【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第四話 次期主力兵器競合試験




 宇宙世紀0075年、ジオン軍の主力モビルスーツを決定する、次期主力兵器競合試験が、サイド3の片隅で行われていた。
 そこでは、ジオニック社のモビルスーツ、ザクと、ツィマッド社のモビルスーツ、ヅダが性能試験でしのぎを削っている。
 宙域は厳重に封鎖が成されていたが、そこに一機の宇宙用戦闘爆撃機の姿があった。
 リュウヤ・タチバナ少尉のガトルである。

「凄いね、リューヤ。テストの様子もばっちり撮れてる」

 そのガトルのコ・パイロット席について、ヘッドアップディスプレイに表示される画像に見入っているのは、十歳にしてザクの開発に携わる才女。
 メイ・カーウィンだった。

「ああ、今回は戦術航宙偵察ポッドシステムを積んでいるからな」

 戦術航宙偵察ポッドシステムとは、ミノフスキー粒子散布環境下における観測を行うため、光学系センサーを搭載したガトル用のオプションである。
 専用の戦術偵察機がないジオン軍では、この戦術航宙偵察ポッドシステムを積んだガトルを代替機として使っていた。
 その有効観測距離は五百キロ以上と、ザクに搭載されたセンサーを上回る感度を持つ。
 SHARP(SHAred Reconnaissancd Pod)、分割偵察ポッドとも呼ばれるこの機器は、その名の通り、ガトルの両脇のハードポイントに一機ずつ装備されていた。
 そして、この次期主力兵器競合試験に当たり、リュウヤのガトルは、この戦術偵察ポッドを使ったデータ採取を命じられていたのだった。

「リューヤとガトルがジオニックに来てたのって、このためだったんだね」
「さんざん巻き込んで置いて、今更気付くな」

 ガトルは、機動性だけならモビルスーツより圧倒的に上であり、宇宙空間での追跡調査には持って来いの機体であった。

「で、どうだ、メイ嬢。ザクは勝てそうか?」
「うーん、難しいかな。全体的にヅダの方が上回っている感じ。特に機動性とか。ザクは信頼性、整備性、汎用性を前面に押し出した機体だから」
「ふむ、まぁ、信頼性は最低限確保できてないと、いくら高性能でも乗る気にはならないもんだからな」

 同じパイロットとしての立場で、リュウヤが言う。
 整備性? それは整備兵に泣いてもらうしかない。

「うん、その辺は上の人も分かっていると思うよ」

 そうやって話し合っていると、センサーに新たな機影が確認された。
 メイが戦術航宙偵察ポッドシステムからの画面を切り替えると、そこにはニ機ずつでエレメントを組んだガトルが二組。
 合計四機が近付いて来ていた。

「ふむ、次は模擬戦か。モビルスーツ一機につき、ニ機のガトルを相手取るんだったな」
「まぁ、ニ機程度なら楽勝じゃない?」

 さすがにメイもザクの開発に携わっているだけあって、その辺は自信たっぷりだった。
 しかし、ガトルの映像を詳しく見て、首をひねる。

「あれ? リューヤ、あのガトルの両脇に付いている四つの大きいミサイルって」

 メイの疑問に、リューヤは答える。

「対艦ミサイルだな」

 そう、テストに駆り出されたガトルは、側面のハードポイントに大型の対艦ミサイルをマウントしていた。

「あんなの抱えてたら、格闘戦には不利じゃないの?」
「普通に考えたらな」

 事もなげに言ってのけるリュウヤに、メイは眉をひそめた。

「普通ならって、普通じゃないことを考えてるって言う訳?」
「まぁ、引き立て役をするにしても、一矢報いたいって所じゃないか? 上に睨まれなけりゃいいんだが」

 嘆息するリュウヤ。
 ニ機で編隊を組んだガトルは、それぞれ、待ち受けるザクとヅダへと向かった。
 そして、彼我の距離が二千メートル。
 モビルスーツのマシンガンの間合いに入る直前だった。
 ガトルの反応が、突如として五倍に増えた。

