ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第12話 ジオン脅威のメカニズム Dパート
一方、
「こ、これは!?」
シールドで60ミリバルカンを防御しながらも、ラルはその正確な射撃に驚いていた。
まぁ、サラのサポートによる補正が効いているゆえのものだったが、ラルには分からない。
「し、しかし、ヒートロッドに耐えられるかな?」
グフの右腕から伸ばされる電磁鞭が、ドラケンE改の60ミリバルカンポッドに絡みつく!
「バルカンポッド、パージ! フルリバース!!」
ミヤビはとっさにバルカンポッドを切り離し、ドラケンE改を全力で後退させた。
ドラケンE改のローラーダッシュ機構はモーター駆動。
瞬時にタイヤを逆回転させることができる。
だからこその離脱スピードだ。
そして、
(弾薬誘爆危機一髪ーッ!!)
間一髪のところでバルカンポッドが爆発!
弾倉内の弾薬が誘爆したのだ。
搭載される60ミリ弾は電気式雷管を備えており、電撃を加えられたら暴発するのは当たり前。
落雷により電気式雷管が発火しての爆発事故事例は実際にあることだし。
また電気的に大丈夫でも、熱でやられるというのがヒートロッドという武器だ。
そしてミヤビにとってもヒートロッドは鬼門だった。
そもそもミヤビに限らず強電関係について学んだ技術者は大抵、こういうのは大っ嫌いになるものだ。
何しろ電気は目に見えないにも拘わらず「そいつに触れることは死を意味する!」というもの。
高圧大電流なら一瞬でグロ画像と化すし、電圧が低くても条件次第で死ぬときは死ぬ。
勉強していればその危険性は嫌でも理解できるし、業界に居れば人身の事故事例情報も多く流れてくる。
時には、
引っかかった凧を取ろうとして高圧線に触れ感電死した遺体が高圧線にぶら下がったままになり、送電を止めてそれを降ろしてきた当人から、遺体の損傷状況を聞く。
などということも。
語ってくれた当人は豪胆な人物だったがそれでも、
事務所や自宅に塩を盛った。
報告のため現場写真を撮ったがその後、処分した。
お祓いをしてもらった。
というのだから、その酷さが実感できるだろう。
おかげでミヤビは静電気が大っ嫌いだし、電気風呂は怖くて入れない。
ヒートロッドを持ったグフが現れても絶対に戦わないぞ、頑張ってアムロ君!
と心に決めていたのにこの状況。
まさにグフカスタムを駆るノリス・パッカード大佐の、
「怯えろお! 竦めえ! モビルスーツの性能を生かせぬまま、死んでゆけ!」
というセリフそのままの状態である。
顔に出ないから、周囲には気付かれないのだが……
「やる、あのモビルスーツのパイロットめ。よくも自分の弾薬の爆発でやられなかったものだ」
感嘆するラル。
もっともドラケンE改が爆発を回避できたのは、ミヤビが前世知識でヒートロッドの武器特性をあらかじめ知っていたこと。
そして音声コマンド入力に対応し、人間の感情を理解するがゆえにパイロットのやりたいことを読み取りフォローしてくれるサポートAI『サラ』あってのこと。
ミヤビ自身の操縦の腕はへっぽこなのだが。
『ラル大尉、右から!』
「なにっ!?」
グフを狙う砲撃。
両手を大地に突き、姿勢を低く安定させた状態で両肩の240ミリ低反動キャノン砲を撃つのはアムロのガンキャノン。
なお、その肘関節を保護するエルボージョイントアーマーはこのような射撃姿勢を取る場合に関節部を固定し安定性を高める機能も担う。
『もう一台出てきました』
「うっ、あれもモビルスーツか?」
前進してくるのはカイとセイラのガンタンク。
「カイ、急いで」
「ああ、援護射撃をしてやってくれ。ミヤビさんが心配だ」
『トラベリング・ロック解除します』
サラスリーは移動時に120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込むと、射撃体勢に入る。
ガンキャノン、ガンタンクの砲撃を回避しながらラルは命じる。
「私は噂のガンキャノンとやらに仕掛ける! アコース、コズンは他を抑えろ!」
『了解、クラッカーを使います!』
アコースのザクがクラッカー、モビルスーツ用全方位破砕榴弾を投げつける。
空中で6個の弾体が分離、広範囲で炸裂する!
