ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第35話 ソロモン攻略戦 Aパート
サイド6を脱出するホワイトベースに対してコンスコン機動部隊の攻撃は執拗を極めたが、ガンキャノンの活躍によってこれを退けることに成功した。
しかし本格的な戦闘はこれからである。
「第三艦隊、後方より接近してきます」
オペレーター席のオスカからの報告。
時を同じくして、通信を傍受。
『ホワイトベース、聞こえるか?』
「感度良好、どうぞ」
『これより編隊を組む。コース固定、フォーメーション同調は当方で行う。補給受け入れ態勢に入れ』
それを聞いたブライトはフラウに指示。
「了解したと伝えろ」
「はい」
そして今度はマーカーから、
「輸送艦コロンブス、右より前方に出ます」
と報告が上がる。
「よし、補給態勢急げよ」
キャプテンシートから立ち上がるブライト。
「艦隊司令に挨拶してくる」
そういうわけで、中央船体後方、第3デッキからランチで旗艦であるマゼラン級レナウンへと向かう。
「ミサイルを抱えたぶっさいくなのいるけど、あれなんだ?」
ガンキャノンL、ロングレンジタイプで補給作業の手伝いに出るカイだったが、見慣れぬ宇宙艇の姿に首を傾げる。
『データバンクと照合。パブリクタイプの突撃艇ですね』
サラスリーの答えに、顔をしかめるカイ。
「突撃艇? ってことはまた厳しくなりそうだな、おお、やだやだ」
ミヤビはホワイトベースの船窓から複雑な表情でパブリクの姿を眺める。
「『あの装備』は間に合ったはずだけれど、どれだけ役に立つのか……」
物憂げに、そうつぶやく。
「艦長、ホワイトベースの艦長がお見えになりました」
「ん、ご苦労」
士官に案内されたブライトはこの第3艦隊の指揮官と対面する。
「ブライト・ノア中尉であります」
「ご苦労だったな、ブライト君」
ブライトはわずかに瞳を見開き、
「ご無沙汰であります、ワッケイン司令」
そう挨拶するが、ワッケインは苦笑して、
「司令はやめてもらおう、お偉方が集まれば私などあっという間に下っ端だ」
と言う。
実際、少佐に過ぎなかった彼がルナツーを任されていたのは上位者が全員戦死したり負傷したり反攻の準備のためにジャブローに降りたりして、他に誰も適任者が居なかったからだ。
そしてそれが同時にルナツーでの彼の杓子定規な対応に繋がっている。
そう、少佐という階級に与えられている権限は非常に限られたものであり、ルナツー司令という見合わぬ職責を遂行するにあたっては、厳密にルールを順守する必要があったのだ。
そうでなければ司令という立場を利用して、本来許されていないことに関し好き勝手をしたということにもなりかねないし、そんな危うい命令を部下たちが聞くはずもない。
組織運営が成り立たなくなるのだから。
そんな重責からようやく解放され大佐へと昇進を果たしたワッケインだが、それでも佐官で第3艦隊の指揮官というのは無理があって、これもやはり陽動のために分けた別動隊を仮に任されているという状態。
それゆえ部下にも艦長と呼ばせているしブライトには司令はやめろと言っているわけである。
しかし、それでもワッケインは以前と違ってどこか柔らかな目でブライトを見やり、
「んん?」
「は?」
「貴様もいっぱしの指揮官面になってきたかな? 結構なことだ」
と笑う。
「見たまえ」
「は」
大スクリーンに映し出される図面。
「これが現在我々の通っているコースだ。主力は大きく迂回して進んでいる」
その主力の動きは映し出されてはいない。
それほどまでに極秘の行動を取っているということであった。
「これは……」
ブライトは息を飲み、
「やはり作戦目標はソロモンですか?」
と確認する。
ワッケインはうなずいて。
「そうだ。ホワイトベースは我々と共にソロモン攻略の先鋒となる」
つまり真っ先に突っ込む危ないポジションである。
中世なら先陣、一番槍は名誉なことなのだろうが……
