な宙域となっています。ジオン以外のコロニー公社で使われている作業用スペースポッドSP−W03はコクピットがガラス張りのグラスルーフ式で、安全に不安があります。その点、チタン製外殻を持ったボールなら、危険宙域での作業も安全と言う訳です」
「なるほど」
「ああ、もちろん、射撃管制装置は外します」
「無論だ」

 そうでなくては許可できない。
 提案書の内容を確かめながら、ギレンは聞く。

「これが君の、戦後のビジネスモデルかね?」
「そうですね」

 アヤは答える。

「手札は一枚で何通りにも使えるのが望ましい。ボールは戦後復興まで視野に入れた万能機ですから」
「なるほど」

 この分野では、一社独占となって居る事も大きい。

「我が軍は、君の野望に体良く利用された訳だ」
「そ、そんな、総帥、利用などと……」

 ギレンのからかいに、未だに初々しくおろおろとして見せる少女に、変わらぬ好感を抱く。

「冗談だ。まぁ、この件は、追って許可を出す事にしよう」

 そう言って、ギレンは少女を落ち着かせた。

「そうそう、最近、ニュータイプ研究所の方に顔を出していないそうだな」

 がらりと変わる話に、アヤは戸惑う。
 何しろ、ニュータイプ研究は、ギレンの所轄では無いからだ。

「はぁ、最近は、この復興作業用ボールのプロジェクトで忙しくて」

 そんな彼女に、ギレンは告げた。

「キシリアがそちらの方にも対応するよう、私の所まで連絡を入れて来たぞ。どうやら私は君を独り占めしているように見られているようだ」
「そ、そんな……」

 言葉を失うアヤ。
 しかし、自分をダシに、ギレンとキシリアが言葉を交わし合っている現状に、何か温かい物を感じるのだった。



「シャア大佐?」

 ギレンに言われた事もあり、ニュータイプ研究所に足を運んだアヤが見掛けたのは、シャア・アズナブル大佐だった。

「やぁ、君か。クルスト博士が嘆いていたぞ。せっかくモビルスーツの操縦のできない君の為に専用ボールを開発したのに、私に預けたままちっとも顔を出さないと」
「……大佐、サイコミュ高機動試験用ボールを任せた事、まだ根に持たれてるんですね」

 冷や汗を流すアヤ。
 そんな彼女に、シャアは笑って冗談だと告げた。
 暖かな会話。
 ふと、アヤは彼に尋ねたくなった。

「大佐は軍を抜けられないんですね」
「どうしたのかね、藪から棒に」
「いえ、ジオンの遺志を継ぐ者として、政界にでも進むものかと」

 さらりと、自然にその言葉は口をついて出た。

「……今の私は、シャア・アズナブルだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「それが、大佐の答えなんですか?」

 シャアは、しばし考え込んでから言った。

「ああ、私は今、キシリア殿からニュータイプ部隊と、この研究所を任されている。人の進化を間近で見る事のできる。人の可能性を見る事のできる今に、満足しているのだよ」

 シャアは、ニュータイプの庇護者と目されていた。
 この施設にも、彼を慕うニュータイプ達が多く居る。

「人は変われる物だと実感できる。こんな嬉しい事は無い」

 そう、シャアは告げた。
 本当の笑顔と共に。

「そうですか……」

 その後、何事かを告げようとしたアヤだったが、

「ようし、嬢ちゃんそこを動くな。ようやく現れたな」
「ちょっと、失礼ですよ、博士!」

 クルスト・モーゼス博士と、ニュータイプの被験者、マリオン・ウェルチの乱入に、その先を口にする事は無かった。

「ちょっと博士、勘弁して下さい」
「いーや、どれだけこっちが待たされたと思ってる。今日と言う今日は……」
「博士!」

 悲鳴交じりに逃げようとするアヤ。
 そして、それを追おうとするクルスト博士を止めるマリオン。
 ニュータイプ研究所は、いやジオンは今日も平和だった。



機動戦士ボール 完



■ライナーノーツ

 お読みいただき、ありがとうございました。


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