【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第十話 ルウム戦役




 宇宙世紀0079年1月15日。
 ジオン公国軍は、サイド5ルウムへ再侵攻した。
 先のコロニー落とし、ブリティッシュ作戦では阻止限界点までの移動は順調に行ったものの、それ以降の連邦軍の必死の迎撃で大気圏突入中にコロニーは崩壊。
 地球連邦軍総司令部ジャブローを破壊することが出来なかった。
 このことから再度コロニー落としをするため、というのは欺瞞で、実際には地球連邦軍艦隊を誘い出すための囮であり、ルナ2などに残存していた地球連邦軍宇宙艦隊の壊滅こそ真の目的だった。
 対する地球連邦軍はルウムで手痛い経験をしたレビル将軍がその戦訓を生かすため、ルナ2より派遣されてきた主力艦隊を率い迎え撃つ。
 十時四十五分、ルウム宙域において地球連邦軍艦隊とジオン公国軍艦隊の間で戦端が開かれる。
 両艦隊は平行に隊列を組むと、激しい艦砲射撃を展開した。
 戦力比はジオン一に対し連邦三。
 しかし連邦軍はミノフスキー粒子散布環境下での光学センサーによる砲撃に慣れておらず、思ったような戦果は挙げられずに居た。
 そして足の速いジオン公国軍制式宇宙戦闘爆撃機ガトルを先頭に立てた、ジオン軍モビルスーツ部隊が、戦場に現れた。
 今回は乱戦が予想されたため、重くて動きの遅い核武装型ザクIIC型ではなく、耐核装備を外したF型が主力であった。
 そして、その中には、赤いザクが確たる存在を示していた。
 シャア・アズナブル中尉の、S型ザクである。

「赤いのは目立っていて、追跡調査を行うには丁度いいな」

 その赤いS型ザクの機影を追うのは、リュウヤ・タチバナ中尉の操るガトルだった。
 その機体、両側面のラッチにはミノフスキー粒子散布環境下における観測を行うために光学系センサーを搭載した、ガトル用のオプションである戦術航宙偵察ポッドシステムがマウントされている。
 有効観測距離五百キロ以上を誇るそれにより、S型ザクの運用データを取ることを求められていたのだった。

「でも、見失わないでね。S型ザクは、F型の改修機のFS型より性能が上がっているんだから」

 ガトルのコ・パイロット席で、ヘッドアップディスプレイに表示される情報を確認しながら、戦術航宙偵察ポッドシステムを操作するのは、メイ・カーウィン嬢だった。
 ジオニック社の開発したS型ザクの運用データを採取するため、少女は空前の艦隊戦が繰り広げられる前線まで出て来たのだった。

「特に、推力は三割増しになってるから、素早いよ」

 S型は、F型の改修機である指揮官用のFS型とは別の型番が与えられるほど機能を強化した機体である。
 推力を三十パーセント増すなど細部が改修されており、また、FS型同様、高い地上適性能力も与えられている。

「単純な推力じゃあ、ガトルはモビルスーツには負けないぞ。問題は推進剤が持つかどうかだが」
「あぅ、それなんだよね。S型って推進剤の積載量はF型と変わらないから、最大推力での行動時間は短くなってるんだよね」

 それ故に、パイロットを選ぶことになる。
 指揮官用と銘打たれたS型であるが、使いこなすだけの技量のない指揮官は、無難にFS型を選んでいるという。

「ん? 何だか揉めているな」

 見れば、シャアの赤いS型ザクは、友軍のランチの前に立ち塞がっていた。
 ランチの後方に見えるのは、

「あれは、第603技術試験隊の試験支援艦ヨーツンヘイム?」

 友軍の識別コードから、艦名を呼び出すリュウヤ。
 メイもそちらを見て首をひねる。

「でも、その隣の大きなのは何だろ? 大砲?」

 そこに、ランチから通信が入った。

「そこのガトル、戦術航宙偵察ポッドシステムを搭載した偵察機ですね? お願いします、射撃照準用の観測データを下さい」
「え、何?」

 キョトンとするメイを制して、リュウヤは言った。

「こちらはモビルスーツ開発部隊所属のリュウヤ・タチバナ中尉です。貴官は?」
「あ、失礼いたしました。自分は第603技術試験隊所属のオリヴァー・マイ技術中尉です」

 そこに、ヨーツンヘイムからの通信が割り込んだ。

「タチバナ中尉。私は総督府の監理官、モニク・キャディラック特務大尉です。我が部隊は試作艦隊決戦砲ヨルムンガンドの砲撃データが必要なのです。敵艦隊の位置データを送りなさい」
「艦隊決戦砲?」

 メイが目を見張る。
 試験支援艦ヨーツンヘイムの近くに浮かぶ、ムサイ級巡洋艦に匹敵するほど巨大な構造物がそれであるらしかった。
 一方、リュウヤは思わぬ人物の登場に頭を痛めた。
 総督府の特務大尉といえば、軍内での扱いは二階級上となる。
 総督府、つまりギレン・ザビ総帥配下の佐官相当の人物の命令を、無下にする訳には行かなかった。

「リューヤ、シャア中尉のS型ザクが行っちゃうよ」

 メイが、不安そうに言う。
 仕方がない。
 ここは、妥協して、早急に任務に戻るしかない。
 リュウヤは通信機に向かって返答した。

「了解しました。しかし、我々にも、キシリア・ザビ少将から任じられた新型モビルスーツの実戦データ採取という任務があります」
「なっ!」

 総督府の名前を出せば、中尉ごとき、唯々諾々と従うしかないだろうと高をくくっていたキャディラック特務大尉が険しい声を上げる。

「ですので、当機で観測できたデータを全部、レーザー通信でそちらにお送りします。敵艦の座標軸等の計算は、そちらで行って下さい」

 戦術航宙偵察ポッドシステムは、偵察の任務にも使われることから、強力な通信システムも搭載していた。
 宙域に固定されたヨーツンヘイムや、ヨルムンガンドに対してなら、一方的にレーザー通信でデータを送りつけることも可能だった。

