ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第8話 戦場は荒野 Bパート
ホワイトベースから避難民たちを乗せた輸送機、ガンペリーが飛び立つ。
モビルスーツを空輸するなど多目的に利用される大型機だが、ホワイトベースにはこれ以外に人員を輸送できる手段が無いのだからジオン軍から見ても不自然にはならないだろう。
「もう引き返せませんよ。いいんですか?」
アムロは息子を抱くペルシアに聞くが、
「覚悟はできてます。どんな事があってもこの子を大地で育ててみたいんです。こんな気持ち、あなたにはわからないでしょうね」
その決意は固かった。
アムロはそれを受けて、
「地球には住んだことはありませんから」
と答える。
実際には幼少期には地球に住んでいたアムロだったが、幼い子供にとっては家の周りの限られた範囲が世界のすべて。
その限りにおいては地球でもコロニーでも大きく変わることは無いため実感が無い。
だからあえてそう答えることでペルシアの言葉を受け流していた。
少しずつ、手探りではあるが対人スキルを学びつつあるアムロだった。
一方、コクピットでは、
「来ましたよ」
「うん、予定通りだな」
ホワイトベースの何でも屋、ジョブ・ジョン。
そしてリュウが接近してくるジオン軍偵察機、ルッグンを確認していた。
「こちらビッグ・ジョン。ホワイトベースの搭載機を確認しました」
コードネーム『ビッグ・ジョン』、ジオン軍の偵察機ルッグンはガンペリーに接近、旋回して追尾する。
お偉方は『木馬』という仮名称を使い続けているが、実際には『ホワイトベース』という正式名称も判明しており、ジオンサイドでは呼称が混在することになっていた。
『何か変わった点はないか?』
「コンテナ状の胴体中央に弾が当たったような穴があります。いや……」
『どうしたビッグ・ジョン』
ルッグンはガンペリーとの相対位置を変えて確認、レーザー通信に乗せた画像と共に報告する。
「貫通しておりますね。破損部分から反対側が見通せます」
「思い過ごしか? いや……」
ルッグンからの報告に、つぶやくシャアだったが。
「どうしたシャア」
そう問うガルマにシャアはかぶりを振って答える。
「モビルスーツを運んで潜り込ませるつもりかと思ったのさ」
「なるほど。しかし輸送機のコンテナには反対側まで見通せる穴が開いているのだぞ、無理だろう」
「上手く騙されてくれるといいんだが……」
リュウはつぶやく。
コンテナの穴についてはミヤビの発案を元に細工をしている。
「子供のころ、理科実験室でのかくれんぼで無敗を誇った方法よ」
とのこと。
前世、ミヤビの通った小学校の理科実験室には左右、二人ずつに振り分けられる四人掛けのデスクがあって、足元には収納があった。
左右両側に引き戸が付いていて、どちらからも開けられるものだ。
ここにミヤビは隠れるのだが、引き戸を左右両面、少しだけ開けておくのが見つからないコツだ。
もちろん開けた部分にはみ出ないように身体は隠す。
探す方は「隠れた場合、戸は閉めるはず」と思い込むため見落としやすい。
注意深い者が念のため開いているところを覗いても、反対側まで見通せた時点で居ないと思うのが普通だ。
だから騙される。
しかし……
ガンペリーの兵員輸送キャビンでは避難民たちと同乗していたミヤビやアムロたちが窓越しにルッグンを見ていた。
「みっ、ミヤビさん!?」
思わず大声を上げてしまうアムロ。
彼の視線の先では、ミヤビがルッグンのパイロットに向けめったに見せない自然な笑顔で小さく手を振っていたのだ。
アムロの声に振り向いたときには、いつもどおりの人形じみた無表情に戻っていたが。
「どうしたの、アムロ」
不思議そうにたずねるミヤビ。
彼女が笑顔を浮かべたのは前世の記憶、史実での彼らルッグンのパイロットたちのことを思い出したから。
前世も今も企業人の彼女にとって、人材、資源、金を湯水のようにつぎ込み溶かし続ける戦争は理解できない狂気の沙汰。
