ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第13話 ミヤビがママになるんだよ!? Bパート
悲鳴を上げるアムロにサラは、
『アムロさんならこれぐらいのスピード、慣れてますよね?』
と不思議そうにたずねる。
『本当の切り札。背面ロケットエンジンを利用したジェットローラーダッシュやジャンプも使っていませんし』
つまり、サラはこれでも安全運転しているつもりなのだ。
そんなことを言われ、アムロは再び四輪ドリフトにより異次元とも思える方向からかかるGの感覚に、
「ガンキャノンより、ずっとはやい!!」
と叫ぶほかなかった。
……サラツーが聞いていたら大変なことになっていただろうというセリフである。
まぁ、地面との距離、つまり視線が低ければ低いほどスピード感、体感スピードは増す。
その影響もあるのだろうが。
そして、そもそも何でサラがこんな真似をしているかというと、妹であるサラツーに、
『私の方が絶対に早い』
と言われたのを、自分が行っても大して変わらないから、と説得してここに居るという経緯からくるものだ。
無論『安全運転しなきゃ』という彼女のAIとしての良識がはやる気持ちを抑え込み、我慢していた。
だがそれを『遅い』『車の流れに乗るのが大事』とばかりに『人間様』にクラクションで怒られ、指導されたのだから仕方がない。
ご立腹している『人間様』の運転する先行車に合わせ『車の流れに乗った』スピードで走らなくてはならないのだ!!
郷に入りては郷に従え。
世界には様々な文化があり、それを認め、受け入れなくてはならない。
つまり、この辺りではあのような速度が普通なのだと素直な心根の持ち主であるサラは学習順応したわけである。
なお……
サラのAIは戦闘用として酷すぎる
勝手に動きすぎ
などという意見もあるが、逆である。
パイロットのやりたいことを察して、可能なら先回りしてサポートするのが補助AI。
許可を取らないと動けないのでは戦闘の役に立たない。
勝手に動いてくれなくては意味が無いのだ。
『攻殻機動隊』の多脚戦車フチコマやタチコマたちの行動の自由さを考えれば分かるだろう。
それにサラの認識では「ドラケンE改はドリフトするのが当たり前、できないと話にならない」ということもある。
ドラケンE改のグライディングホイールはかかとに固定されているため、基本、前にしか進めない。
またドラケンE改は戦車の砲塔のように上半身を回転させることもできるが、ローラーダッシュ中に上半身だけ後ろを向こう、などとすると確実にバランスを崩し転倒する。
(人間が身体をひねることができる範囲、45度程度が限界)
ゆえにローラーダッシュによる機動戦で、すれ違って後方に流れた相手等、すなわち機体前方に居ない敵を攻撃するにはドリフトで横方向に機体を滑らせながら射撃を行うしかないのだ。
この辺の戦闘ドクトリンはミヤビが前世で読んだ『装甲騎兵ボトムズ』の外伝的小説『青の騎士ベルゼルガ物語』から発想を得たものなのだが。
そしてミヤビは割とあっさりとこのドリフト走行をものにした。
サポートAIサラのアシストがあったこともあるが、根本的には人型のミドルモビルスーツだからこそ、というのもある。
自動車ならアクセルとブレーキ、ハンドリングによる荷重移動がキモになる四輪ドリフトだが、ドラケンE改は人型ゆえに姿勢制御でタイヤにかかる荷重が調整できるのだ。
そして、その荷重移動だが、
「これ、アルペンスキーと同じよね」
ということで、ミヤビには楽勝だった。
前世でミヤビは距離スキー、クロスカントリースキーの国体選手だった父を持ち、自身も小学、中学と部活でやっていた。
そうして普通のアルペンスキーは就職後、先輩や同僚に誘われて初体験することになったのだが……
「何この簡単さ。これ絶対転ばないだろ」
ということになる。
クロスカントリーで使うスキーは板が細いしエッジが付いていない。
靴は普通のランニングシューズのつま先だけを固定するようなもので、かかとは固定されない。
つまり自分で体重を支え、バランスを取り、踏ん張る必要があって。
それで滑っていた人間にとって、ひざ下まで滑走姿勢でがっちり固定されたアルペンスキーは滅茶苦茶楽だったのだ。
そんなミヤビの動かす稼働データを得て、サラは単独制御でもドリフト走行を自在にこなすことができるようになっている。
サラにとってドリフトはできて当たり前、そんなに凄いことじゃないという。
まるで公道バトルマンガ『頭文字D』の主人公、拓海のような認識なのだ。
一方、そんな認識のサラに『安全な車間距離』を取って貼り付かれた例の危険運転車のドライバーは度肝を抜かれていた。
「追いつかれた……!?」
公道を移動している邪魔な重機を軽くパスしたらその重機が追い付いてきたという状況。
「何が起こってるんだ。気がヘンになりそうだ……!!」
慌ててアクセルを踏み込むが、
『危ないですね……』
サラは前のドライバーの安全を無視した運転にそうつぶやく。
『事故を起こされて巻き込まれるのも嫌ですし、追い越しましょうか』
「お、追い越すって言ったって……」
『ああ、心配しないでください。背面ロケットエンジンを利用したジェットローラーダッシュやジャンプは使いませんから』
「っ!? それでどうやって?」
先行車はこちらの走行ラインを塞ぐようにセンターラインや車線境界線を無視して走っている。
この状態でどうやって追い越すというのか。
『一言で言えばラインです』
そう答えるサラ。
モータースポーツの世界では考えられない、ドラケンE改だけの走行ライン。
先行するクルマを後ろからブチ抜くための……
ドラケンE改ゆえのスペシャルなライン取りがこの下りにはあるのだ。
『仕掛けるポイントは…… この先の5連続ヘアピンカーブ!!』
そして、
『ここです!』
ドラケンE改が突っ込んだ!
