月のフォン・ブラウン……
 大破した1号機は、その傷を癒すべく母なるアナハイムに横たわった。
 クルーの前から姿を消したアニッシュ・ロフマンは、最下層に住むシャンク屋の姉妹と出会っていた。
 パイロットに復帰しようとする元ジオン兵達の意思は、アニッシュの心を揺さぶる……
 そして、アニッシュが自らを取り戻した時、生まれ変わったドラッツェが彼の眼前にあった。



機動戦士ドラッツェ 0083 STARDUST MEMORY
第7話「蒼く輝く炎で」




「650……700……750……800!」

 ドラッツェ1号機のテスト飛行を行うアニッシュ・ロフマン少尉。

「いい感じだ。Gフラッターも認められない……900! よぉし、いけぇ!」



「いい調子ね。いきなりギャングフラックは115パーセントよ」

 ドラッツェ1号機のテスト状況をモニターしながら、メイは言う。

「そうだな。メイが開発した完成版OSとの相性は最高のようだ」

 ケンも絶賛するが、

「ケンやロフマン少尉っていう一年戦争当時からのエースパイロットがテストをやってくれたお陰だよ」

 と、メイ。

「俺は自分の仕事をただ果たしただけだよ」

 ケンは笑う。

「それに、本当にロフマン少尉を極限まで使いまくってデータ採取したものな」
「一般向けのOSの開発は、努力型、秀才型のタイプのデータがどうしても必要なんだよ。フフ…… ロフマン少尉、あれはいい木人形(デク)だったわ」
「これだから……」

 やれやれと肩をすくめるケンだった。



「ドラッツェ1号機、テストファイル消化。帰還します」

 スロットルをゆるめ、ドックに戻るアニッシュ。

「アクチュエーターコンプレッサー、フリー。メンテモード、セッティングOK」
「OK! ドラッツェ各部、ストレスチェックから始めます! ロフマン少尉、どうだった? 新OSは」

 問いかけるメイに笑顔で答えるアニッシュ。

「最高だ! 今度は160を出してみせるよ」

 しかし、立とうとしてよろけ、メイに支えてもらう事になる。

「……っと! あ、ありがとう」

 そんなアニッシュにメイは言う。

「160ですって? 今度の機体なら、230はいけますことよ。少・尉・さ・ん」

 その作り声に、怖気を震うアニッシュ。
 メイなら強制的にでもやりかねない。
 そんな強迫観念が植え付けられていた。

「そんな事したら、こっちの身が持たない。立てなくなる」
「フフフ…… 大丈夫。この1号機は、このメイがせっせとチューニングしたんだよ、ロフマン少尉の為に、ね」



「改めて申し上げますが、月での騒ぎは困りますよ……」

 シーマに対し、念を押すアナハイム社常務、オサリバン。

「月でなきゃ、いいワケだ。感謝するよ、我々、デラーズ・フリートの決起を黙認してもらって。ま、なんのかんの言っても、世の中を混沌とさせているのは、お前のようなルナリアンなんだなぁ」
「いいえ、シーマ様にお力添えしたく申しておりますものを」
「ならば、今少しマシなモビルスーツを分けてもらえないかな? 連邦にはいいモノを渡してるじゃないか」
「ですから、まもなくロールアウトするモビルスーツでしたら……」
「フフフフ…… そうやって、いつも対等に対等に、と持っていく……」
「フフ……」
「しかし、あのアルビオンとやら…… 目障りな! あまり肩入れしないでほしいな!」



「ほぉ…… よく1日で稼動状態まで持ってこられましたなぁ」

 フォン・ブラウンの最下層、ジャンクの中に、そのモビルスーツはあった。

「こいつはすごい…… 約束の品です。お受け取りを」

 組み上がったばかりの高機動型ゲルググを前に、シーマの部下、チェンラから金を受け取ったのは、ノーマルスーツの男、ジェイク・ガンス。
 この機体はスクラップからの再生品で、当てにならない部品がざっと五十ほどあるが、それは言わぬが華だろう。

「あぁ、悪い。ここのブローカーたちにも支払いをしなくちゃならないんでな。……おぉ、こんなに。いいのか?」
「なぁに、代金とでも思っていただきましょう。予備軍曹殿」
「支度金か…… 気が利くな」
「おや? 勘違いされちゃ困りますなぁ。この私が搭乗するモビルスーツに、不備がないようにとお願いしてるんです」

 厭らしく笑うチェンラに、激昂するジェイク。

「な?! なんだと!」
「シーマ様はこいつのパイロットとして私を連れてきたんです。わざわざ四年ものブランクを経て腕の落ちた男に今更機動兵器を任せるほど落ちぶれちゃいない、ってね…… クフフフッフッフッフッフ、ハッハッハッハッハッハッハ」
「く……」

