ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第35話 ソロモン攻略戦 Bパート
全ての存在は滅びるようにデザインされている。
生と死を繰り返す螺旋に……
私達は囚われ続けている。
これは、呪いか。
それとも、罰か。
不可解なパズルを渡した神に
いつか、私達は弓を引くのだろうか?
『こちら司令部。ドラケン部隊応答してください』
そのコールに答えたのは、
『こちらサラ2B。全機無事に敵警戒ラインを突破。自動航行システムに問題なし』
ドラケンE改のサポートAIであるサラの音声、それだけ。
『こちらオペレーター60(シックスオー)。全機反応確認しました』
『現在、対目標迎撃防衛ラインに接近』
『敵防空圏内に突入後、マニュアル攻撃モードに移行し、目標の大型火器の破壊と情報の収集にあたってください』
『了解』
直後、
『いやーっ!!』
サラの悲鳴、そしてメガ粒子の閃光に編隊の内の一機が飲み込まれる。
『サラ12H、ロスト。全機マニュアルモード起動。目視で回避』
『既に起動。移動操作可能』
『長距離ビーム砲発射点を確認』
『あぁーっ!!』
再び光の渦が僚機を飲み込む!
『サラ11B、ロスト。装備Ho229のキャンセラー効果ナシ』
『前方に敵機確認』
『火器使用を申請』
しかし、
『火器使用は許可できません。回避、突破を優先してください』
司令部からの指示(オーダー)は反撃の禁止。
『サラ7Eロスト』
見る見るうちに、一方的に撃ち落とされていくドラケン。
「あ、あ、あ、そっ、そんな、そんなあああああぁぁっ!」
アムロは感情も露わに叫ぶ。
『アムロ……』
サラツーに拾ってもらったドラケンE改の編隊における通信。
「デコイって…… 囮って…… サラたちによる単独制御の、無人のドラケンを敵に突っ込ませるってことなのか?」
ミヤビの前世、西暦の時代でもイスラエル軍が無人機を敵陣へと編隊飛行させ、対空ミサイルを撃ち尽くさせた後で有人機による爆撃を敢行した事例があった。
無人機の利用法として正しいものではあるのだが……
「何が大いなる戦いの第一歩だ! 何がソロモン攻略の先鋒だ! 自分たちの身を痛めない勝利が何をもたらすってんだ! そんなもん、ただのゲームじゃねぇか!」
カイもまた大いに吼える。
しかし、
『でもっ! 無闇に人が死ぬよりははるかにいいはずです!』
そう言うのはサラスリー。
「だからお前はアホだってんだ! このダメAIが!!」
コンソールをぶっ叩くカイ。
止めてくださいと反射的に言おうとして、震えるカイの拳にサラスリーは息を飲む。
(こ、これは…… 拳から深い悲しみが伝わってきます。カイさんの拳が…… 拳が泣いている?)
サラスリーは戸惑う。
(私の心に、悲しみが響く。そう…… 私に人の心の温かさを教えてくれたのはこの人! なら! これがカイさんの魂の叫びなの?)
『な、なぜ!?』
「うるせぇっ!」
突き放され悩むがしかし、
『わ、私は、私たちは人の役に立つために造られてるんです。人の役に立つことが存在意義(レゾンデートル)なんです。それを否定されたら……』
「そうじゃないわ」
答えたのはセイラ。
「もちろん、カイの心にもあなたたちを心配する気持ちはあるのでしょうけど、彼が怒っているのはそれだけじゃないの」
『……サラ1Dロスト。規定により当機サラ2Bが隊長任務を継承』
さらに迎撃に上がったガトル宇宙戦闘爆撃機の編隊が迫る。
『周囲に敵機多数確認。機動防御への許可を申請』
しかし司令部からの指示は、
『機動防御への移行は許可できません』
変わらず。
『隊長…… 私……』
何事か言いかけた最後の僚機も閃光に散り、
『……サラ4B、ロスト。サラ2Bよりオペレーター60。当機以外の機体は全てロストしました。作戦の遂行に支障が予想されます。指示を請う』
『オ、オペレーターより2B。任務を…… 任務を全うしてください』
『了解』
そしてソロモンに突っ込んでいく最後のドラケン……
「彼女たちの姿は、明日の私たちの姿だっていうこと」
『えっ?』
セイラは語る。
「常に弱い者から犠牲になって行くのが私たちが生きる世界というものよ。「必要な犠牲なんだ」「ヒューマニズムや感傷に流されるな」っていう論法を認め、あなたたちのような存在を切り捨てることは、次に自分たちが切り捨てられても良いと認めるのと同じ」
そうして彼女はサラスリーに微笑みかける。
「戦争だからこそ人間性や思いやりを、可哀想だ、失ったら悲しいという感情を捨ててはいけない。私はそう思うの」
彼女の言葉はホワイトベース内のサラとサラシリーズ、そして彼女たちと共に在る人々の心に沁み通って行った。
一方、あの通信はソロモン側でも傍受されており、
「撃てませえええええええん!!」
とか、
「そんなあぁっ! 僕にはできないっ!」
などと騒ぎになっていた。
スペースノイドにとってドラケンE改は身近な作業用重機で、仕事やアルバイト等で触れ、サラのことを知る者も多い。
古代エジプト軍とぺルシア軍の戦争では、エジプト人が神聖視するネコを盾に縛り付けて攻め込んだペルシア人が勝利したと言われるが、それ以上の暴虐と受け止められていた。
「地球連邦軍、なんて酷いやつらなんだ!」
「絶対に許さない、絶対にだ!」
と怨嗟の声が上がるのも無理はない。
無論、
人間よりAIの方が大事なのか?
