【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
最終話 終戦
「我が忠勇なるジオン軍兵士達よ。
今や地球連邦軍艦隊の半数が我がソロモン要塞の攻防で宇宙に消えた。
この輝きこそ我らジオンの正義の証である。
決定的打撃を受けた地球連邦軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。
あえて言おう、カスであると。
それら軟弱の集団がこのア・バオア・クーを抜くことはできないと私は断言する。
人類は、我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理、運営されてはじめて永久に生き延びることができる。
これ以上戦いつづけては人類そのものの危機である。
地球連邦の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん、今こそ人類は明日の未来に向かって立たねばならぬ時である、と」
「首都防衛大隊まで動員したのですね、兄上」
ア・バオア・クーの戦闘指揮所に戻って来たギレンを迎えたのは妹のキシリアだった。
「何故分かった?」
「白く塗られたFZ型ザクのBタイプが目に付きました。隊章であるSHIELD OF ZEONも」
Bタイプとは、ヘルメットを被った様な頭部を持つFZ型ザクのバリエーションである。
首都防衛大隊に、その多くが配備されていた。
「ああ、連邦軍には、ジオン本土をつく時間的余裕がないからな」
こうしている間にも、ジャブローにある地球連邦軍総司令部は、ジオン公国軍地球方面軍司令ガルマ・ザビ大佐配下のモビルスーツ部隊に脅かされている。
宇宙要塞ア・バオア・クーをやり過ごして直接サイド3本土に侵攻する作戦は時間的に無理で、連邦軍は、迅速かつ決定的な戦果を得るために、ア・バオア・クーを攻略するしか戦略の余地は残されていなかったのである。
それにしても、とキシリアは思う。
メイ・カーウィンという駒は、期待以上の恩恵をジオンにもたらしてくれたと思う。
先ほど話題に上ったFZ型ザクも、連邦のモビルスーツ、ジムに劣らぬ働きを見せてくれたし、何よりも、モビルスーツに脱出ポッドを搭載するという発想が、ジオンに、そしてキシリアに益をもたらしてくれた。
何しろ、彼女の案を切っ掛けに、人的資源というファクターに着目していなかったら、ジオンは確実に負けていたはずなのだから。
そして、キシリアは席に着いたギレンの後ろ姿を見やる。
この兄とは政治的に対立してきたが、自分より十歳も年上で、既に政治家として大成していた兄に、ジオン内で対するのは困難だった。
しかし、人的資源というファクターに着目し、他のサイドを攻撃目標から外したことで、キシリアは、兄の息のかかっていない市民を得ることができる様になった。
戦後は地球連邦を解体し、各コロニーの宇宙港の再建に協力することで、各サイドの政治的協力が得られるはずとキシリアは考える。
その時に有利になるのは、地球上と月面、二つの資源地を確保しているキシリアである。
そのために、キシリアは自身で月面のグラナダを、腹心の部下マ・クベに地球の資源を押さえさせたのだ。
これで、謀略に依らずとも、兄に対抗できる。
実際にそう上手く事が運ぶかどうかは不明であったが、少なくともキシリアはそのように確信していた。
「ニュータイプ部隊をS宙域へ展開。リックドムK型はその護衛にあてよ」
キシリアは駄目押しとばかりに配下のニュータイプ部隊を展開する。
リック・ドムK型、別名クルツタイプは、メイが手掛けたリック・ドムのもう一つのバリエーションだった。
元々はニュータイプ専用モビルスーツ、ジオングにおいて足の無いプランを実行するにあたり実験機としてリック・ドムを改装して作成された。
本来脚部に内蔵される熱核ロケットエンジンをスカート内に直接マウントしている。
急きょ作成した物であるにも関わらず良好な性能を示したため、そのデータがジオングに生かされた他、後継としてドム・バインニヒツが開発されることになる。
また、脚部の破損したリック・ドムを戦力化させるためにこのタイプに改装した例も報告されている。
宇宙空間戦用ではあるが、重力下でも推進剤がある間はホバー走行による活動も可能。
そして、宇宙空間戦闘でデッドウェイトとなる脚部を廃した分、推力比は上がっており、ニュータイプ部隊のジオングおよびモビルアーマー部隊に追従できる機体として活用されていたのだった。
宇宙世紀0079年12月31日。
地球連邦宇宙軍は、ア・バオア・クー攻略戦で壊滅。
同時に地球ではジャブローの地球連邦軍総司令部が陥落。
翌0080年1月1日。
一年戦争は終結を迎えた。
「メイ嬢、急がないと遅刻するぞ」
「う、うんいいよ、リューヤ」
防弾処置の施されたエレカーの後部座席に、メイ・カーウィン嬢が乗ったことを確認して、リュウヤ・タチバナ大尉はエレカーを出した。
終戦をソロモン要塞で迎えた二人は、戦後、ジオニック社に籍を置くことになった。
戦中、軍にメイが出向していたのが、逆にリュウヤがジオニック社に出向することになった訳だ。
戦後は復興の期間となったが、地球圏はギレン・ザビ単独による独裁には移らなかった。
ジオン国民こそエリートと考えるギレンに対し、復興のための資源地を押さえたキシリアが、宇宙港の再建を引き換えに他コロニーを自分の陣営へと引き込もうとしたのだ。
これは、結果としてスペースノイドを平等に扱う様にするものだった。
更に、地球において人心を集めたガルマ。
戦中、サイド1ザーンとサイド4ムーアを助けたため、ソロモン宙域を中心に人望があり、また軍内でも信望を集めるドズル。
ザビ家内部で微妙なバランスが取られ、そして、その隙間を縫って、旧ダイクン派であっても自由に活動ができるだけの余地が出来上がった。
そんな中、カーウィン家も持ち直し、メイも晴れて自由の身となったのだった。
それでもメイがジオニック社に残ったのは、彼女自身の才覚を惜しむ声があったからに他ならない。
戦術航宙偵察ポッドシステムをマウントしたガトルでメイの開発したモビルスーツのデータ取りを行い、それ以外では、ジオニック社の要人となったメイのボディガード役をリュウヤが務める毎日。
キシリアからリュウヤが受け取ったヴァルタP08−Mは、今もホルスターに入れて、常時携帯されている。
二人とも、充実した日々を送っている。
だが、メイには一つだけ不満があった。
「ねぇ、いつになったらあたしの呼び方から、嬢が取れるわけ?」
「そうは言っても、一回り以上年が離れているからなぁ」
宇宙世紀0080年現在、リュウヤが二十八歳、メイが十五歳である。
「これでも開発主任になったのよ! もう立派な大人なんだから!」
だから子供扱いして欲しくなかった。
「それは、周りも認めているだろう」
「周りはどうでもいいの」
メイはリュウヤにだけ、自分を見て欲しかったのだから。
「そうだな……」
リュウヤは考えを巡らす。
「メイ嬢がもっと成長して」
ハンドルを切りながら、紡がれる言葉。
「俺が、もう嬢と呼べないような歳になったら」
それは約束。
「その時、また考えよう」
今まで五年間、付き合っていると分かる。
注意深く、女性を名前で呼び捨てにすることをしないリュウヤ。
そのリュウヤが考えてくれるというのは……
「っ!」
メイは、顔が真っ赤になるのを自覚した。
そのまま夢見心地のまま、職場に運ばれる。
今日は、仕事にならないのは確実だった。
機動戦士ガトル 完
■ライナーノーツ
> リック・ドムK型、別名クルツタイプ
これは、こちらのサイトから。
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