そもそも戦争なんぞ外交オプションの一つに過ぎないのだから、適当にだらだらフォウニー・ウォー※している間に政治的決着をつけてくれればいいのに、と考えている彼女にとって、彼らが劇中、戦場で見せた優しさや人間臭さはとても好ましいものだった。
※第二次世界大戦初期における西部戦線では開戦はしているもののにらみ合うだけで実際に戦闘は無く、双方の兵士たちがタバコや菓子を交換し合ったり、敵前で堂々と日向ぼっこをしたりしていた。
そんなミヤビの内心を知るはずの無いアムロは、とっさに何を言っていいのか口ごもる。
どんなことを口にしたとしても嫉妬をごまかすための言い訳にしかならないような気がして。
そして黙り込むアムロをフォローするかのように、ミヤビは隣を指さして見せる。
そこではペルシアの息子、コーリーが無邪気にルッグンに向かって手を振っており、それを目にしたアムロも笑うことができた。
ルッグンのコ・パイロットでひょろっとした若い兵士、コムがコーリーに気づく。
「機長、子供が手を振ってますよ」
「ああ」
戦場に似つかわしくないその様子に、機長であるバムロも顔をほころばせ、手を振り返した。
息子と共に外を見るペルシアは地上を見下ろしつぶやく。
「湖。この辺にあんな大きな湖があったのかしら?」
ガンペリーを操縦するリュウの方でも湖に気づいていた。
「なんて湖だ?」
「爆撃された跡でしょ、きっと。どこに着陸しましょう?」
ジョブの言葉にリュウは周囲を確認し、
「うーん、むこうがミッド湖だな。よーし、そっちに降りろ」
ガンペリーは降下を開始。
「うん、住めそうな家もある。よし、着陸しよう」
「はい」
リュウはキャビンの方を振り返って指示する。
「作戦開始だ」
「おう」
カイたちはキャビンから出てコンテナへと向かう。
カイは自分を見つめる子供、コーリーに手を振って、
「すぐ済むからねー」
と言い残し扉を閉める。
斜に構えたところのあるカイだが、カツ、レツ、キッカがなついているように、割と子供には優しい面を見せるのだった。
ガンペリーの高度が下がり始め、コンテナ部に空いた穴から煙が吹き出る。
それは監視中のルッグンでも確認された。
「おい見ろ、どういうことだ?」
機長のバムロは驚き、ガンペリーに通信をつなぐ。
「おい、大丈夫か?」
『とうとうガタが来ちまったらしいぜ、みんな貴様らのせいだ。不時着する』
「了解」
バムロは司令部へと報告。
「ボブスン、応答願います。こちらビッグ・ジョン」
『どうやら我々の攻撃が今頃になって効いてきたようです』
ルッグンからの報告に、ガルマは苦笑する。
「運の悪い連中だ。監視を続けろと言え」
「了解」
しかしシャアは考え込んでいる。
「気になるな」
「何が?」
『ローターの一つが止まりました』
「ん? 私の考えすぎか?」
そう言いつつも、さらに深く考え込むシャア。
『さらに高度を下げています』
ガンペリーのコクピットではリュウたちが緊迫した様子で操縦を行っていた。
「……不時着らしく見せるんだ、いいな?」
「わかってます!」
木立をなぎ倒しながらガンペリーが不時着する。
「ヘヘッ、こういうのなら俺も好きなんだけどな」
ガンペリーの貨物室で発煙筒を使って故障を偽装していたカイたち。
そしてカイはなおも煙を吐き続ける手元の発煙筒を眺めながらこう漏らす。
「さすが軍用品。その辺の車に積まれてるやつと違って持続時間が長いぜ」
これは父親が技術者でそちらの方面に造詣が深いためか、それとも一般の乗用車に安全装備として積まれているものをいたずらしたことでもあるのか。
「そうなんですか?」
と感心するアムロにカイは説明する。
「ああ、火薬を使ってるからな。扱いに制限のない一般向けの車載品は5分で燃え尽きちまう。事故の時に知らずに焦って使うと無駄になっちまうから覚えておくといいぜ」
これはミヤビの前世、旧21世紀の日本でも一緒だった。
それ以上となると火薬類取締法の制限にかかってくるため警察や作業者向けの業務用になってしまうのだ。
