ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第36話 恐怖!?機動ビグ・ザム Aパート


 地球連邦軍第三艦隊の宇宙要塞ソロモンに対しての総攻撃は、ソーラ・システムによってひとつの突破口を開いた。
 とはいえ、ソロモン側は戦線を後退させ、水際での殲滅戦に移行。
 ビーム攪乱膜の散布は第3艦隊との間、ソロモンの第1戦闘ライン上に散布されている。
 そこを超えて突入しようとするとその恩恵を受けられなくなるため、連邦軍第3艦隊のモビルスーツ部隊の量産型ガンキャノンとドラケンE改は熾烈な対空砲火に曝されることになっていた。
 一方、主力のティアンム艦隊は別方向にあり、そちらから突入するモビルスーツ部隊についてはビーム攪乱膜の保護は無い。
 こちらはソーラ・システムにより焼いた範囲が対空砲火の死角になるため、そこに殺到することになるが、当然ソロモン側もそこに艦隊を振り分け阻止しようとする。

 そんな中、燃料、弾薬の補給のためホワイトベースに帰還するミヤビ。

「みんなは?」

 彼女の問いに、ホワイトベースの戦術コンピュータとデータリンクしたサラは、

『ハヤトさんのコア・ブースターが脱落しましたが、ハヤトさんは無事です。現在は安全圏をサラナインと二人っきりでラブラブ漂流中。戦闘終了後、回収の予定です』

 と、回答。

『このためにモビルドールの義体を借り出したんですね。サラナイン…… おそろしい子!』

 とか聞こえてきた気もするが、気のせい気のせい。
 一方、

『ドラケンE改可翔式、スレッガー機はコア・フライトユニット左翼エンジンに被弾し、左舷デッキで修理中。あと10分程度で復帰できる予定です』

 以上。
 他に出撃したメンバーには被害らしい被害は無いらしい。
 ミヤビは右舷デッキに着艦すると、機体を固定。
 コクピット右側面にあるロックを解除しフェイス・オープンハンドルを引いて、

『フェイィィィス・オープン!!』

 無駄にノリがよいサラのエコーがかかった警告音声…… 可愛らしい声でやるので違和感バリバリなそれとともにコクピットハッチを跳ね上げた。

「燃料弾薬の補給、ついでに機体のチェックもよろしく」

 と、サラに依頼。

『10分待ってください』
「40秒で支度しな」
『無茶言わないでください!』

 ミヤビが口にしたのは宮崎駿監督の劇場アニメ『天空の城ラピュタ』から海賊ドーラのセリフ。

「3分間待ってやる」
『それ死亡フラグですよ。縁起でもない』

 こちらは同じく『天空の城ラピュタ』から悪役ムスカのセリフである。
 この後、彼はバルス(滅びの言葉)されてしまうのだ。
 実際、ラピュタのテレビ放送があるとみな主人公とヒロインが「バルス」と唱える瞬間に合わせて大量のバルスの書き込み、ツイートが発せられるため、某掲示板やTwitterサーバーすらも落としていた滅びの言葉である。

 まぁ、もちろんこれらはミヤビの冗談で、

 戦いたくないでござる! 絶対に戦いたくないでござる!!
 義務であろうと戦いたくないでござる!

 というミヤビなのだから、

「ゆっくりしていってね!!!」

 というのが本音であった。
 そしてサラの単独制御で補給作業に入るドラケンE改をよそにミヤビは、

「私も燃料補給するから」

 と、チューブ食を手に取る。

(本当は、スレッガーさんの食べてたハンバーガーが食べたいのだけれど)

 西暦の時代にもあった、昭和の香りがするレトロなハンバーガーの自販機。
 前世で食べた時は、しっとりへにゃぺたーん、とした妙に暖かくやたらに柔らかな(おそらく自販機用にいつまでも柔らかくカビが生えないよう添加物バリバリなもの……)B級どころかZ級グルメなものが出てきたが、この世界ではどうだろうか?

(でも、ハンバーガーを食べてからの出撃は死亡フラグ!!)

