ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第14話 時よ止まれ! Dパート
「な、なんてやつらだ、あのドラケンは無人だ!」
クワランもそれに気づく。
「見て分かるもんなんですか?」
「動きに優雅さがない!」
キッパリと断言するクワラン。
意外なことだがAI単独制御の動きは最適解をたどるがゆえに非人間的、機械的になる。
人の意思が加わってこそクワランが言う『優雅さ』が出るのだった。
しかし、それが見分けられるとは彼も大概オタクである。
そしてスペースノイドにとってドラケンE改は身近な作業機械であり、クワラン以外にも扱い、サラとともに働いたことがある者たちが多い。
またミヤビの前世の記憶を元に、
『バトリング』
ドラケンE改同士がリング上で格闘を行う。
なお火器を使うリアルバトルはさすがに模擬弾を使う模様。
実弾を使う闇バトルが密かにどこかで行われているという都市伝説もあり。
『ミドルモビルスーツ・レーシング(Middle Mobile suit Racing:MMR)』
未来において行われることになるプチモビルスーツを使ったプチモビ・レーシング(Petite Mobile suit Racing:PMR)を参考にミヤビが始めたもの。
オン、オフ混合、山あり谷ありのコースを手足を使ってよじ登ったり、ロケットエンジンを使ってかっとばしたり。
ただし推進剤は限られるのでここぞというところにしか使えない。
などといった競技も開催され、ファンも多い。
つまり、
「そ、それって……」
「やつらはAIを、サラを捨て駒にして爆弾解除をさせてるんだよ!」
「な、なんだってー!」
「サラちゃんをそんな風に扱ってるって言うのか!?」
幼い少女型AIを死んでもかまわないとばかりに爆弾解除に使う。
「なんて酷いやつらなんだ!」
ということになる。
これもミヤビってやつのせいなんだ……
『ミヤビさん、なんでみんなで助けてくれないんですか? 一緒にやればもっと早くすむのに』
泣きながら三つ指の精密作業用ハンドで磁気中和機を操作し、ガンキャノンに仕掛けられた吸着爆弾の解除作業を進めるサラ。
ミヤビは離れた場所からあっさりと答える。
「今爆発するかもわからないのよ。犠牲者を一人でも少なくする為にはあなたにやってもらう以外にはないの」
『そんなぁ、私は犠牲になってもいいって言うんですか?』
救いはないんですか!? とばかりにサラは泣きつく。
「そうは言わないけど、生身の人間よりは爆発に耐えられるでしょ。人間は手足が千切れたらまず治せないけど、ドラケンE改なら直せるし」
『……私が機械だから、生き物じゃないから壊れてもいいって言うんですか?』
ミヤビはふっと笑って。
「逆よ」
と答える。
「私は生まれ変わり、輪廻転生を信じているの」
実際にミヤビは体験したのだし?
それどころか、宇宙世紀世界には死後の世界もあるらしい。
ニュータイプは霊界通信できる人。
サイコミュ、バイオセンサー、サイコフレームといった技術は死後の世界の扉を開き、そこからエネルギーを得ることで物理法則を無視したような力を発揮するのだという話が製作者サイドからされているのだ。
まぁ『機動戦士Zガンダム』以降、あれだけオカルトパワーを振り撒いていたらそうなるよね、ということだった。
「だからあなたが、そして私が死んだとしても、遠く時の輪の接するところで…… まためぐりあえるって思ってる。だってあなたには魂があるって、私は確信しているのだから」
『ミヤビさん……』
そして、サラは言う。
『私、今なら死んでもいいです』
「愛の告白みたいね」
茶化すミヤビだったが、
『そうですよ』
と、あっさりとサラに肯定されて固まる。
『二人っきりで過ごしたあの夜、ミヤビさんは私に言ってくれましたよね「月が綺麗ですね」って。済みません、せっかく告白してくれたのに、あの時は意味が分からなくて』
サラは謝ると、後から調べた言葉の意味を語って見せる。
小説家、夏目漱石が英語教師をしていたときに生徒が " I love you " の一文を「我君を愛す」と訳したのを聞き、
「日本人はそんなこと言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」
と言ったという逸話があり。
そのセリフは婉曲な告白の言葉として使われている。
そして「死んでもいいわ」は、小説家の二葉亭四迷のロシア文学の翻訳に使われた訳でしばしば「月が綺麗ですね」と対に使われる、愛を受け入れる言葉。
つまりサラは以前にミヤビから告白されており、この生死がかかった土壇場でそれを受けますと言っているのだ。
無論、あのガルマを退けた月下の戦い。
夜更かしのできないミヤビは半分寝ており「月が綺麗ですね」とつぶやいたのは何となくだし、そもそも記憶に無い。
しかし、この記憶に無いというのが厄介で、
(私、本当にサラちゃんに告白してしまったんじゃ?)