「輸送機のコンテナには反対側まで見通せる穴が開いていた…… なるほど、そんな穴が開いていればモビルスーツを隠すのは無理だ」
シャアは言うが、その声は到底納得したとは思えないものだった。
「だが、それは通常サイズのモビルスーツの場合だ」
「なに?」
「ドラケンなら十分に隠すことができるぞ」
「それは……」
ガルマは虚を突かれた様子でうなる。
「わざと穴を開けて中を見せることで何も無いと思い込ませようとしていた、と?」
「あるいは」
こんな風に、ミヤビの策はシャアに見破られていた。
シャアもガルマの参謀長になっていなければ本気では警戒せず見落としていたかもしれないが……
シャアは大胆不敵な男だが、それは高い警戒心と両立する。
慎重に、慎重に場を見定め、機を見て一気呵成に攻める、その思い切りの良さが彼の神髄だ。
そうでなければ生き残れなかった出自が、シャアをそうさせたのだろう。
本気の彼に、ミヤビごとき凡人の小細工が簡単に通用することは無いのだ。
「ガルマ、連中に貨物室の中を見せるよう要求するんだ」
「ああ、分かったシャア」
「なにっ! 見破られたのかっ!?」
ジオンからの要求に、目をむくリュウ。
「どうします、リュウさん」
と、不安そうに問うジョブに、
「仕方あるまい。側面ハッチを開くぞ」
と答える。
『不時着した機体の貨物室、側面ハッチが開きます』
「なに、内部を確認しろ」
ルッグンから、ガンペリーの貨物室内の映像がレーザー通信で届く。
停止したローターへの動力伝達部に黒く焼け焦げたような跡。
実際にはサラに自動制御されたドラケンE改がスプレーガン(ジムのアレではなく工業用の大型エアブラシのこと)で黒系統の塗料を使ってそれっぽく偽装しただけのものだったが遠目には分からない。
そして小型の赤い人型の機体。
「ドラケン! おのれ謀ったな! 謀ったな、木馬め!」
激高するガルマ。
『連中は作業用に運んできただけだと説明しています。その証拠に武装は外していると』
画像を拡大し確認すると、確かにドラケンの両腕は非武装の作業用マニピュレータ、精密作業を担当する3本指ハンドと肘から先が二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を兼ね備えた二重下腕肢になっていた。
また機体上面に備え付けられる筒状の短距離ミサイルも無い。
しかし、
「そんな言い訳が通用するか! ドラケンは胴部にマニピュレータ接続用ターレットが用意されており目的に応じて肩から先を丸ごと、素早い交換が可能なのだ。そんなもの、いつでも付け替えられる。ミサイルも自力での装填が可能なものだぞ」
ガルマはドラケンE改のカタログスペックを知っているため、そのような抗弁は通用しない。
しかし、
『連中は作業が終わったらドラケンと共に帰投すると言っています』
という通信に戸惑う。
どうやって、とも思うが前回の戦闘でシャアが継続的に飛行を続けるドラケンE改を目撃していたことを思い出す。
「飛べる、のか?」
そしてさらにルッグンからの報告が続く。
『貨物室上部に三つのコンテナが吊り下げられているのを発見しました』
上空からは影になって見えなかったが、ルッグンが地上すれすれまで降下したので発見できたのだ。
「なに?」
『コンテナの一つが下げられています。内部は…… 荷物ですね』
映像と共に報告が入る。
コンテナの大きさは全部同じで、長さ、幅が4メートル以下、高さも2メートル以下。
降ろされたコンテナの中身は避難民たちの荷物、他にも物資が詰められていたが……
「ミドルモビルスーツ、ドラケンですら入らない大きさだが、武装を隠すには十分。しかし連中はドラケンは引き返させるという」
思案するガルマ。
しばらくして、改めて報告が入る。
閉め直されたガンペリーの貨物室ハッチ、そして避難民たちの映像と共に。
『避難民は老人四人、女二人、子供三人の計九人です。湖に移動、コンテナからドラケンが運び出したゴムボートと船外機で湖を渡るようです』
「どこに向かうつもりだ?」