 だが、その時。

「嘘を言ってもらっちゃ、困るなぁ」
「誰だ!」

 物影から現れる男。

「隊長!?」

 ケン・ビーダーシュタットだった。

「シーマ中佐の使いの者…… と言えば納得するか? 確かに中佐は、モビルスーツパイロットとしてあんたを連れて来たけど、それはあくまでも予備。ジェイク・ガンス軍曹の出撃が無理と判断された場合の保険だよ。自分の機体が欲しいからって出鱈目を言う様じゃ、シーマ中佐に処分されても仕方ないなぁ」
「何だと!?」
「自分の機体が欲しけりゃ、実力を示すんだな。ここの元ジオン兵が用意したドラッツェがある。それで連邦の目を引きつけてもらう」
「ドラッツェ? あんな、間に合わせのガラクタで何ができるってんだ!」
「だから、陽動だよ。あんたが自分で言うように、戦中、ビグロのパイロットを張っていたって言うなら、簡単な仕事のはずだよな」
「ぐ……」
「シーマ中佐から伝言だ『あたしはお節介な男は大っ嫌いっさぁね!』……確かに伝えたからな」

 そうして、ケンは踵を返した。

「ジェイク、もう後戻りはできないが、いいんだな」

 ジェイクにそう言い残して……



『もうどれくらいお家に帰ってないのかしら? 課長さんから連邦の軍艦に乗っているなんて聞いた時は、どうなるかと思ったわよ』

 メイは母と、テレビ電話で会話をしていた。

『だからテレビ電話は嫌なのよね…… 会った様な気持ちになってしまうから。ねぇ、メイ、聞いてるの?』
「うん……」

 そこで、メイは何故か、アニッシュ・ロフマン少尉の顔を思い浮かべた。
 すとん、と胸の内に何かが収まった気がした。

「お母さん、心配しないで。今の仕事が終わったら帰るから」



「『星の屑』これがデラーズ・フリートの作戦名よ。でも、敵の現在の行動は我々の眼をそらす欺瞞のように思われるわ。本当の狙いは何か? そのカギは、おそらく奪われたガンダム2号機、そしてドラッツェ2号機にあるはずよ。本日、ボスニアは22時をもって、ペガサス級強襲揚陸艦アルビオンを追って出港します。索敵攻撃部隊となり、ソロモン海へ出動するのです。突然ですが、各員準備をよろしく」

 ボスニアブリッジのメインスタッフらに指示を出すレーチェル・ミルスティーン少佐。



 フォン・ブラウン第3宇宙港。
 廃港となったそこに接岸されたシーマの艦に、ジェイクの高機動型ゲルググと数機のドラッツェが運び込まれていた。

「すまなかったねぇ、部下の暴走をフォローしてもらって。お陰で連中を無事、回収することができた」
『いえいえ、シーマ中佐の為なら、このケン・ビーダーシュタット、一肌でも二肌でも脱ぎます。それに、こっちにもメリットはありますし』

 シーマと通信で話しているのはケンだった。

「メリット?」
『あの男…… チェンラ中尉でしたか。彼の戦歴が本当なら、こちらも一年戦争のモビルアーマーパイロットとの戦闘記録が取れます。これによって、益々ドラッツェの制御OSの完成度は高くなるでしょう。そして、それを匿名でネットに供給する』
「ドラッツェか、あれにそんなに入れ込む価値があるのかい?」
『モビルスーツ乗りでもある中佐なら分かってもらえると思いますが、パイロットにとって自分のモビルスーツっていうのは自信の拠り所なんです。今、在野には、デラーズ・フリートに参加したくとも、自分のモビルスーツが無く悔しい思いをしている元モビルスーツパイロット達がたくさん居るんです。そこに、ザクの残骸から町工場でも作れるモビルスーツの情報を提供することで、それらの人材を集める事ができる。実際、そちらにもそういった腕利きのパイロット達がドラッツェを持参して集まっているんでしょう?』
「なるほどねぇ、上手い事を考える。気に入ったよ」
『では、予定通りに』
「ああ、あのチンケな男をドラッツェで放り出してやるよ」



 シーマとの通信を切ったケンは独白する。

「彼らは今のジオン共和国、いや地球圏に置くには危険過ぎるんだ。だからこそ、敢えて蜂起させた……」

 潜伏する危険分子の厄介払い。
 それが、彼の所属するジオン共和国がデラーズ・フリートに秘密裏に協力している理由だった。
 だがしかし、

「ジェイク、できればお前には行って欲しくなかったぞ」



『出港10分前! 総員、部所に着け!』

 アナウンスを聞きながら、ドラッツェのメンテナンスに余念の無いアニッシュ。
 ちなみに、そのシールドは今まで無かった、白と赤、連邦カラーに塗られていた。
 敵もドラッツェの量産型を使ってきた為だ。
 しかし、

