この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
 バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。



「絶景、ですね」

 目の前に続くのは、海に面した断崖絶壁を縫うように走る道路。
 歩道などもなく、ガードレール代わりに張られたワイヤー越しに遙か下、白波を立てて岸壁にぶつかる海面がよく見えます。
 所々、道が崩れて走行が制限されていたり……

「相沢さん、大丈夫ですか?」
「ああ、いきなり奇声を発して、踊り出したくなるほど大丈夫だぞ」

 ……いきなりテンパってますね、相沢さん。



美汐のスクーター日記
『Blue Water』



「顔色、凄いことになってますよ、相沢さん」

 展望台のある駐車スペースに、相沢さんのアクシス、倉田先輩と川澄先輩のフュージョン、そして私のJOG−ZRを停めて。
 今日は、先輩方と一緒に某半島にある水族館に行って参りました。
 その帰り道、行きとは違った道を走りたいということで、海岸沿いの道路を通ったのですが、高いところが苦手な相沢さんには相当に酷なことだったようです。
 ふと横を見れば、高所を飛ぶ海鳥と併走していたり。
 なかなか楽しめる道だったのですが。

「積丹半島とか有名な観光地に比べたって、これはないぞ」

 名の通った観光地ですと道路整備が進みますが、海岸沿いの険しい道を良くしようとしますと、自然とルートは内陸側に、トンネルを通して造られます。
 その結果、トンネルの多い、景色の悪い道が出来上がるわけで。
 それよりは、ここのようにマイナーな土地の方が面白い道が残されていてお勧めですね。

「祐一さん、大丈夫ですかー?」

 心配されるのは倉田先輩。

「祐一は軟弱」

 川澄先輩はいつもどおりですね。
 相沢さんは展望台の方に近づこうともしませんから、反論のしようが無いようです。


「それにしてもシロクマさん、可愛かったですねー」

 さりげなく話題の転換を図るのは倉田先輩でしたが。
 確かにあれは可愛かったですね。
 今日行った水族館では人工降雪装置を入れているのですが、それがよほど嬉しいのか、前足で一生懸命雪を掻いたり、掘った穴に顔を突っ込んだり、そのままぐりぐり体を押し付けて、でんぐり返しに雪山からずり落ちたり。
 写真にも収めましたし、帰ったら、真琴にも話してあげないと。


「ペンギンさんも可愛いかった」
「ちょうど、係のお姉さんが餌をやっている所、見れて良かったねー」
「すごい眉毛……」
「あははーっ」

 イワトビペンギンでした。

「まーいー」

 胸をそらして顔を上げ、後ろに下げた手をパタパタと振って、川澄先輩に向かってペンギンのまねをする倉田先輩。
 年上の方なのに、こんな仕草も似合っていますね。
 横を見ると相沢さんも見とれています。
 主に突き出され、強調された『胸』に。

 ……自分の体を見下ろすと、悲しい気持ちになりますが、それはさておき、

「倉田先輩。それはオスがメスに求愛する為のポーズですが」

『恍惚のディスプレイ』と言いましたか。
 そうやってメスに自分をアピールするのだそうです。

「そういえば、水族館でもメス同士でつがいになってるカップルが居るって話だったなー」

 ぼそりと呟かれる相沢さん。
 ペンギンは、一度カップルになると生涯をそのカップルで過ごすと言われているのですが……
 大丈夫なのでしょうか?

「舞とだったら、佐祐理はオーケーですよーっ」

 一層激しくパタパタする倉田先輩。
 川澄先輩は、いつものクールフェイスでしたが、微妙に顔が赤くなっています。
 ちらりと、相沢さんの方を見るのは、困って助けを求めているのでしょうか?
 でも、それを見た倉田先輩は、納得された様子でぱん、と手を合わせて、

「ああ、それじゃあ、舞も一緒に……」

 川澄先輩の耳元に何事か囁かれます。
 そして、

「祐一……」
「あははーっ」

 二人揃って相沢さんに向かって求愛のポーズ。
 川澄先輩は、倉田先輩より更に凄いスタイルの持ち主ですから、それはもう強力なインパクトがあります。
 加えて、その恥じらいの表情は反則です。

「げふぅ!?」

 お二人の合体攻撃を受け、ひとたまりもなく沈む相沢さん。
 これは、仕方がないと思います。

 でも、楽しげに笑う倉田先輩の視線がこちらに……?

「仲間はずれはいけませんねーっ」

 胸を突きだし、ずい、と迫る倉田先輩。

「はいっ!?」

「美汐もやる」

「ええっ!?」

 いつの間にか、反対側に回り込んでいる川澄先輩。
 圧倒的な迫力に、思わず自分の胸を掻き抱いて後ずさるのですが。

「そんな風に怯えた表情をされると、佐祐理も変な気持ちになってしまいますねーっ」

 笑顔で何を言っているんですかっ!?

「はちみつくまさん」

 川澄先輩までッ!?

「あははーっ」

 笑顔で迫る倉田先輩。

「………」

 無言で距離を詰めてくる川澄先輩。
 身長差がありますから、ちょうど目の前に胸が……


「あっ……」

 ぎゅむっ。



 ……柔らかかったです。
 ええ、とても。



To be continued



■ライナーノーツ

 水族館のモデルは、秋田県にある男鹿水族館GAO
 シロクマやナマハゲダイバーが人気です。

 サブタイトルの元ネタはもちろんこれ。

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