この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
「ゆーいちくーん!」
ヒョイ
「うぐっ!?」
ズシャアアアアッ!!
「………」
「どうしたあゆあゆ? また何もないところで転んだりして」
「うぐぅ〜っ! 祐一君がまたよけた〜! バレンタインなのによけた〜!」
「いや、バレンタインは関係ないだろ」
「だって、チョコ…… あれ、チョコは?」
「……これのことでしょうか?」
「あ、そうそう、ありがとう美汐ちゃ…… ん?」
「……タイヤの跡、くっきりだな。IRCのMB90か」
沈黙。
「うぐぅ〜〜っ!!?」
美汐のスクーター日記
『チョコレートは砕けない』
「うぐぅ〜」
「天野…… いくら嫉妬したからと言って、他の女の子のチョコをスクーターで轢いたりするのはどうかと思うぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! そんなこと、わざとするわけないじゃないですか!!」
いつもの相沢さんのおふざけとはいえ、そんな極悪人に仕立て上げられてはたまりません。
純真なあゆさんが信じたりしたら、どうするんですか!
「スクーターで走っていたら、いきなり目の前にそれが放り出されたんです。あのタイミングでは止まるのも避けるのも無理ですよ!」
「いや、天野の腕なら……」
「無理ですって」
本当に、この人は……
暖冬で道路に雪が無いとは言え、所々凍っていたりする可能性もあるのですから。
特に、ここのように路面が濡れていると、ブラックアイスとの見分けが付きにくく、急な制動は命取りになりかねないんですよ。
あゆさんには気の毒なことをしてしまったことに変わりはありませんから、謝らないといけないとは思いますけど……
でもあゆさん、ほっとした様子で、
「うぐぅ、良かった、中身は無事だったよ」
……はい?
「はい、祐一君」
そう言って、満面の笑顔で真っ黒な塊を相沢さんに差し出すあゆさん……(大汗)
「って、待て待て待てっ!」
当然ですが、相沢さん、退きまくっています。
「天野のサイクロンアタックを食らっても砕けないようなチョコを、食わせる気かっ!」
「さいくろんあたっく?」
手強い敵はバイクで轢き殺す……
仮面ライダーの必殺技なのだそうです。
相沢さんや真琴とつきあっていますと、こういったムダ知識が増えますね。
「うぐぅ……」
「そんな顔をしてもダメだ。ショッカー怪人より硬いチョコなんて食えるか!」
……大体、前の碁石クッキーよりグレードアップしてるし。
ぶつぶつと続ける相沢さん。
仰ることも分かりますが、あゆさんの気持ちも汲んでいただかないと。
「あゆさん、手、擦り剥いたんじゃないですか? 怪我してますよ」
敢えて、知らない振りをしてそう言います。
「うぐっ!」
案の定、慌てて両手を隠すあゆさん。
そんなに顔を赤くしてはバレバレですよ。
「はぁ……」
仕方がないな、とでもいうように苦笑する相沢さん。
あゆさんの両手の傷、今付けた物ではないことに気付いて下さったようです。
軽く、私をにらみ付けてから、
「よこせよ、あゆ」
そう言って、あゆさんの腕を引き寄せて。
あゆさんの指ごと、チョコを頬張ります。
「う、うぐぅ」
天下の公道で、そこまでやりますか。
さすがは相沢さんと言うべきでしょうか?
素でこういうことをするのですから、この人は……
「うん、まぁチョコと思わず飴玉と考えればいいのか。ビターな所が『初めて』の味だな」
そうして、もう一つ手にとって、
「天野もどうだ」
って、そのまま口の中に放り込まれます。
「……っ!?」
突き抜ける衝撃。
にがっ、苦すぎますっ!!
「んん〜 どうした天野〜?」
思わず吐き出しそうになる私を押さえ込み、ソレを指ごとねじり込む相沢さん。
それはもう、楽しそうに、満面の笑顔で。
し、仕返しですか? 仕返しなんですね!
舌を、味覚を無理やり犯される感覚に、涙が出てきます。
「!? 〜〜っ!! 〜〜〜っ!!!」
こ、こんなの酷過ぎますっ!
「んんっ、ぷはっ!!」
ようやく身をひねって、相沢さんの攻撃から逃れる私。
抗議しようとして……
「う、うぐぅ……」
頬を真っ赤に上気させているあゆさんに気付きます。
その視線の先には、私と相沢さんが居て、
「あ……」
涙目で、相沢さんの腕の中で喘いでいる私。
相沢さんの指は、私の唾液で濡れていて……
「うぐぅ、二人とも、何だかすっごくえっちだよ」
「なっ…… ち、違うんですあゆさん、これは違うんですっ!」
「俺に抱きつきながら言っても、説得力が無いぞ」
「だっ、誰のせいで腰砕けになっていると思うんですっ! 大体、何で他人事なんですかっ!!」
……視界の片隅に映るのは、忠犬のように佇んでいるJOG−ZR。
ハンドルロックのため首を傾げて、コンビニフックに相沢さんへのチョコを下げ私達を待つその姿が、困っている風に見えるのは気のせいでしょうか?
降り始めた雪が、風景を白く染めていって……
それに気付かなかった私が帰り道、酷い目に遭ったのは、また別の話ですね。
To be continued
■ライナーノーツ
美汐のJOGはこれを履いています。
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