ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第20話 死闘! ホワイト・ベース Bパート
晴天の夜明け、空には絵の具で刷いたかのようにうっすらと青みがかかり、東方には朝焼けの朱が美しく差し込み始めている。
砂漠の空気は冷えて冴えわたり、月も、星もまだはっきりと見えている。
「ポイントA13、間違いないのだな?」
「はあ」
指定された地点でドムを受取るべく待機するラルだったが……
「30分は過ぎておる」
「あなた、光よ」
そう告げるハモンにラルは目を凝らし、
「いや、あれはマ・クベの部隊の者だ」
そして到着する大型輸送機ファット・アンクル。
正面ハッチが開かれ、搭載されていた三機のモビルスーツが姿を現す。
「おお、これが……」
どっしりとしたシルエット。
青い巨星、ランバ・ラルに合わせ青に塗られたその姿。
「盾は持たぬのだな」
「はい、この機体は足裏のホバーで高速走行するものです。空気抵抗を減らすため、シールドは持たない設計です」
答えるのはマ・クベの指示を受けてやってきたウラガン。
実際、空気抵抗とはやっかいなもので、ミヤビの前世の記憶でも大気圏内で使用する陸戦型モビルスーツの多く、陸戦型ガンダム、陸戦型ジム、ジオンでも陸戦機のMS-14GD ゲルググGなどが面積の狭い小型のシールドを装備していたのもそのためだ。
お台場の実物大ガンダムが武装していなかったのは、付けたらシールドに当たる風圧がすごくて大変だから、と後に大河原邦男氏が語っていたこともある。
「それゆえの、曲面主体の機体か……」
ラルは納得する。
ミヤビの前世の記憶でもリックディアスは直線主体のモビルスーツだったが、それを陸戦用に改修したディジェは、曲線主体の流線形のボディを持っていた。
逆にリック・ドムを統合整備計画により再設計したリック・ドムIIの装甲及びフォルムが空気抵抗を度外視した平面的なものへと変更されていたのはドムと違って空間戦闘用として開発されたため、空力を考えずとも良かったからと言われていた。
宇宙用の機体と大気圏内用の機体では、やはり違うのだ。
「また火力もグフの比ではありません」
グフには無かった強力な大型実弾火器の使用が可能。
「これならば」
ラルはニヤリと男くさい笑みを見せた。
十分に寝て、起きて。
アムロは無言で朝食を腹に詰め込む。
ミヤビが持ってきてくれたもので、独房で寝ているだけだしお腹が減っていない、と言うアムロを、ミヤビはこう諭したものだった。
「こういうときにこそ食べれるようじゃないと戦場っていう極限状態で生き残ることはできないわ。
まずは食べることよ。
たとえ恐怖に震えながらでも食べられる人は、食べ物を受け付けなくなっている上品な人たちに比べれば生き残る率が高まる。
食べ物は体力だけじゃなく、気力をも支えるものだから」
その言葉に従い、黙々と食べていく。
「あの人はきっと、必ず来る」
アムロには確信があった。
ミヤビが言ってくれた言葉、
「たとえ恐怖に震えながらでも食べられる人は、食べ物を受け付けなくなっている上品な人たちに比べれば生き残る率が高まる」
それは来るべき戦いを前に、恐れる心を無理に奮い立たせ、尖らせていた、それで食事を取る余裕も無くしていたアムロの内心を慮ったからなのだろう。
ふっとアムロは表情を緩め、
「かなわないなぁ、ミヤビさんには……」
そうつぶやくのだった。
「ザクはカーゴの護衛として残す」
ギャロップに連結されていたカーゴを切り離し、一機だけ残っていたザクを共に置く。
ギャロップにはモビルスーツは三機までしか積めないのだ。
「ギャロップは木馬の前面に出てステッチのドムと共におとりだ。そこを後ろから私とギーンのドムで木馬に突っ込む」
そしてラルはハモンに向け言う。
「ハモンにギャロップの指揮を任せる。いいな?」
「はい」
答えるハモン。
彼女を補佐するクランプもうなずく。
「よし、ギャロップ発進。木馬をキャッチしたらドムはギャロップから離れて展開する」
谷を飛び越えるというアクロバティックな走行を見せながら岩と砂の乾燥した砂漠地帯を駆け抜けるギャロップ。
「木馬です。推定位置より10キロ移動しているだけです」
兵の報告にハモンはうなずく。
「良好です。ドム各機、30秒後にギャロップ発進」
『よーしハモン、我々が木馬に取りついたら離脱していいぞ。最後の占拠のため備えてくれ』
通信機越しのラルの声。
「あなたこそ、お気をつけて」
ハモンの声を背に、ラルたちは出撃する。
「フフ、この風、このスピードこそ戦争よ」
足裏のホバーで浮上し、ロケットエンジンで加速。
風切り音を聞きながら砂漠を疾走する。
ラルたちはモビルスーツによるホバー走行という、まったく新しい移動手段でホワイトベースに迫る!!
