【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第二十六話 宇宙要塞ア・バオア・クー


「我が忠勇なるジオン軍兵士達よ。
 今や地球連邦軍艦隊の半数が我がソロモン要塞の攻防で宇宙に消えた。
 この輝きこそ我らジオンの正義の証である。
 決定的打撃を受けた地球連邦軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。
 あえて言おう、カスであると。
 それら軟弱の集団がこのア・バオア・クーを抜くことはできないと私は断言する。
 旧世紀、帝国主義的先進国が多くの植民地を支配したが、いずれの植民地も、脱植民地化を果たしている。
 言わば、スペースノイドの独立は、時代の趨勢であると言えよう。
 賢者は歴史に学ぶと言うが、何も学ぼうとはせず既得権益にしがみつく害虫が地球連邦であることは言うまでも無い。
 これ以上戦いつづけては人類そのものの危機である。
 地球連邦の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん、今こそ人類は明日の未来に向かって立たねばならぬ時である、と」



「総帥、見事なご宣言でした」

 ア・バオア・クーの戦闘司令室。
 控えていたサカキ財閥令嬢、アヤ・サカキの方に向かうと、彼女はその様に言って、ギレンを迎えた。
 さすがに私服とはいかず、彼の秘書セシリア・アイリーンと同じく軍服を着ている。
 その姿に、ギレンは違和感を感じつつ言った。

「何、君からの受け売りだよ。スペースノイドの独立。君の口癖ではなかったかね」
「そうかも知れません。ですが、私ごとき小娘の言葉と、総帥のお言葉では、持つ意味も重みもまったく違います」
「しかし、すべては君の発案したサイド1、4、6の中立化構想が元になっている。これにより、ジオンは戦略的自由を得たのだから」

 実際、サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアが中立…… 実際には親ジオンに傾いたお陰で人的余裕ができ、ジオンはここまで優位に戦う事ができたのだ。
 誇っても良い事だと、ギレンは思うのだが。
 そこに、アヤを配下のニュータイプ部隊と共に連れて来たキシリアが割り込んだ。

「兄上もお変わりになられましたな」

 実際、ギレンは身内のキシリアから見ても変化していた。
 良い意味で人間味とより高い見識を得て、人として円熟した印象がある。
 一部からは、愛人であるアヤ・サカキの影響であるなどという噂もあるが、ギレンは平然とこの噂を聞き流していた。
 アヤから影響を受けているのは確かであるし、愛人疑惑はこの悪ずれする事無く育った令嬢をからかうのにちょうど良いネタだったからだ。
 その様子にギレンの秘書であり愛人でもあるセシリアが可愛いやきもちを抱く事になっているのだが、それもギレンの人生を潤すスパイスとなっていた。
 生活が潤えば、人間味も増すと言う物だった。

「キシリアか。お前こそ、変わったのではないかな」

 そう返され、キシリアは己を振り返る。
 言われてみれば、その通りだった。
 ジオンの未来の為、謀略、策謀を巡らせた彼女だったが、アヤは利を説くことでさりげなく穏当な方法を提案してくれた。
 それによって、自分が手を染める事になった血の量は、遥かに減る事になった。

「そうかも知れません」

 ギレンへの対抗心も、今は薄れていた。
 昔のギレンは天才的な政治手腕を持っては居ても、人間的に未熟。
 ジオンの将来を任せるには不安があった。
 だが、今なら。
 アヤ・サカキと言う翼を得た彼になら、任せられるような気がしたのだ。

「何にせよ、このア・バオア・クーで連邦軍は最後を迎える」
「そうですね。地球では、ガルマがジャブローを攻略中ですし」

 連邦軍には、時間の制約があった。
 こうしている間にも、ジャブローにある地球連邦軍総司令部は、ジオン公国軍地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐配下の水陸両用モビルスーツによる揚陸作戦で脅かされている。
 宇宙要塞ア・バオア・クーをやり過ごして直接サイド3本土に侵攻する作戦は時間的に無理で、連邦軍は、迅速かつ決定的な戦果を得るために、ア・バオア・クーを攻略するしか戦略の余地は残されていなかったのである。
 これも、ギレン、キシリアがアヤのサカキ財閥を仲立ちに協議した結果、裁可された作戦であり、連邦軍はむざむざと乗せられた事になる。

「新型のモビルスーツ、ゲルググの配備も終わっている。統合整備計画によるコックピットの操縦系の規格・生産ラインの統一が功を奏して、パイロットの機種転換も完全だ。中立コロニーからの義勇兵のお陰で、人的資源も不足は無い」

 これらも、元を辿れば、アヤの提唱したボールプロジェクトの成果だと言える。
 しかし、その元となったボール自体は戦力の充実もあって、この最終局面にあっても出番は無かった。
 何しろ、青い巨星、黒い三連星、白狼、真紅の稲妻、ソロモンの悪夢…… 名だたる歴戦のパイロットたちが、ここ、ア・バオア・クーに結集しているのだ。

「シャア大佐のサイコミュ高機動試験用ボールはどうなってるか?」
「何か?」
「サイコミュ高機動試験用ボールはどうか?」
「行けます」
「ならばSフィールド上に新たな敵艦隊が発見された。ニュータイプ部隊を率いてこれを」
「は、Sフィールドに侵入する敵を撃滅します」

 シャア大佐の、サイコミュ高機動試験用ボールは特別だったが。
 結局、ボールはジオン軍の縁の下の力持ちとして、終戦まで予備戦力扱いで戦火に晒される事無くその任を全うするのだった。



 宇宙世紀79年12月31日。
 地球連邦宇宙軍は、ア・バオア・クー攻略戦で壊滅。
 同時に地球ではジャブローの地球連邦軍総司令部が陥落。
 翌80年1月1日。
 スペースノイド独立戦争は終結を迎えた。



■ライナーノーツ

 ア・バオア・クーまで立体化される時代なんですね。


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