ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第40話 ブラレロのララァ Dパート
ホワイトベース近傍で、機動テストを繰り返すアムロのガンキャノン。
ブリッジで舵を握るミライは、
「モスク博士、たいしたものね」
と褒めたたえるが、ブライトは首を振る。
「いや、アムロだよ」
首を傾げ見返すミライに、ブライトは、
「あれだけ使いこなせるというからにはニュータイプ、存在するのかもしれんな」
と伝える。
「ニュータイプ?」
アムロとはまた別の意味で優れた直感を持つミライには特別な違いを実感できないのか。
それとも彼女の持つオッパ…… もとい包容力が、アムロを自分たちとは違った存在と突き放すかのように考えることができないのか。
いずれにせよミライは懐疑的で。
「ニュータイプ……」
一方、フラウの方はというと、自分のことを振り返ってくれない。
自分が働きかけても応えてくれないのは、アムロが自分と違う人間だからなのだと思いたいためか、積極的に認めようとする。
まぁ、ミヤビのような凡人でチートも無い普通の人間が、前世知識があるにせよきちんとアムロのことを推し量る、気遣うことができている時点でそういう問題では無いと知れるし。
メタな言い方をすればコンピュータや機械いじりが好きな内向的な少年という従来とは違った主人公アムロに対し、フラウは世話焼き、過干渉な古いタイプの幼馴染ヒロインそのもので、そのコミュニケーション手段が噛み合わなかっただけ、という話であるが。
そして、
「ブライトさん、アムロが」
アムロの黒いガンキャノンの指し示す方向に光が走る。
「ん? 艦隊戦か?」
「合流予定ポイントよ。本隊が敵と接触したらしいわ」
と、ミライがその方角から判断。
「敵は?」
ブライトはマーカーに問うが、
「確認不能」
との回答。
しかし、
「艦隊戦用意、各機急速発進。敵は大きいぞ」
ブライトは戦場に見られる光芒から規模を推定し、スクランブルをかける。
ホワイトベース両舷デッキから次々に発進するモビルスーツとコア・ブースター。
「味方がやられたな。呼んでいる」
先行するアムロは何者かの呼びかけを感じる。
『アムロ?』
サラツーの問いかけをよそに集中。
サラツーも邪魔をしてはいけないと口をつぐむ。
「呼んでいる、……なんだ? やってみるか」
乱戦の中、見えてくる敵。
(……シャアと、もうひとつはなんだ?)
ともあれ、135ミリ対艦ライフルを構えるシャアのFZ型ザクを、精密射撃が可能で狙撃に力を発揮するXBR-M-79aビームライフルにより遠距離から狙う。
「シャア、もらったぞ!」
トリガーを引き絞るアムロ。
『大佐!』
「ぐはっ!?」
いきなりララァのMAN-00X-2ブラレロに後ろから体当たりを受けて弾き飛ばされるシャアのFZ型ザク。
ミヤビの前世の記憶において、ブラレロの元となったザクレロは、
メインエンジンとバーニアの推力不足から、加速性能・運動性能ともに良好では無かった。
とする資料がある一方、史実において相対したアムロが、
「速いな、さっきのと違うというのか?」
と漏らしていたように、
運動性能はともかく、ビグロと比較しても速いと言われる、機体の大きさに比較して大型のスラスターを有するがゆえの高速性はある。
としている資料もあった。
サンライズは映像作品が一番の公式としている以上、後者の方が正解のようだったが……
その加速力を使ってシャアのFZ型ザクを突き飛ばすことでガンキャノンの狙撃から庇ったのだ。
まぁ、シャアはこの衝撃でオカマを掘られたかのようにムチ打ちになったりするかも知れないが、アルレットあたりに、
「だからノーマルスーツを着てくださいと言っているんです!」
と叱られるのがオチである。
『なに? あれが邪魔をする!?』
アムロの声を通信機越しに聞き、ミヤビは内心ため息をつく。
彼女はマグネットコーティング後のガンキャノンのデータを取るよう依頼されてモニターしていたのだが、
(確かに「なに?」だし「あれ」だよねぇ)
と、それにより直面した光景に呆れることとなっていた。
MAN-00X-2ブラレロ。
ミヤビの前世の記憶の中にも存在する、メカニックデザイン企画『MSV-R』にて大河原邦男先生にデザインされ、シミュレーションゲーム『SDガンダム GGENERATION GENESIS』にも登場していた機体だ。
MAN-03ブラウ・ブロの後継機であり、機体後部には二基の有線サイコミュ装置が増設されている。
(こう来ますか?)