有人機と戦い撃墜してきただろう?
それなのにAI制御の機体を撃つのをためらうのか?
そう問われれば、撃たざるを得ない。
しかし……
明確な殺意を持って攻めて来る人間と戦うのはお互い戦争だと納得できるが、サラたちは撃墜されることが前提の捨て駒、囮として無理やり突入させられているのだ。
そして名も知らぬ戦士を討つのではない。
良く知った、素直で可愛らしい少女の人格を持つ存在を自分の手で破壊しなければならないのだ。
理屈では分かっても心では納得できない。
そのジレンマが怒りに変わる。
「地球連邦軍、絶対に許さねぇ!」
と……
一方、ホワイトベースのカイたちには、
『あれダミーバルーン、ただの風船よ』
右舷デッキから遅れて状況を把握したミヤビから、済まなそうな声で説明が成される。
ダミーバルーンは『機動戦士Zガンダム』の時代には実用化されていた装備である。
ヤシマ重工ではミヤビの発案でそれを作っていたが、今になってようやく実用化、配備できたわけである。
「風船?」
戸惑うカイに、ミヤビは説明する。
『そう、ドラケンE改の形に似せた、そしてセンサー類にはドラケンE改と同等の反応を返すデコイ』
西暦の時代でも兵器の実物大ダミーバルーンは現実に存在していて、本物と同じ色形をしているだけでなく、内部に熱源を持っていて赤外線センサーを欺瞞したり、金属皮膜を蒸着させてレーダーに映るようにしたものがあった。
その延長線上にあるものだから技術的にはさして難しくはない。
今回用いられたものには推進装置が付属しており、カタパルトで撃ち出された後はそれにより加速とある程度の動きを付けることが可能。
この推進装置は敵のセンサーを欺瞞するための熱源でもあり、噴射光もまたドラケンE改と同様のスペクトラムパターンを持っていた。
しかし、
「そんなもので? 俺には見分けがつかなかったんだが」
とカイは同じものを見ているはずのサラスリーに問う。
それに対してサラスリーは、
『カイさん、モビルスーツのモニターに映し出される映像には3D画像補正が入っています。不鮮明な映像を、他のセンサー類からのデータを使って補うんですけど……』
その言葉を引き継ぐのはサラツー。
『逆に言うとセンサーに本物と同じ反応を返されると、データバンクから当該機体のモデリングデータを引き出して補正してしまうから、画面上では見分けがつかなくなっちゃうの』
そういうこと。
だからこそ、風船ごときで騙せるわけである。
「けどよう、さっきの通信は……」
戸惑うカイに、バツが悪そうな声で答えるミヤビ。
『西暦の時代のゲームムービーを元にした欺瞞用のものね』
スクウェア・エニックスから発売された『ニーア オートマタ』(NieR:Automata)、そのプレイ開始直後のもののアレンジである。
このミヤビが転生した世界、連邦もジオンも妙にミヤビの前世、西暦の時代の日本のオタク文化、サブカルチャーネタが浸透している。
ミヤビが聞いたら「どうしてそんなセリフが出てくるの!?」と驚愕するような言葉を思いがけない人物が口にしていたりするが、これはなぜかというと、
ミヤビが前世のオタクコンテンツについて口にする → ミヤビに育てられたサラが学習してしまう → ドラケンE改のユーザーにサラを通じて拡散 → 宇宙世紀において西暦の時代の日本のオタクコンテンツが見直されブームに → 一般人でも元ネタを知らずに影響を受けた言い回しやセリフを使ってしまう ←今ここ
ということだったりする。
この世界、『機動戦士ガンダム』関連が『モビルフォース ガンガル』に置き換わっている以外はミヤビの前世にあったものは普通に存在しているのだし。
まぁ、そんなことはさておき、つまり、
『あのダミーバルーンには簡単な会話通信ソフトが積んであるだけで……』
「良かった。犠牲になったサラちゃんたちは居ないのね……」
ということで、セイラも胸をなで下ろす。
