この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
 バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。



「おい、早くしろ」
「分かってる。こんなロック、すぐに壊してやるって……」

 カタン……

「っ!? 誰か来た!!」


『ひとのバイクを盗もうとするホジナシども、わたしたちが相手よ!』


『『『『『豪石(ごうしゃく)!!』』』』』


 カッ!!!


『キリタン・ソード! 比内地鶏クラッシュ!!』

「うべらっ!?」

『ブリコガン! 男鹿ブリコショット!!』

「ふべべっ!?」


「わわっ、凄いですっ! 何も無いのに人が飛んでますっ!?」
「うぐぅ? 栞ちゃん、あの子達のこと、見えてないの?」
「えっ、何がですか?」
「だから、ウサギの耳を付けた、小さな女の子……」


『カマクラ・ナックル! 横手豪雪パンチ!!』

「ぎゃぶーっ!?」



美汐のスクーター日記
『盗難対策』



「……で、バイク泥棒どもを吹っ飛ばす、うさ耳つけた小さな女の子を見たと」
「うんっ! でも、栞ちゃんには見えないみたいで……」

 勢い込んで話すあゆさんでしたが、相沢さんはと言うと、本当にやる気なさげに川澄先輩に振ります。

「だ、そうだが、舞」
「この前、ネイガーショーを見てから、あの子達の間では『超神ネイガー』が流行」
「あははーっ、この前、道の駅でやっていたお子さん向けのヒーローショーですねーっ」

 この間のツーリングの途中、目にしたあれのことでしょうか?
 小さなお友達と一緒に、川澄先輩の目も釘付け、みたいな感じでしたが。
 しかし、それとバイク泥棒を退治したという人影に何の関係が……

「まぁ、あゆの空耳ということで……」
「耳は関係ないよっ!」
「ともかく! バイク泥棒には気を付けないとな、天野」
「はぁ……」

 何か、無理矢理お話を逸らしているのがバレバレですが。
 アイコンタクトで『話を合わせないと、ヒドイ目に遭わせるぞ』と脅迫するものですから、仕方なく応じます。
 この辺、私も慣らされてしまったものですね……

「確かに、それなりの対策が必要ですね。キーシャッターに、U字やワイヤーロック、バイクカバーにアラーム、究極的にはココセコムまで、色々とありますけれど」
「ココセコム?」
「発信器で、バイクが盗まれた場合に追跡できるというサービスですねー。佐祐理のフュージョンにも積んでいるんですよー」

 さすがブルジョワ、と呻く相沢さん。
 ココセコムには、初期導入費用とサービス費用がかかりますからね。
 でも、

「倉田先輩のフュージョンは人気の高い車種ですから、それぐらいのグレードのセキュリティは必要でしょう」
「まぁ…… プロの窃盗団にかかると、それでも不安って話だからな」

 ココセコムの反応を追って現場に急行したものの、エンジンなどの主要部品を盗まれ、無惨な姿になった愛車が…… ということも、実際あるそうですから。
 スクーターの場合は、外装を外す手間がありますから、少しは時間が稼げるとは思いますが。

「うぐぅ、それじゃあ、ボクのチョイノリも……」
「いや、チョイノリを狙うようなプロの窃盗団なんて、居ないと思うぞ」

 まぁ、そうでしょうね。
 プロは、それなりのメリットがないとターゲットにしないでしょう。

「あゆさんの場合でしたら、相手は素人、それも悪戯防止をメインに考えた方がよろしいでしょう。鍵穴への悪戯を防止するキーシャッターに、U字ロックかワイヤーロック」
「そうだな、チョイノリは軽いから持って行かれないよう、U字かワイヤーで地球ロックしておくのがいいな」
「地球ロック?」
「ポールなどの固定物につないでおくことですね。それと、こういったロック類は、地面に接していると簡単な工具で破壊されてしまいます。必ず、地面から浮くようにしないといけません」

 この辺は、基本ですね。

「あと、鍵の類は、目立つ色の方が良いですね。セキュリティに気を付けているということをアピールすることは、防犯に効果がありますから」
「それに、外し忘れも防げるからな」

