【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
第二十三話 ソロモン防衛戦
オデッサ作戦の失敗によって、ジオン軍が占領する鉱山地帯の中核オデッサの奪回に失敗した地球連邦軍であったが、ジャブローに蓄積されていた戦略物資の取り崩しで、宇宙軍艦隊の再編は、どうにかできる体制が整えられていた。
そして宇宙世紀79年12月2日。
多数の宇宙艦艇が、ジオン本国を攻め落とす為にジャブローより宇宙へと打ち上げられ始めた。
しかし、その行為は今まで不明であった、ジャブローにある地球連邦軍総司令部への入り口を露呈させる結果をももたらすものであった。
「よし、これで地球連邦軍ジャブロー基地の入り口はつかめた。マッドアングラー隊による、ジャブロー侵攻を開始する」
ジオン公国軍地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐は命令を下した。
ジャブローに濃密な対空砲火網が敷かれているのは、地球侵攻作戦開始時、月面から地球に向けてマスドライバーでの攻撃を実施した際に分かっており、降下作戦による攻撃には、甚大なる被害が予想された。
その為、攻略は、この侵攻用にカリフォルニアベースで大量生産された水陸両用モビルスーツによる揚陸作戦で行うのだ。
主力モビルスーツはズゴックだが、総力戦の為、旧式なゴッグも動員された。
これらの水陸両用モビルスーツには、統合整備計画により、ジオンコロニー公社モビルポッド部門とツィマッド社が共同開発した、チタン・セラミック複合材が装甲材として採用されている。
そして、一部のエースには、最新型のズゴックE、ハイゴッグも配備されていた。
連邦軍は、ジオン軍の侵攻を必死に食い止めながら、宇宙艦艇の打ち上げを行ったのだった。
一方で、打ち上げられた連邦軍艦隊を迎撃するジオン宇宙軍は、これを機に、地球連邦軍を徹底的に叩く作戦に出た。
地球から出て来る艦艇をその場で叩くのではなく、月面のグラナダと宇宙要塞ア・バオア・クーを結ぶジオン本土最終防衛ラインまで誘いこみ、敵の補給線が限界に達した所で一気に壊滅させる手だ。
一種の縦深陣地戦術と言えよう。
「しかし、縦深陣では、前線となるソロモンは、持ち場で全滅するか、撤退することになる」
レーザー通信回線で、秘匿通話をギレン・ザビ総帥と交わしていたドズル・ザビ中将は声を荒げた。
「兵を使い潰せと言うのか!」
それに対し、ギレンは言った。
「ビグザムを送っておいたはずだ。あれ一機で二、三個師団の戦力になる」
「モビルスーツの数が足らんのだ! こんなモビルアーマーの一機を送ってくるくらいならドムの十機も送ってくれれば良いものを…… 戦いは数だよ兄貴!」
「ああ、だから、その数も送って置いた。要塞内防御戦用兵器、ボール改造型百機だ」
「ボールだと!? あんな物で……」
「文句はスペックと使用法を確認してから言え。要塞内の防衛には最適な兵器だ。それを使って立て籠もればいい」
「ん? これは……」
手元の端末で送られてきた改造型ボールのデータを確認する。
なるほど、これは要塞内での防御戦に威力を発揮しそうだ。
「これは、例のサカキ財閥の?」
「アヤ君の事か? いや、本人は、要塞内の防衛用の機体の開発を依頼しただけで、開発自体には関与していなかった。その機体は、ツィマッド社とコロニー公社モビルポッド部門の技術者達が、彼女曰く暴走して作り上げたものだ。彼女自身は、できあがった仕様に唖然としていたよ。珍しい物を見る事ができたな」
ギレンの前では、徹底的に表情を作っている彼女である。
仕上がった機体に、よほどショックを受けたのだろう。
ドズルはそれを想像して、いかつい顔に失笑を浮かべた。
ともあれ、
「だが、これは有効だ」
「ああ、だからこそ、発注して作らせた。これを生かして将兵を生き残らせるんだな」
その物言いに、ドズルは違和感を感じた。
この兄は、外面はともかく内面は、将兵の事など単なる数字でしか捉える事の出来ない感性の持ち主だった。
それが、形だけでも兵に気にかけた発言をする。
微妙にだが、何かが変わっていた。
「これも、あの娘の影響か」
ドズルの脳裏を、白い小さな令嬢の姿が過る。
「何か言ったか?」
ドズルの呟きは、兄には聞き取れなかったようだ。
ともかく、ドズルは言う。
「分かった。ここで、連邦の将兵をできる限り消耗させてやろう」
そして、ソロモンの防衛戦が幕を開けるのだった。