ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第6話 ガルマ出撃す Cパート
「動け、動け、動け! 動け、動いてくれ! 今動かなきゃ、何にもならないんだ!」
ガンキャノンのコクピットで操縦桿を、スロットルをスイッチ類をガチャガチャといじるアムロ。
アビオニクスの再起動コマンドまで試してみるが、反応はない。
「動け、動け、動け! 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動いてくれ!」
技術系人間のアムロには分かる。
父の指示で操作系がカットされているらしいこと。
こんなことをしても無駄だろうということは。
それでも、
「今動かなきゃ、今やらなきゃ、ミヤビさんが死んじゃうかもしれないんだ! そんなの嫌なんだ!」
だから……
「だから、動いてくれ!」
「ええい、ガンタンクはいい。ドラケンを映せ、ドラケンの戦いぶりを。そうそうだそう」
モニターにかぶりつくテム・レイ博士。
「えーいミヤビ君、何をやっておるか」
地形を利用し敵戦車部隊に接近するドラケンE改。
『弾道ジャンプ計算完了。いつでもどうぞ』
と、サラ。
「ロケットエンジン、リミッターカット。行くわよ!」
ミヤビはローラーダッシュ走行からリミッターを解除した背面ロケットエンジンを使用してのジャンプに移行する。
(き、きついっ!)
ジャンプ時の加速は最大9G。
ドラケンE改には頭部が無く、コクピットを収めたボンネット状の胴体部が顔のようにも見える、胴体に頭がめり込んでいるようにも感じられるデザインになっているが、これはジャンプによる大気圏飛行時、とてつもない加速で頭から飛んでいくため、そこに可動式の首などを付けていたら一瞬にして折れてしまうためである。
カエルの目玉のように配置された前照灯もレンズ面を保護するシャッター付きを採用。
その取り付けステーも原型機ドラケンEでは折り曲げた棒材を本体に溶接しただけの簡易なものだったのが、強度を上げると同時に突起物である前照灯の後方に発生する空気の渦を抑制する整流効果を持ったフィン状のものに変更されている。
ミヤビに耐えられるよう加減されているとはいえ殺人的な加速をパイロット用ノーマルスーツの耐G機能とバケットシートを支える大型ダンパー、メカニカル・シート・アブソーバーの保護により何とか持ちこたえる。
そして3秒以下で最大戦速に突入し短時間で飛翔を終えるドラケンE改のジャンプは撃墜がほぼ不可能。
ゲーム的な言い方をすれば『飛行中無敵』である。
さらに、
「ターゲット、マルチロック!」
視線による照準で、地表のマゼラアタックを次々にロックオン。
『MT−SYSTEM動作良好』
サラが報告。
MT−SYSTEMはミノフスキー粒子散布環境下でも八機までの敵機を同時にロックオンできる射撃管制装置だ。
「バースト・ファイア!」
ドラケンE改の右腕肘のハードポイントにマウントされた60ミリバルカンポッドが怒涛の勢いで対装甲用焼夷徹甲弾を叩きこむ。
正確には弾を無駄にしないバースト射撃だが発射レートが高いこと、MT−SYSTEMにより次々にターゲットが切り替わることで短時間に大量の砲弾をばらまくことになるのだ。
そして地上の戦闘車両は正面や側面の装甲は厚くても上面装甲は薄くできている。
これはそこまで厚くしてしまうと重くて動けなくなるためだ。
また乗降用のハッチなど、どうしても弱くなってしまう部分が存在する。
それゆえミヤビの前世、旧21世紀でも120ミリ戦車砲の直撃にも耐える主力戦車(MBT)をA−10サンダーボルトII攻撃機に搭載されたGAU−8アヴェンジャー30ミリガトリング砲が地上掃射で粉砕する、ということが可能だった。
増してやそれが60ミリなら……
地上の敵戦闘車両の薄い上面装甲を上空からのトップアタックで一方的に蹂躙、撃破することが可能だった。
マゼラアタック4両、一個戦車小隊がこれで一瞬にして全滅する。
そして、
『タッチダウンします。対ショック姿勢を取ってください!』
サラの警告に従い、ミヤビは対ショック防御姿勢を取る。
『タッチダウン!』
ドラケンE改は地表に着地。
その脚部全体をダンパーとして動作させ、着地の衝撃を吸収する。
完全には衝撃を殺しきれないが、6点式ハーネス(シートベルト)の付いたバケットシートを支える機械式ダンパー、メカニカル・シート・アブソーバーが和らげ、さらにオフロードバイク用のブレストガードを装備しているのと同等以上のプロテクション性能を持つセイフティバー、ジェットコースターに使われているようなバー式の安全装置がミヤビを肋骨や鎖骨などの骨折から守ってくれる。
そのまま脚部に仕込まれたローラーダッシュ機構での高速走行に移行、同時に滑走路を走る飛行機のように勢いを逃がす。
人型陸戦兵器に現実性はあるか?