先に撃墜されたエルメスはアムロからの証言…… つまりニュータイプの知覚力によりララァではなかったということがミヤビには推測できた。
ではララァの乗機は? ということだが、小説版のクスコ・アル機のように複数造られた別のエルメスかと思っていたのだが……
(意外! それはブラレロッ!)
まさかのイロモノ、ゲテモノ枠からの登場である。
まぁ、そんなミヤビの内心の思いはともかくとして、
「サラちゃん、今の画像を拡大!」
敵機の分析である。
『はい』
ドラケンE改、前頂部設置の5連式多目的カメラモジュールに内蔵された、ミヤビが金を飽かして揃えた高性能センサー群。
そして右肘ハードポイントにセットされた60ミリバルカンポッドに付属の照準用カメラセンサー。
これらから得られたデータをサポートAIサラはコンピュータで統合、幾通りのモードの中から最適な画像とデータをミヤビのノーマルスーツのヘルメットに装着されたバイザー型HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に表示。
それを見れば、
(両腕のカマはまだ有線コントロール対応になっていない?)
腕部は肩に姿勢制御用スラスターが付いた程度で、その他に原型機のザクレロから変わっている様子は見られない。
ミヤビの前世の記憶でも、これが有線で飛ばせるようになったのはア・バオア・クーに送られた後、実戦に参加する前ということだったので、現在見ている機体には未搭載なのだろう。
「大佐、退いてください、危険です」
起倒式の有線サイコミュ装置を上下に展開し、オールレンジ攻撃の準備をするブラレロ。
そこにキシリア艦隊のリック・ドムが割り込み、黒いガンキャノンにビーム・バズーカで攻撃を仕掛けるが、
「邪魔だーっ!!」
アムロのガンキャノンは驚くべき反応速度でビームを回避。
次の瞬間には反撃の一撃がリック・ドムを貫く!
「ガンキャノン、昨日までのガンキャノンとまるで違うぞ!」
驚きながらも135ミリ対艦ライフルを撃ち込むシャア。
ケタ違いの反動を生じさせるそれを見事に抑え込んで連射するものの、しかしガンキャノンは足場など無いはずの宇宙でステップを踏むように、まるで踊るような機動でそれを避ける。
『大佐、どいてください。邪魔です』
ブラレロは先の戦いで見せた上下、天地からのオールレンジ攻撃を仕掛ける。
人間は地面の上、二次元で生活してきた生物。
それゆえ普通の人間には避けることはまず無理なものだったが。
「わあーっ!」
アムロは宇宙に適応したニュータイプ。
その空間認識能力により完全な3次元空間の把握が可能であり、マグネットコーティングにより加速された動きですり抜けるガンキャノン!