「分身した!?」
「対艦ミサイルを放ったんだ」
「まさか!」

 突如として増えた敵の反応に、ザクとヅダは反応が遅れた。
 しかし、

「動きの鈍い対艦ミサイルなんてこの距離で撃っても、モビルスーツには当たらないよ」

 呟くメイ。

「いいや、攻撃が狙いじゃない」

 リュウヤの言う通り、ガトルはモビルスーツに当てるために四発の対艦ミサイルを放った訳では無かった。
 戦闘機動を取るガトルは、モビルスーツから見て、対艦ミサイルの陰に隠れるように移動している。
 モビルスーツのパイロットがガトルを撃墜しようとしても、火器管制装置がその姿を捉えたと思った瞬間に、照準は自動的に近い方にある対艦ミサイルへと切り替わってしまう。
 自動化された火器管制装置の落とし穴だった。
 仕方なしに、ザクとヅダは対艦ミサイルに対して発砲。
 そのマシンガンから放たれたペイント弾がミサイルに当たった瞬間、ミサイルが分解する。
 ペイント弾での攻撃でも撃墜できるよう、この模擬戦に使われるミサイルは、当たり判定が下された時点で自壊するように細工がされていたのだ。
 ニ機のガトルから放たれた大型対艦ミサイル八発を落とすために、貴重な時間が費やされる。
 それは、ガトルのミサイルランチャーの照準を合わせるのに十分な時間だった。
 赤外線、レーザー併用誘導のミサイルを各八発、連続発射。
 近距離から放たれた合計十六発のミサイルを、卓越した運動性に物を言わせながら避け、マシンガンで撃墜するザク、そしてヅダ。
 並みの戦闘機なら、瞬時に撃墜されている状況で、ニ機のモビルスーツは、驚異的な機動を見せた。
 だが、全ては避け切れない。
 左手に命中。
 もちろん、模擬弾なので爆発はしないが、中破判定が下る。
 頭部に、脚部に、それぞれ、少なくない損害判定を被るザクとヅダ。
 そして、ガトルは推力に物を言わせて離脱してしまった。

「こ、こんなのって、あり?」

 己の目を疑うメイ。

「ここまではまるとは思わなかったな」

 溜め息をつくリュウヤ。
 その台詞に、メイは気付く。

「まさかリューヤ……」
「いや、仮想敵機の役をやるパイロットと一緒に飲んでな。ガトルを使った戦術談義をした時に話したのが、この戦法なんだが」
「やり過ぎだよ!」

 動きが鈍重な対艦ミサイルを、逆に利用して囮、盾にしたこの攻撃。
 この結果が後のガトルの運用に反映され、センサー上ではまるでガトルが分身したように見えることから、パラレルアタックと名づけられ連邦軍に恐れられることになるのだがそれはさておき。

「モビルスーツの存在意義が疑われちゃうじゃない!」
「まったくだな」

 今は、それが問題だった。
 このテスト結果を見守っていたジオン首脳部も、頭を抱えていることだろう。

「まぁ、それでも大破判定は出ていないからな。ガトルのコクピットを流用した脱出ポッドもあることだし、あれだけの攻撃を受けてパイロットの命がある方を評価した方がいいと思うぞ」
「そ、そうね、念のために用意しててよかった」

 そして、この後、メイの呟きを神が聞いていたかのような事件が起こった。
 ヅダが、飛行性能試験の場で空中分解事故を起こしたのだ。
 幸いヅダにも、ガトルのコクピットを流用した脱出ポッドが装備されていたため、テストパイロットは無事であり、惨事は免れることができた。
 ともあれ、この空中分解事故。
 そしてザクの1.8倍という高コストが会計監査院から問題視された結果、ヅダは正式採用は見送られ、史上初の実戦用モビルスーツの座をザクに明け渡すこととなったのだった。
 しかしながら、模擬戦の結果が思わしくなかったことが課題となり、ジオン上層部は、より高性能なモビルスーツの開発をジオニック社、ツィマッド社、両社に厳命。
 モビルスーツの高性能化に拍車がかかるのだった。



■ライナーノーツ

 HGUGでプラモ化されているヅダはここで登場した試作機を改装したもので、OVA『MSイグルー』に登場している。


> SHARP(SHAred Reconnaissancd Pod)、分割偵察ポッドとも呼ばれるこの機器は、その名の通り、ガトルの両脇のハードポイントに一機ずつ装備されていた。

 F/A-18E/F スーパーホーネット用のN/ASD-12 SHARP偵察ポッドが元ネタ。

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