「っ、く!」
ミヤビは必死にクラッカーの効力範囲から離脱。
標準サイズのモビルスーツならセンサーや関節部に破片が飛び込まない限り装甲で耐えられるものだが、ドラケンE改ではそうもいかないのだ。
同時にガンタンクも動きを止めていた。
つまり、ラルのグフがガンキャノンと一対一で当たることができる状況ができあがっていた。
「や、やってやる、やってやるぞ。新型のモビルスーツがなんだ!」
腰部背面マウントラッチからヒートホークを抜き、ガンキャノンを突進させるアムロ。
そう、またテム・レイ博士が徹夜してジオン規格の電力供給システムと兵器管制装置をガンキャノンに追加。
使えるようにしたのだ。
ミヤビからすると赤いロボットが斧を振り上げて戦うという時点でアニメ『ゲッターロボ』のゲッター1が使うゲッタートマホークなのだが。
もしくはマンガ『ファイブスター物語』のアシュラ・テンプル。
なお、アシュラ・テンプルは作中、目撃者抹殺のため斧で装甲をぶち割ったところへレーザーをかまして相手を破壊していたが、それはそのままゲッター1の戦い方でもある。
ゲーム『スーパーロボット大戦シリーズ』や後のOVA等の影響でゲッター1の必殺技扱いになっているゲッタービームだが、実際には原作アニメの第一話ですでに敵に防がれている。
そのためトマホークなど他の武装で敵の装甲をかち割り、そこにゲッタービームで内部から爆発させる、という戦い方をしていたのだ。
しかし、
「アムロ、迂闊に近づかないで。あのモビルスーツの武器は、くっ!?」
ミヤビはアムロに警告するが、しかしザクからの牽制射撃に言葉を続けることができない。
「うわあぁっ!?」
ヒートロッドの攻撃で吹っ飛ばされるガンキャノン。
尻もちをついたところに放たれる追撃を、しかし、
「わぁぁぁっ!」
辛くもヒートホークで跳ね上げる。
ヒートナイフでやるには刃渡り、リーチ的に厳しいので、アムロはヒートホークを使えるようにしてくれた父に感謝しなければならないだろう。
たとえそれが、狂的技術者(マッド・エンジニア)の趣味に過ぎないとしても……
「サラツー!」
『やるよ!』
そして背面ロケットエンジンを使って素早く立ち上がり、そのまま切れ目なく足裏のロケットエンジンを吹かして機体を浮かせることで疑似的にホバー走行を再現。
グフに向かって突進する。
グフは盾を構えているため、その胸板に肘打ちを叩きこむエルボータックル、ミヤビの言うところの斬影拳は使えない。
ならばどうするか!
「ダッシュグランドアッパー? いえ、あれはダッシュグランドスマッシュ!?」
ミヤビは目を見開く。
彼女の前世にあった格闘ゲーム『ストリートファイターIV』でボクサーのバイソンが使っていた突進技だ。
スマッシュと呼ばれるパンチは、フックとアッパーの中間のパンチ。
あのマイク・タイソンのピーカブースタイルの防御を掻い潜るために、ドノバン”レイザー”ラドックが生み出したとも言われるもの。
そのためかゲームでもアーマーブレイク属性を持っていた。
「おおっ!」
盾の防御を掻い潜るような、左斜め下からのスマッシュがラルのグフの胴体を捉える。
さらに殴った反作用を利用して右手に構えたヒートホークが振るわれた。
「やるな!」
しかしそれをラルは踏み込んで、構えたシールドでガンキャノンの腕を受けることで無効化。
「ザクとは違うのだよ、ザクとは」
と、ラルが言うとおりの力でガンキャノンの連撃(コンボ)をそこでストップさせると、回し蹴りを叩き込む!
「うあっ!」
蹴り飛ばされるガンキャノン。
「こ、こいつ、違うぞ。ザクなんかと装甲もパワーも」
『アムロ、立って!』
そこにミヤビからの通信、そして援護のミサイルが放たれる。
ドラケンE改からのミサイルをコンピュータの補助により最小限の動きで避けようとしたラルだったが、計算エラーと脅威警報に目を見張る。
「これは!」
乱数が2つもある!
弾道の解析ができない!
ラル自身の能力で見切るしかない、だと!?
『このミサイルは誘導性の低い撃ちっ放しではなく有線で放って誘導しているんです。つまりミヤビさんと相方(パートナー)である私の、愛の共同作業です!』
(このAI何言ってるの!?)