「何だか文字が書かれてるんだが……」

 そこに緊急通信が入る。

『敵モビルアーマー発見! 乗組員以外は速やかに退艦せよ! 繰り返す! 乗組員以外は速やかに退艦せよ!』
「モビルアーマー?」



「ドラッツェ1機で何ができるって言うんだぁ!」

 フォン・ブラウンでジャンクを寄せ集め作成されたドラッツェで出撃させられたチェンラはそうわめくが、シーマは取り合わない。

『落とし前はつけてもらうよ。命を懸けても、ねぇ。……離脱する』
「くそぅっ!」



「各モビルスーツ、発進準備急げ! 迎撃戦、アーバンコンバットは禁ずる!」

 取り急ぎ、戦闘準備を進めるボスニア。

「しかし、1機のみでこちらを襲うなんて、酔狂な敵ね…… 何が狙い? モビルスーツはまだ!?」
『ドラッツェ・フルバーニアン、出せます!』

 モビルスーツデッキから報告。

「艦長!」
「やむを得ないわね! ロフマン少尉に託すわよ!」



「ロフマン少尉、ドラッツェ行きます!」

 ドラッツェ1号機で出撃するアニッシュ。



「来やがったな、連邦のドラッツェめ!」



「相手もドラッツェか! この間の借りを返してやる!」

 意気込むアニッシュ。
 今度のOSは、完全版だった。
 しかも1対1。
 後れを取る事は、プライドに賭けても、そしてこの機体を直してくれたメイに応えるためにもできなかった。

「うおおおおっ!」



「ちいっ! モビルアーマーはその機動性と火力で敵を圧倒するのが本領なのに、こいつは機動性はともかく、火力が足りねぇ!」

 チェンラはわめきながら、右腕のマニピュレーターを排除して装備した40ミリガトリング砲を乱射するが、みるみる内に減っていく残弾数に、顔を引きつらせる。

「畜生、こうなったら一撃離脱の接近戦だ!」



「突っ込んで来る!?」

 機関砲の回避に専念していた所にビームサーベルで斬り込まれ、アニッシュは慌ててシールドで防御する。

「うおぉぉぉっ!」



「これがモビルアーマーの戦い方だ!」

 一撃して離脱。
 反転して再突入。
 しかし、



「甘い!」

 既にアニッシュは反転して迎撃態勢を取っていた。
 新OSの、そして、半分はモビルスーツであるがゆえのモビルアーマー以上の運動性。
 ドラッツェをモビルアーマーとして捉えているチェンラにとっては、計算外の動き。

「喰らえ、40ミリ高速徹甲弾!!」



「ぐあああっ」

 アニッシュの攻撃を、何とか盾で防ぐチェンラ。

「くそっ、だが接近さえしてしまえば!」



「何を! こっちにだってビームサーベルはある!」

 左腕に固定されたシールドの先端のビームサーベルをドライブさせるアニッシュ。
 つばぜり合いに持ち込む。



「しまった!?」

 自分の失策を悟るチェンラ。



「足を止めたな!」

 ビームサーベルでの白兵戦は、モビルスーツでのそれに慣れたアニッシュの側に一日の長があった。

「これで終わりだ!」

 ビームサーベルで、チェンラのドラッツェを斬り裂くアニッシュ。
 こうして戦いは決着した。



 フォン・ブラウンの港に停泊するボスニアに帰還するアニッシュ。

「あれ?」

 激しくビームサーベルで打ち合ったはずなのに、白と赤の連邦カラーに塗られたシールドは、傷らしいものが付いていなかった。
 不思議に思ったアニッシュに、答えをくれたのはメイだった。

「この無敵のピザーラ盾があればこわいものなしよ!」

 確かに、白地に赤く書かれた文字は、そう読めた。

「ピ、ピザーラ?」
「スポンサー連動アイテムだよ。ピザを頼むと限定アイテムの購入権利書がもらえるの」

 驚くアニッシュに解説する。

「何か踊らされてるような…… ってゆーか、限定アイテムって!?」
「うちの技術部が開発した、高温時に揮発して保護する特殊塗料を塗った装甲板だよ。ビーム系やヒート系の武器にもある程度耐えれるんだよ」
「って、そんなもん売っていーのか?」
「いやぁ、ドラッツェの楯にも何故かぴったり使えるんだよね、この装甲板」
「確信犯だろ! それでいいのか? アナハイムは!」



「69……55……46……32……17!」
「よし。本艦は、これより月引力圏を離脱する!」

 そして、ボスニアは宇宙の海に飛び立った。



次回予告
 人は数多の中に己を知り、我を持つ者は彼を求め、策謀は宇宙に共有の会合点を結び、結ばれた銀河は戦いの予感にうずいた。
 疲れ果てたロイ曹長…… その囁きは、来るべき嵐の前触れ。
 運命は再び、アニッシュの魂に試練を刻んだ。



■ライナーノーツ

> 「この無敵のピザーラ盾があればこわいものなしよ!」

 ピザーラとネットゲーム『ドルアーガの塔』のコラボ企画。
 GyaOで『ドルアーガの塔 〜the Aegis of URUK〜』を視聴して出前館でピザーラを頼むと、ゲーム中で使える限定アイテムの「the Aegis of PIZZA-LA(ピザーラの盾)」がもらえた。
 しかし、これが広く知られたのは、

 こちらでネタにされたから。

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