ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第8話 戦場は荒野 Cパート
シャアは司令部で戦況を確認する。
「で、地上部隊は湖を背中にして木馬に向け進軍しているわけか」
「は、左翼のブラックジャックはまた3キロ移動しました」
ミヤビの知る前世の記憶と違って、まだホワイトベースは地上部隊の射程には入っていない。
ドップ部隊が押し出そうと圧力をかける一方で、地上部隊は前進を続けていた。
史実ではこの時点でのホワイトベース側の戦力はガンタンクとカイが初めて乗るガンキャノンだけ。
それに比べればアムロのガンキャノンに、何度も戦闘を潜り抜けているカイとセイラのガンタンク、そしてほとんど囮にしか役立っていないとはいえミヤビのドラケンE改が居て戦力は充実している。
その辺が影響しているのかも知れない。
そこに地上部隊から報告が入る。
「左翼後ろから戦闘機だそうです」
「な、なに?」
「ば、馬鹿な、どこから……」
絶句するシャアとガルマだったが、
「何だ、例の軽戦闘機か」
モニターに映し出された二機のコア・ファイターにほっと息を吐くと、即座に指示を出す。
「マゼラフラックで追い散らせ!」
「シャア」
「うむ、不意を打たれたが、モビルスーツでなければ、あの程度の戦力であれば戦局を覆すことはできん」
「木馬の悪あがきか。対空戦車を配置しておいたのが役に立ったな」
「ああ」
しかしシャアの感覚に、何か引っかかるものがある。
「何だ、この感覚は…… 我々は何かを見落としている?」
シャアはそうつぶやくと共に、仮面の下の瞳を眇めた。
「畜生っ、対空戦車が邪魔で近づけん!」
『リュウさん!』
リュウとハヤトは少しでも地上戦力を減らそうとコア・ファイターで接近を図るものの、マゼラフラックから上がる対空射撃に追いまくられる。
ミヤビの前世、旧21世紀ではこういった対空車両は重層的に構築される対空網の最後の備え。
それ単体では射程外からミサイルにアウトレンジ攻撃されるしかないものだったが。
ミノフスキー環境下で誘導の効かないミサイルはロケット弾とあまり変わらず、当てるにはどうしても接近する必要があった。
対空戦車の弾幕に妨害されては有効な攻撃を行うことができない。
波状攻撃をかけるドップ。
ホワイトベースは対空銃座に加え、火薬式の主砲まで使って反撃するが、
「そんな大砲で戦闘機が墜ちるか! ジェット機が登場したはるか大昔の時点で高射砲すら過去の遺物に成り下がってるっていうのに!」
ドップのパイロットが言うとおり、実際にミヤビの前世の記憶にある自衛隊だってそうだった。
ジェット機のスピードに対応できない高射砲は消え、射程の異なるミサイルによる迎撃に変わり、87式自走高射機関砲、通称ガンタンクによる迎撃は最後の手段になっている。
ホワイトベースの主砲が吼えるが、放たれた砲弾はドップに当たることなく彼方に消える。
「どこを狙っている!」
ホワイトベースの主砲による砲撃はジオンの地上軍の頭上を越え、その背後に着弾する。
「何だ、流れ弾か」
と、彼らは流すが……
「地上軍を急いで散開させろ!!」
シャアが叫ぶ。
ホワイトベースとの距離を詰めるため、地上部隊はスピードの出せる障害の少ないルートを選んで移動中。
つまり現状では戦闘前の、比較的密集状態にあった。
これはまずい。
「どうしたシャア?」
「あれは流れ弾なんかじゃない」
対空弾なら時限信管により一定高度、一定距離で爆発するはず。
地上にまで届くはずが無いのだ。
「敵の狙いは間接射撃だ!」
間接射撃とは重力により砲撃が山なりの射線を描く地上の実弾砲ならではの、目標が直接見えない状態で攻撃する射撃法だ。
観測手からのデータを基に、目標が直視できずとも地平線や遮蔽物の向こう側の敵に有効打を与えることができる。
『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』にてダブデ級陸戦艇の主砲が視界外から陸戦型ジムや61式戦車などからなる地球連邦軍地上部隊をぶっ飛ばしていたアレだ。
ガルマは瞠目する。
「そ、そうか! 敵の戦闘機は観測手か! まずい、次は修正して有効射が来るぞ!」
そう気づくが遅い。
「着弾! 地上部隊損害多数!」
シャアが見抜くのがわずかに遅れた理由。
それは、彼が今回降下するまで地球上での戦闘経験が無かったこと。
またジオンの艦船はメガ粒子砲による直射が主体であり、彼自身の乗艦であるムサイもそうだったからだ。
