ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第11話 イセリナ、恋のあとは愛でもちろん結婚式 Dパート
ブリッジのメンテナンスハッチを開けてテスターで回路を確認するブライトとミライ。
そこにハヤトが駆け込んでくる。
「パワーセクションの応急処置はすみました。これでかなりの無理はきくはずです」
「よし」
ブライトは通信モニターに向き合い、
「パワーセクション、いけるな?」
と確認する。
答えるのは金髪の少年。
ホワイトベースの何でも屋、ジョブ・ジョンだ。
「はい。25パーセントの出力減ですが、なんとか大丈夫です」
そしてミライもテスターを片付け点検ハッチを閉めながら言う。
「こっちはOK、異常はないわ」
ハヤトは、
「驚くほど頑丈にできてますね、ホワイトベースって」
と感心したように言う。
まぁ、先に起工したペガサスで起こったエンジンの問題を、後から起工したため回避、解決できたのがホワイトベースだ。
この問題のためネームシップであり一番艦となるはずのペガサスの完成が遅れ、ホワイトベースが先に完成するというオチもあったが。
ミヤビの前世の記憶風に言うなら先に生まれたということで、
「このホワイトベースすごいよ! さすがペガサスのお兄さん!!」
になってしまったともいう状況。
「よし、あとはここから急いで脱出だ。今、敵の攻撃を受けたら身動きできない」
ブライトはそう指示する。
ハヤトは、
「ミヤビさんやアムロと連絡を取りましょうか?」
そう問う。
ブライトは一瞬考えた後、ミライに確認。
「まだ緊急連絡は受けてないか?」
「ええ、まだ異常事態もキャッチしていません」
そこに、フラウが駆け込んでくる。
「ブライトさん、避難民の何人かが勝手に船の外に出ました」
「なに?」
必死に止めるリュウやカイ、セイラたちをよそに、船外に出ようとする避難民たち。
「いや、わしらはもう我慢できんよ」
そこにブライトが駆け付ける。
「よせ、やめるんだ」
「さあ、戻って戻って」
「こんなとこで降りたって危険なだけですよ」
「おやめなさい」
ブライトはすでに船外に出てしまった老人たちに向かって呼びかける。
「戻りなさい、危険です。敵が近くにいるかもしれません、早く戻るんです」
しかし、
「ジオンが狙ってるのはホワイトベースとガンキャノンだ。わしらは関係ねえ」
と、聞く耳を持たない。
それどころか艦内にまだ残っている人々も、
「ああそうだ、ホワイトベースに乗っているからわしらはこんな目に遭うんだ」
「早く降ろしてくれ」
と、同調する始末。
「こんな砂漠に降りてどうするつもりです」
と、ブライトは彼らをいさめるが、そこに悲鳴と銃声が!
「うっ?」
「あっ、あれは?」
と目を見張るセイラが見極めたとおり、赤い人が避難民たちに見つかって発砲したのだ。
まぁ、戦場で真っ赤な服を着ていれば見つかるのは当たり前。
シャア専用ザクのようにピンクなら砂漠迷彩になったかもしれないが。
砂漠ではピンク色が背景に紛れる効果を持つのだ。
ブライトたちは拳銃を抜くと果敢に前進、シャアに向け発砲するが、拳銃など一般的な兵士の技量では10メートルも離れたら当てることはできない。
だからこそミヤビの持つアーマーマグナムがもてはやされるわけであるが。
それでも威嚇になったのか、シャアは身をひるがえすと岩陰に身を隠してしまう。
そして上昇するルッグン。
拳銃程度ではどうしようもない相手に、シャアが離脱するのを見送るしかない。
それどころか、シャアがその気になれば機銃掃射でやられかねない状況だったが、
「ん?」
視界の向こうにガンキャノンが降下してくる姿が捉えられる。
このこともあって、シャアは離脱したのだ。
「ホワイトベース、援護を頼みます!」
ガンキャノンは両肩の240ミリ低反動キャノン砲で迫るガウに対して猛然と射撃を開始する。
冷却ジャケットを付けた砲身、さらに二門を交互に撃つことにより、ザクマシンガン並みの連射が可能。
上半身の大部分を占める給弾装置と弾倉には二門合計40発前後の砲弾が内蔵されており、その火力は高い。
何しろ腕部の稼働機構のほとんどを肩に追い出してまで弾薬を収納しているのだから。
ガンキャノンの肩が丸く膨らんでいるのはそのため。
だからミヤビの前世の記憶にあるジムと変わらない肩を持つジムキャノンはキャノン砲の弾倉を外出ししているとも言う。
(死ぬ死ぬ死ぬ、死んじゃうーっ!!)