反撃するが、しかし、
「クッ!」
想像以上のスピードで回避するブラレロの有線ビーム砲に当てることができない。
「なるほど、これが有線制御式オールレンジ攻撃の利点なのね……」
引き続きアムロのガンキャノンをモニターしながらつぶやくミヤビ。
ドラケンE改が備えた画像解析能力に加え、敵の残像を表示させるミッションディスクプログラム『PSリーディング』まで併用してようやく分かったブラレロのオールレンジ攻撃の動きを見てつぶやく。
まぁ、密かにミヤビの前世の記憶にあるブラレロの機体構造から想定してデータを補強、類推させているおかげでもあるが。
なお、
『どうしてそんなことが分かるんです?』
というサラの疑問には、
「技術者としてのカン」
と言って誤魔化している。
こんなことをするから『ヤシマの人形姫』は天才、などと買いかぶられてしまうのだが。
なお「女のカン」とは絶対言いたくない模様。
『ミヤビさん?』
ともあれ、今は目の前のブラレロの有線オールレンジ攻撃である。
「あの攻撃端末は極めて強度の強いワイヤーでモビルアーマー本体とつながっているわ。攻撃端末の何十倍もの質量を持つ本体が絶えず動く基点となり、ワイヤーをリールに巻いたり送ったりすることで高機動を実現する」
それでサラはミヤビの言いたいことを理解する。
『それならやり方次第でスラスターの推力のみで移動する無線攻撃端末の何倍ものスピードで、慣性を無視したかのような機動が可能ですね』
ということ。
宇宙空間では本来、スラスターの出力分しか加速はできない。
例えば180度ターン。
空気中なら翼の操舵で空気という相対物を掴んで無理やり進路変更させることができるのに対して、真空の宇宙空間ではAMBAC(Active
Mass Balance Autocontrol 能動的質量移動による自動姿勢制御)や姿勢制御スラスターでできるのは、機体の向きを変えることだけ。
慣性で移動し続ける機体はそれまで加速に使っていた推力、時間を反対方向に同じだけかけてようやく止めることができ。
そこからまたさらにロケットエンジンで加速する、ということをしないと逆方向に進むことはできない。
それに対し有線制御式なら、本体という大きな質量を持つ相対物で問答無用に無理やり引っ張ることが可能。
ミヤビの前世の記憶の中では、アムロがガンダムでモビルアーマー、ビグロに掴まった結果、相対速度差からくる加速で失神していたが。
それと同様の理屈で、慣性を無視したかのような加速ができるのだ。
「そうね、見てごらんなさい」
ミヤビは先ほどのブラレロのオールレンジ攻撃の映像を例に説明する。
1 敵目掛け前進しながら有線端末を射出、分離。
2 その後、本体は方向転換、加減速といった戦闘機動を実行。
3 有線端末はワイヤーを送り出されていることから慣性飛行によりそのまま等速度で前進を継続(というと、ゆっくり進んでいるように感じされるが、実際にはモビルアーマーの高い移動速度が乗せられているため、小型端末故の限界を持つビット以上の高速移動も可能)
4 ワイヤーを巻き取ったり送ったりすることで有線端末の位置を調整。
5 ここでワイヤーを巻き取れば、すでに別方向に加速運動を開始していた本体と等速度、いやそれ以上の加速を、慣性を無視したかのように実行が可能。
6 有線端末が攻撃位置に着いたら、内蔵のジャイロで姿勢制御、そして照準、射撃。
7 ワイヤーの巻き取りで有線端末を素早く回収。無論、そのスピードはスラスター加速で実現できるものとはケタ違いであり撃墜は困難。
ということになる。
その上、
(史実だとアムロはエルメスのビットをコントロールするララァの精神波を読み取ることで攻撃を読んでいたけど、有線制御ではそれができない)
という点でも不利。
自由度が低く、無線制御のビット、ファンネルに比べ劣っているとされる有線制御式オールレンジ攻撃端末だったが、利点もまたあり、そこを生かされると苦しい。
「ああっ!」
拡散メガ粒子砲で牽制しながらもガンキャノンと交錯するブラレロ。
入れ違いにシャアのFZ型ザクが攻撃するが、反撃で左腕が吹き飛ばされる。
『うおおっ、ガンキャノン!』
通信機越しに聞こえるシャアの苦鳴に、ララァはきっとアムロの黒いガンキャノンをにらみ据える。
「大佐を傷つける!」
再びオールレンジ攻撃を仕掛けるが、当たらない。
突入してくるガンキャノンに対し、シャアはザクを半身に構えさせ、投影面積を減らしたうえで自分をエサにしたカウンター攻撃で仕留めようとするが、
『チィッ!』
ガンキャノンは事前に察知。
向けていたビームライフルを引っ込め回避する動きと連動した、後方宙返りをしながら蹴りつけるサマーソルトキックでシャアのFZ型ザクを突き放す!