その必要性は?
『機動戦士ガンダム』以降、繰り返し議論されていたことだ。
そして、それに独自の視点で答えを出したのがサイバーパンクTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)『メタルヘッド』である。
このゲームではパワードスーツと『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグ、アーマードトルーパーの中間のような存在、コンバットシェルが登場する。
現実でも繰り返し議論されてきた似たような話に『戦車不要論』というものがある。
「敵の航空兵器に戦車じゃ絶対勝てないし、一方的にやられるだけでしょ。戦車なんか要らないんじゃね」
というような意見である。
だが、これは否定されて久しい。
確かに航空兵器は戦車より強い。
しかしアメリカ軍が介入した数々の紛争においてどんなに空爆を繰り返そうとも殲滅はかなわず、結局は陸軍を投入せずにはいられなかったように、航空機ではすべての陸上戦力を駆逐することはできないのである。
そして航空機はただその場に居るだけで燃料を消費し続けるもの。
常に現場に張り付けておけるものでは無いのだ。
つまり地上部隊が援護してほしいときにはその場に居ない。
呼んでもすぐにやってこないのが普通である。
さらには制空権を取っていない場合には来てくれることすら期待できないものだ。
そしてこの問題を『メタルヘッド』のゲームデザイナーはコンバットシェルにブースターを付けてごく短時間だが飛ばせることで解決。
これにより人型陸戦兵器に必然性を持たせたのだ。
ミヤビがドラケンE改を使ってマゼラアタックを殲滅させて見せたように。
基本的には現地点から着地点までの直線的な弾道軌道しか取れず、空中での進路変更は困難。
推進剤を大量消費するため何度も使うことはできず滞空時間もほんのわずかという制約があり使いどころが難しいものの、強化歩兵として地形を利用しながら敵に接近し、必要な時にジャンプで空中から地上を一方的に掃射できるという。
つまり地上部隊において航空支援を必要とする場面で、即座に自らが飛んで対応できるというもの。
従来兵器には無い機能がこの機体の強みとなっている。
人型であるゆえに備える足をランディングギア、長大なストロークを持つショックアブソーバとして使えるからこそのジャンプ機能。
戦車ではこれはまねできないし、飛ばそうと思うとマゼラアタックのように「砲塔だけ分離して飛ばしましょう」みたいな中途半端な形になる。
そしてマゼラアタックの分離飛行砲塔、マゼラトップは一度分離すると現地での再合体はできず、飛行時間も5分と短い上、砲の命中精度も下がるという残念なもの。
ドラケンE改には遠く及ばない。
さらにミヤビが発想を得た『メタルヘッド』のコンバットシェルから進化させている点として、これにローラーダッシュ機構を組み合わせているということがある。
ゲームではお約束だが、ジャンプ攻撃は着地の瞬間の硬直を狙うのがセオリー。
しかしローラーダッシュを備えたドラケンE改なら減速せずそのまま陸上の高速走行移動に切れ目なく移行が可能。
それにより着地の隙を減らせるのだ。
無論、着地点を遮蔽物の陰にするなどして少しでも安全を高めた方が良いのは言うまでも無いが。
それにしても、
「このためのものじゃなかったんだけどね」
と、ミヤビがつぶやくとおり、ドラケンE改の背面ロケットエンジンは彼女の父親が持つヤシマ重工がスペースコロニーを建設するのに宇宙空間ではあのボールの元になったスペースポッドSP−W03を、重力環境下では民生品の作業機器だったドラケンEを、と使い分けていたのを一台で両方の役目を果たせるようにするためのもの。
ローラーダッシュ機構だって、ミドルモビルスーツの短い脚でガッシャンガッシャン走ってたら振動はすごいわ、速度は出ないわで困るから前世知識を生かして組み込んだだけで。
ドラケンE改が地球連邦軍に制式採用されて。
ミヤビ自身も地球連邦軍のモビルスーツ開発計画、RX計画に民間協力者として招聘された際に、
「人型陸戦兵器? アホじゃね?」
と言うお偉いさんに、そういえば、と『メタルヘッド』のコンバットシェルの設定を思い出しドラケンE改でもできるよね、と説明したのが発端。
テム・レイ博士やその配下の技術者たちがやたらと食いついてきたのには驚いたが、ミヤビ自身、そういう使い方もあるよね、程度の発想でしかない。
もちろん自分自身が実行する羽目に陥ろうとは予測もしていなかったのだが。
どうしてこうなった、である。
そして、その戦いぶりをホワイトベースで見守るテム・レイ博士はというと、
「そうだ、それでいいのだミヤビ君、君のおかげだ。その戦闘ドクトリンは兵器の思想を一変させるぞ。はははは、あははは、あはははっ。地球連邦万歳だ!」
