【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第十二話 V作戦




 ムサイ級巡洋艦ファルメルは、ドズル・ザビの乗艦だったが、ルウム戦役での功績により、シャア・アズナブル少佐が譲り受けた艦である。
 そのファルメルに搬入されたモビルスーツを前に、シャア・アズナブル少佐は感慨深げに呟いた。

「これが、FZ型ザクか」

 赤く塗られた機体を前に、ジオニック社から出向してきたメイ・カーウィン技師。
 リュウヤ・タチバナ中尉を護衛に付けた、十四歳の少女の説明を聞く。

「はい、統合整備計画の適用によって生産された機体で、実戦データを元にして武装を含めて全面的に改修してあります。特にスラスターはF型の七十パーセント増しになっていて、そのお陰で1G重力下でも、一定時間、脚部推力を生かしてのホバリング走行ができるようになっています」
「それは凄い」
「ただし、推進剤の搭載量は従来と変わっていないので、全力で稼働すると、戦闘可能時間は半分になってしまいますけど」
「そこは、操縦する者の腕次第だろう」

 S型のザクで通常のザクの三倍のスピードで作戦行動をこなすと言われた、シャアだからこその台詞だった。

「あと、装甲がこれまでの超硬スチール合金から、チタン・セラミック複合材に変更されています。これのお陰で、メタルジェットのモンロー/ノイマン効果で装甲を貫通する成形炸薬弾はもちろん、ペネトレーター弾もほぼ効かなくなりました」

 実体弾での破壊は困難ということだ。

「武装も含めてって言いましたけど、右腰に三つ取り付けたハンドグレネードはともかく、新式銃の九十ミリザク・マシンガンMMP−80はまだ開発中です。だから、従来のMMP−78を使ってもらうことになりますが」
「その辺は、仕方ないだろう。しかし、新式銃は小口径化されるのだな」
「はい、いずれ現れる連邦軍のモビルスーツ戦を考えて、装弾数と集弾率の向上を目指しています」
「なるほど、連邦軍のV作戦については、私も話には聞いている所だ。ジオニック社もそれを意識したモビルスーツ開発を行っているということだな」
「はい」

 そこで、初めてリュウヤが口を挟む。

「そのため、少佐には、FZ型ザクを供給する代わりに、メイ嬢をこのファルメルに乗せて頂き、実戦データの収集をお許しいただきたいのです。そのための、私と戦術航宙偵察ポッドシステムを搭載したガトルです」

 ファルメルには、リュウヤのガトルも積みこまれていた。

「分かっている。カーウィン技師をよろしく頼む。タチバナ中尉」
「はっ」

 こうして、シャアの率いるファルメルは作戦のため、サイド3を出港したのだった。
 まさか、この航海で話に上がった地球連邦軍のV作戦に遭遇するとも思わずに。



 宇宙世紀0079年9月18日。
 地球連邦軍ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースは、シャアの部隊の奇襲により大半の軍人を失い、士官候補生や民間人達の手でサイド7、1バンチを出港しようとしていた。

「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを」

 そのホワイトベースの護衛に出た連邦軍モビルスーツ、ガンダムに、シャアのFZ型ザクが迫る。



 メイは、リュウヤのガトルのコ・パイロット席で、シャアのFZ型ザクの戦闘を後方から見守っていた。
 スピードを身上とするシャアは、通常のザクの作戦速度の三倍のスピードで肉薄し、格闘戦を挑む。
 連邦軍の白いモビルスーツの火線が漆黒の宇宙をむなしく過り、逆にシャアのザクのMMP−78ザクマシンガンが火を噴いた。

「どうだ?」

 呟くリュウヤ。
 しかし、ザクのマシンガンを受けてもなお、敵モビルスーツは無傷なように見えた。

「えーっ、直撃のはずだよ」

 メイが信じられないと声を上げる。
 そして、連邦軍のモビルスーツの反撃を避けるシャアのFZ型ザク。

「速い、な」
「運動性が段違いだよ」

 目を見張る二人。
 FZ型ザクとて性能は上がっているはずなのだが、連邦軍のモビルスーツはそれ以上の動きを見せていた。
 そこに援護のF2型ザクが到着する。

「スレンダー、来たか。敵のモビルスーツの後ろへ」
「しょ、少佐、武器が違います。あの武器は自分は見ていません」
「当たらなければどうということはない。援護しろ」

 通信機越しに、二人の会話が聞こえた。
 一方で、連邦軍側にも援護の戦闘機が到着する。

「新型戦闘機?」
「見たことのない型だな。トリアーエズに似てるか?」
「うん、でも」

 シャアのFZ型ザクはフロントスカートにアタッチメントで止めていた箱型弾倉を、MMP−78ザクマシンガンの前部に叩き込んでいた。
 そして、新たに現れた敵戦闘機に向ける。