ブライトは脂汗を額ににじませながら問う。
「そうですか、大変な任務ですね。我々にできますか?」
ワッケインは笑みを深めると、
「君自身、そんなことを考えられるようになったのもだいぶ余裕が出てきた証拠だな。大丈夫だ」
と請け負う。
「君の艦にはヤシマのご令嬢たちが居たな」
「は、はい。でもそれが?」
「この作戦に対し、ヤシマ重工から新装備の提供があった。これが通用するなら我々の損害はだいぶ減らせるはずだ」
「新装備、でありますか」
訝し気にするブライトの反応が予想どおりだったのか笑うワッケインだったが、その笑みは苦い。
ヤシマ姉妹にはヤシマグループを戦争に協力させる人質としての役割があった。
ジオンのメイ・カーウィン嬢、ゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場の彼女は旧ジオン・ダイクン派のカーウィン家をジオンの戦争に協力させるための人質だった。
娘が前線に送られればカーウィン家とて非協力では居られまい、というもの。
ミヤビの『コロニー・リフレッシュ・プロジェクト』もあってジオンに関わりの多いヤシマグループは、同様に連邦への戦争協力への証としてミヤビたちを用いることが求められてしまっているのだ。
今回の新装備の提供もその結果得られたもの、とも受け取れる。
それを思うとワッケインの胸中は複雑であり、後でこの目の前の若造にも教えてやらねばなるまい、と考える。
……お互い、この戦いを生き残ることができたらという話だったが。
「磁気圧が上がらないのか、まいったな」
と、ガンキャノンの整備に精を出しているアムロの元に、
「食事よ、アムロ」
「ミヤビさん?」
食事を運んできたのはミヤビ。
「これ?」
「稲荷寿司とお味噌汁よ」
透明なビニールパックに入れられているのはミヤビとの思い出にある、あの料理。
母との別離を癒してくれた、忘れられないものだった。
まぁ、ここは宇宙であるので、
「宇宙食だけど、これは私も開発に関わっている自信作よ」
と無い胸を張るミヤビ。
彼女は頓挫したコロニー・リフレッシュ・プロジェクトの他にもスペースノイドの生活水準向上のために様々なプロジェクトを推進していた。
その中には和食を使った宇宙食の品質向上というものがあり、こうして成功して軍にもレーションとして納品されているわけである。
当初は、
「『和?』何ですかこの古色蒼然とした日本的な思考回路は?」
などと反発されたが、稲荷寿司はミヤビの前世、西暦の時代でもアルファ化米を使って水やお湯をパックに入れればできあがり、というものが国際宇宙ステーションの宇宙食として採用されていた。
パンやクラッカーのように食べかすが出ず、無重力環境下でも食べやすいのだ。
そして、
「作戦前の腹ごしらえってやつよ。お米はお腹の持ちが違うから、長丁場にはもってこいなの」
「そうなんですか?」
「お米は小麦を製粉して作られるパンやパスタと違って消化が緩やかなの。それにパンは量を食べることができないから」
昔の日本軍では一食2合の麦飯が割り当てだった。
軍隊は運動量が大きいため、これぐらい食べないとハンガーノック、シャリバテ、低血糖状態…… 要するに、長時間の運動で身体が燃料切れを起こした状態になって動けなくなってしまうのだ。
日本陸軍は徒歩の行軍に関しては世界最速だったが、それを支えるのが一食二合の麦飯だったというわけである。
軍ではパン食に切り替えることも検討されたが、「米を食わんと力が出ねぇ」と非難轟々だったので断念した経緯にある。
米二合といえば食パン一斤丸ごとに相当するのでそれを一食分とするには無理があるし、製粉してある分消化が早く米より腹持ちが悪い。
当然といえば当然な結果だった。
「へぇ……」
一方、なぜミヤビがこんなことをしているのかと言うと、
(せめてみんなの体調をベストにすることで活躍してもらい、守ってもらわないと!)
