【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 裏二十二話 ボール機雷散布ポッド装備タイプ

 ジオンコロニー公社モビルポッド部門を統括している令嬢、アヤ・サカキ。
 アジア系モンゴロイド人種、まっすぐな黒髪ときめ細やかな白い肌を持つ小柄で上品な少女である。
 彼女はマ・クベ大佐から専用ボールの発注を受けたのだが、

「あの、ウラガン中尉?」

 マ・クベの副官、ウラガン中尉が会談の場に居残ったことに小さく首を傾げた。

「……アヤ様も重々ご承知かと思いますが」

 そう前置きしてアヤに語りかけるウラガンの声は、地を這うように低かった。

「統合整備計画の実務レベルの統率者がマ・クベ大佐です」
「そうですね」

 ジオン公国軍モビルスーツのメーカーごとに異なる部材や部品、装備、コックピットの操縦系の規格・生産ラインを統一することにより、生産性や整備性の向上、機種転換訓練時間の短縮を図ったものが統合整備計画であり、これはザビ家、キシリアの元、その配下のマ・クベが推進していた。
 もちろん計画の協力者であるアヤが知らぬはずがない。
 しかし、

「だったら何故、大佐をお止め下さらなかったのですか! 大佐が戦死、もしくは失脚なさるようなことがありましたらジオンにどれほどの損害が!」
「近い近い近過ぎです」

 身を乗り出し迫るウラガンに、アヤはのけぞるようにして距離をとる。
 痩せぎすなマ・クベに対し、不足分を補うかのように骨太なこの副官に迫られると、さすがのアヤも平静では居られない。

「ご心配は分かりますが」

 アヤはそう前置きをして、この実直な副官殿に答える。

「実際問題、公国軍の大佐殿が望み、キシリア閣下が裁可なされた事柄を、一財閥の令嬢ごときが覆すことなどできないでしょう?」
「いえ、アヤ様なら、アヤ様なら何とかしてくれ……」
「無理です」

 ……私を何だとお思いなのでしょうか?
 アヤは内心、密かに嘆息した。
 そんな彼女を納得のいかないように見るウラガンだったが、アヤにしてみれば無理なものは無理なのだ。

 ザビ家に対し穏当な方法で意見ができる稀有な存在。
 そう周囲には思われているのだが、アヤ自身はそれを知らなかった。
 だが、

「な、ならばどうすれば……」

 そう嘆くウラガンに、お人好しのアヤはついこのように言ってしまったのだ。

「こちらとしましても、マ・クベ大佐に万が一があってはならないことは分かっていますので、できる限りの協力はさせていただきますが」

 と。



 一か月後、マ・クベに専用ボールを納品したアヤ。
 ウラガンに対しては別途、マ・クベの作戦行動に対する支援用の機体を納めていた。

「これがボールM型、ボール機雷散布ポッド装備タイプです」

 ジオン軍特有のグリーンに塗られた機体を前に説明する。

「なるほど、左右に張り出した厚板状のモジュールが機雷散布ポッドですか。格子状に配置された射出口から機雷を面投射するのですな」
「はい。背面から左右に伸びたロッカーに片側24基、両方で48基のハイドボンブ浮遊機雷を装填しています」

 機雷ロッカーは移動時には後方にたたむことが可能で、これにより前方投影面積、および被弾を減らすことができた。

「この形状からボール機雷散布ポッド装備タイプは「ロッカー付き」「ランチボックス」などの愛称で呼ばれています」
「ほう」
「腕に相当するマニピュレーターが機雷散布の邪魔にならないよう通常型に比べて小型化されていることもあり、相対的に大きな機雷ロッカーがとにかく目立つのですね」

 機雷ロッカーの先端に八基、装着基部上に二基の姿勢制御用スラスターが配置されている。
 元々、人型ではないボールにおいては、AMBAC(Active Mass Balance Autocontrol 能動的質量移動による自動姿勢制御)は限定的にしか行えない。
 この機体は機雷ロッカーの増設による機体の肥大化、およびマニピュレーターの小型化による作動肢の質量低下により、更にAMBAC能力が低下している。
 それゆえに運動性を確保するため姿勢制御用スラスターが増設されているのだった。

「天頂部の砲塔が除去されていますが」
「はい、天頂部の武装は正確な位置測定を行う計測システムを内蔵したVLBI−C2ポッドと発信アンテナを装備した機雷コントロールユニットに換装してあります。この機体はあくまでも機雷散布による支援用ですので」

 アヤはこの機体の設計思想と成り立ちについて説明する。

「元はといえば、ザクIIF型を機雷散布用に改修したザクマインレイヤーという機体がジオニック社で開発されようとしていたのですが、そのような工作活動に貴重なモビルスーツを充てるのはもったいない。そういうことで、代わりにボールをベースとしたこの機体が開発されたのです」

