ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第11話 イセリナ、恋のあとは愛でもちろん結婚式 Cパート
「モ、モビルスーツめ」
落下していくガウ二号機を前に歯噛みするダロタ中尉。
幸い、不時着できそうではあるが、今回の戦闘からは離脱だ。
そしてガンキャノンは三号機に、ドラケンE改はこの一号機に取り付いている。
「戦闘機があれば……」
と思うが無いものは無いのだ。
しかし、そこに一機のルッグンが接近してくる。
「あ、あれは」
『こちらシャアだ。手を貸すからさっさと撤退しろ』
勝手に出撃した部隊を何とかしてくれと頼まれたシャアだった。
「シャア少佐、私です、ガルマ大佐直属のダロタ中尉です」
『誰でもいい、コクピットを狙え』
シャアにしてみれば本当に誰でもいい。
これだけの勝手をしたのだから軍法会議で消え失せるだけの存在だ。
「コ、コクピットですか?」
『腹だ。ガンキャノンは腹が心臓だ』
「わ、わかりました」
そうやって攻撃することでパイロットが怯んでくれれば撤退する隙も作れるだろうというシャアの考えだったが。
ミヤビが聞いたら、
「アムロだけを殺す指示かよ!?」
などというセリフを思い浮かべるような話である。
『私は木馬を攻撃する。そこを突いて一気に離脱するんだ』
そう言ってシャアはホワイトベースへと向かう。
(ガルマを負傷させた責任、ドズル中将らへの忠誠、どう取られても損はないからな)
そう考えながら。
というか部下の勝手な暴走に対する尻拭いなど、そうとでも思わなければやってられないという話だった。
まぁ、ジオン軍では割と珍しくないことではあるのだが。
シャアに限っても『機動戦士ガンダム』第1話からして戦闘となったのはシャアの命令を無視した部下の仕業だったし。
第32話ではモビルアーマー、ザクレロのデミトリー曹長は戦死した上司トクワンの敵討ちのためシャアの許可を取らずに交戦。
しかもその時の副官だったマリガン中尉はそれを止めもせず、シャアが知ったのはザクレロの出撃後だったという……
ジオン軍はミノフスキー粒子環境下という流動しやすい戦場に優れた現場指揮官が臨機応変に対応する、ある程度の独断専行を許容する文化があった。
硬直化した地球連邦軍に比べ柔軟な戦術を展開できると言う点では緒戦を勝ち抜くことができた要因であると言えるかもしれない。
しかしシャアに関して挙げられた例でも分かるようにそれは結果さえよければ何をやっても構わない、
「勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」
という風潮を生み、軍の統制を滅茶苦茶にしてしまうことにもつながっていた。
そして現場レベルの戦術的勝利は、必ずしも全体を見通した戦略的勝利には結びつかない。
戦略的視点を持たない現場指揮官が自分の判断で上級司令部からの指示を無視して局所的に戦術的勝利をもぎ取っても、それは戦略的には何の意味の無い戦いでいたずらに消耗しただけにもなりかねない。
軍の統制が効かなくなるということはつまり、将兵たちが自分たちの手柄や目の前の戦術的勝利を求めるあまり、戦略目標が二の次に、場合によっては忘れ去られてしまうということ。
極端な話、戦略目標を達成できるならば、戦術レベルで負けていても大局的には問題無いのだ。
だからこそミヤビの記憶の中で最終的に連邦軍は勝利したし、ジオン軍は負けたのだった。
一方、戦闘をアムロとミヤビに任せ先を急ぐホワイトベースでは、
「連邦軍から入電です」
通信手を務めるフラウの操作で、暗号解読されたメッセージカードが吐き出される。
ブライトはそれを手に取るが、
「なんだと? 参謀本部の連絡会議で揉めている?」
民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』への委託でミデアを寄越したことすら問題になってるくらいで、援軍は望めそうもないという。
「なぜだ? 我々がどうなってもいいというのか?」
と嘆くブライトだったが、
「まだ電文はありますよ」
というフラウの指摘でカードを読み直す。
「避難民収容の準備あり。……S109、N23ポイントへ向かわれたし」
ブライトはミライに指示。
「ミライ、進路1.5度変進だ」
「はい」
しかしそこにマーカーから報告が入る。
「敵機です。十時の方向」
待機していたリュウ、ハヤトのコア・ファイターを発進させようとするが間に合わない。
シャアの操るルッグンは偵察機とは思えぬ機動で対空砲火をかわし、投下した爆弾をホワイトベースのエンジン部へと命中させる。
「やられました。左舷後部です」
そして、その攻撃はホワイトベースに深刻な影響をもたらした。
「駄目だわ、ターンの切り替えが効かない。操縦不能」
ミライは必死に操舵するものの、船体の降下を止めることができない。
『アムロ、ホワイトベースが!』
サラツーからの報告。
「あっ」
ガウ三号機の上で戦闘を続けていたアムロはエンジン部から白煙を上げながら雲海の下に落下していくホワイトベースに目を見張った。
「不時着する。全員何かにつかまれ。シートベルトができればするんだ」
全艦放送で警告を放つブライト。
ミライはホワイトベース主翼のフラップ…… 航空機が離着陸時に揚力を稼ぐために翼端をスライドさせるアレを全開にし、少しでも落下スピードを下げようとする。
一般に「邪魔」「飾りじゃないの?」と思われているホワイトベースの翼だが、このような非常時には役立つものらしい。
「着陸です!」
そして大地を削りながら不時着するホワイトベース!
