ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第42話 宇宙要塞ア・バオア・クー Cパート
「フフ、Nフィールドはドロスの隊で支えきれそうだ」
満足そうに笑うギレンの背後から、
「結構なことで」
「ん?」
キシリアがそこには立っていた。
「グレート・デギンには父が乗っていた、その上で連邦軍と共に。なぜです?」
そう問うキシリアの身体から強く香る、香水の匂い。
まるで、なにか別の匂い、レーザーを撃った後のオゾンの匂いや、レーザーに焼かれた血の匂いを誤魔化すために付けられたかのような……
しかしギレンはそれに気づいた様子もなく笑うと、
「やむを得んだろう。タイミングずれの和平工作がなんになるか?」
そう言い捨てる。
「死なすことはありませんでしたな、総帥」
腰のレーザー銃をギレンに向けるキシリア。
「ふん、冗談はよせ」
と、それを無視して前を向くギレンだったが、
「意外と兄上も甘いようで」
「うっ」
その頭を後ろから銃撃が襲い、穴の開いた額からレーザー光が突き抜ける!
「あああっ!?」
「ギレン総帥じゃないのか?」
無重力ゆえに宙に漂うギレンの身体。
兵からは動揺の声が上がり、それにより司令部の指揮系統がマヒした、その瞬間を連邦に突かれNフィールドを支えていたドロスが沈む。
「死体を片付けい!」
機先を制して叫ぶキシリア。
「父殺しの罪はたとえ総帥であっても免れることはできない。異議のある者はこの戦い終了後、法廷に申したてい」
誰も動けぬ中、一人の将官が声を上げる。
「ギレン総帥は名誉の戦死をされた。ドロス艦隊が破られたぞ」
ギレンの補佐を務めていたトワニング准将だ。
今ここで是非を問う余裕などないという判断。
そうして要員がぎこちなくも動き出す中、
「キシリア閣下、御采配を」
とキシリアに指揮をうながす。
「うむ。トワニング、助かる」
キシリアは礼を言うと、
「ア・バオア・クーの指揮は私がとる。Nフィールドへモビルスーツ隊を。Sフィールドはどうなっておるか?」
と確認。
「25隻中10隻撃沈しましたが、残りはSフィールドに取りつきつつあります」
キシリアは先ほどまでギレンが座っていた総指揮官席に座り……
血糊などは付いておらずきれいなもの。
レーザーは傷口を焼き止めるので、出血が少ないのだ。
「シャアのブラレロを前面に押し立てさせい」
と指示。
しかし司令室に衝撃が走り、壁にもひびが入る。
兵の動揺を抑えるかのように、殊更に声を張り上げるキシリア。
「Sフィールドにモビルスーツ隊を集中させい!」
さっきアンタ、反対方向のNフィールドへモビルスーツ隊をって言ったばっかじゃん、という話だったが、
いや、このタイミングでギレンを殺したら負けるしかないってことくらいわかるだろ?
というところで兄殺しをする人物である。
(こいつ、戦術をまったく分かってねぇ!)
この場に居る人間の意識が一つになった瞬間だった……
まぁ、余りに考えなしな行動なので、ミヤビの前世の記憶では、
「つまり、キシリアは負けること前提で事前に政治家たちとも話を詰めていたんだよ。でないと翌日、即終戦協定締結ってありえないよね」
「な、なんだってー!?」
などという説も流れていたが、それで脱出失敗して(シャアが手を下さなくても詰んでたよねアレ)死んでいれば世話はない、という話だし、今ここに居るキシリアに戦術眼など無いという意味ではどちらにせよ変わらなかったりする。
――ミヤビという存在が生んだバタフライ効果により状況は変わっているにも関わらず、ギレンは史実と同様に退場する。
これが何を意味するのか?
When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.
