ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第18話 黒いガンキャノン Dパート
すべては罠だった、そう気がついた時にはもう遅すぎた。
アッザム・リーダーと名付けられた広域高周波加熱システム。
展開されたプラズマ結界がガンキャノンを焼き尽くさんとする!
『ひぐぅうぅぅぅッ!? あっ、あぁっ、ああぁああぁああぁぁぁッ!!』
機体を苛む高温に悲鳴を上げるサラツー。
機体からのフィードバック信号を苦痛と感じるほどにAIの同調率を上げ過ぎた弊害だ。
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のシンクロ率に類似した仕様だが、このシステムの残酷なところはエヴァンゲリオンのパイロットと違って、同調率をサラシリーズが任意で調整できること。
サラシリーズはフィードバックの苦痛、危険より、己のマスターのためを思って同調率を上げ過ぎる……
特に自分のマスターであるアムロにほれ込んでいるサラツーには危ういまでに同調率を上げてしまう傾向があった。
「サラツー!? うわっ!!」
手元のザクマシンガンの弾倉が誘爆した!
幸い残弾が少なかったためガンキャノンに大きな被害は出なかったが、同じことが240ミリ低反動キャノン砲の弾薬に起こったら、とアムロはゾッとする。
「表面温度4000度!? さっきの砂みたいなやつのせいか」
『パイロット及び回路保護のため、全エネルギーの98パーセントを放出中』
そう告げたのは教育型コンピュータの省電力モード移行に伴い、がっくりと気を失うかのように休眠状態に陥ったサラツーではなく、その代替を行う人工無脳、botだ。
「98パーセント? それじゃあ動けない」
「キシリア様、成功です。なんといってもモビルスーツの研究に関してはこちらの方が長いですからな」
キシリアに報告するマ・クベだったが、その時飛来した一発のミサイルがアッザム・リーダーの基部を破壊する!
「なに!?」
「アムロ!」
ガンキャノンの危機に駆け付けたのはミヤビのドラケンE改。
アーマーマグナムを磨いているうちに心が落ち着いてきたミヤビは、
(銃を磨いてる場合じゃない!)
と我に返り、ホワイトベースを飛び出してきたのだ。
そしてその先で砂煙を上げながら爆走するフラウのホバーバギーを発見。
フラウのことだからその進路の逆をまっすぐ行けばアムロと接触できると読んで駆け付けたのだった。
しかし、
『酷い……』
サラが思わずつぶやいてしまったとおり。
ガンキャノンは弾薬誘爆こそ起こしていなかったが、すでに真っ黒に焦げ付き、力なくくずおれていた。
まるでアニメ『太陽の牙ダグラム』最終回で燃やされてしまったコンバットアーマー、ダグラムのように。
「ははは、もう遅い。今止めを……」
ガンキャノンに向かって砲撃を加えるマ・クベ。
しかし、
「避けられた?」
信じられぬと目を見開くキシリア。
マ・クベも、
「ザクならとっくに弱ってるはずですが」
と驚く。
ザクの装甲は超硬スチール合金製で、熱には弱い。
仮に破壊されなくとも、鋼は熱を受けると焼きなまされ、劣化する。
火災を起こした戦闘車両が再生不能になるのはそのせいだ。
増してやザクは装甲がフレームを兼ねるモノコック構造。
装甲外殻の損傷が機体強度の低下に直結するのだ。
一方、ガンキャノンの装甲はルナ・チタニウム。
チタンは過熱による劣化が(ある程度までなら)発生しないのだ。
ミヤビも前世でアウトドア用のごく薄いチタン鍋を空焚きして真っ赤に赤熱させたことがあるが、その後の使用に問題は無かった経験を持つ。
また旧20世紀の超音速・高高度戦略偵察機SR−71ブラックバードは超音速飛行における空気との衝突による熱で機体が加熱されてしまうため、通常の航空機素材が使用できずチタンを使っていたという。
そしてその寿命が異様に長かったのは、飛行のたびに加熱され機体素材が熱処理を受けた状態になるためだったと言われていた。
スチール系の素材とは逆に、加熱が寿命を伸ばす方向に働くわけである。
まぁ、表面塗装はもたず焼きつき、全身真っ黒になってしまってはいたが。
チタンは焼き付きで表面を保護する酸化被膜に色が定着しやすく、400度以上になると紫から黒に染まって行く焼き色が付くものでもあるし。
また、ガンキャノンの胴体は240ミリ低反動キャノン砲の弾倉をおさめ、保護するのに特化していると言っていい構造となっている。