「あの少年、ガンキャノンのパイロットとか」
ラルたちを見送り、ソドンの街で出会った少年、アムロのことを思い起こすハモン。
「よい少年。さて、どう出てくるか」
史実でのマチルダといい、アムロは年上の女性に好かれるところがある。
……それがミヤビにも当てはまっていると周囲は感じているのだが、ミヤビが知ったならまた首を吊りたくなっていただろう。
ホワイトベース艦内に流れる警報。
ブライトとミライは相次いでブリッジに駆け込み、当直のセイラに聞く。
「セイラ、どのくらい近づいている?」
セイラはコンソールに向き合っているものの、
「ここでは正確にわかりません。オスカとマーカーを呼び出しているんですけど」
彼らの使うオペレーター席の計器は素人には扱いきれないのだ。
「前部ミサイル用意」
ブライトは詳細が確認できずともできることから対応する。
「ミライ、メインエンジンパワー臨界、急げ」
「はい。エンジンスタート終了、飛行再開まで1分20秒待ってください」
そこにオスカとマーカーが上着を着こみながら駆け込んでくる。
「すいません、寝坊しちゃって」
と二人で言うが、逆だ。
超過勤務まっしぐらな彼らをブライトとミライが無理やり休ませたのだから。
ブラック企業に洗脳された俸給奴隷(ウェッジ・スレイブ)並みに馬車馬のごとく働いている二人だった。
そして遅れてフラウが到着し、通信手をセイラと交代する。
「左右のビーム砲を開かせろ、後ろのミサイルもだ。敵は一機じゃないらしい」
「了解、ビーム砲開け。敵の計測に入ります」
マーカーはコンソールを叩きながら回答。
「正面、ギャロップらしき物確認。山が邪魔でほかの物が見つかりません。ホワイトベースの高度を取ってくれませんか?」
「まだ無理だ。前方の監視カメラ開け」
エンジン起動シーケンスは完了させたが、ミノフスキークラフトを働かせ浮上できる出力に到達するには時間がかかる。
マーカーはモニターに前方から迫る敵影を表示。
「ギャロップです、射程距離に入ります」
「主砲、撃て!」
ブライトの指示でホワイトベースの実弾砲二門が火を噴く。
しかしギャロップはホバー走行ゆえの軽快な動きで回避運動を取り、ホワイトベースに的を絞らせないばかりか前部機銃で反撃してくる。
そしてようやく浮上を開始するホワイトベースだったが、
「左舷前方、ミサイルらしきものが接近!」
そして命中。
「左の機銃なにやっている? ザクが居るんだぞ、撃て、撃て」
『ブライト、ガンキャノンL発進するぞ』
「頼むぞ、リュウ。左にザクが居る。発進の隙に狙い撃ちされんように高度を取れ。あてにしているぞ」
「わかった。ハヤト、いいか?」
「はい、だけどモビルスーツの操縦は初めてだから……」
右腕を手ひどくやられ修理中のガンキャノンのAパーツに代わり、長距離砲撃戦複座仕様のガンキャノンL、ロングレンジタイプのAパーツを装着して出撃する。
頭部の砲手席に着くのはこれまでリュウと一緒にコア・ファイターで戦ってきたハヤトだ。
『大丈夫ですハヤトさん。私もついています。サラナインからもよろしくと頼まれていますし、ハヤトさんの操縦テレメトリーも受け取っています』
リュウのコア・ファイターにインストールされているサラシックスも、サラナインからハヤトのデータをもらってこの出撃に臨んでいる。
