【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第一話 ガトル、ジオンに降り立つ!!




「戦術シミュレーションで、これまでにない高成績?」

 カーウィン家出身の才女で、十歳にしてモビルスーツ、ザクの開発に従事。
 そのOS開発に携わっている少女、メイ・カーウィンは、気になる噂を耳にした。

「そう、何でもガトル乗りの少尉さんが、新戦術を編み出したみたいで。皆さん感心していますよ」

 一回り以上、年上の同僚が教えてくれた。
 モビルスーツの開発は、その物自体の開発だけではない。
 運用も含めて検討が成されているのだ。
 戦術シミュレーションも、その一環。

「ガトルって、あの、戦闘爆撃機の?」

 ガトルといえば、ジオン軍の制式宇宙用戦闘爆撃機だ。
 バルカン砲とミサイルポッドを標準装備しているが、その機体側面には四発の対艦大型ミサイルが搭載可能で、攻撃機としても運用できる機体である。
 まぁ、今自分達が開発しているザクが開発されたら旧式になる機体だと、メイは事もなげに思ったのだが。

「で、その少尉さんって?」

 そう聞いてしまったのは、機体制御のOSとコクピット周りのインターフェイスのマッチングに行き詰っていたからかも知れなかった。



「お兄さんが、噂の少尉さん?」

 ソプラノの声に振り向いたリュウヤ・タチバナ少尉の視線は空を切った後、下に向けられた。
 彼の腰ほどしかない、可愛らしい黒髪の少女。
 彼女が声の主だったのだ。
 何故子供がこんな所に居る、と口にしなかったのは、あらかじめ噂に聞いていたから。
 ダイクン派の名家だったカーウィン家で英才教育を受けた娘が、ジオン独裁体制下に入って半ば人質として、モビルスーツ開発に組み込まれているということを。
 確か名前は……

「メイ・カーウィン! まだ十歳よ。これでもザクの開発技師なんだぞ」

 本人が名乗ってくれた。

「これは、失礼しましたカーウィン技師。自分は、リュウヤ・タチバナ少尉であります」

 十歳の少女に敬礼しつつ敬語を使って話す二十三歳の男は、傍から見れば滑稽だろうと思いながらもリュウヤは慎重に答えた。
 しかし、それに対して、少女は顔をしかめた。

「メイでいいよ。あと、そんな堅いしゃべり方、しなくていいから」

 そこで、あっさり了承するのが、不良軍人たるリュウヤだった。

「では、メイ嬢と。これでいいかな?」
「嬢は余計な気がするけど」
「年下だし。俺の素はこうなんだ」

 子供と言えども、女性の名前を呼び捨てにする習慣はないリュウヤである。

「むーっ」

 メイは、少し膨れて見せたが、それはそれ。

「ねぇ、ねぇ、お兄さんが……」
「リュウヤと呼べ」
「ん、リューヤが噂の少尉さんなんでしょ」
「噂?」

 リュウヤは、自分の名の発音が若干違っていることに気付いていたが、訂正はせずに話を進めた。
 砕けた間柄の相手は、皆そう呼ぶからだ。

「戦術シミュレータで、戦術技術開発研究所の人をこてんぱんにしちゃったって」
「こてんぱん、というのは語弊がある。同じ条件下でシミュレータをやって、俺の方が若干、成績が良かったってだけだ。まぁ、発想の転換だな」
「その発想の転換が、必要なんだってば! ねぇ、どんなだったか教えてよ」

 リュウヤはしばし少女を観察してから口を開いた。

「それはメイ嬢が、モビルスーツの開発に必要だという意味か?」
「うん、何だか今、行き詰っちゃっててね」
「ふむ、そういうことなら」

 リュウヤはメイを連れ立って、戦術シミュレータのある戦術技術開発室へと向かった。
 幸いシミュレータは空いており、利用できる状況だった。
 実際、やって見せるのが早いかとも思ったが、ここでリュウヤは少女が開発技師であることを思い出した。

「メイ嬢、ここのデータの閲覧権限はあるか?」
「当然! ザクの開発には、戦術のフィードバックも必要不可欠だからね」
「なら、三日前の、艦隊戦のデータを出してもらおうか。ザムエル大尉のだ」