腕部の稼働構造の大半を肩部に追い出すことによって一番装甲の厚い、ドムのジャイアント・バズの直撃にすら耐えうる胸部にスペースを確保、そこに弾倉と給弾装置を搭載し保護している。
それゆえにアッザム・リーダーの高熱にも弾薬が誘爆することなく耐えられたのだった。
「アムロ、新しい武器よ」
ミヤビはドラケンE改の右ひじハードポイントに装着されていたヒートホークを分離。
ガンキャノンの足元に置く。
黒に染まった機体が禍々しいガンキャノンが、それを拾い上げる。
『加勢は要る? アムロ』
通信機越しのミヤビの声に、アムロは首を振る。
「あんなもの、僕一人で……」
と言いかけ、モニターの片隅、復帰はしたものの戦闘中であるがゆえに視界を邪魔しないようアイコンのように最小化されて表示されるサラツーに目を落とし、
「サラツーと二人で十分です!」
と言い切る。
『アムロ……』
感動に瞳を潤ませるサラツー。
「それより、ヒートホークを僕に渡したらもう武装が無いでしょう。ミヤビさんは離れてください!」
もうドラケンE改には短距離ミサイル一発しか武装は残されていないのだ。
「行きます!」
アムロはサラツーのアシストを受けガンキャノンの背面、そして足底部のロケットエンジンを全開にしてジャンプする。
「こ、こいつ!」
ガンキャノンに跳び付かれ、慌てるマ・クベ。
真っ黒に染まったガンキャノンは、これまでのうっ憤を晴らすかのようにヒートホークを振り上げ、砲塔を潰し、装甲をかち割って行く!
アッザムから噴き出したオイルが、まるで返り血のようにガンキャノンの黒い機体に降りかかった。
「ブラックゲッターか……」
斧を振りかざし鬼神のように戦うガンキャノンにアニメ『真(チェンジ!!)ゲッターロボ〜世界最後の日〜』で登場の黒いゲッター1の姿をだぶらせるミヤビ。
元のゲッターロボに比べ、より禍々しい凶悪なスタイルになっており、そのイメージに違わぬ流竜馬のワイルド過ぎる戦いぶりから視聴者に強烈なインパクトを与えた人気の機体だ。
機体の色の由来も、塗装ではなく大気圏に突入した際に機体表面が焼け焦げた結果という設定があって、今のガンキャノンに重なるのだった。
「早く振り落としなさい」
「はっ」
キシリアの指示を受け、マ・クベの操るアッザムは機体を傾けるアクロバティックな飛行体勢に入る。
これもミノフスキークラフトで浮いているからこそできることだ。
「落とされてたまるか!」
アッザムの砲座をヒートホークで破壊。
折れ曲がった砲身の根元を掴んで耐えるアムロ。
「これまでのようですね。機密保持の為、基地を爆破しなさい」
キシリアは速やかに損切の判断をする。
「分かりました。プランDを使います」
マ・クベは鉱山基地にあらかじめ策定していたマニュアルどおりに行動するよう指示。
プランDでは電子、紙を問わず機密資料を即座に破棄。
次いで人員の避難の後、鉱山施設を再利用不能なまでに爆破する。
さらに避難した人員はゲリラ戦で遅滞戦闘を行い連邦軍の行動を阻害する、ということになっている。
問答無用で兵ごと爆破したミヤビの知る史実とは異なっているが、これはガルマの『マゼラアタックの運用変更に関する通達』が影響している。
マ・クベは有能な人物であり、負傷後のガルマの覚醒ぶりにもいち早く気付いていた。
そのガルマの指示である。
マ・クベは通達の骨子、つまり『人的資源の保護』という観点に着目。
企業におけるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)、つまり企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、損害を最小限にとどめつつ、事業の継続あるいは早期復旧を可能とするための方法、手段などを取り決めておく計画。
これを参考に『人的資源の保護』の観点から非常時対応のプランニングを行い、配下の組織に広めていた。
そしてキシリアの鉱山視察に合わせ、これをプレゼンテーション。
キシリアの突撃機動軍に、いやジオン軍全体に広め、これにより将兵の意識を『人的資源の保護』重視へと転換しようと画策していたのだ。
そしてマ・クベが策定したどおりに、即座に遂行されるプラン。
爆発する鉱山の衝撃に驚くガンキャノンパイロットの隙をついてこれを振り落とすことに成功する。
アッザムに食い込ませたヒートホークを残して落下していくガンキャノン。
「ふむ、事前に受けた説明より速やかにできたようですね」
キシリアも満足げだ。
「はっ、軍が『人的資源の保護』重視、つまり自分たちの命を考えてくれている、となれば兵の士気も上がりますれば」