 苦笑する相沢さん。
 ご経験があるようですね。

「ディスクロック…… ブレーキのディスクに付ける鍵などは、小さいので忘れやすいようですね」

 外し忘れて走り出そうとして破損、という話はたまに聞きます。
 これを防止するには、取付の際、ブレーキキャリパーのすぐ横に付けることです。
 こうすれば、勢いを付けて、ディスクロックをキャリパーに叩きつける、ということがなくなります。

「後は、駐車する環境に合わせて、バイクカバーをかけるかどうかだな」
「はぇ? カバーは、バイクを雨から守るために使うものじゃないんですか?」
「いや、それだけじゃないぞ。車種を特定させない、というのは結構重要だし、悪戯を防止できるからな」
「そうですね、倉田先輩のお家のように、個人のガレージに入れられるなら別ですけど、不特定多数の人間が出入りできる場所や、外から見える場所に駐車する場合は、気を付けた方が良いです。マンションの地下駐車場なんかも、実は目が届かなくて危険な場所ですね」

 バイクに限らず、車上荒らしや車の盗難などもあるそうですし。

「でも、美汐はバイクカバーを使っていない」

 川澄先輩のお言葉に、少し考えてからお答えします。

「駐車場所が、外からは見えない敷地内ですから」

 まぁ、それでも盗まれる時は盗まれるものですから、油断は禁物なのですが。
「相沢さんのアクシスもそうなのですが、最近のYAMAHAのスクーターには、キーシャッターと後輪ロックが連動した、Gロックという装置が付けられています。ですから、盗もうとする場合、トラックと台車が必要となります」

 つまりは、プロか、それに類する組織的な犯行が必要ということです。

「しかし、民家に忍び込んで盗み出した上、このGロックとメインキーを解除して走れるようにする…… という手間をかけるほどのメリットが50ccスクーターにあるのか、というと、プロならもっと美味しいターゲットを狙うのが普通です」
「だけどそれ以外、中高生とか珍走の連中には人気高いだろ、天野のZRは」

 珍走…… 最近は、暴走族を珍走団と呼ぶそうですね。
 この辺でも、少数ですが生息しているそうです。

「そうですね。しかし、その場合、相手はプロと違ってGロックやメインキーを解除できるだけの能力を持たない訳ですよね」
「……となると、後は部品泥棒か」
「ええ、その場で部品を盗もうとするような手合いには注意が必要です。でも、ZRの特徴である、リアスポイラーやマフラープロテクターは取り外して、前カゴや、荷台を付けています。盗まれるとしたらせいぜいエンブレムか、クリアウィンカー…… その程度なら諦めもつきます」

 もちろん、愛車を傷つけられるのは嫌ですが、この辺は、普段の使い勝手とのトレードオフです。
 ともあれ、

「一口に防犯と言っても、車種や駐車場所の環境などによって、危険度は様々です。ですから、犯人の立場になって考える想像力が必要です」

 たとえば先ほどの私の考え方も、治安が悪い場所ではまた話が違ってきます。
 アラーム等の追加が必要となるでしょう。

「逆に、最初からセキュリティの優れている車種を選ぶとか。不人気車も、狙われにくいという点ではいいかもな。セキュリティに気を使わなくてもいい、というのも立派な性能の内だぞ」
「そう言う意味では、カスタムされたスクーターなんて、その辺にうかつに停めておけないそうですから」

 部品泥棒には格好のターゲットですし。
 原付スクーターを狙うような層の人間は考え無しだけに、白昼路上で堂々と盗みを働いたりと、何をするか分かりませんからね。

「後は盗難保険、という手もあるけど、愛車を盗まれたという精神的な被害は補償してくれないしな。取れる対策はできるだけやっておくのがお勧めだぞ」

 そう、相沢さんが締めくくりました。



 そして、その日の晩……

「はぇ? 舞、こんな遅くにどこに行くの?」
「私は、バイク泥棒を討つ者だから……」
「あ、危ないから止めようよ」
「ぽんぽこたぬきさん。あの子達だけずるい」
「ずるいって、舞? 舞〜っ」



To be continued



■ライナーノーツ

『超神ネイガー』は、実在のヒーロープロジェクトです。
 主題歌を歌うのは水木一郎大先生。

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水木一郎

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