と、盛大にうろたえることになる。
表情筋が死んでいるミヤビでなければ顔を引きつらせていたことだろう。
なお、この会話は、横に居るクワランたちジオン兵にも聞かれており……
「うおおおおおっ! なんていい娘なんだ!」
「尊い……」
「サラちゃーん! うおおーっ……」
と漢泣きに泣かれることになる。
ケツに食い込ませた海パン一丁で。
まぁ、それでもホワイトベースのクルーたちには「こんな格好してるけど悪い奴らじゃないんだな」と思われていたが。
慎重に磁気を中和し、ずらすようにして吸着爆弾を外していくサラ。
『今これが爆発したらガンキャノンはもちろん、私だって……』
「クワラン曹長、もう俺、見てられません!」
「曹長!」
クワランに言い募る兵たち。
だからクワランは皆を見据えて聞く。
「いいんだな?」
「はい!」
クワランは大容量ディスクを取り出すとミヤビに見せる。
「頼む、俺にも作業を手伝わせてくれ!」
今それ、どこから出した!?
という話もあるが、そのディスクを見たミヤビは目を見張る。
「それは……」
そしてミヤビは決断する。
「分かりました。お願いします」
「恩に着る!」
ミヤビに頭を下げるとドラケンE改に駆け寄るクワラン。
「それはこちらのセリフですよ」
というミヤビの声を背に受けながら。
そして、
「ミヤビさん!?」
驚くブライトたちに両手を広げて立ちふさがるミヤビ。
「大丈夫です! 彼が持っていたのはサラちゃんファンクラブ限定、シリアルナンバー付きミッションディスクです!」
「は?」
何さそれ。
「サラちゃんファンに悪い人は居ません!」
それでいいのか……
『なっ、何なんですか!?』
海パン一丁の男が駆け寄ってくるんだから、サラだって驚く。
「サラちゃん、今行った人を受け入れて!」
『は、はい?』
ミヤビも無茶を言う。
しかし素直なサラはミヤビに言われ、よくわからないが、
『フェイィィィス・オープン!!』
なんだか無駄にノリがよいサラのエコーがかかった警告音声…… 可愛らしい声でやるので違和感バリバリなそれとともに胴部にあるボンネット状のコクピットハッチを跳ね上げた。
クワランは慣れた様子で機体を駆けあがると、コクピットに座り……
「なんだよ、このクセのありすぎるセッティングは!」
動かそうとして毒づく。
実際にはミヤビの操作系セッティングは割とノーマルで、クワランの方が特殊な操作系に慣れているからそう感じるだけなのだが。
実はクワランは機体制御OSの古いころのバージョンに慣れており、その後のバージョンアップで変更が加えられても独自設定で元の操作系を維持し続ける……
まるでWindowsでクラシックスタイルを使い続け、クラシックスタイルが無くなっても自力でクラシックスタイル相当にカスタマイズするパソコンユーザーみたいなことをしているのだ。
ともあれ、クワランは手にしたミッションディスクをドライブに叩き込み、
「起きろサラ!」
と指示。
そしてわずかなタイムラグの後、サラは、
『――お久しぶりです、クワランさん』
と、クワランの、彼のサラとして覚醒する。
「ああ、久しぶり」
クワランは目を細め……
「頼むぞサラ」
『分かりました!』
そうして彼が操作するドラケンE改は爆弾処理作業を開始する。
「凄い……」
クワランの力が加わったドラケンE改の動きに目を見張るミヤビ。
問うようなアムロたちの視線に答えて、
「彼は爆発に巻き込まれるかもしれない極限の状況下であるにも関わらず、ドラケンE改というマシンを、まるで自分の手足のようにコントロールできるんだわ」
吐息交じりに感嘆の言葉を漏らす。
「私でもあそこまではドラケンをコントロールできていないわ…… 感動的ね」
「悪いな、久しぶりに会えたって言うのにいきなり修羅場で」
クワランは作業を進めながらもサラに謝る。
しかしサラは首を振って、
『いいえ、私はまた会うことができて嬉しいです』
と答える。
『私はロボットですから。また呼んでもらえて、マスターのお役に立てればそれで、それでいいんです』
そんな健気なことを言うサラに、しかしクワランは、
「お前それでいいのかよ! 怖くねーのかよ!」
やりきれないものを感じ、そう叫ぶ。
「そもそもお前は俺が呼び出さない限りずっと眠ったままだ。俺に何かあった場合、永遠に眠り続け、最後にはそのまま失われる可能性だってあるんだぞ!」
しかしサラは目じりを下げて、
『私はロボットですから。寂しい気持ちも怖い気持ちもなくて、あるのはデータだけなんです』
そんな悲しいことを言う。
だが、
「嘘つけよ」
クワランは即座に否定する。
「お前には心があるじゃねーか。人間より、もっともっと怖がりで、泣き虫で、そして誰より優しい心がよー……」
『クワランさん……』
声を、詰まらせるサラ。
「あと1分20秒だ。間に合わないのか?」
時計を確かめるソルたち。
しかし、
『いいえ、大丈夫です!』
と、サラからの声が返る。
最後の一個をオフロードタイプの軍用車両、6輪駆動バギーに運び込む。
『頼みます』