『対岸に家が見えましたので、そちらに向かうものと思われます』
「シャア」
ガルマはシャアに視線を向ける。
「湖に着陸した輸送機からモビルスーツが出てくる。私ならそうする」
「だが……」
「連中はそのつもりだった。だが見破られたことであきらめ、予定を変更したのかもしれん」
「そうだな、ドラケンが木馬に戻ることを確認できれば良いか」
ガルマはそう納得するが、まだ他の可能性がある。
だからシャアは念を入れ確認する。
「あとは残りの二つのコンテナだが…… ドラケンは分解組み立てが容易、などということも無いのだろう?」
これには技術士官が答える。
「はい。両腕は目的に合わせ簡単に交換できますが他は…… 何よりあの大きさのコンテナでは胴体部が収まりません」
そういうことだった。
「わしらはさっき見た家にとりあえず住むつもりじゃ。どうしてもSt.アンジェに行きなさるのか?」
ゴムボートに乗り込む難民のリーダーである老人に、ペルシアはこう答える。
「ここからならたいしたこともありませんから。St.アンジェがなくなっていましたら皆様の所へ戻らせていただきます。では」
「ん? あの親子はどこへ行くつもりだ?この先は何もないぞ」
ルッグンでもペルシア母子の様子は見て取れた。
しかしコ・パイロットのコムがそこに注意を促す。
「機長、あれを」
背中に背負う大気圏内飛行装置、パーソナルジェットでアムロたちは飛び立つ。
そして、ドラケンE改が脚部に仕込まれたローラーダッシュで地上を走り始める。
その背に装備されたオプションパックからスクエア型(ラム・エア・キャノピー)のパラシュートが放出され展開。
そして、
「飛んだ!?」
ドラケンE改はロケットエンジンの推力を利用し動力付きのモーターパラグライダーとして飛び立つ。
なお今回は隠す必要も無いためパラシュートは通常素材でできたものであり、視認できる。
「パイロットおよびドラケンが脱出、ホワイトベース方面に向かいました。追いかけます」
そしてガンペリーでは、
「ははは、ハヤト、やったぞ。引っ掛かった」
身を隠していたリュウとハヤトが抱き合って喜んでいた。
ルッグンはドラケンE改、そしてパーソナルジェットで飛ぶアムロたちを追いかける。
熟練の兵士であるバムロは機体が起こす乱流に彼らを巻き込まないよう、注意深く飛ぶが、不意に隣のコムが真っ赤になったのに気づく。
どうしたと視線を向けると、コムは、
「……あれ」
と言って恥ずかしそうに顔を隠してしまう。
見れば、少女のようにも見える若い女性兵士、セイラがこちらに笑いかけていた。
照れるコムの様子がおかしかったのだろう、からかうようにウィンク一つ。
「………」
バムロもまた苦笑するほかない。
彼の部下は本当に純朴で。
本来こんな戦場に居るべきではないやつなんだろうな、と思う。
「もういいだろう。ちょっと寄り道をするぞ」
そう言うと、コムは呆れた様子で答える。
「あの親子が気になるんでしょう。怒られますよ」
「ガルマ大佐はまだお若い。俺達みたいな者の気持ちはわからんよ。よし、行くぞ」
そうしてルッグンは機首を返した。
「あっ……」
ガンペリーのコクピット、ジョブは近づくルッグンの機影を認め、慌てて身を沈め隠れる。
『どうしたジョブ・ジョン』
閉じられた貨物室内、コア・ファイターのリュウから通信が届く。
そう、貨物室上部に吊り下げられていた長さ4メートル以下、高さも2メートルに満たない三つのコンテナ。
残り二つの中身はコア・ブロックに変形したリュウとハヤトのコア・ファイターだったのだ。
偽装コンテナを廃棄しホイスト式クレーンで降ろしながら宙吊りの状態で機首とランディングギアを展開してコア・ファイターに変形。
床面に降ろして出撃の準備を整えていたのだ。
要するに小説『銀河英雄伝説』でヤン・ウェンリーが宇宙要塞イゼルローンを撤退するときに使った手だ。
敵に発見させる前提で要塞に自爆トラップを仕掛け、それを解除させることで本命のソフトウェアへの細工を見落とさせる。