と、ワールドカップでゴールを決めた自国選手を称えるかのように熱狂的に喜んでいた。
ガウ攻撃空母でも、ドラケンE改の活躍は観測されていた。
「申し上げます。あの小型機は新型のモビルスーツの一機のようだとの報告が入っております」
「モビルスーツ? あれがか? あれが連邦軍のモビルスーツだというのか?」
「は、自由に空を飛ぶうえ、火力が並ではないと」
ガルマへの報告はかなり誇張されてはいたが。
マゼラアタックの小隊が瞬時に壊滅したのだ、混乱して誤解しても無理は無いとも言える。
「モビルスーツにはモビルスーツで叩け。三機あるはずだな?」
「は」
ここに至って、ガルマは予備兵力だったザクの投入を決意する。
「包囲部隊に告げたまえ、海に逃がしてしまっては連邦軍の制空圏内に飛び込まれるかもしれぬ、これ以上連中を前進させるな、とな。よいな?」
「は、かしこまりました」
そしてシャアもまた別の場所で戦況を、ガウから降下する三機のザクの様子を見ていた。
「ガルマが苦戦して当然さ。我々が二度ならず機密取りに失敗した理由を彼が証明してくれている。しかも、我々以上の戦力でな」
「はあ?」
シャアの言葉の意図するところが分からず、副官のドレンは戸惑った声を上げた。
それを聞いてシャアはこう付け加える。
「ドズル将軍も、決して私の力不足ではなかったことを認識することになる」
「なるほど」
そういうことだった。
「ガルマはモビルスーツに乗ったか?」
「いいえ」
シャアは考える。
……そうか、ガルマは乗らなかったか。彼が敵と戦って死ぬもよし、危うい所を私が出て救うもよしと思っていたが。
そこでシャアは気づく、今答えたのは誰だ?
そう、シャアに答えたのはドレンではなく……
「っ!」
音も気配もなくいつの間にかたたずんでいた女性。
イセリナだった。
「君は……」
そう言ったものの、後の言葉が続けられない。
内心の動揺を悟られないよう、半ば苦し紛れに放ったシャアの言葉は、
「どうしてガルマの秘書官に?」
というもの。
どうしてガルマの秘書官になろうと考えたのか?
どうしてガルマの秘書官になることができたのか?
どちらともとれる問いに、イセリナはふっと遠くを、過去を見つめるように瞳を揺らがせると、こう答える。
「一目ぼれ―― でしたの」
愛しくて、恋しくて、愛しくて、恋しくて……
ガルマに対する炎のような愛情。
熱を帯びた表情が、しかしその熱量を持ったまま不自然に凍り付く。
「幼いころ、今は亡き母の前で父はわたくしに言ってくれましたわ。「お前が本当に好きな相手と結婚しなさい」と。でも……」
「ジオンの頭目の息子の嫁になりたいだと? フン」
「お父さまにだってわたくしを自由にする権利はないわ。わたくしには自分で自分の道を選ぶ権利が……」
「許さん!」
イセリナは打たれた痛みを思い出すかのように頬に手を添える。
「裏切られて、悲しくて、悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて、憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎――」
その瞳が狂気に染まり、そして――
「だから焼き払いました」
何を?
「わたくしを閉じ込める檻を」
その、檻とは……
彼女はシャアをじっと見据えて、
「ですからわたくし、嘘は嫌いですの」
と言う。
底の知れない光をたたえた瞳だった。
シャアは気圧されそうになる自分を奮い立たせ、
「私もだよ」
と答える。
イセリナは無言で目礼を返すと退出のためドアに向かって歩みだす。
一歩、二歩、三歩……
足音がシャアの背後に回り込み、
止まる。
「――嘘を、ついておいでですね」
ささやかれる言葉に、シャアの心臓がわしづかみにされ……
そして沈黙の後、再び足音がする。
遠ざかっていく。
ドアが開く。
足音が小さくなり。
ドアが閉じることで聞こえなくなる。
シャアは息を吐き、
「ほ、ホラーだ……」
とつぶやくことになる。
その手は小刻みに震えていた。
そんなシャアの恐怖体験はともかく。
ガウ攻撃空母は通常3機のモビルスーツを搭載する。
しかし今は後部デッキにシャアのザクを積んだコムサイが格納されているのだ。
これがさらに戦線に投入されたら?
ミヤビもさすがにそこまで思い至ることができず。
戦局はまだどう転がるか分からない情勢だった。
が……
■ライナーノーツ
ドラケンE改の一番の強み。
そして人型陸戦兵器に現実性あるか、についての一つの回答でした。
……しかし、イセリナのインパクトに全部持っていかれてしまった気もしないではなかったり。
> MT−SYSTEMはミノフスキー粒子散布環境下でも八機までの敵機を同時にロックオンできる射撃管制装置だ。
MT−SYSTEMは、シューティングゲーム、レイストームから。