 少女に閲覧権限があるのなら、結果だけ見てもらった方が更に早い。
 まずは、標準的な戦術によるシミュレーション結果を出す。

「まず言っておくのは、ガトルは宇宙用戦闘爆撃機だが、艦隊戦では対艦大型ミサイルを積んだ攻撃機として運用されるということだ。だから……」

 画面ではモビルスーツ、ザクの部隊が戦場の露払いをし、その上でガトルの部隊が突撃。
 対艦ミサイルで連邦軍艦隊を殲滅していた。
 ちなみに、ミノフスキー粒子散布環境下を考慮した、有視界戦闘だ。

「戦闘機たるモビルスーツのエアカバーの元に、攻撃機であるガトルがミサイル攻撃で敵艦に止めを刺す。定石だな」
「リューヤは違うの?」
「ああ、俺のはコストを考えた手だ。同じ日の、俺のデータを呼び出してくれ」

 画面に、リュウヤのシミュレーション結果が出された。

「あれ? ザクとガトルの混成部隊?」
「ああ、その上で、ガトルを前列にスタックさせている」

 スタックとは、ウォー・シミュレーションゲームなどで、複数の駒が同一の升目にある状態。
 駒を積み重ねることから言われた言葉だ。
 ここでは、ザクとガトルの部隊を取りまとめた上で、何と、攻撃機であるガトルを前列に押し出している。

「何考えてるの?」
「だから、コストを考えた手だ」

 見る間にガトルは数を減らして行く。
 しかし、その分、ザクの損害は格段に減った。
 そのお陰で、ザクは十分にその力を発揮し、連邦軍艦隊に大打撃を与えた。
 結果、定石通りの戦闘を行った場合と比べ、戦果は上がり、ザクの損耗は最小限に食い止められたのだ。

「旧式のガトルと最新鋭のモビルスーツでは、コストも性能も違う。ガトルのためにモビルスーツを護衛に使うのが、そもそも間違いなんだ」

 コスト的に言えば、定石に比べて圧倒的に優れた戦術だと言える。

「それはそうだけど…… そうだけど……」

 メイには納得できなかった。

「だからって、ガトルのパイロットを使い捨てにしたっていいって言うの?」
「そこが、モビルスーツとガトルの違い。シミュレーションには反映されないファクターだな」
「え?」
「ガトルのコクピットは脱出カプセルにもなっている。実際、宇宙世紀0062年にジオン国防隊をジオン共和国軍に昇格させて以来、連邦軍との小競り合いや事故で失われたガトルはあるが、いずれの場合もこの脱出カプセルのお陰でライダー…… パイロットは難を逃れている。確実性のある脱出装置だ」
「脱出装置……」
「ジオンの国力は、地球連邦に比べたら三十分の一以下と言われているのが一般的だ。だから、ガトルは貴重なパイロットの命を優先して作られているんだな。副座で、コ・パイロット席に、レーダー、航法担当のレーダー迎撃士官が搭乗していることもあるし」

 ちなみに、副座であることはミノフスキー環境下で有利に働くことが考えられている。
 レーダーは役に立たなくなるが、その代わりに光学センサーの情報を管制しなければならないため、仕事量が増えると予想されているからだ。
 この点、自動化とデータリンクに頼って乗員を減らしたがためにミノフスキー環境下で苦戦することになる連邦軍61式戦車とは兵科が違うとはいえ対照的と言えるかも知れない。

「だから、この作戦は資材コストでも人的コストでも有効な作戦という訳だ」

 そう締めくくるリュウヤに、メイは瞳を輝かせて食いついてきた。

「ねぇ、リューヤのガトル、見せてもらうこと、できる?」
「俺のガトルを?」

 戸惑うリュウヤ。

「それはいいが、置いてあるのはオープンデッキだぞ。ノーマルスーツの用意はあるか?」
「もちろん、これでもザクの開発技師だからね」

 こうして二人は連れ立って、軍港に置かれたリュウヤのガトルを見に行くのだった。



■ライナーノーツ

 今作のヒロイン、メイ・カーウィンはゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場のキャラクター。


 小説版、

 マンガ版、

 などがある。

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