それと同じで敵にドラケンE改を発見させ、安心させることで、コア・ファイターを見落とさせたのである。
これは古来、戦場ではブービートラップ等で多用された手だ。
例えばドイツ軍は地雷を三重に仕掛けるなどということをしていた。
一個目を掘り起こして撤去しようとするとワイヤーでつながれた二個目が爆発する。
二個目を発見して喜んでも三個目があるというもの。
「奴ら、引き返してきました」
『え?』
気づかれたか、と慌てるが、しかしルッグンは上空をパスして行ってしまう。
『うん? どこへ行くんだ?』
『……リュウさん、急いで出撃しましょう』
ガンペリーのセンサーから転送された敵の動きを見てハヤトが進言する。
『しかし休戦協定の終了までまだ時間があるぞ』
『でも気にならないんですか? 敵のパトロールが向かったのはあの親子の方ですよ』
「うまくいったのか?」
「わかりません」
リード中尉は帰還したセイラたちに聞くが、そっけない返事が返るだけだ。
ブライトは時計を確かめる。
休戦終了、作戦開始まであと……
「結果は15分後には出ます」
ということだ。
「さてミヤビさん、そしてアムロ、セイラ、カイ、やってみる自信はあるのか?」
その問いにはカイが答える。
「ああ、戦場になる地形も見てきた。やってみるさ」
そのためにこそ、彼らはガンペリーからパーソナルジェットで帰還したのだ。
さらにドラケンE改ではサラが地形を観測、記録しておりそのデータがホワイトベースおよびモビルスーツ各機に共有されていた。
「よし、ガンキャノン、ガンタンク、そしてドラケンE改発進準備にかかれ!」
ブライトの指示が下りた。
「あなた、コーリーを助けて!」
怯えるペルシア母子に迫るルッグン。
しかし、そこにパラシュート投下されたのは救援カプセルだった。
「あっ」
着地後自動的にフタが開き、食料、医薬品など物資があふれ出る。
見上げるペルシアの視線の先でルッグンの機長、バムロは敬礼を送った。
そのルッグンに襲い掛かるハヤトのコア・ファイター。
コア・ファイターは垂直離着陸機(VTOL機)機能を持っている。
休戦時間が終わると同時にガンペリーの貨物室から垂直上昇で飛び立ったのだ。
「させるかぁぁっ!」
罪も無い母子に襲い掛かる悪のジオン星人に正義の怒りをぶつけるハヤト。
誤解なのだが、もちろん彼はそれに気づかない。
「うわっ!」
「わあっ」
不意を打たれたルッグンはペルシア母子の頭上で被弾、炎上。
「スロットルレバーを絞れ!」
「は、はい」
そうしてその先の湖に着水した。
幸い、パイロットの二人は泳いで脱出していたが……
「ビッグ・ジョンからの通信が止まりました」
「どういうことだ?」
シャアはいぶかしがるが、
「パトロールは放っておけ。戦闘開始だ。ドップ部隊は敵後方から圧力をかけろ! 陸上部隊の射程まで押し出すのだ!」
ガルマは予定どおり戦闘を開始する。
カイはガンタンクでモビルスーツデッキを微速前進。
開いたハッチから下を見下ろすが……
「ちぇっ、もう少し高度を下げてもらえないのかい?」
『無理です。これ以上下げればホワイトベースが動けなくなるそうです。頑張って、カイさん』
「やってみるよ、フラウ・ボウ」
そしてカイは、
「行くぞ」
と機体底面、四基のロケットに点火して浮上、地上への降下を開始する。
地上へのランディングに集中するカイ。
セイラは周囲を警戒、ドップの動きを注視する。
『対ショック体勢、入ります』
と、サラスリーのフォロー。
キャタピラの基部自体を足のように引き出すことで着地の衝撃から機体を守るサスペンションの実ストロークを増やすのだ。
そして着地。
胴部を前後にかがめたりそらしたりする機能もフルに使ってショックを吸収するが、それでもコクピットに走る大きな衝撃にカイはうめく。
「ううっ、着地した。……うっ?」
ガンタンクに向かって飛来するドップの機影。
機銃の掃射とミサイルによる攻撃がガンタンクを襲う。
「うわあっ、ね、狙ってやがる」
