この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
こつ、こつ、とヘルメットのバイザーに当たる白いもの。
冷えるな、と思ったらアラレですか。
最初、ぽつぽつと降っていたそれが、にわかにザーッと降り注いで。
まぁ、ヘルメットのバイザーがありますし、ジャケットとグローブは、一応、防水。
路面の凍結も無いし、このまま走り抜けても問題はないと思うのですが……
「いたっ! いたっ! うぐぐぐぐぅ〜っ!!」
……あゆさんのこと、忘れていました。
美汐のスクーター日記
『あられやこんこん まめこんこん』
とりあえず、国道沿いの喫茶店に避難して。
窓の外には、私のJOG−ZRと、あゆさんのチョイノリ、相沢さんのアクシスが並んでます。
そして、灰色の空からは、吹き付けるアラレの嵐。
「……このままミゾレに変化して、積もったりしないよな」
そう呟くのは相沢さんでしたが。
「天気予報では晴れでしたから、一時的なものだと思いますよ」
あと、この道は何度も利用しているので、地形的にここの一帯は天気が崩れやすいということを知っていますから。
このアラレも局地的なもので、帰れなくなるほどではないと経験上、判断できます。
「う、ぐぅ……」
「お、復活したかあゆあゆ」
蒸しタオル、と言いますか、ここの喫茶店は、冬は蒸したおしぼりを出してくれるのですけれど、それを口元に当てていたあゆさんがようやく顔を上げてくれました。
「まぁ、セミジェットは手軽でいいんだが、こういう場合はなぁ」
あゆさんのヘルメットはセミジェット。
バイザーは付いていますが、口元までは覆っていません。
文字通り雨アラレと降ってくるアラレにビシバシ直撃されては、それはたまったものではないでしょう。
「そうですね。私も昔使っていて、出先で雪に降られて酷い目に遭ったことがあります」
とりあえずはバンダナで口元を覆ったのですが、濡れ雪だったので、すぐに濡れてしまいましたし。
「あの時は雪が酷くなる一方で。走れなくなる前に帰らなければならないので必死でしたし、とにかく辛かったですね」
ジャケットもグローブも今のように防水透湿素材を使った本格的な物ではありませんでしたし。
雨具も簡単なものしか持っていませんでしたから、びしょびしょになって凍えながら、ガソリンスタンドで給油しましたっけ。
……口元にバンダナを巻いたまま。
今思うと西部劇の強盗みたいな格好でしたね。
「大丈夫ですか、あゆさん」
私の声に、口元を押さえたまま、ふるふると首を振るあゆさん。
「うむ、文字通り、うぐぅの音も出ないみたいだな」
したり顔で頷くのは相沢さん。
人が苦しんでいるというのに、全く容赦がありません。
まぁ、大事が無いと分かっているからこそのことなのでしょうけど。
「う、ぐぅ……」
これ以上黙っていては何を言われるか分からない、と思ったのか無理矢理呻くように声を絞り出すあゆさんでしたが、相沢さんは何故か悲しげな表情を作ってみせて、
「あの稲妻みたいな『うぐぅ』がこんなんなっちまって…… こんな見る影もねぇ程ボロボロによぉ……」
「あぅーっ、カーロス〜」
……カーロスって誰ですか?
パンチドランカー?
って、また漫画か何かですか。
「見るんじゃねぇ! 出て行け。ここは女の来る場所じゃねぇ!」
あゆさんをかばうように叫ぶ相沢さんでしたが……
喫茶店で何を言っているんですか、この人は。
あゆさんが反論できないからと言って、ここぞとばかりにやりたい放題しますね。
「大体、アラレは2秒前の自分を狙うんだから、きっちり避けろよ」
「うぐぅ……」
無茶を言わないで下さい。
「あぅーっ」
……真琴も信じないで。
ため息混じりに外に目をやると、強い風にコツコツと窓に当たるアラレ。
「しかし、冷えますね」
「あぅ〜っ、きしょうちょうは何をやっているのよぅ!」
真琴、気象庁がいくら頑張っても、暖かくなったりはしないんですよ。
To be continued
■ライナーノーツ
不意のアラレ。
良い装備をしていると、こんな中でも走行を楽しめますし、そうでないとあゆあゆのようにヒドイ目に遭います。
バイク用品は値が張りますが、お値段分の価値はあるんだな、と思える瞬間ですね。
まぁ、昔の美汐のように、ある物でやりくりして切り抜けるのも、後から考えるとまた楽しい思い出となるものなのですが。
特に大判のバンダナは一枚持っておくと様々に活用できて便利です。
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