というあくまでも自分本位な考え方から来たものである。
あとはアムロたちと違ってミヤビのドラケンE改は基本、作業用重機で信頼性も整備性も高く、サラによるセルフチェックで十分なので手が空いているということもあるが。
なお……
史実ではこのシーン、食事を持ってきた少年兵をアムロがフラウ・ボゥと見間違えるというもの。
この先、フラウがアムロから離れて行くものの、アムロ側にも少しは思い入れや彼女への甘えがある、という描写があったのだが。
この世界でのアムロにはまったくそういう気配はなく、ただ憧れの年上のお姉さんの差し入れを満喫する純情少年と化していた。
これもすべてミヤビってやつのせいなんだ。
「ようアムロ、いいもん食ってんじゃねーか。俺にも一つくれよ」
補給作業の立ち合いを終え、アムロにじゃれついてくるカイ。
みんなの分もある、と差し出そうとしたミヤビはしかし、
「それは僕のおいなりさんです」
と言うアムロに思わず吹き出しそうになる。
表情筋が死んでいる彼女だから顔には出ないが、そうでなかったら顔をゆがめて爆笑していただろう。
マンガ『究極!!変態仮面』の決めゼリフを知っている人間を殺しにかかっているとしか思えない卑怯すぎるセリフである。
おかげで笑いをこらえるために腹筋まで死んでしまうミヤビだった。
「パプア艦でたった一機のビグザムだけだと?」
「は、現在はこれしか出せぬ、と」
使いの士官が持つ受け渡し書類を奪い、斜め読みで目を通すドズル。
逆に言えばミヤビの知る史実どおりモビルアーマー、ビグザムがソロモンに運び込まれたということではあるのだが。
「ええい、兄上は何を考えているのだ? 今あるリック・ドムでは数が足りんのだ。新鋭モビルスーツの一機をよこすくらいならドムの十機もまわさんのか?」
というドズルの憤りももっともだが、だったらコンスコンを出したりするなという話もある。
それと根本的には連邦軍艦隊がどこを攻めるか分からない、察知できていないためソロモンばかりに戦力を集中させることができないという問題があるのだ。
つまり情報戦という戦略レベルでドズルが負けているからこその苦境なのだ。
そして、
「じ、実は」
「なんだ?」
「今回のビグザムも試作段階でして、開発は急いでいるのですが、なにぶん各方面からの要請が、その」
とドズルに告げなければならない彼も災難だった。
「もうよい、うせろ」
「はっ」
そういい捨てられたものの、これ以上責められることは無いと露骨にホッとする表情を、頭を下げることで隠し退出する。
ドズルは自分の部下であるソロモンの士官に対し、
「ええい、ビグザムの組み立てを急がせろ」
と指示。
「それにだ、ティアンム艦隊の動きは掴めんのか?」
根本の問題についても問うが、
「申し訳ありません。ミノフスキー粒子の極度に濃い所を索敵中でありますが、ダミーが多くて」
良い回答は得られない。
結局、
「それが戦争というものだろうが」
と言い捨てる他なかったが、逆に言えば、ちゃんと現実が分かっている、見た目の印象と違って無駄に怒鳴り散らしたりしない、彼の武人としての性質を物語っていた。
『物資搬入急げ』
『移送パイプ解除、バルブ閉鎖』
『艦内気圧チェック、急げ。水先案内人、どうした?』
サイド6より発進準備を進めるザンジバル。
シャアもランチで乗船し、
「ご苦労でした、カムラン監察官殿。封印は解いていただけましたかな?」
と出港の手続きを確認する。
「封印は取りましたが、領空内での発砲は」
「承知している」
そうしてカムランは、
「早く出て行ってもらいたいもんだな。二度と来てもらいたくない」
とつぶやく。
これはコンスコン隊がやった無茶の後始末をやらされたこと、ミライの敵がジオンだったこと、そして戦争協力はできないとしているはずなのに、先ほどから無視して補給作業を強行しているシャアに対する隔意があったことが言わせた言葉だったが、
「言葉には気をつけたまえ、ミスター・カムラン」
「なに?」
「サイド6が生き延びてこられたのもジオンの都合による。その辺をよーく考えるのだな」
「……お目こぼしだとでも言うのか?」
相手はシャアである。
舌戦でも容赦はしない。
なお、シャアのこれは詭弁だろう。
サイド6の中立化にはもっと込み入った事情があるし、政治力学もあってジオンが一方的に無理を言える間柄でもない。
事実、今後サイド6は連邦寄りに舵を切り、ジオン国籍の船に退去命令が出たりするのだが……
シャアにしてみれば自分の発言の責任を取るのは自分ではないので、噛みついて来る相手に逆ねじを食わせることができるのなら、この場限りのハッタリをかまそうとも問題ないという認識だった。
そして歯噛みするカムランを平然と無視すると、
「ララァ、何をしている?」
とランチのハッチの向こうの少女を呼ぶ。
彼女は無重力のデッキを、そのワンピースの衣服を揺らめかせながら優雅と言っていい様子で舞うように近づき、ザンジバルの通路へと吸い込まれていく。
その姿を、息を飲んで見守っていたカムランは、
「ど、どなたです?」
と聞く。
軍人とも思えない少女であるのだから、その疑問も当たり前だったが、シャアは平然と、
「私の妹、とでもしておいてもらおう」
そう嘯く。
実の妹であるセイラが聞いていたら、大変なことになっていただろうという言葉。
誤魔化すにしてももう少し気を使った方が良いのだが……
『現在我が艦隊は、敵の宇宙要塞ソロモンから第三戦闘距離に位置している』
艦隊を指揮するワッケインからのレーザー通信。
「目と鼻の先か」
息を飲むブライト。
『以後は敵と我々の間を邪魔する物は一切ない』
第3艦隊はコロニー残骸の影からソロモン近傍へと躍り出る!