サラの言葉に呆れながらも、ミヤビはバルカンポッドをパージすることにより空いた右の操縦桿でミサイルをコントロールする。
「ちいっ!」
ラルはとっさにフィンガーマシンガンでミサイルを撃墜するが、ガンキャノンはその隙に離脱。
距離を置いて両肩の240ミリ低反動キャノン砲を使った砲撃戦に切り替えてくる。
一方で戦場を確認すれば、部下の二機のザクはガンタンクの砲火に牽制されてよく動けないでいた。
人間は本来、異なる目標に対し同時攻撃するマルチアタックには適応できない。
しかしガンタンクは二人乗り。
両肩の120ミリ低反動キャノン砲を頭部コクピットのセイラが。
40ミリ4連装ボップミサイルランチャーを腹部コクピットのカイが制御することで、それぞれ別のザクを相手に戦うことができていた。
そのために、ミヤビのドラケンE改がフリーになり、ラルの邪魔をしてくれたのだ。
「アコース、コズン、後退しろ。帰還するぞ」
ラルはここが引き際かと、部下に指示。
岩山の向こうに次々に離脱すると、そこにザンジバルが援護射撃を加えながら降下してくる。
底部ハッチから降ろされる回収用ワイヤーにラルのグフは片足をかけ、左マニピュレーターでワイヤーを握って引き上げられる。
「収艦終了。ロック急げ」
グフとザクの回収を確認し、ハモンは指示を出す。
「ブリッジに伝えよ。目眩ましの巨大投光機用意、戦線より離脱する」
「な、なんだ?」
敵艦から放たれる光の洪水が、ガンキャノンのモニターを埋め尽くす。
ザンジバルはこの時点ではまだ完成しておらず、後に四門のメガ粒子砲が搭載される位置には巨大投光機が搭載されていたのだ。
ミヤビからしてみると、太陽を直視してしまう危険のある宇宙空間で使うモビルスーツのカメラに十分な大光量補正(フレア・コンペンセイション)機能が付いていないのはどういうことなの、という話だったが。
実際にこうして効いているように、宇宙世紀の技術でも解決されていない問題なのだった。
そしてモニターが回復した時には……
「に、逃げられた。というより、見逃してくれたのか?」
ザンジバルは飛び去ってしまっていた。
『我々は今日この日に至るまで数々の英雄を失い、今またガルマも戦場で倒れた。
しかし、これは敗北を意味するのか?
否、始まりなのだ。
地球連邦に比べ我がジオンの国力は30分の1以下である。
にもかかわらず、今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか?
諸君、我がジオン公国の戦争目的が正しいからだ。
そしてイセリナ嬢のように、地球連邦市民の中にもそれに気付き、賛同する者たちが生まれつつある』
アムロやミヤビたちが帰還しブリッジに上がるとガルマの結婚発表、そしてギレンの締めの演説が流されていた。
ブライトが、
「ジオンめ、あてつけに実況放送を世界中に流している。アムロも見ておくんだな」
と言うが、実際には明確な意図をもって流されるプロパガンダであり、当てつけと言うならブライトの感情的な言動の方がよほどそれらしい。
いや、それより、
(これ、大丈夫なの?)
と冷や汗を流すミヤビ。
ガルマは死んでいなかったし、イセリナと一緒になっているし……
ミヤビの前世の記憶の中にあるシミュレーションゲーム『ギレンの野望 ジオンの系譜』でガルマが戦死せず「新生ジオン」の総司令官として立つルート、「ガルマの栄光〜新生ジオン編〜」に入ってしまったのでは、という話だ。
もっともガルマを覚醒させたのはミヤビで、自分で自分の首を絞めていることになっているのだが……
彼女はもちろん、それに気づくことはないのだった。
『一握りのエリートが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して五十余年、宇宙に住む我々が自由を要求して何度連邦に踏みにじられたかを思いおこすがいい。
ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由の為の戦いを神が見捨てる訳はない。
私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは戦いに倒れた。
なぜだ!?』
「坊やだからさ」
バーで飲んでいたシャアはこともなげにつぶやく。
なお、格好つけてはいるが私服でサングラスを付けて、と変装しているのは、いつも不意に現れるイセリナが怖かったためだったりする。
こうやって外に出て息抜きでもしないとシャアの寿命がストレスでマッハなのだ……
空になったグラスを置くと、
「マスター」
と酒場の主人に声をかけるが、そこに横から声がかかった。
「それは私に奢らせてもらおう、いいかね?」
そう申し出る男を一瞥し、シャアは、
「親衛隊の者だな?」
と言い切る。
「わかりますか」
と苦笑する男。
「においだな。キシリアの手の者か?」
「ははは、さすがですな、少佐」
などとシリアスぶっているが……
この後、ドズルに見放されたのならキシリアの部下になったらどうかとスカウトする男と、別にドズルから処分など受けていないシャアとの間で話が食い違い。
何とも間の抜けた顔を互いに見合わせることになるのだった。
『戦いはやや落ち着いた。
諸君らはこの戦争を対岸の火と見過ごしているのではないのか?
