ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第39話 エルメスのシャリア・ブル Bパート


 これに先立つ数時間前、ジオン公国ザビ家の総帥ギレン・ザビは木星帰りの男、シャリア・ブル大尉を謁見していた。

「今回の君の船団の帰還でヘリウムの心配はいらんわけだ。私とて何年もこの戦争を続けるつもりはないからな」

 機嫌よく述べるギレンに、シャリア・ブルは慎重な態度で、しかし、

「総帥はこの戦争を一ヶ月で終わらせてみせるとおっしゃってました」

 と言ってのける。
 だがギレンは、

「それを言うな、シャリア・ブル。座ってくれ、本論に入ろう」

 と何の問題も無いとスルー。
 そこにシャリア・ブルは、

(最終的にジオンの独立が成れば良いのだろう?)

 というギレンの本心を垣間見る。
 ただそれには、

(――たとえどのような形であっても)

 という続きがあって、その点にこそ彼は衝撃を受ける。
 このことをミヤビが知ったなら、もしくはシャリア・ブルがミヤビの前世の記憶について知っていたなら、それと突き合わせて「まさか」という想定にたどり着いただろうが……
 仮定はあくまでも仮定。
 意味はなく、

「は、ありがとうございます」

 シャリア・ブルは表情を変えないよう苦心しながら、さらには頭を下げることで表情を隠しそう答える。

「しかし、お話のニュータイプの件ですが、わたくしは多少人よりカンがいいという程度で……」

 そう続ける彼の言葉をギレンは遮って、

「君のことは君以上に私は知っているぞ」
「は?」
「木星のエネルギー船団を勤めた君の才能のデータはそろっている。フラナガン機関に検討させた。その机の上にある」

 シャリア・ブルは脇机に置かれたレポートを手に取って表題を読む。

「……シャリア・ブルに関するニュータイプの発生形態。わたくしにその才能があると?」
「そう、君は自分でも気付かぬ才能を持っている。もっともニュータイプのことはまだ未知の部分が多いのだが、それを役立ててほしい。今度の大戦ではもう人が死にすぎた」

 シャリア・ブルはわずかに瞳を細めると、

「……キシリア殿のもとへゆけと?」

 笑うギレン。

「ほう、言わぬ先からよくわかったな」

 それは考えを読まれた、ニュータイプに対し脅威を感じている者の表情ではない。
 ギレン・ザビはIQ240の天才である。
 ミヤビの前世、西暦の時代の日本の最高学府、東大の学生の平均でIQ120程度。
 またIQが130もあれば、適切に勉強さえすれば医大を現役合格できるとも言われていた。
 IQが高いということは単純に言えば頭の回転が速い、理解が早いということで、シャリア・ブルがニュータイプ的なカンで読んだところを、ギレンなら与えられた状況と情報からロジックで同じ結論に至ることができる。
 ゆえに何ら驚くことでもないのだ。

「キシリアのもとで君の即戦力を利用したモビルアーマーの用意が進められている」

 シャリア・ブルは、

「御言葉とあらば」

 と了解。
 ギレンは機嫌よく、

「ん、空母ドロスが用意してある」

 と言うが、ドロスは超大型空母。
 これを使う理由は……
 そう考えたところで、シャリア・ブルはギレンに問われる。

「私がなぜ君をキシリアのもとにやるかわかるか?」

 と。
 しばし、見つめ合う両者。
 シャリア・ブルは瞳を伏せると、

「わたくしには閣下の深いお考えはわかりません。しかし、わかるように努力するつもりであります」

 と教科書じみた模範解答のような言葉を返す。
 ギレンは、

「それでいい、シャリア・ブル。人の心を覗きすぎるのは己の身を滅ぼすことになる。ただ、私が君をキシリアのもとにやることの意味は考えてくれ」

 そう言いつける。
 要は考えを読んでも構わぬが、自分の意にそぐわぬ行動は許さぬということである。



「この船でシャリア・ブルという男も来ておるのだな?」

 空母ドロスを迎えるキシリア。

「は。シムス中尉と共に例の機体を使わせます」

 部下の答えに彼女はしばし考えこむと、

「……もし、そのシャリア・ブル大尉の能力がララァより優れているのなら、エルメスをシャリア・ブルに任せることも考えねばならぬ。その点、シャア大佐にはよく含み置くように、と」