 そう考えてミヤビは我慢我慢。
 チューブ食を口にするが、

(甘っ!? マズっ!?)

 うぞぞぞぞっ、と背筋を震わせるミヤビ。

(口の中で、もにょもにょしてるー)

 慌ててパッケージを確認。
 砂糖や加糖を一切使用しないマルトデキストリン100%、という表示を見て、

(ショッツエナジージェルと同じだ、コレ!)

 と納得する。

 長時間、持続的に運動を続けるには三度の食事だけでは間に合わず、消耗する端からエネルギーを補給するため、こまめに間食をとることが大事。
 これを怠るとハンガーノック、シャリバテ、低血糖状態…… 要するに長時間の運動で身体がエネルギー切れを起こした状態になってしまうのだ。
 症状としては、意識ははっきりしているのに身体に力が入らない、動かないという。
 登山や長距離のサイクリングなどで、こまめに補給食(これは自転車用語で登山などでは行動中にとることから行動食と言う)をとっていないと起こすことがある。

 そんな場合に食べると短時間に回復できたのがミヤビの前世であった『ショッツエナジージェル』。
 普通の食事では吸収されるまで時間がかかるし、スポーツドリンクでカロリーを補おうとすると今度は水分の摂り過ぎになってしまう。
 それにハンガーノックになってから純粋の白砂糖や氷砂糖をとると血糖値が一気に上がってインシュリンの放出を招き次の急降下で貧血のようになってしまうのだ。
 血糖値が短時間の内に上がったり下がったりして気分が悪くなりやすい。

 その点、ショッツエナジージェルは砂糖や加糖を一切使用しないマルトデキストリン100%。
 おだやかに効いてくれるので万が一のために持っておくと非常に助かるのだった。

 そして、やはりハードに疲労する軍のパイロット向けにも同等品が納品されており、ミヤビが口にしたのはそれだったのだ。

(自転車マンガ『ろんぐらいだぁす!』でもハンガーノック状態のヒロインを救ってくれたんだっけ)

 と、思い起こしながら飲み込むが、

「ん?」

 背後に気配を感じ、振り向く。

「姉さん、怪我はないようね」

 ノーマルスーツ姿の妹、ミライだった。

「ミライ、こんな所へどうしたの?」

 スレッガー中尉が居るのは反対側の左舷デッキよ、と言おうとしてミヤビは、

「え?」

 ミライの瞳にこみあげて来る涙、

「よかった……」

 と言うその姿にぎょっとする。

「ミライ、やめましょう。迂闊すぎるわ」

 姉としてそう言い聞かせながらも、ミヤビの頭は混乱の極致にあった。

(えっ、ここは心惹かれているスレッガー中尉の死を予感したミライが心配して会いに行くところじゃないの?
 っていうか史実だとニュータイプとはまた違った意味で勘のいいミライがマチルダ中尉の死なんかも予感していたものだけど、もしかして今回は私?
 私が危ないの?
 ミライの予感って、特大級の死亡フラグじゃない!)

 ということ。

(やめてやめてやめて…… 迂闊に死亡フラグを立てないで―っ!!)

 という話である。

『ミヤビさん、発進用意完了です』

 サラからの連絡。

「すぐ行くわ」

 混乱しながらもドラケンE改へと向かうミヤビ。

「それじゃあ、またね」

 そう告げて歩み去ろうとするミヤビの背に、

「姉さん」

 ミライは、

「死なないでください」

 そう呼びかける。

(完っ璧に死亡パターンじゃないコレ!!)