ブライトはシートから投げ出され一回転。
乗員への指示優先で自分自身はシートベルトを締める暇が無かった模様。
まぁ無理に踏みとどまろうとしてこらえきれずに変な体勢で身体を打つよりは、柔道などの武道でも前回り受け身があるように、そうやって転がった方がダメージは少ない。
ミライは操舵装置に胸を打った後、反動で後ろに転倒。
……自前のエアバッグがあって良かったね、という話。
フラウにはそれほど立派なエアバッグは装備されていないが、ケツから行ったために何とかなったらしい。
ケツが割れるほどの痛みを感じたかもしれないが、彼女の尻が二つに割れているのは最初からの仕様である。
ルッグンはホワイトベースを追って降下、少し離れた岩場の陰に垂直着陸。
コクピットを飛び出したシャアは砂塵舞う視界越しに停止したホワイトベースの様子をうかがう。
「うーん、うまくしてあの木馬をこちらにいただける手はないものかな」
そうつぶやくシャア。
まぁ、小説版では共闘してサイド3に攻め込みギレンとキシリアを倒していたし、ミヤビを通じて説得するなどすれば意外と何とかなるかも知れない。
とはいえ、それはシャアには分からないことだった。
頭を振りつつ立ち上がったブライトはまずコンソールを操作し、艦の状況を確認する。
この辺、まず先にミライたちを気にかければ、とミヤビが居たら思うのだろうが、
「うっ……」
次いで立ち上がるミライもまた操舵装置へ。
結局、お互い似た者同士なのかもしれない。
それにこの状況下ではまず安全確認が優先される。
そうでないと負傷者の手当てをしているうちに爆発炎上で結果誰も助からないということにもなりかねないからだ。
そうして二人は顔を合わせる。
「ミライ、よくやってくれた」
普段より優しい声、どちらかと言うとプライベートな素に近い声でミライに感謝の言葉を贈るブライト。
それに対しミライはわずかに済ました声を作りつつ、しかし笑顔でこう答える。
「私の力じゃありません、ホワイトベースの性能のおかげです」
「謙遜だな」
苦笑するブライトは、倒れていたフラウに手を貸す。
「フラウ・ボウも大丈夫か?」
「は、はい」
「避難民達の状況を調べてみてくれないか?」
「はい」
「うわっ……」
ガウからの攻撃を受け、空中に投げ出されるガンキャノン。
『アムロ、大丈夫?』
まだ機上で頑張っているミヤビから通信が届くが、
「はい、一応。いったん地上へ降ります」
とアムロは答える。
ミヤビからは、
『了解、私も離脱するわ』
という返事があった。
しかし、
「逃がすな! 絶対、絶対に倒すんだ!!」
後がないダロタ中尉とその部下たちは落下していくガンキャノンを追ってガウを降下させる。
もちろん……
(ひーっ!!)