 ザクの開発元であるジオニック社からアヤがジオンコロニー公社モビルポッド部門向けに仕事を横取りしてきたとも言える。
 ともあれ、

「使えるのですか?」

 そう問うウラガンに、実戦における戦果をまとめたレポートを示しながらアヤはうなずく。

「ええ、配備先では連邦軍艦艇に大きな被害を与えています」

 実戦証明(バトル・プルーフ)されているという点で、この機体の実用性は担保されていた。
 そして、何故この機体を勧めたのかと言うと、

「今回のご依頼に関してですが、マ・クベ大佐に無事、実戦で戦果を上げて頂くということが何よりと考えております」
「そうですな」

 アヤの言葉にウラガンも同意する。
 策を立てるにあたっては、目的を明確にし誤りのないようにすることが肝心だ。
 今回の場合、単にマ・クベ率いる部隊が結果を残すのではなく、マ・クベ自身がその手で戦果を上げ、面子を立てるということが重要なのだ。
 これはマ・クベの個人的なプライドだけの話ではない。
 文官、参謀タイプのマ・クベに対し実戦叩き上げの将兵は侮った態度を取ることがあり、これがマ・クベの、ひいてはキシリアの進める策に対する妨げになることが少なからずある。
 今回の作戦はそれを払拭させることに意味があるのだ。

「それゆえ、大佐には指揮官用の機体をお納めさせて頂きました。指揮下のモビルスーツで敵を叩き、それでも接近してきた敵モビルスーツがあれば、ニ刀のビームサーベルで止めを刺す。そういう使い方を想定しています」
「はい」
「それを補完するのがこのボール機雷散布ポッド装備タイプです。連邦軍のモビルスーツを誘いこみ、散布した浮遊機雷で相手を消耗させる」
「そこをマ・クベ大佐が討つわけですね」
「そうなりますね」

 そのためにこそ有用な支援に特化した機体だった。
 ウラガンは決意と共にうなずく。

「この機体、私が使いましょう」
「は? マ・クベ大佐が出撃されるのでしたら、副官は艦に残らなくてはならないのでは?」
「ええ、ですがマ・クベ大佐は出撃の際には乗艦に別に艦長を置かれますから」

 なるほど、実益を優先するマ・クベらしい運用だった。



 その後、戦場に立ったマ・クベ大佐は配下のリック・ドムを率い、連邦軍のパトロール部隊と交戦。
 リック・ドムによる援護、更にボール機雷散布ポッド装備タイプに搭乗したウラガン中尉の機雷攻撃に消耗した連邦軍のジムを誘いこみ、ビームサーベルによる接近戦へと持ち込んでこれを撃破した。
 しかし、