「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」
シャーロック・ホームズが自らの推理法を語った、推理小説、ミステリーの定番である有名なロジックがあるが。
『歴史の修正力』などといったオカルト、もしくはSFじみた可能性を除外して考えれば、そこに答えがあるのかも知れない。
「いけーっ!」
カイはヤシマ重工製の100ミリマシンガン、YHI YF-MG100で弾幕を張り、敵を牽制する。
この最終局面、彼とセイラが乗るガンキャノンL、ロングレンジタイプは乱戦への対応と継戦能力拡大のため武装を変更していた。
アムロのガンキャノンと同じく曲面シールドも装備しているが、その裏には100ミリマシンガンの予備マガジンが懸架されている。
『セイラさん!』
「ええ」
サラスリーの示す敵機のマーカー。
カイの牽制射撃により機動が制限されたそこにセイラは、両肩の120ミリ低反動キャノン砲を叩き込む。
しかし敵は回避、回避。
三度目の斉射でようやく仕留める。
「さすが新型」
確実に手ごわくなっている敵に、ため息をつく。
一方、そのジオンの新型量産機を目にしたミヤビはというと、相変わらずピクリとも動かない無表情の仮面の下、内心では、
(は? ギャン? ゲルググじゃなくて?)
と驚愕していた。
それも、
(ギャンだけど、ギャンじゃない!)
ということ。
目の前の戦場で多数暴れまくっている新型は、マ・クベが乗っていたギャンとは同じようでいて違う。
良いツノ、頭頂部のポール型アンテナに代わり、トサカ状のセンサーが追加。
肩やひざのスパイクはまぁ、いいとして、背中のランドセルはミヤビの前世の記憶の中にある高機動型ゲルググが背負っていたものに換装。
ジオニックの技術で空間機動性能が向上させられている。
(ギャン・エーオースだこれ!!)
メカニックデザイン企画『MSV-R』にて大河原邦男先生にデザインされ、マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』や『機動戦士ガンダム MSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』、そしてネット対戦ゲーム『機動戦士ガンダム オンライン』や『機動戦士ガンダム バトルオペレーション2』等にも登場していた機体である。
史実では3機試作されたギャンのうちの2機を突撃機動軍が受領し、ツィマット社とジオニック社の協力を受けて改修したとされるもの。
突撃機動軍の旗艦直衛部隊に配備され、量産化も検討されたが実現されなかったとされていた。
何故その機体が、ゲルググの代わりにア・バオア・クーへ多数配備されているのかというと……
YMS-15、ギャンはゲルググと次期主力量産機の座を争った競作機だった。
しかしそもそも次期主力量産機はジオニック社のゲルググと事前に決まっており、ギャンはコンペを成り立たせるためのいわば当て馬だった(だからここまで趣味に走った機体だった)というのが定説である。
だが、ミヤビが生んだドラケンE改のせいで強化された流体パルスアクセラレーターが高性能に過ぎた。
おかげでギャンは極まった運動性を発揮し、格闘戦ではゲルググを圧倒。
その他にもツィマット社がネメシスの、ランバ・ラル隊が運用するMS-06Cにせガンダムとアナハイムエレクトロニクス社からの技術的フィードバックを受けビーム・バズーカを完成させていたことによりビーム射撃兵器も一応使用できたこともあり。
このままゲルググを採用します、とはとても言えない状況に陥ってしまったのだ。
幸い例のガンキャノンショックで開発機種を絞り、リソースを集中させたことで余裕があったことから軍はゲルググにギャンの性能を取り入れた機体を生産することを決定。
しかし、それってガルバルディだよね、という話であり、こうしてゲルググの量産化は立ち消え。
シャアにゲルググが渡ることが無くなったのもこのためであった……
しかし、である。
いかに開発リソースが史実より集中できているとはいえ、ガルバルディがそう簡単に完成、量産配備出来たら苦労はしない。
ならどうするか?
ゲルググにギャンの性能を取り入れるのが大変なら、ギャンにゲルググの空間戦闘能力や汎用性といった能力を後付け、外付けして加えた方が簡単じゃね?
