この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
「うぐぅ……」
お招きいただいた、あゆさんのお部屋……
そこで対面することになったのは、今時珍しいぶたさんの貯金箱。
それを抱えるあゆさんの表情は真剣で。
「そのお金で、買えるだけの防寒具ですか」
「うんっ」
そのギャップが、何とも言い難い雰囲気を醸し出していました。
美汐のスクーター日記
『倹約式防寒対策』
いつものダッフルコートでチョイノリを乗り回していたあゆさん。
寒さに弱い私は、大丈夫なのかと首をひねっていたものでしたが、決して寒くないわけではなかったようです。
まぁ、先日の雪中ツーリングで懲りたということもあるのでしょうが。
あの時はあゆさん、最後には羽根リュックを前に着けるような真似までして耐えていましたし。
ともあれ……
あゆさんが大事にしているぶたさんの貯金箱を割ってしまうのも忍びないため、信頼できる第3者…… 今日たまたまご一緒していた名雪さんの立ち会いの元、裏技で中身を取り出します。
(方法は、良い子(あゆさん)の夢を壊さないためにも内緒です)
出てきたお金を合わせてみると合計金額1,943円……
これは、ユニクロの利用も厳しいラインですね。
ダイソーやホームセンター、労働者の味方ワークマンなどといった所です。
フリマの活用というのも有りでしょうが、生憎近日中には開かれる予定がありません。
「とりあえず、あるものの活用を考えましょう」
他人のクローゼットを開けて吟味するのも何ですが、この際致し方ありません。
「化繊のハイネックシャツがあるじゃないですか。肌着はこれで……」
「うぐぅ? シャツも選ぶの?」
「はい、防寒の基本はレイヤード……重ね着です。まず一番下になる肌着は、肌にぴったりとし、なおかつ締め付けないものが良いです。あと素材は……」
あゆさんが持っている靴下を2足並べて答えます。
もちろん、長く、厚手の方がよろしいのですが……
「綿などの自然素材は一見暖かそうですが、乾きにくい為、汗をかくと冷えてしまいます。ですから速乾性の素材がよろしいのですが…… でなければせめて、化学繊維のものを選びます。混紡も、綿30%ぐらいまでならいいですね」
「そうなんだ……」
名雪さんも、感心されたように仰います。
「そういえば、お母さんがヒートテックの下着、祐一の為に買ってたね。ボクサー…… とか言う形の?」
「なっ!」
「うぐっ!?」
いきなり、何を言われるかと思えば……
でもご当人は「どうかしたの?」とでも言いたげな表情。
どうも名雪さん、母子家庭で育ったせいか、男性の家族に対する距離感というものが今ひとつ掴めていないご様子です。
と言いますか相沢さん、慕われているようでいて、実は異性として意識されていないのでは?
お父さん扱い?
「う、うぐっ、ボクサー……って?」
こちらはしっかり意識している様子のあゆさんですが、真っ赤になりながらも聞きますか、ソレを。
ちなみにヒートテックというのは、ユニクロの肌着に使われている断熱性に優れた暖かい素材です。
お値段相当の性能しかありませんが、日常で利用するには、これぐらいの方が良いです。
これ以上高性能、高価な登山用などでは手洗いが必要だったりと扱いが面倒ですから。
……聞くならこっちにして欲しかったです。
閑話休題
前段のお話は、名雪さんに答えていただきました。
その代わり、相沢さんの下着事情まで聞かされてしまいましたが。
と、とにかく寒い時期の肌着は、化繊素材の身体にフィットしたものの方が良いということですね。
「でも、最強はブルマーだと思うよ。厚手だし、腰回りをぴったりガードしてくれるし、トイレに行く回数が全然違うもん」
名雪さん……
「次はミドルですね。ウールのタートルネックがありますから、これがいいでしょう。首筋を守るのが一番重要ですから」
首筋が冷えると、身体が末端への血液の流れを絞るよう調節しますから、その結果手足が冷え込むわけで。
ですから身体の冷えは首筋の防寒、例えばマフラー一つで大きく変わります。
寒くて眠れない時は、首筋にタオルを巻くと良いと言いますし。
他にも、手首、足首など、首と名前が付く部分は要チェックですね。
「で、問題のアウターですが、まず常に風に当たるのですから、風を通さないことが大前提です。素材はもちろん、造りもやはり重要で、前の合わせはファスナーとフラップの2重のシールが基本です。剥き出しのファスナーは意外と風を通しますからね。ポケットなんかも同様です」
スクーターだと関係ありませんが、バイクの場合はファスナーが剥き出しだったり、金属のボタンなどが使われていたりすると、タンクが傷だらけになりますしね。
「次は、首筋が守られていること」
襟が高く、風が入らないもの。
内張がボアだったりすると暖かいです。
ただし、あまり襟が高すぎるとヘルメットに干渉しますから、注意が必要ですけどね。
「そして、袖口が守られていること。ライディングジャケットのように、ゴムによる絞りをマジックテープで調節できるものが、風を通さず締め付け過ぎずで具合が良いです。リブはよほどしっかりした製品でないと、風を通してしまうので向きませんね」
この辺は、グローブとの組み合わせも考えて選ぶべきでしょう。
「もちろん、バイクに乗った姿勢で、袖や裾の丈が十分あることも重要です。バイク用はその辺が考えられて裁断されてますが、釣り具屋で扱っているものも、座った状態を考えて作られているため、なかなか具合が良いそうです」
まぁ、プロテクションを考えたら、素直にバイク用を買うべきなのでしょうが、何より値段が張りますからね。
「あとは風によるばたつきがないことですが、特にフードは取り外せるか、きちんと畳んでしまえるかしないとダメです」
「うぐぅ?」
「走行の風で、首吊り状態になりますから」
