【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第三話 ガトル解体命令




「念願のコクピットを手に入れたわ!」
「な、何をするきさまらー!」
「無理やりにでも奪い取る!」

 そう言う訳で、リュウヤ・タチバナ少尉の愛機、宇宙用戦闘爆撃機ガトルの脱出ポッドを兼ねたコ・パイロット席は、メイ・カーウィン嬢、十歳を筆頭としたジオニック社メカニック陣によって理不尽にも奪われて行った。

「で、どういう訳だ」

 愛機の無残な姿に憮然とするリュウヤに、メイは説明した。

「モビルスーツ、ザクの開発をしていて、機体制御のOSとコクピット周りのインターフェイスのマッチングに行き詰っていたっていう話はしたよね」
「うむ」

 そんなことを聞いた様な気がしないでもない。

「そうしたら、コンパクトで完成されたコクピットが身近にあるじゃない。ヘッドアップディスプレイだっけ? キャノピーをスクリーンにする技術。あれなら、普通にモニターを設置するより広い視界を得ることができるし」
「ほう」
「だから、ザクにガトルのコクピットを組みこめないかなーって」
「ほほう」

 ジト目でメイを見やるリュウヤ。
 その視線の持つ圧力に、十歳の少女は耐え切れず……
 逆切れした。

「何よ、リューヤが教えてくれたんだからね!」
「俺が?」

 リュウヤには覚えがない。
 そのリュウヤにびっと指を突き付けて…… 行儀が悪い。
 本当に名家カーウィン家の令嬢か、と内心ぼやくリュウヤにメイは言い放った。

「シミュレータの比較! ガトルは脱出装置があるから、人的コストでも有利だって」
「ふむ?」
「だったらザクにも脱出装置を付けた方がいいでしょ! 貴重なモビルスーツパイロットを回収することができるんだから!」

 なるほど、趣旨は分かった。
 だが、

「だからと言って、人の機体をバラすか普通!」
「あーっ、ぎぶぎぶぎぶぎぶ」

 リュウヤは左右に広げた両手を拳に固め、メイのこめかみをグリグリと挟み込んでいた。
 いわゆるウメボシである。

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、頭蓋骨がずれちゃうーっ!?」

 じたばたと騒ぐメイ。
 リュウヤは適当な所で少女を解放した。

「大げさな」
「大げさじゃないよ! 本当に痛かったんだから!」

 涙目で訴えかけるメイだった。

「しかし、そうすると、だいぶ設計に見直しが生じないか? ツィマッド社とのコンペはもうすぐだろ。間に合うのか?」
「あ……」
「あ、じゃない!」

 再びウメボシの構えを見せるリュウヤに、慌てて逃げ出そうとするメイ。



 果たして、その後、

「やっぱり駄目だって」
「やはりか」

 人の機体をバラしておいて、それかと怒りを抑えるリュウヤ。

「コストが上がるのが駄目みたい。うちはツィマッド社と違って、コストと安定性で売るつもりだから」

 ザクを開発するジオニック社の方針は、安定した戦力の供給だった。
 それはそれで分かる話である。

「しかし、パイロット育成にかかる費用も含めて考えなくてはならないんだがな、本当は」

 ジオンの国力は連邦に比べて三十分の一以下と言われているぐらいだし。
 人的資源も同様であることを忘れてはならない。

「リューヤ、何とかならない?」

 上目使いに自分を見上げる少女に、リュウヤは顎を一撫でして思案した。

「まぁ、方法がない訳ではないんだが」
「本当!?」
「責任は取らんぞ」

 そう言ってリュウヤは、メイに上司の説得に使ったというプレゼン資料を一部、用意させる。
 そして、それを持って二人で喫茶コーナーに行った。
 コーヒーを楽しみながら、内容についてメイにあれこれ訊ねる。
 メイは自分の思いつきを話せるのが楽しいのか、瞳を輝かせながら声高に説明した。

「ふむ、よく考えられているな」
「でしょう」

 胸を張るメイ。

「しかし、声が大き過ぎだな。この喫茶コーナーは、セキュリティがゆるい」
「へ?」

 首を傾げる少女に、リュウヤは告げた。

「さっきまで隣に居た男な、多分ツィマッド社のスパイだぞ」

 一瞬の空白。

「はああああああぁっ!?」

 慌てて隣の席を見るメイだが、当然、男の姿はもう消えていた。

「どどど、どうするのよ!」
「まぁ、こんなのは日常茶飯事だろ。ツィマッド社にも、ジオニックのスパイは潜り込んでいるって話だし」
「でも、貴重な検討内容がーっ!」
「まぁまぁ、メイ嬢。ガトルのコクピットを脱出ポッドとする案が上に通らないのが問題なんだよな」
「う、うん」

 頷くメイに、リュウヤは言い聞かせるように言った。

「メイ嬢、それは無理矢理通そうとするからだ。逆に考えるんだ。あげちゃってもいいさ、と考えるんだ」
「ツィマッド社に?」
「まぁ、この一週間で成果は出るさ」

 その日はそれで終わったが、三日後。
 メイはリュウヤの元を訪れた。

「コクピットの脱出装置案が通ったよ」

 それにしては、ちっとも嬉しそうではない。

「ツィマッド社がやるから、うちもやるんだって」

 納得行かないといった様子のメイに、リュウヤは言った。

「ふむ、それではメイ嬢に、この言葉を贈ろう」
「え?」
「他社がやったから自社でもやれと言う。それはさんざん自社で提案されて却下された案である」
「何それ?」
「社会人の定理って奴だな。どこでもそんな物だ。それにしても三日でとは、ツィマッド社もジオニック社も諜報活動に精を出してるな」
「え、それって、もしかして……」

 落ち着き払ったリュウヤの様子に、思い至るメイ。

「わざとツィマッド社に情報を流して、ツィマッド社に真似させたの!?」
「それを今度はジオニック社のスパイが察知して報告し、上を動かした訳だ。他社への対抗心を利用した訳だな」
「汚い。大人ってきたない」
「何を言う、情報を漏らしたのはメイ嬢だぞ。俺はあらかじめ言ったよな、責任は取らないって」
「黒い、リューヤ、黒過ぎるよ!」
「褒め言葉として受け取っておこう」

 こうしてモビルスーツ、ザクとヅダには、ガトルの脱出ポッドを利用したコクピットが備えられることになったのだった。



■ライナーノーツ

>「念願のコクピットを手に入れたわ!」
>「な、何をするきさまらー!」
>「無理やりにでも奪い取る!」

 ロマンシング サ・ガのアイスソード強奪エピソードより。


>「メイ嬢、それは無理矢理通そうとするからだ。逆に考えるんだ。あげちゃってもいいさ、と考えるんだ」

 ジョジョの奇妙な冒険第1部、ジョースター卿の台詞より。

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