「操縦テレメトリー?」
首を傾げるハヤトに、サラシックスは説明する。
『はい、ハヤトさんの戦闘データから抽出したものです。
戦闘行動はある種とっさの行動。
つまり反射行動の連続――
その積み重ねにあると言って良いもの。
そして反射行動は人が無意識に成す行動。
しかも必ず個人特有のクセがあります。
軌道変更のタイミング、スロットルの瞬間的な開け方、射撃のタイミングとパターン。
とある状況下における各種バイタルサインのパターン。
無意識下の行動が多いため、教育型コンピュータが、そして私たちサラシリーズがパイロットをフォローするためには欠かせないデータなんです』
しかし……
サラシックスはわずかに表情を曇らせる。
『ただ、それをもってしてもハヤトさん専属になっているサラナインほどにはサポートすることはできませんが』
「どうしてだい?」
サラシリーズは人と同じ心を持つとはいえプログラム。
ならデータさえあれば問題なく働くことができるはず、とハヤトだけではなく誰もが思うだろう。
だが、サラシックスは首を振る。
『それはハヤトさんとサラナインの間にある絆が、ハヤトさんと私の間には構築されていないからです』
「絆だって?」
サラシックスは真剣な表情でうなずく。
『パイロットの意思を読み取りフォローする私たちサラシリーズに対しては、心を開いて、自分を偽らず、素直にさらけ出すことでその読み取り精度が向上します。
でも人は相手によって態度が変わるもの。
それゆえ、私たちサラシリーズの側の読み取り精度も落ちることになるのです』
そういうことだった。
だからこそサラシリーズをインストールされた機体は専属運用が望まれるのだった。
そしてガンキャノンLはカタパルトに接続され、
「カタパルト準備完了。ガンキャノンL、行くぞ!」
高度を取るべく、猛烈な勢いで射出される。
敵からの砲撃を掻い潜り、左前方の火点へ向かうが。
「りゅ、リュウさん、ザクじゃない!?」
「ああ、新型か? しかも速い!」
ガンキャノンLは長距離砲撃戦仕様のモビルスーツ。
接近戦は苦手なため、弾幕を張れるヤシマ重工製100ミリマシンガン、ミヤビの前世の記憶で陸戦型ガンダムや陸戦型ジムが使っていたYHI YF-MG100を持ち出してきたのだが。
敵はその射撃をホバー走行による素早い動きでかわすと、ガンキャノンLの着地点目掛け突進してくる!
■ライナーノーツ
ランバ・ラルの元にグフに代わる新戦力が届き、戦闘が開始。
『ギレンの野望』だとラルにドムを渡すとホワイトベースを墜としてくれるんですけど、このお話ではどうなることか。
次回は激戦が予定されていますが、サラシックスはその最大の被害者になりそう……
話は飛びますが、ミヤビがミドルモビルスーツに続いてプチモビ、ジュニアモビルスーツの市場を先行して掌握するべく開発した機体がある、という設定なのですが。
スコープドッグの独自改良品という案もあったんですけど、Zガンダムで登場したジュニアモビルスーツのコクピットをオープンタイプからクローズタイプに変更しただけ、という風なボトムズのライト級AT、ツヴァークがガンダム世界になじむのかな、と1/60キットの改造を始めました。