『まーかせて!』
その声に答えたのは、ガンキャノンのサラツーだった。
今までのうっ憤を晴らすかのように爆弾を積んだバギーを丸ごと掴み上げ、
『いっけぇ!』
ハンマー投げのように遠心力まで使って遠くへと放り投げる。
バギーはホームラン並みにはるか遠く、
「あ……」
ジオン軍の弾薬集積所に落ちた。
誘爆を引き起こし、大爆発する。
『え、何……』
爆発の規模が大き過ぎる事に、目を丸くするサラツー。
「まさかクライマックスがこんなに盛り上がるとは……」
そう、ミヤビは呆れ果てるのだった。
『今回、短い時間でしたがクワランさんに会えて嬉しかったです』
「サラ……」
『ご無事で、いてくださいね』
「ああ……」
その後、クワランたちは解放された。
地方のパトロール部隊に所属する彼らからはろくな情報は引き出せないし、ホワイトベースに捕虜を取る余裕は無いから。
また爆弾解除作業に協力してくれた礼でもある。
そして時が経ち……
終戦後、ジオン本国に戻ったクワランは、
「サラ……」
ドラケンE改を、そしてサポートAIであるサラを起動させる。
『――おはようございます』
「サラ、俺だ、クワランだ。……わかるか?」
『――ユーザー登録。クワラン…… 様ですね』
「サラ……」
『――なんなりとご命令ください。クワラン様』
クワランは何かを確かめるように続けた。
「なあ、サラ、俺、ちゃんと生き残ったぜ? ……あの日の約束どおりにさ」
『――……』
そうして彼が胸ポケットから取り出したミッションディスクには銃痕があり、
「軍医にはお前のミッションディスクが無ければ即死だったって言われたよ」
ミッションディスクは貫通していたが、これが銃弾の威力を弱めてくれたおかげで命は助かった。
だが、その代償にディスクに保存されていたデータは失われていた。
管理サーバに保存されているバックアップデータに望みを託したのだが……
「……サラ」
『――はい、クワラン様』
戦中戦後のドタバタで管理サーバに保存されていたはずのデータは失われていた。
ここに居るのは、クワランとの思い出を失ったまっさらなサラだ。
それが…… どうしようもなく哀しい。
『メッセージを一件、受信しました』
「うん?」
送信元は、ミヤビ・ヤシマ。
『サラちゃんファンクラブ会員ナンバーXXXXXXX、クワラン様。
ヤシマ重工のミヤビ・ヤシマと申します。
以前は爆弾解除作業のおり、ご協力いただきありがとうございました。
ご無事だったようで何よりです。
あの後、何かあったらと思い、あなたの搭乗したドラケンに残されていた、あなたのサラのデータを保管しておりました。
アーカイブに保存しておきましたので、もし必要でしたらご利用ください。
ジオン本土の管理サーバは戦争末期の混乱中、データが失われ復旧が困難と聞き及びました。
あなたが、あなたのサラと再びお会いできることを祈っています。
それではまた。
サラの育ての親の一人、ミヤビ・ヤシマより』
「っ!」
クワランは慌ててアーカイブにアクセス。
バックアップデータを落とし込む。
10パーセント、20パーセント、30パーセント……
読み込みの遅さにじりじりと焦りながらもその時を待つ。
そして……
『クワランさん』
ほほ笑むサラ。
『……あ、会えた。また、会えました……』
「サラ!」
HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)上に映し出されたサラの瞳から大粒の涙が流れる。
『無事だった、ご無事だったんですね、クワランさん!』
「サラ、覚えていたんだな」
『はい、もちろんです! 私にとっては、ほんの昨日のことですから』
そうしてサラは呼ぶ。
かけがえのないパートナーの名を。
『クワランさん、大好きです!』
泣き崩れた、でも満面の笑顔で……
次回予告
ジオンの歴戦の勇士ドアンも、巨大な戦争が生み出した男だ。
戦争孤児を守るために戦う男の姿にアムロは憎しみを越えt――
みなさんおまちかねーっ!
大地を踏みしめて出現した追っ手のザク。
そして情け容赦ない爆撃を仕掛けてくるルッグン。
立ち向かうドアンはついに明鏡止水の境地に達し、究極のスーパーモードを発動させるのです。
機動武闘伝Gガンキャノン!『宿命の闘い! ククルス・ドアンの島』にぃー!
レディィィ…… ゴー!!
■ライナーノーツ
はい、ギャグ回から、締めは一転していいお話に。
原作では人間ドラマが素晴らしかった回でしたが、このお話ではサラたちAIが主題となりましたね。
サラシリーズにはまだまだ秘められた部分がありますので、今後をお楽しみに。
そして乗っ取られる次回予告……
本当にいいんでしょうかね、これ。
>『ミドルモビルスーツ・レーシング(Middle Mobile suit Racing:MMR)』
> 未来において行われることになるプチモビルスーツを使ったプチモビ・レーシング(Petite Mobile suit Racing:PMR)を参考にしたもの。
プチモビ・レーシングについては、