「戦闘機がモビルスーツに対抗できた時代は、もう終わってるよ」

 箱型マガジンに装填された対空弾が火を噴いた。
 磁気探知式の近接信管を使った対空弾は、直撃でなくとも敵機の近くで爆散。
 破片で被害を与えるのだ。
 撃墜までは至らなかったが、敵機を中破させ、撤退を余儀なくさせる。
 しかし、シャアが敵戦闘機を相手取っている間に、援護のF2型ザクは、連邦軍モビルスーツからの直撃を受けていた。

「一撃で、撃破か」
「う、うん、戦艦並みのビーム砲だね」

 リュウヤが思わず漏らした呻きに、メイは、戦術航宙偵察ポッドシステムの記録を確認しながら、頷く。

「でも、脱出ポッドはちゃんと動作しているよ」

 シャアは、MMP−78ザクマシンガンを連射。
 箱型マガジンに残った対空弾、全弾を牽制として使って、連邦のモビルスーツに肉薄した。
 対空弾では、その装甲を破ることはできないが、近接信管で爆発する対空弾は、いい目くらましになった。

「上手いな」
「うん、武器を上手く使いこなしてる」

 そうして銃身下のグレネードを、敵モビルスーツ頭部に叩き込む。
 命中。
 さすがに、グレネード弾は効果を上げた。
 敵機のメインカメラを潰すことに成功する。
 しかし、まだサブカメラが生きているのか、反撃してくる敵モビルスーツ。
 それも、そこまでだった。

「弾切れを起こしたな」

 あの強力なビームを出さなくなったモビルスーツに、リュウヤは笑みを浮かべた。

「なら、遠慮することはない」

 敵モビルスーツはビーム剣を抜くが、シャアにつき合ってやる義理はない。
 メインカメラを失って、動きの鈍っている敵の背後に回り込み、容赦なくマシンガンを叩き込むシャア。
 今度は円盤型マガジンに装填された通常の徹甲榴弾だ。
 それにより、メインスラスターを潰した。



「それでは、そこで木馬が落されるのを見ているのだな」

 なるべく敵モビルスーツは無傷で手に入れたい。
 シャアは敵艦、木馬に向かった。
 ろくな対空砲火も上がらないことを訝しく思いながらも右エンジンに取り付く。

「食らえ!」

 ザクマシンガンを、容赦なく敵艦のエンジンに叩き込む。
 装甲が破られ、小爆発が起きた。

「止めだ」

 空いた装甲の穴へ、FZ型ザクの右腰に三個装備されていたハンドグレネードを投げ込む。
 爆発が上がり、クルーの判断か、エンジンブロックが切り離された。

「潮時だな」

 シャアは、ブリッジに回り込むと、投降を呼びかけた。

「降伏せよ。さもなければ撃沈する」



 シャアのザクに降伏の勧告を受けるホワイトベースブリッジ。
 赤いザクが構えるマシンガンを間近で向けられ、クルーの間に動揺が走る。

「ブライト君……」
「う、パオロ艦長」
「降伏だ。士官候補生の君達や民間人達を銃火には曝せない。私が責任を取る。降伏するんだ……」
「は、はい、艦長」



 力無く、ガンダムのコクピットでうなだれるアムロ。

「何もできなかった…… 何も……」



 こうして、連邦軍のV作戦の中核を担うはずだったホワイトベースとガンダム等のモビルスーツは、ジオン軍に鹵獲されることになったのだった。



 ファルメルは、地球連邦軍ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースをソロモンへと曳航する、ソドン巡航船らの護衛をしていた。

「さすが、シャア少佐、強かったねー」

 格納庫でFZザクを見上げながら呟くメイ。

「ああ、ザクのマシンガンが効かなかった時にはどうしたものかと思ったが」

 答えるのは、リュウヤだった。

「うーん、やっぱり、新式銃の九十ミリザク・マシンガンMMP−80の開発を急がないと駄目かな?」

 メイの呟きに対し、リュウヤは耳にした情報を提供する。

「地上軍では、マゼラトップの百七十五ミリ無反動砲をザクの手持ち武器に使ってるって話だぞ。バズーカとマシンガンの中間的な運用で、役立ててるって話だ」
「それいいね。新式銃の開発までの間、つなぎとして使うよう上申書を書いてみるわ」

 こうして、ザクの制式武器にマゼラトップ砲が加わることになる。
 一方で、連邦軍のモビルスーツ、ガンダムに搭載されていたビーム兵器は、ようやく実用化の目処のついた地上用モビルスーツ、ドムに、ビームバズーカという武装をもたらすこととなるのだった。
 また、統合整備計画の適用によって、ドムにもガトルのコクピットを流用した脱出装置と、チタン・セラミック複合材の装甲が採用される。
 そして、地球全土に展開したF2型ザクも、統合整備計画に則り、順次FZ型に改修されて行く。
 短時間ながら、戦闘の肝心な所でホバリング走行が可能なFZ型ザクに、連邦軍のモビルスーツは苦しめられることになるのだった。



■ライナーノーツ

 FZ型ザクは正史では一年戦争末期に造られたもの。


 シャア専用FZ型ザクは、スーパーロボット大戦に隠し機体として登場している。
 大抵、運動性が3倍などになっている。

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