この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
 バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。



「明日のツーリング、楽しみだねー舞」
「はちみつくまさん」
「持っていく物、準備しなくちゃね」
「わかった」

『いるもの』、『いらないもの』、『どうでもいいもの』と書かれた段ボール箱を用意するお二人。
 相沢さんが「お約束だな……」と天を仰いでいましたが、私にはさっぱり。
『どうでもいいもの』の扱いがよく分からないものの、整理するには良い考えだと思いますが。

「まず、剣」
「いや待て、それはおかしいだろ」

 迷わず『いるもの』の箱に入れようとする川澄先輩に、間髪入れず相沢さんの突っ込みが入りました。



美汐のスクーター日記
『いるもの、いらないもの、どうでもいいもの』



「剣を捨てた私は本当に弱いから…… 祐一と佐祐理に迷惑をかける」
「構うもんか。俺も佐祐理さんもお前が大好きなんだぞ」
「ありがとう…… 祐一。本当にありがとう……」

 感動的な台詞をよそに、剣を奪い合うお二人。
 いきなりコントを始めないで下さい。

「あはは〜っ」

 倉田先輩の笑顔も苦笑気味です。

「あぅ、ツーリングの準備って、どうすればいいの?」

 興味を持ったのか、そう訪ねてくる真琴に、答えてあげます。

「まずは、ウェア類ですね。ヘルメット、ジャケット、グローブにブーツ。この辺は、日頃から手入れをしていれば良いのですが、そうでなければ前もって確認して置いた方がいいです。革製品なんかは、押入などに仕舞ってあると、当日、いざ使おうとしたらカビだらけ…… ということもあるそうですから」
「カビ?」
「うむ、そうだな、真琴に分かるように言うと、腐海に沈むと言った方がいいか」
「あぅ〜っ!?」

 川澄先輩との駆け引きに勝利したのか、剣を『いらないもの』の段ボール箱に入れながら相沢さんが口を挟みます。
 まぁ、そういう表現がぴったり来るような羽目に陥った方のお話も聞きますが。
 仕舞っていた箱を明けたら、黒いはずのグローブが王蟲の抜け殻のように真っ白にカビていてなんて……

「革製品は仕舞っちゃいけませんねー。風通しのある所に置いておかないと」

 とは、倉田先輩のお言葉です。
 さすが、革製品を気軽に購入できるご身分の方、よくご存知です。

「それじゃあ、忘れないよう、ウェアなんかを入れますね」

 ぽんぽんぽん、と『いるもの』の箱にウェア類を入れていく倉田先輩。

「あ、レインコートも忘れずに。あと、出かけた先で歩くことを考えれば、折り畳みの傘もあると便利ですね。まぁ、これは天気予報とご相談ですが」

 小雨程度なら良いのですが、大雨に降られると問題ですね。
 防水のライダージャケットがあるからと、そのまま雨の中を走ったら、目的地でずぶ濡れの格好ではお店に入れない事に気付いた…… なんて笑い話もあるくらいです。

「後は、地図とコンパスは必須ですね。通い慣れた道でも、工事があってコース変更しなければならない場合とか、昼走った事があっても、夜に走ったら印象ががらりと変わって迷ってしまったり、とかありますから」
「あぅ〜っ、それじゃあ、埼玉県の地図〜」
「待て、どさくさに紛れて何を入れようとしている」
「あぅ?」
「そこで、心底不思議そうな顔をするな!」
「でも、これさえあれば、日本中どこに行っても迷わないって」
「それは漫画の話、しかもギャグだ! 本気にするな!」
「それじゃあ、こっちの地図……」
「それは高速道路マップだ! 原付も一緒のツーリングで、どうやって走るつもりだ。料金所、通過できないだろ」
「? すごいスピードで、うむをいわせず……」
「だから、それは漫画の話だ! 誰だ、こいつにアレを読ませたのは!?」
「北川が貸してくれたよ」
「あいつか……」

 えーと、何だかよく分かりませんが、そういう漫画があるみたいです。
 ともあれ、埼玉県の地図と、高速道路マップは、『いらないもの』、いえ『どうでもいいもの』の段ボールに入りました。

「後は、ウェスと工具類。工具は、必要な物を選んで載せればいいですが、以外と必要になる針金やガムテープ、ビニールテープの類は忘れやすいので、気を付けた方がいいです」
「確かに針金が無くて、折れたレバーの対処に苦労した経験はあったなー」

 工具類も『いるもの』に追加、と。

「あぅ、バットは?」

 真琴?

「さすがに、ツーリングにオイルバットを持って行く人は居ないと思いますよ」
「オイルバット?」
「えーと、整備に使う受け皿ですけど……」

 不思議そうに首をひねる真琴に説明するのですが、違うんですか?

「あはは〜っ、真琴さんの言っているのはこれのことですか〜」

 と、倉田先輩が持ち出して来たのは……
 金属バットでした。

「なぜ、そんな物がここに……」

 おおげさにおののく相沢さんに、笑顔で倉田先輩が説明してくれました。

「舞と佐祐理は、女の子の二人暮らしですから、粉砕バットは護身の為に必需品なんですよー」
「粉砕バット?」
「あ、それはですねー」


『舞ーっ、天ぷら揚がったからバット(天ぷらバット)持ってきてー』
『はちみつくまさん(金属バットを持ってくる)』


「ということがありましてー。区別するために名前を付けざるを得なかったんです」

 どんなコントですか、一体……

「祐一さんが一緒に住んでくれれば、こんなもの必要ないんですが」

 と、『いらないもの』の段ボール箱に金属バットを入れる倉田先輩。
 地元の大学に進学した倉田先輩は、川澄先輩と一緒に部屋を借りて、家を出たのですが。
 お二人の借りたこのマンションには、『ゆういちさんのへや』があって、相沢さんが大学に進学したら同居を考えているというお話ですが、この分ですと割と本気らしいですね。

「いや、護身だったら、舞一人居れば十分……」
「三食完備に寝所提供。今なら舞の他に佐祐理が付いてきます」
「男のロマン完備の好条件!?」

 確かに、条件良すぎですね。
 ……真琴、私の手をそんなに引っ張らないで。
 例え、真琴に私を付けてみた所で、このお二人には勝てませんよ。

「それじゃあ、祐一さん……」
「だが断る!」
「あぅ、岸辺?」

 真琴? それは誰ですか?

「佐祐理さん、甘やかしすぎは人をダメにしますよ。佐祐理さんが居ないとご飯も食べられないような男になったら、佐祐理さんもイヤ……」
「あははーっ、それなら佐祐理の望むところですよーっ!」
「セリフを遮って即答!? 佐祐理さん、俺をどれだけ堕落させたいんですか!」
「最終的には舞と佐祐理無しでは生きていけない所までですねー」
「俺をヒモにでもしたいんですか!?」

 もう、グダグダですね。

「あぅ〜っ」

 ……いじけて、自分から『いらないもの』の段ボール箱に入ってアピールする真琴が可愛かったです。



To be continued




■ライナーノーツ

 今回のサブタイトルは、ウッチャンのコント、『小須田部長』から。


 粉砕バットなどの元ネタは、マンガ『究極超人あ〜る』ですね。

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