「やれやれ」
左舷、モビルスーツデッキにてガンキャノンL、ロングレンジタイプのコクピットで待機するカイはハッチを閉じるとため息をつく。
『艦隊、横一文字隊形に移動』
地球上の海軍の時代から使われていた単横陣を取る艦隊。
『戦法は正攻法、突撃艦パブリクによるビーム攪乱幕を形成する』
ワッケインの言葉どおり。
一次攻撃は一撃離脱に徹して敵の対空火力を漸減。
しかる後に第二次攻撃を実施という、実にオーソドックスな流れである。
『全艦、正面より進攻する!』
「じょ、冗談じゃないよ! たったこれだけじゃ死にに行くようなもんじゃねえか!!」
叫ぶ、カイ。
『大丈夫ですよ、カイさん。連邦軍だって考えてますよ』
と通信機越しにアムロがなだめるが、
「そんなこと言ったって、おめえ……」
こらえきれないカイに対し頭部、射撃手コクピットからセイラが、
「無駄口がすぎるわ、カイ。主力のティアンム艦隊を信頼するのね」
そうたしなめる。
「で、どうなのだ? 敵の侵出の状態は」
「は、サイド4の残骸にまぎれて接近中であります。ビーム攻撃圏内に入りました」
ソロモンでも第3艦隊の動きをキャッチ。
「よーし、仕留めよ」
「は」
『諸君たちは15分だけ持ちこたえればいいんだ。その間に本隊が対要塞兵器を使用する』
「対要塞兵器? なんだろう?」
つぶやくアムロ。
発進に向け、モビルスーツデッキのハッチが開いていく。
『一次攻撃、パブリク隊に先駆けデコイ投射!』
ホワイトベースと並進するサラミス改の艦首カタパルトから次々に放たれるのは……
「あれはドラケンE改? でも何か変だ」
つぶやくアムロに答えたのはガンキャノンのサポートAI、サラツーの震える声。
『アムロ、あれ人が乗ってないよ。あの速度から逆算すると、人には耐えられない加速度でカタパルトから撃ち出されてる』
「えっ?」
アムロの思考が一瞬空白になる。
『攻撃開始。マイナス8。パブリク各機、3、2、1、0、発進』
次いで、尻に付けられていた4つの球状のプロペラントタンクと一体となっている移送用のロケットエンジンを切り離し、本来の機動用エンジンを全開にした突撃艇パブリクが先行するドラケンの機影を追い駆けるように発進する。
『ミサイル、主砲、ビーム砲、発射用意。撃て!』
ホワイトベースおよび第3艦隊のマゼラン、サラミス改も砲撃、パブリクへの援護射撃を開始。
しかし、
「デコイ? さっきデコイって言った……」
まさか!
アムロの顔が青ざめる。
■ライナーノーツ
ソロモン戦の開始です。
何だか不穏な気配がありますが、その辺は次回に。
> 次いで、尻に付けられていた4つの球状のプロペラントタンクと一体となっている移送用のロケットエンジンを切り離し、本来の機動用エンジンを全開にした突撃艇パブリクが先行するドラケンの機影を追い駆けるように発進する。
割と立体物があるのでその辺が参考になる、というか大きさなどの設定が無いため立体物から逆算して「ふぅん、そういう解釈か」と考えるぐらいしか参考になるものが無いというか。