声にならない悲鳴を上げるミヤビ。
特攻じみた突撃をするガウの動きに、離脱のタイミングを失ったのだ。
この巨体でパワーダイブ、つまりスロットルを開けたまま動力降下などされると、とてつもない後方乱気流、ウェイク・タービュランスが発生する。
西暦2001年11月にニューヨークで発生したアメリカン航空587便墜落事故では、直前に離陸した日本航空機の後方乱気流に巻き込まれたことも一因とされているくらいで。
つまり離脱しようにもそんなものに巻き込まれたらドラケンE改の機体がバラバラになりかねないのでできないのだ。
「そう事を急くこともあるまい。ガルマとて若いのだ。今回のことも一時の気の迷いということも……」
ガルマの挙式に難色を示すのはデギンだ。
まだ婚姻届けを出しただけ、ガルマも思い直すかもといった願望がにじみ出た発言だった。
ただの愛息子の結婚を認められない年老いた父親、親バカといった風情だ。
それに対しギレンは、
「父上、今は戦時下ですぞ。国民の戦意高揚をより確かものにする為にも国を挙げての挙式こそもっともふさわしいはず。ガルマの結婚は一人ガルマ自身のものではない、ジオン公国のものなのです」
と真っ向から正論を吐く。
ガルマが聞いたら、
「いや、私の結婚は私のものでしょう」
と抗議していたかもしれないが。
しかしそれもキシリアが、
「私はギレンに賛成です」
と言い放つため黙らせられただろうが。
この二人は非情だ。
というか二人とも独身なので、自身の結婚式をジオン中どころか地球圏中に垂れ流され見世物にされるという苦行を理解していない。
それに対し既婚者であるドズルは顔を引きつらせ、
「いや、それよりもシャアの処分だ。ガルマを守りきれなかった奴を処分すれば、それで国民への示しがつくわ」
と、シャアを生贄にして助け船を出そうとするが、キシリアに、
「そのようなことはあなたの権限で行えばよろしいこと。大切なことは儀式なのですよ、父上」
と、即座に撃沈される。
一時的にガルマの、つまりキシリアの配下に貸し出されているシャアだが、それはあくまでも仮でドズルの宇宙攻撃軍の籍は抜けていない。
プロジェクトのため一時的に他の事業部に派遣される社員みたいなものだ。
国内事業部の所属だけど中国工場のライン立ち上げのために大連の工場まで長期出張派遣される技術者とかそういうやつ。
それゆえにその処遇もドズルに委ねられることになるのだ。
ギレンは重ねて言う。
「ガルマは国民に大変人気があるのです。彼の婚儀を行うことによって国民の地球連邦への憎しみを掻きたてることこそ、肝要ではないのですかな? 父上」
「兄貴?」
ドズルは呆けた顔をする。
彼はガルマが敗北し負傷したことから発生する士気の低下をガルマの結婚という慶事で払拭、同時に相手が地球の有力者の娘ということで占領地の統治を助ける融和の架け橋にしようとするのが兄の狙いと考えていたが……
(ま、まさか兄貴は……)
サイド3国民の優秀さを讃え、彼らが選ばれたエリートであるとする選民思想『優性人類生存説』を唱えるギレンの考えは違ったのか?
そう、ガルマを陥れ負傷させた地球連邦、そしてその状況を利用してガルマをたぶらかし妻の地位をかすめ取った地球の悪女に対する国民の…… 特に婦女子の憎悪を駆り立てようとする魂胆かっ!?
シャアが聞いていたら頭を抱えていただろう。
あのイセリナに正面からケンカを売ろうとは、知らないというのは怖いことだと。
いや、巻き込まれるのは御免だと軍を抜けていたかもしれない。
「私は生きる! 生きてララァと添い遂げる!」
とか言って。
まぁ、そうした方が絶対に彼は幸せになれるのだろうが。
ともあれ、イセリナのことを知らずとも言ってることがヤバすぎるギレン。
ドズルはこれはまずいとばかりに父に助けを求めようとするが、意気消沈しているデギンはそれに気づかず、
「シャアのことはドズル、左遷させておけ……」
などとつぶやくばかり。
いや、もう話題と言うか問題はそこじゃなくなってるから、シャアなんてどうでもいいからという話だ。
ドズルは焦ってキシリアを見る。
地球の統治に問題が出るから反対してくれるはず、の彼女はしかし沈黙を守る。
そう、兄の失策を期待する彼女はあえてリスクの高いギレンの案を黙認しようとしているらしい。
ギレンはドズルの焦りをよそに、
「父上、ジオン公国の公王として今ここで御決裁を」
と父に決断を迫る。
まずい、もうガルマを救えるのはドズルしか!
ドズルしか居ないー!!
「兄貴!」
ドズルは気力を奮い立たせ、この難局に挑む。
(やられはせんぞ、やられはせんぞ、このような逆境ごときに、やられはせん!)
もしここにニュータイプが居たなら、ドズルの背後に立ち上る彼のオーラが見えただろう。
ミヤビの前世の記憶でビグザムを墜とされ、それでも機関銃を構えガンダムと戦おうとした彼の最後の時と変わらぬほどの意気込みだ。
同時に、ギレン、キシリア相手に議論で押し切るのはそれくらい絶望的な戦いだとも言えるが、
(ガルマの幸せ、弟を守るこの俺の兄としてのプライド! やらせはせん、やらせはせん、やらせはせんぞーっ!!)
ドズルは武人としての心を奮い立たせ挑む!
頑張れお兄ちゃん!!
はたから見たら末の弟の結婚一つでここまで相克と葛藤があるザビ家ってなんだ、という話ではあるが……
■ライナーノーツ
戦闘の続きと、ザビ家のドタバタでした。
まぁ、ドズルでなくとも「何言ってるのお兄ちゃん!?」な話ですが果たして……
この結末は次回に。
> シャアの操るルッグンは偵察機とは思えぬ機動で対空砲火をかわし、投下した爆弾をホワイトベースのエンジン部へと命中させる。
割と高性能なルッグン。
ザクをぶら下げて運ぶこともできましたし、簡易サブフライトシステムとして運用可能では、などと思ったり。
背中に付けて飛行パック扱いとか……