ミヤビも前世の記憶で覚えがあることだ。
とある企業で、
「病気やけがは治療すれば治るが、メンタル疾患は治るとは限らない。だから通常の病気やけがに対する保護は手厚くする一方、メンタルは職が合わなかったということで保護より退職を勧めることにする」
という舵を切ったが、結果、社員の生産性がガタ落ちし業績も下がったという。
「仕事に全力を尽くした結果、うつなどメンタルで倒れたとしても会社は守ってくれない」
となったことで、メンタル疾患にかかる少数の社員だけでなく、大半の社員が自分を守るため仕事にかける力をセーブしてしまったのだ。
つまりメンタル疾患も含め傷病に対する手厚い保護というのは、疾患にかかる一部少数の社員を守るだけでなく、すべての労働者が不安なく十全に力を発揮し働くためにこそある。
それは企業にもメリットになることであり、そのためにこそ雇用者が用意するものなのだ。
そして命を懸けて戦わなければならない軍隊では、そういった配慮がさらに士気に、生産性に関わってくるというわけだった。
一方で、キシリアはアッザムの戦闘記録を再確認しながら思案する。
「連邦軍のモビルスーツ、噂以上の性能と見た。我らもテスト中の各モビルスーツの実戦配備を急がねばならない」
と。
しかし史実のガンダム以上に黒いガンキャノンの暴れ振りはキシリアにインパクトを与えた様子で、
「いや、ただ急がせるだけでは足りない。ここは取捨選択をすることでリソースを集中させるべきか」
とつぶやく。
経営者にとって『何をやるかを決める』のと同等かそれ以上に『何をやらないかを決める』のは大事である。
ヒト、モノ、カネ、時間といった経営資源は限られているのだから選択と集中は必須なのだ。
それと同様に、キシリアはジオンの限られたリソースを開発機種を絞ることで集中させようと、ここに決意したのだった。
「やっぱり自爆装置か……」
現場から一足先に逃げ出していたミヤビはため息をつく。
史実どおりの展開と思い込む彼女は、ジオンがより手ごわくなっている事実に気付かないのだった……
「第102採掘基地。第102採掘基地だって? 僕がやったのはたくさんある採掘基地のひとつだったっていうことなのか。レビル将軍が叩こうとしてるのはこんな鉱山じゃないのか? もっとすごい鉱山のことなのか」
そして爆破された敵基地の残骸、そのプレートをガンキャノンのモニターにズームしたアムロは失望の声を上げる。
なおプレートは粉々に爆破されていたものの、映像からジグソーパズルを組み立てるように欠けている部分も含め一瞬で情報復元してしまうサラツー、というか教育型コンピュータの演算力マジ凄い。
更には、
『アムロ、敵兵が』
「っ、生き残りか? 生身の兵士がロケット弾程度でモビルスーツと戦おうって言うのか?」
ゲリラ戦を仕掛けてくる敵兵に、ここに固執する意味は無いとアムロは退避。
再び流浪の道を歩むことになる。
「な、なんじゃこりゃあー!!」
ようやくたどり着いた基地が悲惨な状態になっているのを見たコズンは、その場でパタリと倒れ込む。
兵士たちも撤退を完了しており、彼を助けてくれる者は居なかった……
次回予告
「とあるプロジェクトにランバ・ラル隊をスカウトしたくて」
「何だって?」
「傭兵団、それもジオン外注の独立重駆逐部隊…… 地球連邦軍の試作型モビルスーツ運用艦を密かに乗っ取り、最新鋭モビルスーツRX−78ガンダムと呼ばれる機体を筆頭としたモビルスーツ群を運用する極秘の教導部隊」
脱走したコズンに接触するミヤビ。
しかし戦況はいやおうなしに進み、ラルのグフとガンキャノンの戦いが始まる……
次回『ランバ・ラル特攻!』
君は生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
ガンキャノンが焦げてブラックガンキャノンになりました。
ブラックゲッターと同じく大気圏突入でやろうかとも思ったのですが、アッザム・リーダーでやった方がいいかと思い、取っておいたネタでした。
黒い量産型ガンキャノンで名を上げるエース『踊る黒い死神』ことリド・ウォルフとパーソナルカラーが被ってしまうんですけどね。
もちろんサブタイトルの元ネタは『機動戦士Zガンダム』第1話『黒いガンダム』からですが。
一方、美味しいところで登場したものの出番の少ないミヤビでしたが、次回は暗躍する方向で行く予定です。
と言っても黒幕は彼女じゃないんですけどね。
>「ブラックゲッターか……」
これ、