 そう指示を出す。

「は、伝えます」

 そうしてキシリアは考え込む。

「木星帰りの男か。ララァよりニュータイプとしては期待が持てるかも知れぬ」

 ……この辺が、キシリアの歪みでもある。
 彼女は政敵であるはずのギレンからは、しかし歯牙にもかけられていない。
 それは自分が『女だから』か、という強烈なコンプレックスと反発心があるから、キシリアは男を震え上がらせるような冷酷非情な手段を取って見せる。
 逆に言うと自分の女を憎み、殺してまで過剰に男社会の価値観に合わせているキシリアにとって、そうではない素の女性のままでいるララァが評価されるのは許しがたいことなのだ。
 それよりは女性であるララァ・スンは、男性であるシャリア・ブルには勝てない。
 そうした方が収まりが良く、彼女の精神に波風を立てることが無い。

 人は現実を見るのではなく、見たいと思う現実を見るのだと言う。
 これまでの人生で培った価値観というフィルターを通して捉えられたものが当人にとっての現実だからだ。
 そして、そのフィルターの歪みが酷い場合、キシリアのように認知を歪めるばかりではなく、自分の価値観に現実の方を合わせようとしてしまう。
 それが悲劇を呼ぶのだ。



「……なるほど、意外とシンプルなコンソールパネルだな」

 例のガンキャノン・ショックにより、シムス中尉が開発していた有線サイコミュの実験機、ブラウ・ブロは開発規模を縮小され。
 さらにはサイド6近傍デブリ地帯でのテスト中に遭遇したガンキャノンとの戦闘で機体の2/3を喪失した結果、再建もできなくなり。
 別の試作機を流用しての研究継続を余儀なくされていた。
 それがこの機体である。

「シムス中尉、私の方はいつでもいい、発進してくれ」
「了解です、シャリア・ブル大尉」

 ミヤビの前世の記憶の中にも存在する、メカニックデザイン企画『MSV-R』にて大河原邦男先生にデザインされ、シミュレーションゲーム『SDガンダム GGENERATION GENESIS』にも登場していた機体だ。



「わかったのか? ララァが疲れすぎる原因が」

 一方で、シャアはフラナガン機関の研究者、技師たちとエルメスの調整を進めていた。

「脳波を受信する電圧が多少逆流して、ララァを刺激するようです」
「直せるか?」
「今日のような長距離からのビットのコントロールが不可能になりますが?」

 そう言われてもシャアは、

「やむを得ん、というよりその方がよかろう。遠すぎるとかえって敵の確認がしづらい」

 と答える。

「そう言っていただけると助かります。なにしろ、サイコミュが人の洞察力を増やすといっても……」

 そこに、ひらめく黄色いワンピースを着た人影が現れ、

「ララァ、いいのか?」
「大丈夫です。もうしばらくすれば実戦に出られます」

 微笑むララァ。
 しかしシャアは良い顔をしない。

「ララァ、戦場で調子に乗りすぎると命取りになるぞ」

 自分を気遣ってくれるシャアに、ララァは笑顔で答えると表情を変え、

「あの方たちが着くそうです」

 と告げる。

「うん。よーし、ブリッジに上がろう」
「はい」

 そうしてデッキを後にする二人だったが、ララァは背後のエルメスを振り返ると、こう言う。

「大佐、私専用のザクレロが欲しいわ」
「えっ」

 そうしてシャアは直面することになる。
 シムス中尉が開発していた有線サイコミュ実証機に。

(――ッ!! なぜ来るのだお前は〜〜〜〜ッ)

 MAN-03ブラウ・ブロの後継機、MAN-00X-2。
 キシリアの指示で赤く、というかプラモデル塗料で言うところのガンダム専用カラー『シャアピンク』色に塗られた異形の機体は、シャアが無かったことにして補給部隊に引き取らせたもの。
 ツノが外されて代わりにジオンマークが入れられており、機体後部には二基の有線サイコミュ装置が増設されてはいたが……

「大佐?」
(もっ、もどってくる…… くるうう…… よそにやったのに……)

 何度捨てても戻って来る呪いの人形にでも祟られたかのように、

 たっ、たすけてっ百太郎!!