(連中、重力を味方に付けるとは……)
これが地球上での戦い、重力戦線か。
シャアとて知識としては知っていた。
だが経験が無かったことが仇となっていた。
「マゼラフラック、敵観測機を近づけるな! ドップ部隊は一部を回して敵観測機を排除するんだ!」
即座に対応策を指示し、シャアは損害報告の酷さに歯噛みする。
「この威力、艦砲射撃ではないか。ぬかった……」
艦砲射撃とはその名のとおり軍艦が搭載する砲で射撃を実施することだが、この場合は軍艦を浮き砲台として使用し陸上の目標を攻撃するものを指す。
戦艦の主砲など、陸上の野砲などとはけたが違う大口径、大威力の砲が使用できるため高い効果が期待できる。
直撃せずとも榴弾の爆発で吹き飛ばされるのだ。
実際「戦艦の主砲は4個師団に匹敵する」と言われるほどで、ミヤビの前世でもアメリカ海軍が湾岸戦争で使用していた。
なお、ミヤビの前世の記憶ではホワイトベースの主砲は880ミリ、弾頭重量2トン、地上での射程は約70キロメートルとする資料があった。
戦艦大和の主砲が46センチ、対地用にも使われる榴弾、零式通常弾は一式徹甲弾と同等の弾頭重量1,460キログラムで最大射程は約42,026メートルだから、その威力は推して知るべし。
ミヤビが見た資料が間違っているという可能性もあるが…… ミヤビにはAAAの機密であるホワイトベースの諸元を知ろうという気はこれっぽっちも無かったので真偽は確かめられてはいない。
いずれにせよ、そんな化け物砲なので使う方も大変だったが。
恐ろしいのは主砲発射により砲口から周囲に放たれる衝撃波。
戦艦大和でも主砲発射時は甲板に居るとヤバいので艦の内外に警報ブザーを鳴らしていた。
モルモットを使った実験では近いエリアではすべてつぶれ、少しぐらい離れても鼓膜が破れたり吹き飛ばされたりするという。
そしてホワイトベースの問題は船体左右、主砲の近くに配置された対空銃座。
これは有人のオープントップタイプなのだ。
一応、船体、上甲板の陰になるらしいのだが、それでも主砲発射時には全身を殴りつけられるような衝撃が走る。
ノーマルスーツのヘルメットが無ければ鼓膜が破れるし、シートベルトをきっちり付けていないと吹っ飛ばされるという人体に優しくないものだ。
ミヤビにはどう考えても設計ミスとしか思えないものだったが。
「くそっ、ドップがこっちに来やがった!」
悪態をつきながら、ドップからの攻撃を回避し続けるリュウ。
『リュウさん!』
「ハヤト、無理に戦おうとせず逃げろ! 避け続けるんだ!」
『はい!』
こうして二人のコア・ファイターは上空をひたすら逃げ惑うことになる。
「おかしい……」
「どうしたシャア?」
シャアはモニターで戦況を見つめ続けながら、ガルマに答える。
「幸い敵は単座の軽戦闘機。撃墜できずとも追い回せばパイロットは忙殺され、着弾観測、報告などできなくなるはずなのだが……」
ホワイトベースからの艦砲射撃は現在も地上部隊を狙い続けている。
「ええぃ、木馬との距離を詰めろ、全速前進だ!」
「くそっ、当たらないのが奇跡みたいなもんだ!」
激しく操縦桿とスロットルを操作しながら毒づくリュウ。
シャアの目論見どおり、彼らに観測手を務めている余裕はない。
しかし、
『諸元を転送。確認願います』
コア・ファイターの教育型コンピュータにはサポートAIであるサラシリーズがインストールされているのだ。
今回、コア・ファイターの左右両翼、翼下パイロンにはSHARP(SHAred Reconnaissancd Pod)、分割偵察ポッドとも呼ばれる戦術航宙/航空偵察ポッドシステムが搭載されていた。
それを使って観測できたデータをサラシックスとサラナインが計算の上、レーザー通信でホワイトベースへと送り続けているのだ。
コア・ファイターを観測機として使うのはミヤビの発案だったが、サラシリーズを利用することは当初、彼女の頭には無かった。
何せ彼女はサラシリーズの存在を知らなかったのだから当然である。
しかし偵察ポッドをコア・ファイターに取り付けるにあたり、サラシリーズと初めてのコンタクトがあって。
(ナニコレ)
とミヤビは一瞬思考停止しかけたものの、
(まーたテム・レイ博士率いる狂的技術者(マッドエンジニア)たちの仕業かぁ……)
と納得し利用することにしたのだった。
これぐらいで一々驚いていては彼らと仕事をすることなどできない。
「サラより幼い感じ…… サラ・リリィとかそんな風? 初々しいわね、大元と違って」