だが、それは罪深い過ちである。
地球連邦は聖なる唯一の地球を穢して生き残ろうとしている。
我々はその愚かしさを地球連邦のエリートどもに教えねばならんのだ。
ガルマは、諸君らの甘い考えを目覚めさせる為に自ら戦場に立ち、倒れた。
戦いはこれからである。
我々の軍備はますます整いつつある。
地球連邦軍とてこのままではあるまい。
諸君の父も兄も、連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ。
この悲しみも怒りも、忘れてはならない。
それをガルマは、身をもって我々に示してくれたのだ。
我々は今、この怒りを結集し、連邦軍に叩きつけて始めて真の勝利を得ることができる。
この勝利こそ、戦死者すべてへの最大の慰めとなる。
国民よ立て。
悲しみを怒りに変えて、立てよ国民。
ジオンは諸君らの力を欲しているのだ。
ジーク・ジオン!!』
『ジーク・ジオン、ジーク・ジオン、ジーク・ジオン、ジーク・ジオン……』
「こ、これが、敵」
圧倒的な叫びにアムロは気圧されるが、
「何を言うか! ザビ家の独裁をもくろむ男が何を言うのか!!」
というブライトの言葉にさらに混乱する。
「独裁?」
そんなアムロに、
「まぁ、あれはプロパガンダだから、そのまま受け止めちゃダメってことよ」
と、ミヤビは言う。
「民衆を動かすためのテクニックなの。ねぇ、アムロ、私のこと好き?」
「ええっ!?」
突然何を言い出すのかこの人形姫は。
妹のミライは、また姉さんは誤解を招くようなことを、と額を押さえるのだが。
「嫌いなの?」
ミヤビの人形のような表情に変化はない。
変化はないがしかし間近で見上げてくるその瞳には、悲しげな影があるような気がしてアムロは慌てる。
「い、いえ、嫌いじゃないですよ、もちろん!」
「じゃあ、好き?」
わずかに首をかしげて再度問うミヤビに、アムロは追い詰められ……
「は…… はい」
と、顔を真っ赤にしてうなずいた。
そしてミヤビは、
「と、こんな風に「単純化した論理で、あれかこれかの二者択一を迫る」ことや「簡潔で断定的な語法、つまり強く言い切ることで細かい議論を拒絶する」ことで思考、と言うより論点を誘導するわけ」
と続けるが、アムロはのぼせ上って聞いていない。
そしてもちろん、ミヤビにはそれが分かっていない……
「別に独裁者じゃなくても政治家なら大なり小なり使っている手よ。選挙活動を聞いていれば分かるでしょう?」
ミヤビの前世でも、有力な政治家はそうやって選挙に勝利し支持率を稼いで政策を推し進めていたものだ。
逆にこの能力が無い政治家、特に日本の総理大臣のように大統領のような大きな権限を持たない国家元首は支持率の低下によりレームダック、死に体になりやるべきことが何一つできない状況に陥る。
「私もあれだけの能力があれば、もっと違った未来があったんでしょうけどね……」
そうつぶやくミヤビは、彼女が企画しそして失敗した『コロニーリフレッシュプロジェクト』のことを思い出しているのか。
実際、ミヤビのような理系脳の技術者は、こういった能力が低いことが多い。
なぜかと言うと、正確性にこだわるからだ。
文章や表現に誤りが無く、根拠となるデータやソースによる裏付けを元に、不確かなものはそうと断りながら理論を展開しなければならない。
そんな論調から要旨を読み取るのは、普通の人間には難しい。
(その方面に知識を持つ人間には逆に説得力を持つのだけれど)
増してやそんなことで民衆を動かすなど無理である。
そして、それ以前の問題として……
ミヤビは先ほどのやり取りで、フラウの表情がもの凄いことになっているのにも気づいていない。
そんなポンコツな人間が他者の思考を誘導するなど、できるわけが無いのである。
次回予告
敵、味方の入り組む所にアムロのふるさとがあった。
人々の心はすさみ、母との出会いの中、二人にとって不幸が迫る。
「アムロにはスタン弾を込めたアーマーマグナムを渡しておいたから少しは安心ね」
ミヤビの要らぬ気づかいで余計酷くなる相克、母との再会がアムロにとって安らぎにはならなかった。
ゆえに次回『ミヤビがママになるんだよ!?』
君は生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
グフとの戦闘の続き。
そしてギレンの演説でした。
ガンキャノンには格闘武器としてザクのヒートホークを追加してみましたが、どうでしょうね。
> なお、その肘関節を保護するエルボージョイントアーマーはこのような射撃姿勢を取る場合に関節部を固定し安定性を高める機能も担う。
この辺の設定については『ガンダム解体新書 一年戦争編』から。