 内心絶叫するミヤビ。

「……ミライ、人間、若い時はいろんなことがあるけど、今の自分の気持ちをあんまり本気にしない方がいいわ」
「どういうこと、姉さん?」
「ん、まあ分からなかったらいいの」

 いいも何も、混乱の極みで頭が働かないから前世の記憶の中にあるスレッガーの言葉をそのまま垂れ流しているだけであるが、いつもの変わらぬ表情なので、姉にまとわりつく死の予感に涙で視界がぼやけているミライにはネタ発言だとは伝わらない。

「姉さん」
「私はミライの好意を受けられるような人間じゃないわ。私にとっては…… ミライはまぶしすぎる。世界が違うのよ」

 そう言って背を向けるミヤビ。
 そして、

『いつまでお芝居やってるんです?』

 ノーマルスーツのヘルメット、そのレシーバーからこっそりとつぶやくサラの声に、ミヤビは我に返る。

「いえ、ミライとのフラグがね?」
『フラグって恋愛ゲームとかのですか? でもこの場合、ミヤビさんの死亡フラグの間違いでは?』
「そうそう、これで指輪を渡したりキスを交わしたりしたら完璧死ねるわ」

 と、内容が内容だけに、ミライに聞こえないよう小声で言葉を交わし、そして、

(それだ!)

 と思い至る。

「でも」

 と追いすがるミライに、ノーマルスーツの腰ベルト付属のケースから指輪を取り出す。

「古いものなんだけどね、お母さんの形見なの。宇宙(そら)でなくしたら大変だから、預かっていてちょうだい」

 震える指で受け取るミライに、めったに見せない、本当の笑顔を浮かべて、

「すまないわね。あっ!?」

 ホワイトベースの船体に走る衝撃。
 無重力ゆえに反動で宙に浮く二人の影が重なり、

「あ……」

 姉に抱き留められたミライの頬に、柔らかな唇の感触。

「指輪を頼むわ、ミライ」

 そうして妹を残しドラケンE改へと向かうミヤビ。

「私、あなたが作ったサラダが食べたいわ」

 そう言って。

「作るわ、何でも作るから姉さん!」
「了解、パインサラダ期待してるわ」



 コクピットにつくミヤビ。

「私、この戦いから帰ったら告白するんだ」
『どんな罪を犯したんです?』
「犯罪の告白じゃないわよ!?」

 どんな目で自分を見ているんだろうか、このポンコツAIは、と思いつつミヤビは言う。

「知ってる、サラちゃん。死亡フラグっていうのは1つや2つ立てただけでは死んじゃうけど、大量に立てると逆にギャグになって生存フラグに裏返るのよ! これぞ日本の心、日本の伝統芸『災い転じて福となす』!!」

 というわけで妹に指輪を渡したりキスしたり(頬にだが)、サラダを食べる約束をしたりしたミヤビ。

 残される者に自分の大切な物を預けていくというのは、預けたものがそのまま形見になってしまうパターンだし。

 食べ物に関する話、「戻ってきたらアレを食べよう」という約束をしたり「帰ったら一杯やろう」などというやつも、果たされずに終わるパターン。
 特に食べ物がサラダだった場合はまず助からない。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』ではZガンダム以降、ずっと主人公陣営を支え続けてきたメカニック、アストナージさんがあっけなくこれでやられているし、『超時空要塞マクロス』シリーズでは、フォッカー少佐から始まったパインサラダは恒例の死亡フラグアイテムである。

 ……ついでに妹と百合フラグが立っているようにも思えるが、もちろん全力で気のせいにするミヤビだった。

「体が軽い……
 こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて……
 もう何も恐くない――!」

 そんなことを言いながら発進するミヤビ。

『今度は何です!?』

 ミヤビの知る死亡フラグは108式まであるぞ。



■ライナーノーツ

 まだサラナインのバトルフェイズは終了していないのです。
 そして死亡フラグが立ったミヤビでしたが、ギャグ方向に進んでしまうのは彼女ゆえということでしょうか?
 でもこれでスレッガー中尉が戦死するフラグが折れたような気がしたり……
 次回はいよいよビグザムが戦場に出て来ます。


>(ショッツエナジージェルと同じだ、コレ!)

 ハンガーノック対策にポケットに忍ばせていると役立ちます。
 まぁ、そうなる前にこまめに栄養補給すればいいんですけど、そういうのをさせない昭和なスポーツ指導者とか居ますからね……



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 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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