前世のネトゲ『Fate/Grand Order』における同一英霊の別クラス召喚みたいなものかと納得するミヤビ。
そして間接的にディスられたサラはと言うと、
『これが若さですか……』
と、どこかで聞いたセリフをつぶやきながらいじけていた。
「外れた?」
ホワイトベースの主砲が地上部隊の後方に着弾したことに、ガルマは目を見開くが。
「やはりな」
シャアは当然のようにうなずいていた。
「どういうことだ、シャア」
「敵は上空に位置している。ある程度以上接近してしまえばあの艦と砲の構成上、俯角は取れず狙えなくなるのだ」
シミュレーションゲームで射程3〜6などといった近距離の敵を狙えない長距離兵器みたいなものだ。
「なら……」
「いや、油断はできん。地上を浮遊する戦艦というのがそもそもおかしいのだ、やつらが更に狂った真似をすれば……」
そしてシャアの危惧は現実になる。
「ドップ隊から報告です! 木馬の船体が前のめりに傾きだしました!」
「ちぃぃっ! やられた!」
悪い予想が的中し、歯噛みするシャア。
「シャア、木馬は機関に不具合でも起こしたとでもいうのか?」
「違うのだ!」
ガルマの思い違いをシャアは遮って言う。
「やつらは、艦自体を傾けることで無理やりにでも俯角を取り撃ち下すつもりだ!」
それは従来兵器には無かった発想。
ミノフスキークラフトで浮いているホワイトベースだからこそできること。
そして従来の軍事的常識に捕らわれず自由な発想ができる、素人の集まりだからこそ思いつくデタラメな手段だった。
無論、そんな無茶をすればホワイトベース艦内は阿鼻叫喚な状況になっているだろうが、史実では取り付いたグフを振り落とすために背面飛行までしたのだ。
それに比べれば多少艦を傾けるなどいかほどでもない。
「部隊の突入を急がせるんだ!」
「更に距離を縮めるのか」
「こんな馬鹿げた対応にも限度がある。今を耐えれば勝機はあるはずだ」
一方ホワイトベースでは、
「主砲、命中率低下。限界です!」
という報告がブリッジに入っていた。
アクロバティックな方法で俯角を取っても、想定外の運用ではさすがに命中精度が下がるのだ。
ではどうするかというと、
「間接射撃、予定どおり切り替えろ!」
ということになる。
「木馬の艦砲射撃が止みました!」
ジオン軍司令部に報告が入るが……
息をつく間もなく今度は別の砲撃が始まる。
「何だ!?」
視界外から飛んできた二発の砲弾がほぼ同時に、やや離れて地面を穿つ。
そして二射目の徹甲弾がマゼラアタックを貫いた!
地球連邦軍の61式戦車で使われる手法。
二門の砲をわざとずらして撃ち、着弾を観測。
そして次の射撃でデータを基に修正した有効射を叩きこむというものだ。
「威力から言って戦車砲程度だが……」
シャアは瞠目する。
「しかし、この射程はおかしいぞ。ザクのマシンガンはもちろん、マゼラアタックの175ミリ砲すら軽々とアウトレンジできるだと」
「カイ、次は右に5度修正」
「あいよー」
『環境データ入力。修正計算入りました』
もちろんシャアを驚かせた砲撃の正体は最大射程260キロメートル、東京から撃って名古屋近くまで届くという頭がおかしい(誉め言葉)超兵器、ガンタンクの120ミリ低反動キャノン砲によるものだ。
ミノフスキー粒子環境下では通常、有視界射撃しかできない。
そのため宝の持ち腐れになっている超超長距離射程だが、観測機を出して誘導するならその限りではない。
地形データは計測済みな上、レーザー通信による詳細なデータ転送が可能な晴天なら更に。
実際にミヤビの前世の記憶においても『機動戦士ガンダム第08MS小隊』第10話「震える山(前編)」で登場の量産型ガンタンクが間接射撃を行っていたし。
『第三射、命中を確認。続いて第四射準備にかかります』
「ええ、お願いよ」
サラスリーのサポートもあるが、ニュータイプの片鱗か、かなりの正確さで間接射撃を決めるセイラ。
だが、不意にガンタンクの機体に衝撃が走る。
「き、来やがった」
カイがうめくように言う。
とうとうマゼラアタックとザクによるジオン軍地上部隊がホワイトベース部隊を射程に捉えたのだ。
これまでのうっ憤を晴らすかのような、猛烈な射撃がガンタンクを襲う。
「ちくしょう!」
カイはガンタンクの両手に装備された40ミリ4連装ボップミサイルランチャーで反撃するが、
「ああっ…… た、弾が、弾がない……」
ドップとの防戦で弾薬が消費されていたため、あっという間に弾切れに陥る。
「うわあっ!」
至近に着弾する砲撃!