時速100キロで走行中、畳んであったフードが突然ドラッグマシンのブレーキパラシュートのごとく広がり、死ぬ目にあったという方も居ますからね。
いずれにせよ、あゆさん御用達のダッフルコートは完全に向いていないということになります。
チョイノリは最高でも40キロオーバーがせいぜいですから、防寒の面に限っては本格的なライディングジャケットは要らないでしょうが、ユニクロのエアテックジャケットぐらいは必要でしょうか。
あれなら、街着として普段も利用できますし…… って、予算は1,943円でしたね。
仕方ありません。
「やはりアウターは、雨具を流用すべきでしょう」
アウターで防風性さえ確保しておけば、後は中に着る物で保温性を確保すればOKです。
そういう意味で、雨具は工夫次第でかなり使い勝手の良い防寒具に化けます。
あゆさんの持っているレインスーツは、結構デザインが良かったと思いましたから、外見的にも問題ないでしょう。
「うぐぅ…… ズボンも?」
あ、そういえば、ボトムもよく問題になりますね。
レインスーツの下でもオーバーパンツでも、履けば暖かなのは分かっているのですが、スクーターに乗っている間はともかく、そのままの格好で歩き回る気にはなれません。
スクーターを下りたら脱ぐというのも手で、着脱し易いよう色々と工夫された商品も見かけますが、どれも高価で、多少なりとも手間がかかったり人目が気になるのは事実。
その点、ユニクロのエアテックパンツが人気を博しているのは、安価なのはもちろん、オーバーパンツなのに、そのまま街を歩けるようなデザインが受けているのだと私は思います。
「ジャージを下に履いたらどうかな?」
そう言われるのは名雪さん。
「今の制服だとスカートの丈が短すぎてできないけど、中学の頃、裾をまくったジャージを下に履いて学校行ってたよ」
……また、男性には聞かせられないお話ですね。
今日は本音トークが炸裂の名雪さん。
まぁ、中学の頃は、私の同級生でも運動部系の女子は、そんなことをやっていた記憶がありますが。
「確かに大きめのパンツの下にアンダーパンツを履くというのも手ですが、防風性が無いとスクーターでは辛いですよ」
風防がある分だけ普通のバイクに比べれば楽ですが、完全に防げるモノでもなく、特に膝上は、風防の恩恵からはみ出ちゃいますからね。
膝などは、風を通さないサポーターがあると楽なのですが。
お金をかけるなら、ゴアウィンドストッパーのアンダーパンツを下履きに、普通のパンツを履くというのも有りですが、今回は却下でしょう。
「やはり格好を気にせずレインスーツの下を着るか、パンツの重ね着で我慢するか、場合によって使い分けるのがよろしいかと」
レインスーツは軽量ですから、履かずとも持ち歩いておけば、耐えきれなくなった時点で着込めばいいでしょうし。
不満なら、またお金が貯まったらエアテックパンツなり何なりを購入すれば良いでしょう。
「後はグローブ。これだけはバイク用がいいでしょう。操作性、防風性が違います。選ぶときは、アウターの袖口との相性を考えます」
これが良くないと、袖口から風が入って、寒い思いをします。
一番良いのは、長めの裾を持つグローブを買って、中にアウターの袖を入れてしまうことなんですけどね。
「うぐぅ、でもバイク用グローブって高いんじゃ……」
「この辺は、バーゲン品を狙うしかないですね。でも一番安くて暖かなのはハンドルカバーなんですよ。これなら夏用のグローブで大丈夫ですし」
私も、本当に寒いときには、YAMAHAのスポーツタイプのハンドルグローブを使っています。
これはかさばらず、着脱が簡単にできるのが良いです。
「後でお店を回って、どちらか良い品がある方に決めましょう」
「うん、そうだね」
今時分は、冬物のバーゲンもやっていることですし、限られた予算でも何とかなってくれるでしょう。
「ブーツはもちろん、最低でもくるぶしまではある防寒の物」
これはあゆさん、丁度良い靴をお持ちでしたね。
「後は小物として、ネックウォーマーかマフラーを。ネックウォーマーの方がかさばりませんが、マフラーの方が応用が利きます。この辺は……ああ、フリースのマフラー、持っていらっしゃるんですね」
ならマフラーで決まりでしょう。
これで、首筋から口元を覆うと良いです。
あゆさんのメットは、セミジェット。
バイザーがある分、半キャップ等よりマシとはいえ、フルフェイスや一流品のジェットのように口元まではガードしてくれませんから。
ちなみに、マフラーの余った部分は巻き込み事故を防止するため、必ずジャケットの中です。
これは常識ですね。
これが守れないような人……
「ついうっかり」とかする可能性がある人は、ネックウォーマーにしておいた方が身のためです。
「まぁ、大体以上でしょうか。アウターをレインスーツにした関係上、ミドルにフリースを1枚くらい追加した方がよろしいかも知れませんが」
「うん、ありがとう美汐ちゃん」
どういたしまして。
私だってスクーターに乗り始めた頃は、ありものの服やコートを組み合わせ、試行錯誤したものでしたからね。
まぁ、それはそれとして……
「それでね、ブルマーであんなに効果があるんだから、スクール水着だったらもっと暖かだろうって試したことがあるんだよ」
「な、名雪さん?」
「確かに暖かかったけど、トイレの度に全部脱がないといけないのが盲点だったよ〜。寒いし、脱ぐのに時間がかかって危うく間に合わなくなりそうになるし(冷汗)」
「は、はぁ……」
「りょうばのけんって、こういうのを言うんだね。祐一の好きだったテレビ番組の…… ズバット・スーツ? 強いけど時間内に脱がないと大爆発、みたいな」
もう、何が何やら……
To be continued
■ライナーノーツ
こちらがズバットスーツ。
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