「以上、それではデータ採取に赴きます」

 これ以上、話し合っていては、シャアのS型ザクを見失ってしまう。
 急加速で、ザクの編隊の後を追うリュウヤのガトル。

「なっ、ちょっと待ちなさい!」

 キャディラック特務大尉の声がしたが、ミノフスキー粒子散布の影響で、距離を取ればそれも途切れてしまう。
 戦場では、先陣を切ったガトルの編隊が、ブラフの大型対艦ミサイルを放った所だった。
 各四発のミサイル。
 突如として五倍に増える機影に、連邦軍は圧倒される。
 後に続くガトルは、そのミサイルの影を行き来するように戦闘機動を行うものだから、照準が定まらない。
 結果として連邦軍は、ブラフである対艦ミサイルの撃墜に労を割かねばならなかった。
 その間に、ガトルの編隊は、機体左右に装備されたミサイルポッドの射程内まで接近していた。
 ミノフスキー粒子散布環境下に対応した射撃管制システム、赤外線、レーザー併用誘導のミサイルで、八機までの敵機を同時にロックオンできるMT−SYSTEMが威力を発揮する。
 連邦軍艦隊に殺到したミサイルが、次々に命中した。
 対空砲火で撃墜されるガトルもあったが、ガトルのコクピットは脱出ポッドになっている。
 その脱出ポッドは、三十ミリガトリング砲も備えており、機体にかかっていた速度をそのまま殺さずに連邦軍艦隊の間を駆け抜ける。
 無論、無事なガトルについても、一撃を加えた後はそのまま離脱して行く。
 そして、その混乱の間に、連邦軍はモビルスーツ、ザクに懐に入り込まれていた。
 連邦軍のレビル将軍は、その恐ろしさを体験しており十分な対策を厳命していた。
 しかし以前対戦していた時と異なり、今回のザクは耐核装備を外していたのだ。
 軽量化により更なる高機動を手にしたザクの前に、連邦軍艦隊は次々に撃沈されて行った。

「それにしても、シャア中尉は凄いな」

 サラミス級巡洋艦の艦橋をザクマシンガンの連射で潰し、爆発の反動すら利用して、次の目標へと移動していく。

「三十パーセント増し所か、通常の三倍の作戦遂行速度だぞ」
「うん、凄いね。ザクの性能をここまで引き出している人、初めて見たよ」

 リュウヤとメイが感心するが、シャアは士官学校時代にシミュレーションでリュウヤのガトルに敗北したことを糧として、腕を磨き、牙を研いでいたのだ。
 シャアがここまでの腕を持つに至った原因が、自分にあることには気付かないリュウヤだった。
 そして不意に、モビルスーツがまだ取り付いていないマゼラン級戦艦が、光の渦に飲み込まれた。
 ジオン軍艦隊後方からの超長距離射撃。
 リュウヤ達のガトルから受け取った情報を元に、第603技術試験隊が必死になって、敵艦の座標を計算。
 そして与えた命中打だった。

「一撃で、一撃で戦艦を粉砕か。巨砲主義の化け物だな」

 リュウヤは呟く。
 試作艦隊決戦砲ヨルムンガンドが真価を見せた瞬間だった。
 射撃後、砲身に設けられた十基のカバーが開き、冷却フィンが露出。
 熱を帯びたガスを排出する。
 ただし、冷却装置を駆使しても砲の連射性能は高くなかった。
 次弾発射まで、今しばらくの時が必要だった。

「これで、三隻目!」

 一方で、メイが歓声を上げた。
 シャアのS型ザクが挙げた戦果だった。
 無論、戦果を挙げているのはシャアだけではない。
 メインカメラごと頭部を、左腕を破壊されたザクが、胸部のフロントパネルを跳ね上げ、コクピットハッチを開く。
 内部から、ガトルのコクピットを流用した脱出ポッドが顔を覗かせるが、このザクのパイロットは、脱出のためにハッチを開いたのでは無かった。
 脱出ポッドの三十ミリガトリング砲が唸り、正面の敵を蹴散らす。
 そして右手一本で構えられたザクマシンガンが火を噴いた。

「有視界戦闘か、よくやる」
「そういうことのために、ガトルの脱出ポッドを組み込んだ訳じゃないんだけど」

 呆れるメイ。
 しかし実際、ザクの消耗は、戦いの激しさに比例して高まっていたが、この脱出ポッドで命を取り留めた者は多かった。
 機体は損耗しても、経験を積んだ熟練のパイロットが無事だったことは、これからのジオンに大きくプラスとして働いて行く。
 結局、このルウム戦役は、大破した地球連邦軍艦隊の旗艦、マゼラン級戦艦アナンケからレビル将軍が脱出に用いたランチが、ジオンのモビルスーツ部隊、黒い三連星の乗るザクに拿捕されたことで、終局を迎えた。
 シャア・アズナブル中尉はこの戦いで五隻の連邦軍戦闘艦艇を撃沈したことで、二階級特進で少佐となった。
 また、試作艦隊決戦砲ヨルムンガンドは、四隻の戦艦、巡洋艦を沈め、その真価を発揮したのだった。



■ライナーノーツ

>試作艦隊決戦砲ヨルムンガンド

 MSイグルー登場の兵器ですね。
 オリヴァー・マイ技術中尉などの関連のキャラもそちらからです。


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