 とばかりに錯乱してしまうシャアだった……



「シムス・バハロフ中尉、シャリア・ブル大尉、ただいま到着いたしました」

 そう申告するシムスたち。
 階級はシャリア・ブルの方が上だが、組織自体はシムスが統括するがゆえのことか。
 ジオン軍では階級より役職の方が幅を利かしているという表れでもある。

「ご苦労、シャアだ。こちらがエルメスのパイロット、ララァ・スン少尉」

 シャアに紹介された少女、ララァにシムスは目を見開く。

「フラナガン機関の秘蔵っ子といわれるララァ?」
「なにか?」

 問題でもあるか、と問うシャアにシムスは、

「いえ、少尉の軍服の用意がないのかと」

 そう誤魔化す。
 シャアはそれを見通しているのだろう、

「補給部隊には言っているのだがな。こんなぞろぞろした格好で艦の中を歩き回られて困っているのだ」

 などと言って受け流した。
 一方、そんな彼らとは別にじっとララァを見つめ続けているシャリア・ブルに、シムスは焦ったように、

「シャリア・ブル大尉」

 と名を呼び注意を促す。
 シャリア・ブルはようやく我に返ると、

「なるほど」

 そう、うなずき、

「大佐、この少女、ああいや、ララァ少尉から何かを感じます。そう、力のようなものを」

 シャアに告げる。

「で、大尉は私から何を感じるのだね?」

 と問うシャアに、シャリア・ブルはしばし見つめ返した後、

「いや、わたくしは大佐のようなお方は好きです。お心は大きくお持ちいただけるとジオンのために素晴らしいことだと思われますな」

 そう答える。

「よい忠告として受け取っておこう。私はまた友人が増えたようだ。よろしく頼む、大尉」

 右手を差し出し、握手を交わすシャア。

「いえ、もし我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和の為に案ずるのです」
「人類全体の為に、という意味にとっていいのだな?」
「はい」

 シャアはララァに目を向けると、

「ララァ、わかるか? 大尉のおっしゃることを」
「はい」

 シャリア・ブルは初めて声を発した彼女を見据え、

「……ララァ少尉はよい力をお持ちのようだ」

 そう褒めたたえる。
 シャアは、そうだろうと口元に笑みを浮かべるが、

「だがな、シャリア・ブル大尉、厄介なことは木馬の黒いガンキャノンというモビルスーツのパイロットがニュータイプらしい。つまり連邦はすでにニュータイプを実戦に投入しているということだ」

 シャリア・ブルは、

「は、ありうることで」

 とうなずくが……



「ハヤト、起きていていいの?」

 ミヤビに問われ、肩にサラナインが制御するモビルドールサラを乗せたハヤトはバツが悪そうに頬をかく。

「すいません、ご心配かけて」

 それを目にしたミヤビは、

(ハヤト君、最近サラナインに転んだって聞いてたけど、将来をどうにかしちゃうつもりかしら?)

 と史実ではフラウと結ばれていたはずの、彼の将来を危ぶむ。
 フラウはパートナーを束縛、拘束しがちな性格だから、AIとはいえ少女の人格を持つ存在が自分の恋人、夫の側に居ることを許容できないだろうし。
 最悪『一夫多妻去勢拳』などでハヤトがゴールドクラッシュされてしまうかも、と考えてしまうのは例のテキサスでのギャンの最後があんまりだったせいか……

 まぁ、そんなことはともかく、

「何を騒いでいるの?」

 と整備用端末のコンソールをメカニックのオムルと一緒にのぞき込んでいるアムロに問うが、

「……いえ、ガンキャノンの操縦系がちょっとオーバーヒート気味なんです、それで」

 そのために前回の出撃に修理が間に合わなかったわけか、と納得する。
 しかし、

「テム・レイ博士は?」
「親父は僕が持ち帰った敵の画像データを基にスレッガーさんやカイさんたちと何かやってて……」

 はぁ、とため息をつくミヤビ。
 瞬間的なのでブレブレだったが、確かにあれはエルメスのビットだった。
 テム・レイ博士はついに実用化されてきたサイコミュによる遠隔無線攻撃ユニットに興味津々というわけである。
 スレッガーやカイを巻き込んでいるということは、何か対策に目星がついているということだろうか?
 一方、

『ガンキャノンには二つの意味でリミッターがかけられているの』

 などと語り始めるのはコンソールの片隅にアバターを表示させているサラツー。

(きあー!!)