ということで小改修の後、ガルバルディ配備までのつなぎとして生産されたのがこの世界のギャン・エーオースなのであった。
そして、それが各エースに専用機として配備されたのみならず、史実ではゲルググへの機種転換が間に合わず従来の旧式機で出撃していたベテラン、古参兵たちにまで行きわたっていた。
これはガンキャノンショックで開発機種を絞り、リソースを集中させていたことで若干史実のゲルググよりも一般兵への配備が早まっていたのと、ギャンの操縦性が、
「マ・クベ大佐でも木馬の黒いガンキャノンに対抗できる」
ほど素直で良好、簡単だったためでもある。
西暦の時代『サルでもできる○○』などといった入門書タイトルが一時流行っていたが……
ミヤビ自身、就職先の某重工において上級技術者研修、というか研究? プロジェクト? で社内向け技術マニュアルを作成し、完成した後に、
「タイトルは『みるみる分かる○○』とか?」
「『初心者でもできる○○』とか『誰でもできる○○』とかいうのは?」
「そこは『サルでも分かる○○』じゃ?」
「いや、それなら『××係長でも理解できる○○』だろ!」
「ひでぇ! そこで具体的な個人名出すなよ!!」
と、タイトル決定の検討が一番楽しく盛り上がったが、ギャンの操作性も(ついでにマ・クベのパイロットとしての評価も)そんな感じで。
一般兵たちの機種転換もスムーズに終わっており、史実で、
「新鋭機のゲルググが活躍できなかったのは機種転換が終わらず、学徒動員のパイロットを乗せたため」
と言われていた状況とは違ってきているのだった。
そして、その機体が振り回しているのは、
『槍?』
「いいえ、銃剣型の格闘武器、ね」
画面片隅、アイコンのように最小化されたサラが首を傾げながらそう言うのに答える。
一見、先端部にビーム刃を備えた槍のようにも見える武器、ビーム・ベイオネットだが、ライフル風に曲がったグリップ部を持つ銃剣型とされる格闘兵器である。
『なんでまた……』
不思議そうにするサラだったが、
「それは兵士が必ず習う武器を用いた近接格闘術だからじゃない?」
当たり前だが、武器を利用した近接格闘術など現代では一般的ではない。
剣道やフェンシングなどもあるが、そうメジャーとされる存在ではないし。
それに対し銃剣格闘は新兵訓練でも定番の教練。
兵士なら誰でも学んでいるこの格闘武器の形状を模することで、慣れない長尺の格闘武器を無理なく使わせようということなのだろう。
なおミヤビは気づいていないが、それとは別に、この世界ではドラケンE改が通常サイズのモビルスーツに対抗できる兵器として登場したせいでもある。
全高が1/3以下のミドルモビルスーツに当てるには斧や剣では不向き。
対人ではなく自身の身長より低い獣相手、狩猟等にも用いられる槍状の武器の方が当てやすいということで、槍のように扱えるビーム・ベイオネットが採用されたという経緯もあった。
そして、
『危険です!』
「っ!?」
突然のサラからの警告。
同時に5連式多目的カメラモジュールが捉えた、もの凄いスピードで迫るブルーとグリーンの専用カラーで彩られたギャン・エーオースに、ミヤビは驚愕する。
(ガトーさん!? アナベル・ガトー、ナンデ!?)
ビグロとのコンビネーションを取りつつ左腕に構えた、ギャンとは違った単機能のラウンドシールドを槌のように振るい、そのシールドバッシュを受けて動きを止めた量産型ガンキャノンを切り捨てながら突進してくるアナベル・ガトー専用ギャン・エーオース!
