【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第二十一話 アムロ・レイ


 連邦軍の機密を知った者としてジオン本国に送られ、軟禁生活を余儀なくされていた少年、アムロ・レイを訊ねて来たのは、軍人では無い、白い小さな令嬢だった。

「アムロ・レイさんですね。私は、ジオンコロニー公社社長の娘、アヤ・サカキです。今日はあなたをスカウトに来ました」
「スカウト?」
「はい、アムロさんは正式な連邦軍兵ではないと言う事。ですので、私が身元引受人になる事で自由にして差し上げる事が出来ます」

 そう言う少女に、アムロは困惑した。

「でも何で、わざわざ僕を?」
「初めてモビルスーツに乗り込んでザクを撃破した、あなたの能力を買ってと言う事です」
「ジオン軍に協力しろって言うんですか?」
「嫌ですか?」
「ジオンは僕達のコロニーを滅茶苦茶にしたんだ。幼馴染の子の家族も、それで殺されている」

 なるほど、と少女は頷いた。

「それは、こうも考えられませんか? 連邦軍が平和なサイド7、そしてそこに住む住人をカモフラージュに使って軍事基地を作ったから起こった悲劇だと」
「それは! ……そうかも、知れないけど、でも!」
「すぐに割り切れとは申しません。でも、ご協力頂きたいのは、人の未来についてなのですよ。ニュータイプと言うのはご存知ですか?」

 首を振る、アムロ。

「ニュータイプとは、ジオン・ズム・ダイクンとその思想ジオニズムによって出現が予言された、宇宙に適応進化した新人類の概念です」
「進化した、新人類?」
「そうです。認識能力の拡大により人並み外れた直感力と洞察力が身に付き、並外れた動物的直感と空間認識能力が備わる」
「僕が、そうだと?」
「ええ、才能は十分だと思われますから。研究にご協力頂きたいのです。どうしても嫌だと言う事でしたら、無理には勧めませんが」
「嫌だって言ったらどうするんですか?」
「当家のお客人としての扱いになりますね。衣食住は保証させて頂きます。ともあれ、一度見てもらえませんか?」
「見て?」
「ニュータイプ研究所です」

 こうして、アムロはフラナガン機関の見学に赴く事になった。
 この組織は当初、人材を広く集める為に中立コロニーであるサイド6リーアに秘密裏に置かれる事も検討されていたのだが、初めて確認された明確なニュータイプ能力発現者が、サカキ財閥の令嬢たるアヤ。
 しかも、彼女はモビルポッド、ボールプロジェクトの主導者であるため、サイド6に送る事もできない。
 それ故にサイド3に置く事になったのだ。
 リムジンに、アムロと乗り込むアヤ。
 この扱いに、アムロもこの一風変わった少女が、重要人物である事を悟った様子だった。
 そして、リムジンに揺られる事しばし。
 実際には、ほとんど揺れを感じる事も無い高級車だったが、ともかく到着したのはセキュリティがしっかりした研究所風の建物。
 門で警備員からID照合を受けて、建物の玄関にリムジンを乗り付けた後に、アヤは慣れた様子で中へと入って行く。
 そんな彼女に、声をかける者があった。

「へっぽこ嬢ちゃんじゃないか、今日は何の用だ」
「博士、お嬢様に失礼ですよ!」

 彫りの深い顔つきのがっしりとした印象のある研究者を、ローティーンの少女が必死になって止めている。
 ニュータイプ研究者、クルスト・モーゼス博士と、ニュータイプの被験者、マリオン・ウェルチだった。

「相変わらずお元気そうですね、クルスト博士。マリオンも」

 アヤは苦笑しながら、それに答えた。
 博士は平然とそれを受け流し、マリオンはひたすらに恐縮して見せる。
 この凸凹コンビは、本当にいつも仲がいい。

「今日は、新たな人材をお連れしたんですよ。へっぽこな私と違って、初見でモビルスーツを動かしたって言う逸材です。アムロ・レイさん」

 アムロを二人に紹介する。

「そしてこちらは、クルスト・モーゼス博士と、ニュータイプの被験者、マリオン・ウェルチさんです」
「あ、どうも」
「ほうほうそれは」

 クルスト博士の視線が、アムロへと向かう。
 新たな人材に興味しんしんと言った様子だ。

「嬢ちゃんがあまりにへっぽこだったからな。期待させてもらうぞ」
「あの、へっぽこって?」

 さきほどから連呼されている、へっぽこという言葉に戸惑うアムロに、アヤは恥ずかしげに告げた。

「あの、私、実はモビルスーツ適性が、まったく無いんです」

 初めて確認された明確なニュータイプ能力発現者たるアヤだったが、彼女はモビルスーツの操縦に対して、まったくと言っていいほど適性を持ち合わせていなかったのだ。
 この事実は研究者達を呆れさせ、ニュータイプも所詮人、という認識を抱かせるに至った。
 目の前のクルスト・モーゼス博士も、最初はニュータイプの驚異的な能力に危機感を抱き、ニュータイプが人類に代わる進化した存在であるのなら、進化に取り残されたオールドタイプは、かつて現人類に滅ぼされた旧人類のようにニュータイプに駆逐されるのではないかという強迫観念に取り付かれていたのだが、アヤのあまりのへなちょこ加減に呆れ果て、その考えを捨てるに至った。
 以降、博士はニュータイプの能力を再現するシステム作りに力を注ぐようになったのだった。

「嬢ちゃんは、ボールの操縦しかできんからな。ニュータイプ対応のボールを作るしかあるまい」
「そんな事、できるんですか?」
「ブラウ・ブロのシムス中尉が、技術協力を申し出ておったぞ」
「シムス中尉、そんな事に意気込まなくても……」

 がっくりと肩を落とすアヤ。
 後日、このニュータイプ専用ボールは実現する事になるのだが、彼女はまだそれを知らない。

「それでは、アムロさんの案内がありますのでこれで」

 適当な所で話を切り上げ、次へと案内する。
 アムロは、アヤに告げる。

「正直、モルモット扱いとか暗いイメージがあったんですけど、全然違いますね」
「それは、まぁ、快適な方が研究も上手く行きますよね」

 これは、最初の被験者がアヤだったことに由来する。
 サカキ財閥の令嬢に失礼な事をする訳にも行かず、被験者の人権に十分配慮した研究が行われたのだ。
 そして、アヤ以降、素質を持った者が現れるのに数年の歳月がかかり、結果としてアヤに対する応対が、被験者への配慮のスタンダードとして定着してしまったのだ。
 アヤの存在は、こんな所でも、歴史を変えていた。



 数日後、アムロはニュータイプ研究に協力する事を申し出た。
 これは、アヤの屋敷で一方的に客人としてもてなされた事に対する遠慮も多分にあった。
 何しろ、無職のアムロはそのままではただのヒモにしかなれなかったのだから。



■ライナーノーツ
 クルスト博士、マリオン・ウェルチは『機動戦士ガンダム サイドストーリーズ』における『機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY』再現シナリオに登場。



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