声にならない悲鳴を上げるミヤビ。
もちろんガウの機上にすがり付いているドラケンE改のミヤビも諸共に撃たれている。
(私のこと、忘れてるでしょう!?)
ガンキャノンからは死角になっていて見えないのだ。
『駄目です、ミノフスキー粒子が濃すぎて通信電波が届きません!』
そしてサラが報告してくれるとおり、ホワイトベースは不時着し動きが取れなかったため敵からの探知を防ごうとミノフスキー粒子を限界まで散布していた。
そのために通信すら阻害されている状況。
レーザー通信を行おうにも、これは通信相手との間に遮蔽物があると届かない。
ガウの翼の上、隠れた位置に居るミヤビのドラケンE改からはつながらないのだ。
(飛び降りるタイミングが……)
猛然と撃たれている今、ガウの巨体が盾になっているとも言えるので、離脱はタイミングを計らないと流れ弾が怖い。
しかし、その砲撃が途切れた。
ガンキャノンの弾切れだ。
しかし、それをチャンスととらえるのはミヤビだけではない。
「今だ、モビルスーツに集中攻撃を掛けろ!」
猛然と攻撃を加えながらガンキャノンに突っ込んでいくガウ。
「今よ!」
ガンキャノンからの射撃が途切れた今なら離脱できると思ったミヤビだったが、
「なに!?」
突然の砲撃が再びガウを襲う!
「セイラさんたちか!」
弾切れを起こしたガンキャノンの救援に駆け付けたのは、カイとセイラのガンタンク。
両肩の120ミリ低反動キャノン砲と腕部の40ミリ4連装ボップミサイルランチャーで射撃を加えながら、ガンキャノンの横に並ぶ。
『よう、アムロ、ビームライフルを持ってきたぜ』
見れば車体後部アウトリガーを荷台代わりに開いて、そこにガンキャノン用のビームライフルを載せている。
「助かります!」
ガンキャノンにそれを持たせると、アムロはガウに狙いを定め、そのエンジンを貫く!
白煙を上げながら離脱していくガウ三号機。
「ああっ三号機が!」
「ひるむな、一気にモビルスーツを」
それでもなりふり構わず突っ込んでいくガウ一号機。
(ひーっ!)
もちろんミヤビも一緒だ。
「ま、まだ来るのか」
損害を気にすることも無く突っ込んでくるガウの機体にアムロは恐怖を感じる。
「ああっ!?」
「モビルスーツ、ガルマ様の仇ーっ!」
そうしてダロタ中尉は不時着するようにガウを突っ込ませ、ガンキャノンを弾き飛ばす。
ガルマは死んでいませんが。
「うっ…… しまった、どこか回路をやられたな」
呻きながらも起き上がったアムロだったが、ガンキャノンはあおむけに横たわったまま動かない。
サラツーも沈黙している。
『アムロ、大丈夫か? アムロ』
幸い、通信装置は生きていたが。
「ブライトさん、ガンキャノンが故障したらしい。調べてみます」
『よし。ガウに兵がいるかもしれん、気をつけろ』
「はい」
そしてハッチを開け機外に出るアムロだったが、目前に横たわるガウの上にボロボロになった紅蓮の機体、ドラケンE改の姿が……
『ミヤビさんの、仇……』
「か、仇だって?」
サラの放つ恨み言に、瞳を見開くアムロ。
しかしドラケンE改は限界を迎え、力尽きたかのようにその場に倒れ伏す。
「ぼ、僕が、仇?」
呆然と立ち尽くすアムロ。
ガウ三機が不時着、戦闘不能となり、シャアもこれまでとルッグンの機首を返す。
「ドレン、私のモビルスーツは電気系統がめちゃめちゃに焼き切れていて使えなかったことにしておけ」
と、同乗していた副官のドレン中尉にそう命じながら。
ドレンはわずかに表情を動かすが、異を唱えることはしなかった。
なお、そんな虚偽の報告をしなくともそもそも今回、シャアはザクで出撃することは不可能だった。
足となるガウが持ち出されていたため戦場まで運べないのだ。
ならばコムサイはどうかというと、第12話『ジオンの脅威』でも「しょせんはただの大気圏突入カプセル」と言われザンジバルに途中までしか随伴できなかったように航続距離が短すぎて使えない。
第7話『コアファイター脱出せよ』だとシャアはザクを載せたコムサイで追いついていたが、あれは、
「我が軍を飛び越えて連邦軍本部と連絡をつけるつもりだ」
「基地上空はミノフスキー粒子のおかげでレーダーは使えないぞ、どうする? シャア」
というシャアとガルマの会話。
そして何より、
ガルマたちが見ていたモニターの軌道予測図