ミヤビはすっかり忘れていたが、Nフィールドに空母ドロスが頑張っていたのに対して、ホワイトベースが突入したSフィールドには同型艦のドロワが頑張っている。
そう、ソロモンから脱出し、そしてア・バオア・クーで戦うことになったアナベル・ガトーの所属艦である。
要するにこのSフィールドで戦っている以上、アナベル・ガトーのMS-09RSリック・ドムに代わる新型モビルスーツとケリィ・レズナーのビグロに遭遇する可能性は十分すぎるほどあり、実際に出会ってしまったというわけである。
「くっ!」
ミヤビは左のトリガーボタンに割り当てていた機体左上面の短距離ミサイルを牽制のため撃ちっ放しの赤外線画像追尾モードで発射すると同時に、
「バルカンパージ、緊急回避っ!」
『はいっ!』
音声指示でサラに残弾が少なくなっていた60ミリバルカンポッドをパージさせる。
バルカンポッドはそれまでのドラケンE改の軌道を慣性飛行で辿る囮、デコイでもあり。
ドラケンE改本体は機体の質量変化を利用し機体を横滑りさせながら、突っ込んでくるガトーの軌道線上より緊急回避する。
無論、機体背面に装備された可動ノズルによる推力偏向制御ロケットエンジン、そして手足をぶん回してのAMBAC(active mass balance auto control。能動的質量移動による自動姿勢制御)、さらには両足かかとに付けられたローラーダッシュ用のインホイール・モーターとランフラット・タイヤをリアクションホイールとして併用し、
「コールドスラスター!」
『はい!』
さらにはドラケンE改の左肩の放熱器に動力源である燃料電池から生じる熱を集中させると同時に、タンクに貯められていた燃料電池から排出される水を噴霧。
排熱を利用し水を推進剤とする燃焼を伴わないコールドスラスターとして機能させることで全力回避!
しかし、
「この動き、ソロモンで仕留めそこなったドラケンかっ!」
叫ぶガトー。
メーカー技術者ゆえの、ドラケンE改の性能すべてを引き出して回避運動を取って見せるミヤビのマニューバが、逆に彼の注意を引きつけていた。
「ならば!」
(ビーム・ガン! 私のようなザコに使うかな!?)
ガトーのギャン・エーオースが振るうビーム・ベイオネットの切っ先がクン、と上がりミヤビのドラケンE改に向けられる。
通常のライフルと銃剣の関係とは逆に、ビーム・ベイオネットは銃剣状の格闘武器の下部に小型のビーム・ガンがアンダーバレル、アドオン式のグレネードランチャーやショットガンのように組み込まれているのだ。
ゲルググのビームライフルに比べて威力は低く射程も短いものだが、それでも量産型ガンキャノンには十分通じる…… ドラケンE改なら食らったら爆発四散間違いなしのもの。
(間に合うか!?)
焦るミヤビの耳にシューティングゲーム『グラディウス』シリーズからサンプリングしたパワーアップ音が届く。
パージされた60ミリバルカンポッドに代わり、左腕、肘から先が二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を兼ね備えた二重下腕肢を使って、わきの下のアームシャフトアンダーガードに吊っていた予備の甲壱型腕ビームサーベルを装着。
デバイスドライバが認識してそれがアクティブになったのだ。
『ミヤビさん!』
サラの悲鳴。
「Use the force.(フォースを信じるのよ!)」
ミヤビは音声コマンドと共に、甲壱型腕ビームサーベルを起動!
そして……
■ライナーノーツ
ミヤビという存在が生んだバタフライ効果により状況は変わっているにも関わらず、ギレンは史実と同様に退場する。
これが何を意味するのか、ということを考えるとこのお話の裏の部分が推測できるかも知れません。
(なお、ファーストガンダム好きにはオカルトネタが嫌いな人が多いため言っておきますが、歴史の修正力とかそういう不思議パワーではありません)
一方で、ゲルググに代わる量産機ギャン・エーオースが登場しました。
ギャンのバリエーションと言うとシミュレーションゲーム『ギレンの野望』シリーズ登場の量産型や高機動型、ギャン・クリーガーなどを思い浮かべる方が多いでしょうけど。
> メカニックデザイン企画『MSV-R』にて大河原邦男先生にデザインされ、マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』や『機動戦士ガンダム MSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』、そしてネット対戦ゲーム『機動戦士ガンダム オンライン』や『機動戦士ガンダム バトルオペレーション2』等にも登場していた機体である。