「大佐!」
拡散メガ粒子砲を放ちながら突撃、二人の間に割って入るララァ……
と言えば、聞こえはいいが、
「大佐、脱出してください」
と悲痛な声を上げるララァとは裏腹に、その場に居るのはピンクのブラレロの間抜け顔。
到底シリアスな絵面にはなりえない。
どんな罰ゲームかというものだった。
『大丈夫だ。この程度ならFZは爆発しない』
「で、でも」
『攻撃は続けろ』
「続けています、け、けれど」
『けれど? なんだ?』
「あ、頭が押さえつけられるように重いのです」
『なんだと?』
ブラレロのオールレンジ攻撃は続いていた。
この辺はパワーケーブルが直結されている有線制御式オールレンジ攻撃端末ならではの継戦能力であるし、さらに言えば元となったザクレロのパワーコンデンサが優秀である証でもある。
しかし、その動きは精彩を欠いていた……
『よし、退くぞララァ。ブラレロに掴まらせてもらう』
シャアの決断により、後退するララァのブラレロ。
そしてその機体後部、起こした有線ビーム砲の支柱に片腕で掴まるシャアの赤いFZ型ザク。
(悪い人だ)
「なに?」
アムロは、
こいつ直接脳内に……!
とばかりに聞こえてくる声に、
(シャアをいじめる悪い人だ)
と言われ、
「誰が悪い人だ!?」
と一方的に非難される理不尽さに思わず叫んでしまう。
そしてララァからの心の声など聞こえないサラツーには、
『あ、アムロ……』
アムロがおかしくなっちゃった! としか思えない。
酸素欠乏症にかかって…… とか、『機動戦士Zガンダム』最終話で完全にアッチの世界へと旅立ってしまったカミーユに愕然とするファ・ユイリィのように心を痛めるしかないサラツー。
『い、医者はどこ…… じゃなくて医療エキスパートシステム起動しなきゃ』
「サラツー?」
『大丈夫よ、アムロ。ミヤビさんにモビルドールサラの義体を用意してもらって、私があなたを支えるから』
と、涙目でアムロを励ますサラツー。
もちろん、アムロにはその意味が分からない。
戦闘終了後、誤解を解いたもののこの騒ぎでアムロは、
大宇宙のブラザーと交信する電波な人
と認識されてしまい、
大丈夫なのか? 本当に大丈夫なのかアムロ!?
と大いに周囲から危ぶまれてしまうのだった。
ホワイトベースは先行する第13独立艦隊と合流をした。
しかし、この時すでに艦隊は三隻のサラミスタイプを撃破されていた。
その内の二隻はブラレロによるものであって、すなわちララァは一日にして四隻の船を沈めたことになる。
これは空前の壮挙であった。
(しかしララァの頭痛の原因がガンキャノンのパイロットと関係があるようなら、事は簡単に進まんな)
独り、考え込むシャア。
今、戦場は月の裏側へ移動しつつある……
次回予告
サイコミュはオールレンジ攻撃のためだけに在るのではない。
『頭で考えたとおりに動く!? そっ、そんなの勝ち目無いじゃないですか!』
ガンキャノンとブラレロの激闘は、ミヤビとサラに目指すべき未来の物語を垣間見させる。
「アムロとサラツーの間に結ばれた絆はきっと、いいえ、絶対サイコミュなんかに負けたりしない」
次回『サラツー愛の大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!』
君は生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
有線制御式オールレンジ攻撃端末についての考察、第二弾でした。
そして次回予告…… なお、これ愛の奇跡とかそういうものじゃなくて理屈に裏打ちされたお話だったり。
あとはシャアもFZ型ザクのセッティングを変えてアムロのガンキャノンに対抗、史実とは違い意地を見せる予定です。
> ミヤビの前世の記憶でも、これが有線で飛ばせるようになったのはア・バオア・クーに送られた後、実戦に参加する前ということだったので、現在見ている機体には未搭載なのだろう。
この辺は『機動戦士ガンダムMSV‐R ジオン編』のとおりですね。