ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第33話 コンスコン強襲 Bパート


「嬉しいだけだよ。この戦争だろ、もう二度と君には会えないと絶望していたんだ」

 入港したホワイトベースの甲板上、語り合うカムランとミライ。
 ここでカムランが婚約者であるミヤビについて言及しないのは、ヤシマ重工の技術者であり連邦軍に出向していたミヤビの安否は明らかだったからなのだが。
 他人がこの会話を聞いたらどう思うだろうか、とか、自分を心配してくれるのは彼の優しさだとは分かるが、こういうところで姉のことを優先しないから誤解が広がるのだとか。
 そして、この人が喜んでいるのは一向に自分が婚約者だと気づかぬ姉と付き合おうとするために、一番頼りになる協力者だからなのでは、と思ってしまう自分は酷い人間なのだろうか、とか考えてしまうミライの表情は冴えない。

 ……そんな顔をするからさらに周囲が彼女たちのことを誤解するわけなのだが。

 なお、別にミライは姉のことに必死なカムランに対し思慕を抱き嫉妬している、というわけではない。
 史実でもスレッガーに惹かれたように、彼女は優しいだけの相手より、多少強引でも自分に迫ってくれる相手の方を好む。
 そういう意味ではいい加減、なりふり構わず自分の気持ちをストレートに伝えてしまえばいいものを、毎回姉の天然鉄壁防御に阻まれ告白できず、すごすごと引き下がってきて自分に慰められる、というカムランは、ミヤビの知る史実以上にミライの恋愛対象外となっているのである。

(悪い人では無いのだけれど、というか明らかにいい人ではあるのだけれど)

 というのがミライのカムランに対する評価である。

「そうね、私たちはサイド7で戦争に巻き込まれて……」
「それなんだ、なぜそれを僕に知らせてくれなかったんだ? ミライ。君の消息を得る為に僕は必死だった」
「必死で?」
「ああ、必死で捜させた。いくら費用がかかったかしれないくらいだ」

 しかし、

「そう。なぜ、ご自分で捜してはくださらなかったの?」

 要は理屈じゃないところを示さないから、行動に移さないから姉に気持ちを伝えられないんでしょ、という話。

 なお、微妙に二人の会話が食い違っているが、これはどうしてかというと……
 ミライは姉がこのホワイトベースに乗っていることをカムランも知っていると思い込んでいるが、カムランは知らないということ。
 カムランがミヤビについて知ることができるのはその身の安否だけで、V作戦という連邦軍のAAA機密に関わっている彼女の所在を知ることはできないのだ。
 だから先ほどからカムランはミライに対してのことしか言及していないのだが、ミライは当然、姉のこと込みで話しているため、おかしくなる。

 まぁ、この行き違いも仕方が無いことかも知れないが。
 ホワイトベースでサイド6に入港したら姉の婚約者が検察官をやっていてばったり再会、なんて偶然があるわけ無いとミライは思っている。
 だから姉の所在を知ったカムランが検察官として立候補してこの件に当たり、たまたま姉と一緒の艦に乗っていたミライと再会した。
 そっちの方がよほど説得力があるし、そういうことだとばかり思い込んでいるのだ。

 何故だか分からないが、ミヤビとカムランの絡みにミライが関わると、必ずこういう面倒くさい状況を引き起こすのだった。

 そういった行き違いに気付かないミライは、

「結局、親同士の決めた結婚話だったのね」

 とカムランに対し発破をかけるのだが、

「そ、そりゃ違う、ミライ。そりゃ君の誤解だ。これから僕のうちへ来ないか? 父も喜んでくれるよ」

 話が明後日の方向に進み唖然とする。

「え? だって」

 何を言っているの、この人。
 自分を誘うより姉さんを誘いなさいよ、と思うのだが。

「悪いようにはしない。ミライ、君のための骨折りなら……」
「ちょ、ちょっと待って」

 それでお互い話を整理すれば誤解も解けたかもしれないが、そこに、

「失礼」

 とスレッガーが割り込んだため、さらに事態はややこしくなる。

「ん? あっ」

 カムランのメガネをひょいと外し、

「……このやろ」
「ああっ!」

 こつん、とスレッガーは小突く。
 無重力区画ゆえ飛んでいき、ホワイトベースの船体に当たり止まるカムラン。
 スレッガーはというと反作用で同様に飛んでいくが、上手く手すりに足を引っ掛けて自分の身体を止めて着地。

