【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第二話 翔べ! ガトル




 お子様サイズのノーマルスーツを着たメイ・カーウィン嬢と合流したリュウヤ・タチバナ少尉は、宇宙港のデッキに固定された自分の愛機、ガトル戦闘爆撃機に少女を誘った。

「へぇー、赤いんだね」
「一応、現時点での主力戦闘爆撃機だからな」

 ジオン軍の伝統的なカラーは赤と緑。
 後に、赤はザビ家や、ザビ家に近い将官を表す色になるのだが、ガトル戦闘爆撃機が制式化された時点では、そういった厳密な区分けは成されていなかった。
 むしろ、連邦軍の制式戦闘機トリアーエズより強力な機体であることから、その力を喧伝するために暗赤色に塗られた経緯にある。
 メイは、その機体に見入る。
 球状のコクピットが上下に僅かに段差を設けて左右に並び、箱型の胴体の後ろにエンジンブロックが付いている。
 胴体側面から下へ箱型の脚部が伸び、ここがミサイルポッドになっていた。
 その下端には、着陸用のスキッドと姿勢制御バーニアが配置されている。
 胴体からは斜め上方へ翼状のパーツが伸びており、この先端にも姿勢制御バーニアが存在する。
 宇宙での運動性を考えた機体だった。

「あのコクピットが脱出装置?」
「ああ、コクピット自体が脱出ポッドを兼ねている。自衛用に三十ミリガトリング砲二門も搭載しているぞ」

 コ・パイロット席のコクピットにも搭載されているから全体としては四門のガトリング砲が搭載されていることになる。

「コクピット、見せて」
「了解した」

 無重力下のデッキ内を、少女の手を引いてコ・パイロット席に導く。
 バブル型キャノピーを開く。
 操縦桿とスロットルを備えた、すっきりとしたレイアウトのコクピットだった。

「一応、ロックされてるから大丈夫だとは思うが、スイッチ類には触れないように」
「うん」

 メイは、座席の調節装置を弄って着座位置を調整すると、改めてコクピット内を見回す。

「ディスプレイが全然ないんだけど」
「ああ、ヘッドアップディスプレイだからな」
「ヘッドアップディスプレイ?」
「うーん、それじゃあ、アイドリングに入れてみるか?」

 そう言って、リュウヤは、メイの乗った、コ・パイロット席の一体型バブルキャノピーを閉じた。
 そのすぐ斜め上にずらして置かれたメイン・パイロット席につくと、起動シーケンスを立ち上げる。
 すると、機体情報が、メイの目の前、キャノピー上に映し出されたのだった。

「わ、何これ?」
「だから、それがヘッドアップディスプレイだ。風防に直接、映像を投影する技術だな。宇宙世紀前の気圏戦闘機の時代には、もう原形らしきものが存在していたっていうぞ」
「へぇー」

 ガトル乗りのリュウヤにとっては見慣れた技術だったが、メイには新鮮に思えたようだ。
 知的好奇心に瞳を輝かせながら、メイは熱病に浮かされたように言った。

「飛ぶことってできない?」
「は? メイ嬢を乗せてか?」

 怪訝そうに顔をしかめるリュウヤに、メイは言い募る。

「うん、メイはモビルスーツを開発しているんだけど、実際に機動兵器に乗ったことがないの。だから今、機体制御のOSとコクピット周りのインターフェイスのマッチングに行き詰っていて」
「うむ」
「だから、実際に見てみたら発想が湧くかなと思ってたんだけど、このガトルって副座だよね。だから、メイを乗せて飛べないかなって」
「ふぅむ。話は分かるが、上の許可が下りるかどうかは別問題だぞ」
「あ、だったら通信をこっちに回して。メイが話、通すから」

 果たしてメイは、リュウヤの上官に話を通し、無理矢理にだがガトルに同乗する許可を取り付けたのだった。

「それじゃあ、行くか。シートベルトはしっかりと締めたか?」
「うん」
「それでは、ドラグーンゼロワン発進する」

 管制に自分のコールサインを告げて、発進シーケンスに入る。
 ガトルの置かれたデッキは、無重力地帯だ。
 機体下部のスキッドを固定していたロック装置を外すと、機体が自由になる。
 機体の四隅に備えられた姿勢制御用スラスターを吹かして静かに離床。
 ニ機のメインスラスターと、四機のサブスラスターに火を入れ、リュウヤは機体を発進させる。
 スクランブルではないため、メイに気を使ってゆっくりと加速するが、それでも少女は興奮した。

「これが本物の機動兵器……」

 若干のGと共に、宇宙港の風景が背後に流れて行く。
 バブル型キャノピーは、ランチやシャトルでは体験することのできない良好な視界を少女にもたらしていた。
 これに比べれば、ランチやシャトル等で宇宙を飛ぶことは、箱詰めにされて荷物扱いされているに等しい。
 そして、キャノピーには、様々な情報が映し出されて行った。

「通信機器、航法システム、自動操縦装置、飛行管理システム…… アビオニクス全体にテコ入れがされていてな、ミノフスキー環境下での有視界戦闘を視野に入れた改修が図られている。例えば……」

 正面視野がズームアップした。
 光学センサーからの入力を、ヘッドアップディスプレイにより、キャノピーに映し出したのだ。

「凄い」

 目を見張るメイ。

「このキャノピー全部が、ディスプレイとして使えるの?」
「ああ、そうだ。パイロットに自機の速度や進行方向などの重要な情報が重なって見えるようになっていて、飛行中に計器盤の計器に視界を切り替えることにより発生する、空間識失調や致命的なミスを防げるようになっている」
「へぇー、この、目の前の十字マークは?」
「射撃管制装置だ。同時に複数の敵をロックオンできるMT−SYSTEMだな。赤外線、レーザー併用誘導のミサイルで、ミノフスキー粒子散布環境下でも八機までの敵機を同時に撃破することが可能だぞ」