 いつもの鉄面皮、変わらぬ表情の下、内心で絶叫するミヤビ。

(あー、あー、私はそういう地球連邦軍AAA機密な話わダメです)

 と言って耳を塞ぎ、しゃがみ込み、プルプル震えてしまいたくてしょうがない。
 が、少年たちが必死に取り組んでいる問題に対し、いい大人がそうするわけにも行かず仕方なしに聞く。

『一つはパイロットに対するもの。あんまり過敏に、ピーキーにするとついて行けなくなるから』

 これはミヤビが前世で読んだ書籍においても、RXシリーズの教育型コンピュータの機能の一つとして語られていたもの。
 搭乗パイロットの操縦反応性と慣熟度に合わせて、いわば自動的にリミッターが調整される仕様であり、機体の高レスポンスにパイロットが段階的に順応できるようになっている。
 だから『教育型』コンピュータと呼ばれるのだと。

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』登場のガンダムNT-1アレックスはニュータイプのアムロ向けに調整されていたがために、テストパイロットのクリスチーナ・マッケンジーは扱いきれずにその本来の性能を発揮できなかったというが、そういう「ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ」な障害を無くすためのものだ。

『これについては、アムロには早々に全解除されちゃったんだけど』

 さすがニュータイプというところだろう。

『もう一つは機械的に保護するためのリミッターだけど、これは稼働データの蓄積と共に上がって行くもので』
「うん? それはどういう?」

 首をひねるハヤトに、その肩の上のサラナインが答える。

『モビルスーツは従来の兵器をはるかに超えた複雑さを持つ、数万点以上の工業製品の集合体であって、同時にRXシリーズは試作機です。シミュレーションに基づく機械的限界について計算はできますが、実運転では思いもよらない箇所に応力や疲労が集中したり、逆に全然大丈夫でもっと負荷をかけても問題なかったり……』

 それを引き継いで、サラツーが、

『モーションの変更、最適化で負荷を減らすことができたり。人間だって野球の投球フォームで砲丸を投げたら肩を壊すけど、砲丸投げのフォームなら大丈夫でしょう?』

 そういうこともある。

『運転データや点検、部品交換の実績、それから重要部品については研究施設に送っての予寿命解析を行ったりとデータを蓄積して行くと、リミッターの制限値も変わって行く。もっと上げていくことも可能な訳』

 であるが、しかし、

『そうやって自己学習、最適化して行くのもとうとう限界に来てしまって』

 ということだった。



■ライナーノーツ

 シャリア・ブル、ジオン側はブラウ・ブロが後継機に変わったのが大きな変更点。

> ミヤビの前世の記憶の中にも存在する、メカニックデザイン企画『MSV-R』にて大河原邦男先生にデザインされ、シミュレーションゲーム『SDガンダム GGENERATION GENESIS』にも登場していた機体だ。

> MAN-03ブラウ・ブロの後継機、MAN-00X-2。
> キシリアの指示で赤く、というかプラモデル塗料で言うところのガンダム専用カラー『シャアピンク』色に塗られた異形の機体は、シャアが無かったことにして補給部隊に引き取らせたもの。
> ツノが外されて代わりにジオンマークが入れられており、機体後部には二基の有線サイコミュ装置が増設されてはいたが……

 ゾックの代わりに出したアゾックはマイナー過ぎたせいか読者の方々にはナニソレ感が強かったので、今回はあらかじめ情報を前出ししておきますね。
 キシリアにピンクに塗られ、シャアに無かったことにされた機体が、捨てても戻って来る呪いの人形のごとく帰って来たでござる。




 ホワイトベース側は、ビットの撮影に成功した結果、加えてテム・レイ博士、スレッガー中尉が健在故の変化が進行中。
 次回はシャリア・ブルとの戦いですが。
 ミヤビはテム・レイ博士が用意したビックリドッキリメカで発進させられてしまう模様。


 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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