コーナーのインよりもっとイン、つまり……
(なんだそれ……!?)
アムロは驚愕。
ドラケンE改は高低差の大きいヘアピンカーブをショートカットで下ることでパスしたのだ。
ミヤビの前世、公道バトルマンガ『頭文字D』の、
「インベタのさらにインというのは空中に描くラインだ!!」
という展開に似ているが、実際に使われたテクニックは異なる。
あのマンガではジャンプでショートカットしていたが、サラの操るドラケンE改はほとんど跳んでいない。
と言うより、ドリフトでくるりと反転した状態で斜面を横滑りしていくように降りる。
それは、
『ミヤビさんが入力してくれたスキー競技、モーグルのターンテクニックです!』
ミヤビが大した苦労も無くアルペンスキーを乗りこなせたのは前述のとおり。
しかしそんなミヤビでも学習と練習無しには攻略できなかったのが、『壁』と呼ばれるような急斜面に、凸凹の『コブ』が組み合わさったもの。
単に『壁』というのだけであれば、もしくは『コブ斜面』というのだけであればこなすこともできたが、この両者が合わさった斜面、国内スキー場でも有数の超高難易度コースには、練習も無しにとは行かなかったのだ。
そのためミヤビはモーグル競技のターンテクニックを参考にこれを攻略し、そのデータはサラにも入力された。
「そんなのありなのか?」
思わずつぶやくアムロだったが、当然ありなのだった。
そしてサラは危険運転車と距離を離すべく、つづら折りの、高低差のある5連続ヘアピンカーブの段差をコブ斜面に見立て、モーグル競技のように次々にショートカットしてクリアーしていく。
そうやって本来ならコア・ファイター、サラツーと一緒に訪れるはずだったアムロの思い出の場所へ向かう、サラとアムロだった。
(母さん、怪我なんてしてやしないだろうけど)
はやる気持ちを抑えつつ、ドラケンE改のコクピットから飛び出し、幼いころに暮らした街を走るアムロ。
「あっ」
母が暮らすはずの実家を見つけるがそこには母の姿はなく……
自暴自棄になった地球連邦軍の兵士が酒盛りをしているだけだった。
「無断で君の家に入ったことは謝る。誰もいなかったんでね」
「誰もいない?」
「ヘッ、ずっと空家になってるんだ、ケヘへへ」
戸惑うアムロはしかし、そこに幼いころ母と遊んだ人形を見つけて手に取る。
そう、彼が最後に見た母は、
「アムロと離れるのが嫌ならお前も来ればいいんだ」
「でも、宇宙に出るのは」
「サイドの建設を見てごらん。そりゃ素晴らしいもんだよ。アムロに見せておきたいんだ」
「それはわかりますが、でもあたくしは」
そう言って視線を落とす母、カマリア。
「……ごめんね、アムロ。私は宇宙の暮らしって馴染めなくって」
母の面影を思い出すアムロだったが、
「どうしたんだい坊や。おままごと? それともママが恋しくなったのかい? ひひひひ」
と、酒臭い息を吹きつけながら絡む兵士に思い出を汚されたような気がして、家を飛び出る。
「お願いです、お金を払ってください。あたし共はこれで暮らしてるんです、お金を払ってください」
実家を飛び出したアムロが見たものは、身を持ち崩した兵士二人に絡まれる露店の中年女性。
「あーん? もう。ほいっと」
わざとらしく硬貨を地面に放る兵。
「あっ」
アムロの忍耐も限界だった。
「やめろおばさん! 拾っちゃ駄目だ。兵隊に拾ってもらうんだ」
「な、なんだ、こいつ?」
鼻白む兵士。
「小僧、もう一度言ってみろ」
「生意気な」
にらみつける兵に、アムロはそれでも言い放つ。
「ひ、拾えと言ったんだ」
「なにを、このっ、うっ」
掴みかかって来る兵の腕をかわし、不意を突いてタックルで相手を転倒させる。
「拾えっ」
馬乗りになって一方的に殴りつけるアムロ。
「拾えっ、拾えっ」
それは、アムロが類まれな戦いのセンスを持っていることを示していた。