マゼラアタックが備えるのは175ミリの大口径砲。
これから放たれる装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS、作中ではペネトレーター弾と呼称)は『機動戦士ガンダム第08MS小隊』にてルナ・チタニウム製の装甲を持つ陸戦型ガンダムの脚部を破壊。
また『機動戦士ガンダム』第21話では成形炸薬弾(HEAT弾:High-Explosive Anti-Tank)と思わしき弾薬でガンダムの背に装着されたシールドを一撃で破壊し、その下のランドセルにまで損傷を負わせているものだ。
ルナ・チタニウムの装甲を持つガンタンクでも、バイタル部に直撃を受けると危ない。
絶体絶命のピンチに、カイの脳裏にも死神の姿がちらつく。
だが、
「いいぜ……」
『カイさん?』
何を思ったかカイはガンタンクの両腕を持ち上げる。
「死神のやつが俺たちの命を好き勝手にできるってなら」
すでに弾倉は空で、何の役にも立たないはずの両腕を、
「まずはそのふざけた現実をぶち壊す!」
右手は上段、セイラの乗る頭部コクピットを、左手は中段、カイ自身が乗る腹部コクピットをガード。
バイタル部を守る盾にする!
(そげぶっ!?)
カイの取った策というかガンタンクのポーズに、ミヤビは前世で有名だったAA(アスキーアート)を思い出し吹き出す。
『そげぶAA』でネット検索すると出てきたやつだ。
元々あったかっこいいポーズのAAに小説『とある魔術の禁書目録』の主人公、上条当麻の決め台詞「その幻想をぶち殺す!!」(略称「そげぶ」)を合成したもの。
(が、ガンタンクであのポーズを見ることができるなんて……)
カイはルナ2脱出後、アムロがモビルスーツの格闘戦への参考としてミヤビから少林寺拳法の防技についてレクチャーを受けているのを横目で眺めていた。
その中にあったのが『横十字受け』
片手で内受けを使って上段を守り、同時に反対の腕で打払い受けで中段を守るもの。
スピードが速く連撃もある少林寺拳法独特の受けで、上段、中段どちらに攻撃が来ようとも、また連撃でほぼ同時に打ち込まれようとも対処できるものだ。
さらに膝を挙げて膝受け、フットブロックを併用すれば『三連防』という技になるが、足の無いガンタンクには参考にならない。
他にも少林寺拳法には片手で上受けと内受けの段受け(片手で二度以上続けて受けること)をしながら反対の手で下受けを同時に行う『二連防』という技がある。
シャアの動きに追従しきれないアムロにとって、どこに攻撃が来るか分からない状態でも防御できるというのは有効で、カイも感心して見ていたのだ。
そしてカイは、マゼラアタックが使う成形炸薬弾についてミヤビから教えてもらっていた。
火薬の力が産み出すメタルジェットで装甲に穴を開け内部を焼き尽くす弾頭。
しかしメタルジェットの有効距離はわずか数十センチ程度であり、装甲の手前にイスラエルのメルカバ戦車のように鎖のカーテンを吊るしたり、柵状の防御を施すことで無効化できる。
カイは死を目の前にした極限状態において、弾倉が空になって誘爆の危険が無くなった両手を少林寺拳法の防技を参考に上段中段を同時にカバーする盾とすることでコクピットを守ることを考え付いたのだ。
そしてミヤビはというと、
(『バトルテック』でも誘爆の恐れのある弾薬はさっさと使い切っておくと安心だったしねぇ)
と考える。
バトルテックは旧20世紀のウォー・シミュレーションゲーム。
メックと呼ばれる搭乗ロボットは、機種によっては致命的命中を食らうと弾薬誘爆で一撃死というものもあった(クルセイダーやマローダー……)
誘爆が怖いから最初から弾薬積まずに出撃するわ、というプレーヤーも居たぐらいだし。
■ライナーノーツ
コア・ファイターを観測機として使っての艦砲射撃に間接射撃でした。
まぁ、軍事的セオリーどおりですよね。
作中でもありましたとおり、『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』でもやってましたし。