『タダでは死なん!』
「なんと!」

 最後の一機、自爆覚悟のジムの特攻を受け、

「マ・クベ大佐ーっ!」

 マ・クベは割って入ろうとしたウラガンのボール機雷散布ポッド装備タイプを巻き込む形で相打ちとなった。
 以後、消息を絶つ……



『ウラガン中尉!』
「ここは……」

 ウラガンは雑音交じりの通信に、意識を取り戻した。
 この声は……

「アヤ様?」

 あの小柄な白い令嬢の声。
 彼女は母艦となっているチベ級重巡洋艦に技術オブザーバーとして乗艦していた。

『はい。今から救助に向かいます。状況は?』

 とりあえず、眼前のモニターに映っているのは、

「う…… マ・クベ大佐のボールを確認した。こちらのマニピュレーターで保持中。見る限り、損傷は酷そうだがコクピットに被害は無さそうです」

 敵機の特攻に割り込んだ甲斐はあったということらしい。

『そうですか、それは何よりです』

 しかし、身体に違和感。
 遠心力が働いている。

「どうやら機体がスピンしている様子だ」

 機体のコンディションをチェックするが、

「メインスラスター全損。補助スラスターも機能しない。燃料が漏れ、機体内で凍っている! このままでは姿勢維持ができない!」

 スピンが収まらなくては、マ・クベを損傷した機体から収容することもできない。
 だが、

『大丈夫です!』

 涼やかな、しかししっかりとした芯を感じさせるアヤの頼もしい声。

『こんなこともあろうかと! 推進燃料に頼らない姿勢制御プログラムを学習型OSにインプットしてあります! まずは酸化剤を噴出させてスピンを減速させてください』

 推進用燃料は使えなくなっても、燃焼用酸化剤はスラスターから噴出させることができる。
 それを活用する手だった。

「了解しました。酸化剤放出」

 スピンの速度がゆるくなるが、

「駄目だ! 酸化剤の放出では細かい制御が…… 機体を安定させきることができない!」
『大丈夫です!』

 すかさず響くアヤの声。

『こんなこともあろうかと! ボール機雷散布ポッド装備タイプは太陽光圧を利用した姿勢制御が可能なんです。機雷ロッカーを展開してください』
「りょ、了解」

 後方に折り畳んでいた機雷ロッカーを機体左右に展開。
 翼のように広げると受ける太陽光圧を使って安定状態にする。
 ソーラーセイルの原理を利用した制御方法だった。



 チベ級重巡洋艦ブリッジ。

「今のうちにマ・クベ大佐をウラガン中尉のボールに保護してください」

 そう指示を出して、一息つくアヤ。
 様子を見守っていた艦長が彼女に声をかける。

「奇跡のようですな。漂流するモビルポッドにピンポイントでレーザー通信がつながるとは」

 アヤは首を振った。

「ボール機雷散布ポッド装備タイプの機体頭頂部には浮遊機雷の制御に必要な正確な位置測定を行う計測システムを内蔵したVLBI−C2ポッドと発信アンテナが装備されています。だからこそレーザー通信が可能なのです」

 マ・クベがウラガンのボール機雷散布ポッド装備タイプと共に漂流してくれたのは不幸中の幸いだった。

 もっともアヤならニュータイプとしての力で位置の特定も不可能ではなかったが。
 先日、ニュータイプ研究所に入ったアムロ・レイ少年など、敵の位置と地球の一直線を読めるとも聞くし。

 そして、ウラガンから通信が入る。

『マ・クベ大佐を当機に収容。バイタル異常なし。ご無事です』

 その吉報に艦橋内に安堵の声が漏れる。
 しかし、ウラガンの声が不意に途切れた。

「ボールからの通信が途絶! 応答しません」

 通信士が叫ぶ。

「駄目です! つながりません!」
「大丈夫です!」

 アヤは言う。

「こんなこともあろうかと! VLBI−C2ポッドは太陽電池で充電しつつ、自動で通信を持続させるよう作ってあります。この宙域はデブリが多く、通信用レーザーが割り込まれてしまったのでしょう。必ずボールの方から通信が来ます! 信じて待つのです!」

 その後、アヤの言う通り通信は回復。

「ほら来ました」

 しかし、機体のコンデンサーは放電しつくされ、半分のセルが使用不能。
 更に酸化剤も漏洩し、残量がゼロ。
 もはや頼みの綱は生命維持の酸素が尽きる前に救助がたどり着けるかどうかだったが。

『駄目です! 酸素切れまで三十分!』

 ウラガンからの報告に、艦長が青ざめる。

「ここからどんなに救助を急いだとしても四十分はかかる」

 それを聞いたウラガンが、しかし覚悟した様子で言う。

『それでは自分が居なければ……』
「馬鹿なことを言うな、ウラガン中尉!」

 冷たい方程式というものだった。

 アヤは唇をかんだ。

「何てこと。ここまでなの……」

 だが、そこでアヤは閃いた。

「そうです、浮遊機雷に残りがあれば! ウラガン中尉、ハイドボンブに残弾はありますか?」
『はい? まだ八発ばかり』
「爆発安全装置の距離設定を解除して下さい。タイミングはこちらから指示しますから、ぎりぎり安全な距離で爆発させ、爆風を利用してボールを加速させます」
『わ、分かりました』

 アヤが見た未来の記憶。
 その中で、シャアは愛機のザクIIS型を駆り、通常のザクの三倍の速度で作戦行動を行ったという。
 しかしシャアが搭乗していたザクIIS型は、三割増しのスラスター出力しか持っていない。
 この三倍の速度は機体性能ではなく、シャアの技量が生み出したものだった。
 その秘密の一つが敵艦の爆発を機体の加速に利用するというもの。
 それを真似るのだ。

 ブリッジのスタッフたちと共に、爆発のタイミングを急いで計算する。
 酸素切れまであと二十分。
 そして、

『ハイドボンブ投射』
「了解です。爆破カウント開始! 4、3、2、1、0!」
『ハイドボンブ爆破!』
「爆発が見えた!」

 チベ級重巡洋艦からも見えた。
 宇宙の暗闇に光る閃光が。
 八発のハイドボンブが機体後方で爆発し、その爆風がボール機雷散布ポッド装備タイプの機体左右に広げられた機雷ロッカーに受け止められる。
 そしてボールの機体が加速した。
 こちらに向かってくる!

「酸素残量計算値、プラスに逆転! 間に合います!」

 オペレーターが歓声を上げる。
 熱気に包まれる艦橋内。
 アヤは笑顔を浮かべて言った。

「おかえりなさい。マ・クベ大佐、ウラガン中尉」

 こうしてマ・クベ大佐の連邦軍パトロール部隊討伐作戦は無事完了したのだった。



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