ガンキャノンのパイロットをやっているとはいえ、元は機械いじり好きでインドアな15歳の少年である。
それが身を持ち崩しているとはいえ、訓練を受けた大人の軍人に格闘で勝てるかと言うとまず無理だ。
だがそれでも逆転の目が、体格差、筋力差、リーチの差、それらを埋めることができるのがこの方法。
ミヤビの前世でも異種格闘技戦が流行ったころ、グレイシー流柔術が最強と言われたように。
タックルからグラウンド戦に持ち込むというのは打撃技のような派手さは無いが、強力で確実な方法なのだ。
無論、寝技、関節技の技術など持たないアムロにはマウントを取ってボコるしか方法は無いわけだが。
それを誰に教えられたわけでも無く実行できるところがアムロの凄さだ。
しかし……
「やろう、こいつ!」
「うっ」
もう一人の兵士に蹴り飛ばされるアムロ。
ブラジリアン柔術、俗に言うグレイシー流柔術が異種格闘技戦において強かったのは、一対一で戦うという試合がその戦い方にマッチしていたからだ。
逆に言うとグラウンド技というのは、相手が複数居るとこのように簡単にカットされてしまう。
また相手がナイフなどを隠し持っていた場合も組み付いたところでブスッと刺されて終わりだ。
だから軍隊式格闘術など、実戦で使われる格闘術ではつかみ合いになっても3秒以上もみあってはならないとされるのだ。
グレイシー流柔術でも技術を「柔術競技」「バーリトゥード」「護身術」と区別している。
一般にバーリトゥード(何でもあり)=実戦向けと思われがちだが、グレイシー流柔術では着衣無しの『なんでもあり』の試合を意味するだけで「護身術」はまた別にあるのだ。
結局、格闘技の強さなど状況次第でいくらでも変わるもの。
「ボクサーなんてローキック一発」
と言っている者は、狭い酒場や電車内等、そのローキックを放てない状況で襲われたら対応できない。
そういうものだった。
「てめえみたいなヒヨッコに何がわかるんだ。この町に俺達がいなかったらな、とっくの昔にジオンのものになってたんだぞ、偉ぶりやがって」
そう言ってアムロを蹴りつける兵たちだったが。
『アムロさん!』
そこにサラが操るドラケンE改がかけつける。
「な、なんだぁ?」
最初、全高4メートルを超える人型マシンに驚いた兵士たちだったが、
「や、やるってのかよ、そんな貧弱な『おてて』でよう」
とバカにする。
今回、ドラケンE改の右肘ハードポイントに装着されている60ミリバルカンポッドには、周囲を威圧しないようキャンバスカバーが付けられている。
戦車が非戦闘時に移動する際、防塵や保護のため砲身をカバーするアレである。
そのため兵士たちはドラケンE改が武装しているのが分からず、その左腕先に付けられた精密作業用3本指ハンドを見て、しょせん作業用機械とあざ笑うのだが。
『そうですか?』
「サラ!」
条件次第でザクの正面装甲すら貫通しハチの巣にする威力を持つ60ミリバルカンを人に向けるのは、さすがにヤバいとアムロが止める。
それ以上いけない。
『機動戦士Zガンダム』第2話ではカミーユ君が、
「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか!」
と言って生身の人間に撃っていたが……
しかもその後、
「はははははははは! ザマあないぜ!!」
と高笑いしていたが、本来人に向けて撃つような武器ではないのだ。
■ライナーノーツ
頭文字D(ドラケン)の決着。
「インベタのさらにインというのは空中に描くラインだ!!」
に、ドラケンE改ならではの味付けをさせていただきました。
そして故郷でのアムロの生身での格闘戦でした。
> この辺の戦闘ドクトリンはミヤビが前世で読んだ『装甲騎兵ボトムズ』の外伝的小説『青の騎士ベルゼルガ物語』から発想を得たものなのだが。
名作ですね。