「……下手なちょっかいを出してほしくないもんだな」
「スレッガー中尉、い、いいのよ」
「本当ですか?」
「ええ」
「ふーん」

 ミライの表情を確かめ、

「だとさ、ヤサオトコさん。ほーら、眼鏡行ったぜ」

 とカムランに向かって眼鏡を放ってやるスレッガー。
 慌ててそれを受取るカムランを、ミライは助け起こす。

「カムラン、大丈夫?」
「あ、ああ。ご婦人の口説きようがまずいという訳さ。なあ中尉」

 別にカムランは優しいだけの男ではない。
 芯の通った強さを持つがゆえに、スレッガーにだってこうやって対等に口を利いて見せる。
 まぁ、そういったところが伝わりにくいのが彼の人柄で、その辺損をしているわけなのだが。

「そういうことだ。なんせミライ少尉はホワイトベースのおふくろさんなんだからな」

 一見、ヒロインをめぐって対立する二人の男といった感じだったが、

(……二人とも絶対勘違いしてるでしょう)

 とミライはげんなりしていた。
 カムランが自分に対して「ご婦人の口説きようが」という言葉を使っているのは、要はミヤビの妹であるミライに近づく悪い虫への牽制である。
 だからここで二人の誤解を解こうにも、自分から説明するのは自意識過剰な感じがして嫌過ぎて……

 何故だか分からないが、ミヤビとカムランの絡みにミライが関わると、必ずこういう面倒くさい状況を引き起こすのだった。



「き、貴様のために来てやったんじゃないからな、勘違いするなっ!」

 名目上の出撃理由であるキャメル艦隊の生き残り、ドレンたちを収容した上で、シャアを呼び出したコンスコンであったが、

(……誰が得をするのだ、これは)

 とシャアがその仮面の下で顔を引きつらせているとおり。
 恰幅の良いちょび髭のおっさんにはあまりに似合わないセリフであった。
 その微妙な雰囲気を悟ったのかコンスコンは咳払いすると、

「ドズル中将のもとにいたと思えば今度はキシリア少将の配下に。自分をみっともないと思わんのか?」

 と憎まれ口を叩くが、先ほどの言葉の後ではツンデレ風味にも聞こえるセリフ。
 シャアも周囲もやっぱり微妙な表情だ。
 しかし、

「それなのです」

 とシャアは話を切り出す。

「なに?」
「今回救助したドレン大尉から聞いたのですが、ガルマ大佐が負傷した際、守り切れなかったシャア・アズナブル少佐をドズル中将は左遷。代わってキシリア少将が突撃機動軍へと取り立てた、という話がソロモンに広まっているというのは本当なのでしょうか?」

 何を言い出すのか、とコンスコンは怪訝顔。

「何を今さら」
「そういう認識なのですね」

 困ったように息をつくシャア。

「実は、私はドズル中将からの処分など受け取ってはおらぬのですよ」
「なにぃ?」
「私は変わらずドズル中将の宇宙攻撃軍所属で、突撃機動軍へは貸し出されている、手続上はそうなっているということです」
「そんな馬鹿な」

 あっけにとられるコンスコン。
 そんな話は聞いていないし、そもそもそれならどうしてキシリアがシャアを大佐へ昇進させることができているのだということもある。
 当たり前だが他組織に出向中の人物を、本来の所属組織に無断で出向先の人事が昇進させることなどできないのだから。
 そんなことをされたら元組織の描く人材育成、キャリアプランとの齟齬が生じ、下手をすればポストに空きが無く帰れなくなる、などということにもなりかねないし。

 まぁ、ガルマが負傷した際、守り切れなかったシャアに激怒したドズルだったが、その後、ガルマの結婚、父の説得、そして国民への発表と忙殺された結果、シャアのことなどすっかり忘れてしまっているというのが真相。
 そしてキシリアが、シャアはドズルに左遷されているものだと思い込んで使っているが故の矛盾だったが。

 そんなことは知らぬコンスコンは、

「そうだ、人事システムだ。あれを見れば分かるだろう」

 と思いつく。
 だが、

「それが人事システムのデータベース上は『宇宙攻撃軍配下で突撃機動軍へ一時出向中のシャア・アズナブル少佐』と『突撃機動軍所属のシャア・アズナブル大佐』が居るということになっていまして」
「なんだそれは、そんなことが可能なのか?」
「システム上は登録可能なのだそうです。例えば上の方々は役職、所属を兼務されることが多くあります」

 ミヤビの前世、西暦の時代の企業などでもあったが、いくつかの部を束ねる事業部長が配下の組織の筆頭部の部長を兼務していたりというもの。

「しかし階級が異なることは無かろう?」
「そちらは諜報組織向けの話で、例えば兵站部署の万年中尉が実際には諜報関係部署の凄腕少佐だったりといったカモフラージュ用にシステム的に許容されているのだとか」

 それゆえシステム上はシャアの今の矛盾した情報も登録できてしまう、されてしまっているということ。

「ソロモンの人事担当に聞いても言葉を濁すばかりで要領を得ません」
「それは……」

 そうだろう、とコンスコンは言葉に詰まる。
 要するにこれを確かめるにはドズル中将に直接話を聞く必要があり。
 さらにはドズルとキシリアの間の権力闘争、ザビ家内部の抗争に口をはさむことにもなりかねないのだ。