直撃はしなかったがミサイルの着弾、爆発に機体が大きく揺らぐ。
『トラベリング・ロック解除』
サラスリーは急いで両肩の120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込むが、至近に迫るドップを追尾するにはキャノン砲では難しい。
だから砲撃を担当するセイラは叫ぶ。
「カイ!」
「お、俺だって、俺だって!」
カイはガンタンクの両手に装備された40ミリ4連装ボップミサイルランチャーでドップを迎撃する。
こちらはもっぱら対空用途の武器で腕部に給弾システムも内装されていて連射も可能。
濃密な弾幕を張ることでドップに対抗する。
それにアムロのガンキャノンが、そして右腕のハードポイントに60ミリバルカンポッドを装着したミヤビのドラケンE改が加わる。
まぁ、ドラケンE改は敵の攻撃に耐えられないので回避重視で逃げ回ってばかりいたが。
しかしその姿は、
「カイ、ミヤビさんが囮になって敵を引きつけてくれているわ」
「ああ、あんな危険な真似をしてまで俺たちを助けてくれてるんだ。負けちゃいられねぇ!」
という具合に見られていた。
とんでもない誤解である。
おかげでミヤビには敵の攻撃の他に味方からもピュンピュン弾が飛んでくるわ、撃墜された敵機が頭上から墜ちてくるわでそれはもう、最初からクライマックスといった感じだった。
カイたちには分かっていなかったが。
『ミヤビさん右右右ーっ! あーっ!』
あーっ、って何!?
「ナビは具体的に!」
『じゃ、じゃあ、ライトターン!』
(ギャラクシーフォースIIか!)
『ギャラクシーフォースII』はミヤビの前世にあったセガの大型体感筐体アーケードゲームだ。
宇宙戦闘機を操る3Dシューティングで洞窟内で大きく旋回する場面では「ライトターン!」だの「レフトターン!」だの合成音声で指示が飛ぶものだったが。
(でもそれ、指示を聞いてからだと絶対に減速、旋回が間に合わないやつじゃない!)
というわけで雰囲気を盛り上げる演出というだけで実際のプレイには何の役にも立たないものだった。
生死がかかっている今のミヤビにしてみればシャレにならない。
そんなミヤビの脳裏をよぎる走馬灯じみたネタはともかくとして、対空監視はサポートAIのサラに任せてジェットローラーダッシュでひたすら回避し続けるミヤビ。
こうやって分業していなかったら今頃死んでいただろう。
だが、そこに敵味方問わず火線が集中するからたまらない。
何しろカイたちは戦闘に関する教育を受けていないがゆえに、フレンドリーファイヤ、友軍への誤射に対する配慮もまったく無しでぶっ放してくる。
(直撃しなくても、対空ミサイルの破片を被らせるのもアウトだから!)
と思うが、横殴りのGに耐えながら右に左にと機体を振るミヤビに、それを指摘している余裕はない。
したら確実に舌を噛む。
場合によってはそれが元で死ぬ。
死因がそんなではさすがに間抜けすぎる。
「っ、く!」
落下してくるドップを間一髪回避する。
『カイさんたちはドップを落として私たちごと根絶やしにするつもりです!』
味方からもろともに撃たれる危険に、サラの思考ルーチンも怪しくなっている。
よほど怖かったのか、
『ドップが落ちる光景、あれは空が落ちてくるようなもの…… あんな景色は!』
などと、どこかで聞いたセリフを垂れ流す。
ミヤビはと言うと、
(安全教育、大事!)
とカイたちに対する安全教育の実施を頭の中のToDoリストに最優先で登録していた。
今の彼女にはそれぐらいしかできなかったから。
■ライナーノーツ
戦闘前の駆け引きと戦闘の開始でした。
「戦場は荒野」は戦争の哀しさを描いた名作ですが、一方でホワイトベースとガルマ、シャアによる作戦、戦術の読み合いが面白かったものでした。
それに見合うものになっていると良いのですが。
たった二機のコア・ファイターに何ができるかは次回のお楽しみということで。
ガンペリーもなかなか面白いメカですよね。
08小隊だとモビルスーツ2機積みもやっていましたし。