が物語るように、
『ホワイトベース』→『ガルマとシャアが居た前線基地』→『ジャブロー』
という位置関係で……
基地上空を通過しようとする、つまり自分たちに近づいて来る状況だからこそ、足の短いコムサイでザクを運んで追いつくことができたのだ。
そして今回の話であれば戦闘機であるドップも航続距離が短く使えず。
仕方なしに足の長い偵察機であるルッグンで追いかけてきたのだ。
(なお、ミヤビの前世の記憶にある第15話「ククルス・ドアンの島」ではザクがルッグンにぶら下がって運ばれていたが、さすがにこれは短距離輸送に限られるもので、今回は使えなかった)
ではなぜシャアがドレンに虚偽の報告をしろと命じたのかと言うと、単純に面倒くさいから。
ガルマはともかく、それより上の人間、スラックスのケツで椅子を磨いているような連中だと現場の状況など理解できず、
「なぜザクで出撃しなかったのだ」
などとネチネチと追求してくるからだ。
もちろん説明すればシャアの判断の正しさ、それ以外方法が無かったことは立証されるが、連中を納得させるだけの手間が非常に面倒なのだ。
だからザクは使えなかったと報告するわけだが、シャアは忘れている。
「――嘘を、ついておいでですね」
『嘘』を蛇蝎の如く嫌っており、嘘をつくことを絶対に許さないイセリナの存在と、その恐怖を……
(ガルマ―っ!!!! はやく彼女を寿退役させてくれーっ!!!!)
とは、シャアの声にならない心の悲鳴である。
激論の末、ドズルは奇跡的にギレンから、
「そこまで言うのならお前の責任でやって見せろ!」
と白紙委任を受けることに成功した。
ギレンが全世界に向け、
「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは地球の女に寝取られた。なぜだ!?」
などと演説するような事態は回避されたのだ、とドズルは胸をなで下ろす。
まぁ、シャアならそれを聞いても、
「坊やだからさ」
と笑い捨てたかも知れないが。
一方、ドズルと喧嘩別れするような形で席を立ったギレンは、
「兄上、謀られましたな」
後を追って回廊に出たキシリアにそう声をかけられる。
ギレンは振り返ることなく歩きながら言葉を返す。
「ドズルには上手くやってもらわねばならん。父上の説得、地球支配強化のためのプロパガンダ」
つまりは到底飲めない案を提示して、それより良い、ギレンが「やってみせろ」と言えるだけの案をドズルに考えさせ、実行させる。
そう、ギレンの「頭おかしいんじゃないの?」という主張も強硬姿勢もそれを引き出すためのブラフに過ぎなかったのだ。
「このまま私が強行しても父上を納得させるのは難しい。花婿の父が不機嫌な顔をした…… それどころか直前になって病欠するような式などやるだけ逆効果だろう」
だからその辺をドズルに丸投げしたわけである。
ドズルはガルマのため兄として何としてでも式を成功させようと必死になるだろう。
そしてそうやって訴えかけられればデギンとて態度を軟化させよう。
「意外と兄上もお人が悪いようで」
「分かっていて黙っていたお前に言われる筋合いはないな」
長男長女としてそれは無いんじゃないか、という投げっぱなしジャーマンな対応をする二人だった。
「おお、救援だ」
「おお」
難民たちは無事、軍の救援隊により保護されていった。
そしてアムロは悩む。
「なんだったんだろう? 僕を仇と言ったんだ」
サラの言った言葉に。
なおドラケンE改は大破していたが、予備機はまだまだあるし、ミッションディスクは回収できたのでサラも無事。
そしてミヤビも力尽きて気絶しているだけでもちろん死んでなどいなかった。
次回予告
ミヤビは疲れていた。
しかし新たな敵、ランバ・ラルが降りてくる。
新型モビルスーツの強大な破壊力は……
「ガルマ、グフって要らないんじゃないのか?」
「何を言うんだシャア!」
次回『ジオン脅威のメカニズム』
グフは生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
ヒドイ目に遭うミヤビ、シャア。
そしてザビ家の騒動に関する決着とギレンの真意でした。
次はランバ・ラルとグフの登場です。
> 砂漠ではピンク色が背景に紛れる効果を持つのだ。
イギリス軍のピンクパンサーが有名ですね。