「ですからここは……」

 シャアは言葉を溜めてから、コンスコンを見つめこう言う。

「コンスコン少将のお力に縋るほか無いと」
「ばっ!」

 馬鹿を言うな、という言葉をプライドで飲み込むコンスコン。
 下の者、しかも生意気なシャアが頭を下げて頼んでいるというのに「自分にはできません」とは言えないのだ。
 このコンスコン、ミヤビの前世の記憶ではホワイトベース相手に12機のリック・ドムを3分で全滅させられていることから無能と取られることも多かったが、実際にはアムロが異常なだけで。
 ドズルの下で少将まで昇進しているとおり、それなりに有能な人物。
 さらに言えば割と情に厚いがゆえに、史実でもドズルの意を斟酌して(この世界では斟酌したつもりになって)出撃してきた人物である。
 ゆえに、

「し、しょうがない。こっ、こんなことをドズル中将にお伺いすることができるのは、この私ぐらいしかおらんからな。特別だぞ、今回だけだからなっ!」

 と、ツンデレ風味の言葉を吐く。

(……誰が得をするのだ、これは)

 重ねて、そう自問するシャアだった。



 シャアが退出した後、コンスコンはぶすっとした様子でつぶやく。

「やつはなぜマスクをはずさんのだ?」

 その言葉は文句を付けているようでいて、先ほどの会話を聞いている周囲にはシャアを気にかけているようにも受け取れる。
 ゆえに、

「ひどい火傷とかで。美男子だとの噂もあります」

 このように割と生暖かいフォローを伴った答えが兵からは返って来る。

「いつかやつの化けの皮を剥いで見せる。パルダ・ベイ周辺に潜入したリック・ドムは?」

 というコンスコンの言葉も、この空気を誤魔化すためのものに聞こえて……
 口元を押さえる兵士、コンソールに突っ伏して肩を震わせている兵士、そしてよじれそうになる腹の皮をつかんで必死に笑いをこらえる兵士。
 通信士がリック・ドムを呼び出すと、

『こちらカヤハワ。パルダ・ベイ周辺はミノフスキー濃度も低く、電波監視も十分です』

 とデブリに潜んだ監視のリック・ドムからレーザーによる秘匿通信が入る。

『エーテルはノイズだけ、静かです』

 いや、

『通信をキャッチ。中継します』

 そしてブリッジに聞こえてきたのはミヤビの前世では『新機動戦記ガンダムW』、この世界では『新機動戦記ガンガルW』に置き換わっているアニメ番組のエンディング曲。
 ヒロイン、リリーナ様のツンデレソング『It's Just Love』である。
 どうやらサイド6の放送局が懐かしのアニメソング特番でもやっていてその電波を拾ってしまったようなのだが……

 気に食わない『アイツ』を「天気がいいから」という理由になっていない理由で前触れもなく呼び出した上、自分を待たせるなんて何様のつもりなの、と上から目線でなじるリリーナ様。
 走って来たのは分かっているが、そんなことは当たり前らしい。
 でも、そうやって意地悪をしてしまうのは「好きだから」なの…… ごめんね。

 という歌詞の内容を、よせばいいのにコンスコンでイメージしてしまう一同。
 もちろんお相手はシャアだ。

(やめろぉぉぉっ!)
(殺す気かっ!)
(だっ、ダメだ、こらえきれん!)

 のたうち回る兵士たち。
 ミヤビの前世で言うところの『笑ってはいけないシリーズ』みたいなもので、ツボに入っている状態のこの場の人間には、これがトドメのような作用をもたらす。
 もう彼らにはコンスコンが、ツンデレおやじにしか認識できなくなっていたのだった……



■ライナーノーツ

『新機動戦記ガンダムW』のエンディングを覚えていない者は幸せである。
 曲に合わせ、挑発的などや顔で様々なモデルポーズを取るリリーナ様の姿を、コンスコンに置き換えてイメージしてしまうという罰ゲームを受けずに済むであろうから……

 などというナレーションが聞こえてきそうですね、『絶対に笑ってはいけないコンスコン艦隊』
 どうしてこうなった……

> そしてブリッジに聞こえてきたのはミヤビの前世では『新機動戦記ガンダムW』、この世界では『新機動戦記ガンガルW』に置き換わっているアニメ番組のエンディング曲。
> ヒロイン、リリーナ様のツンデレソング『It's Just Love』である。

It’s Just Love!
B000064BKK

 この曲ですね。

 次回は夜のサイド6の街で駆け出すミヤビとアムロのサイドストーリー、
『ラブ・ストーリーは突然に』テケテーン
 をお送りする予定です。


 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。


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