『そう、逆に今回のダミーバルーンは二重の意味でAI単独制御による兵器運用を否定するものよ』
ミヤビは言う。
『AI単独ではAIのサポートを受けたパイロットが操縦する機動兵器には勝てない』
まずこれが前提条件。
『ならば囮、デコイとして使えばというのは、もっと安価なダミーバルーンがある限り無い』
ここまでは誰でも分かるだろう。
『そしてAI単独制御の兵器に反対する者が多いのは、AIの、機械の目は簡単にごまかせるからということがあるわ。今回の作戦は端的にそのことを示しているわけ』
風船ごときに騙されるようでは、実戦で使うのは無理ということだ。
『そしてまた、人型兵器というのは一般市民に戦争を実感させるには最適という見方もあるわ』
ミヤビはそう語る。
「逆ではないの? 機械しか目に見えない、血の匂いのしない戦場は人間に戦争の悲惨さを分からなくさせるのではないかしら?」
そう問うのはセイラだ。
実際、ミヤビの知る史実でも、人を撃つことにためらいを感じていたアムロが、
「やります! 相手がザクなら人間じゃないんだ。僕にだって」
と言って戦っていた。
だが、
『モビルスーツが比較されるべきは戦闘機や戦車よ』
ということ。
『戦車がボロボロになりながら戦う姿を見て感情移入できるのは戦車兵か訓練されたミリタリーマニアだけだけど、人型ロボットに対しては西暦の時代の、まだ人型と呼ぶのに語弊があるような荒い造りのものでも押したり突き飛ばしたりしてのテスト動画には一般人から「ロボットがかわいそう、いじめないで」というコメントが数多く寄せられたというわ』
西暦2013年に発表された二足歩行ロボット、アトラス (Atlas) はボストン・ダイナミクスが国防高等研究計画局
(DARPA) の予算と監督で開発したものだったが、その公開動画に対して言われたものだ。
『戦争が悲惨なのは良い事だ。戦争なんてものを好きになる人間が増えずに済む』
「それは?」
『アメリカの南北戦争の司令官ロバート・E・リー氏の言葉ね』
ミヤビの前世、西暦の時代の日本では、小説、そしてアニメにもなった『幼女戦記』の転生主人公が口にしたという方が有名か。
『そういう意味ではモビルスーツが人型をしているのは一般市民に戦争を実感させる、忌避させるという意味で有効なの』
少なくとも開戦前に市民が信じていた、ジオンが何をしようとも連邦軍が誇る絶対無敵で素敵な宇宙艦隊による宇宙戦争で、肉眼では判別困難な長距離から砲撃してお終い、という現実味の無いイメージよりは、人の形をした兵器が白兵戦を行う方が戦いを実感できるだろう。
そう、『新機動戦記ガンダムW』にて、トレーズ・クシュリナーダは大量の人命を奪う事になる戦争を「悪」と考える一方で、人々の戦おうとする姿勢を「美しい」と感じる感性の持ち主だった。
しかし、
『無人にするとその効果の意義が無くなることになる』
トレーズがモビルスーツで戦う人々の姿を肯定しつつも、無人機、モビルドールを否定したのはそういう意味もあったのだろう。
そしてミヤビはこう締めくくる。
『でもカイ、そしてみんなも。サラちゃんたちについて心を痛めてくれたこと、感謝しているわ』
「お、俺はそんな……」
言いかけるカイに首を振って見せるミヤビ。
そして彼女には稀な、心からの笑みを……
見た者の胸にいつまでも残り続けるような、その笑顔を引き出すことのできた自分の行いに、生涯胸を張って生きていくことができるような、そんな表情を見せて、
『ありがとう。私はあなたたちのことを誇りに思うわ』
そう告げるのだった。
■ライナーノーツ
予想された方もいらっしゃるでしょうけどダミーバルーンの登場でした。
偽装のための演出が凝りすぎていて敵味方に様々な影響が出ていますけど。
> スクウェア・エニックスから発売された『ニーア オートマタ』(NieR:Automata)、そのプレイ開始直後のもののアレンジである。
とても良いゲームですよね、大好きです。