 このMT−SYSTEMも、ミノフスキー環境下での戦闘を視野に入れ、最近になって近代化が図られた部分だ。

「参考になったか?」
「うん、ありがとうリューヤ」

 その時だった、管制官から緊急通信が入ったのは。

「ドラグーンゼロワン、S宙域78に連邦軍特務艦発見。ただちに迎撃へ」
「こちらドラグーンゼロワン。こちらは乗客を乗せている。戦闘機動は無茶だ。他に友軍機は?」
「ドラグーンゼロワン、既に連邦軍特務艦は逃走に入っている。間に合うのはそちらだけだ。ザクの情報を盗まれた可能性がある。機密情報は一片たりとも渡すな。見敵必殺。サーチアンドデストロイだ!」
「……ドラグーンゼロワン了解。これよりS宙域78の連邦軍特務艦の頭を抑える」

 そして、通信を内線に切り替える。

「メイ嬢、聞いた通りだ。これから戦闘に入る。だから脱出してくれ」
「脱出?」
「言ったろう、このガトルのコクピットは脱出装置も兼ねているって。大丈夫、敵機を片づけたら迎えに来るし、俺が無理なら管制に言って、回収をしてもらえばいい。一応、脱出ポッドにもスラスターはあるが、何も触るな。慣性航行していればいい」
「う、うん」
「それじゃあ行くぞ、アサルトピットツー、強制排除」

 短時間のスラスター噴射と共に、コ・パイロット席がガトルから離脱する。
 ちなみに、この時のブラストを被らないために、ガトルのコクピットは互い違いに段差を設けていた。

「それじゃあ、征って来る」
「あ、うん、頑張って」

 ニ機のメインスラスターと四機のサブスラスターを全開にして、その場を離脱するリュウヤのガトル。

「こちら、ドラグーンゼロワン。目標の連邦軍特務艦を発見した。三十秒後にエンゲージする」

 リュウヤは、管制官に報告。
 モビルスーツ開発宙域には、機密保持の観点からミノフスキー粒子が散布されているため、通信はレーザーによる。

「ドラグーンゼロワンへ、ザクの秘密を知った連邦を逃すな! 迎撃せよ! 全兵装使用承認!」
「ドラグーンゼロワン、ラジャー。オールウェポンフリー」

 アサルトピットと呼ばれる、脱出装置を兼ねたコクピットに装備されたニ連装30ミリガトリング砲。
 そして、機体両側面に装備された五連装ミサイルポッドの安全装置を解除する。
 表示モード切り替えで、バブル型キャノピーをスクリーンにヘッドアップディスプレイでズームアップされた地球連邦軍特務艦を表示する。
 ガトルの推力比は、開発中のモビルスーツ、ザクを上回っていた。
 取り柄のスピードで、見る見る内に敵艦との距離を詰める。
 ヘッドアップディスプレイの表示を、通常モードに切り替え。
 射撃管制装置が、敵艦を捉えた。

「ドラグーンゼロワン、フォックスワン!」

 赤外線、レーザー併用誘導のミサイルを四発、連続発射。
 しかし敵艦は、盛大に欺瞞装置を放出し、これを回避する。
 フレアーが宇宙空間に花火を散らした。

「そう来ると思った」

 照準内に敵艦を収め、牽制のために機種の30ミリガトリングを叩き込む。
 敵艦の表面で火花が散った。

「ドラグーンゼロワン、フォックスワン!」

 残しておいた六発の内、四発のミサイルを再び発射する。
 もう、敵艦は欺瞞装置を使いはたしているはずだ。
 過たず、ミサイルは敵艦に全弾命中。

「エンゲージ! スプラッシュワン!」

 リュウヤの報告と共に、爆散する敵機。

「よくやった、ドラグーンゼロワン。帰投されたし」
「ドラグーンゼロワン了解」

 そして、リュウヤはメイの乗った脱出ポッドの回収に回る。
 慣性航行しているそれは、すぐに見つかった。

「リューヤ!」

 近付いて来るリュウヤのガトルに、歓声を上げるメイ。

「無事だったんだね」
「まぁ、これぐらいはな。ドッキングするぞ」
「ドッキング?」
「そっちは、そのまま何もしなくていい。こちらで調整する」

 脱出ポッドの後ろに回る、ガトル。

「座標軸固定。レーザーサーチャー同調開始。5、4、3、2、1、ドッキングサーチャー同調。メイ嬢、ショックに備えろ」

 エレカーに乗車中に追突を受けた場合などもそうだが、完全に気を抜いた所に不意打ちでショックを受けると、それが大した衝撃ではなくとも首をやられムチ打ちになる可能性がある。
 それを配慮したリューヤの警告だった。

「う、うん」

 コ・パイロット席で耐ショック姿勢を取るメイ。
 それを確かめて、リュウヤはスロットルを緩やかに開ける。

「では行くぞ、ドッキングゴー」

 がつん、というショックと共に、メイの乗ったコクピットが再ドッキングを果たす。

「よし、それじゃあ帰るぞ」
「うん」

 こうして、メイの波乱のガトル初飛行は幕を閉じたのだった。



■ライナーノーツ

 本作品の主役メカ、ガトルは機動戦士ガンダム登場の脇役メカ。


>「射撃管制装置だ。同時に複数の敵をロックオンできるMT−SYSTEMだな。赤外線、レーザー併用誘導のミサイルで、ミノフスキー粒子散布環境下でも八機までの敵機を同時に撃破することが可能だぞ」

 MT−SYSTEMは、シューティングゲーム、レイストームから。
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>赤外線、レーザー併用誘導のミサイル

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